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 森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
健康のためのお灸

 漢方治療は薬(漢方薬)を飲むものだと思われていますが、漢方医学には漢方薬・鍼灸・養生の三つがあり、この三つを必要に応じて有機的に組み合わせるのが本当の漢方治療であるといえます。 

当院では必要な方には養生をお教えしています。また鍼灸治療も行っています。
 鍼灸治療の中でも鍼治療は、衛生の問題があり、刺し間違えると危険なツボもありますので、鍼灸師の先生しかできません。しかしお灸はモグサと線香さえあればどこでも誰でもできます。 

お灸には
 (1)健康を増進する保健灸と、
 (2)病気を治すための治療灸があります。

 昔は医者の数が少ないこともあり、健康を増進・保持するために自分でお灸をするのは世間の常識的でした。しかし多くの医師が鍼灸治療に興味をしめさないことと、核家族になって、昔からのおじいちゃん・おばあちゃんの智恵を伝えることができなくなり、「健康を増進・保持するためにお灸をする」という伝統が忘れられつつあります。

 お灸は熱いもの、アトが残るということで嫌う人が多いのですが、すえ方によってはアトは残りません。時に多少アトが残っても、手術に比べれば比較にならないほど小さいものです。
ときどきとても直径が一センチもあるような大きなお灸のアトのある方がおられますが、実際はそんな大きなお灸は必要ありません。もっと小さいお灸で十分に効果はあります。

 伝統的な日本の鍼灸は、中国の元の時代の滑伯仁(かつぱくじん)という人の「十四経発揮(じゅうしけいはっき)」という日本で最も普及した本に出てくる354のツボを治療点として一般化されたものです。このツボを正穴(せいけつ)といいます。

他にも多くツボが発見され、試されて効果の確認されたツボがあります。
これを正穴に対して奇穴(きけつ)、阿是穴(あぜけつ)と呼んでいます。 

鍼灸の医術は約2500年前の中国の周末戦国時代には、すでに立派な体系ができています。わが国には約1400年前、奈良朝のはじめの頃に伝えられました。
鎌倉時代に次第に流行し、徳川中期に、効果のあるものなら何でも治療に使うべきだという考えの後藤艮山(ごとうごんざん)という医師がでて患者に灸をすすめてから全国にひろまるようになりました。

後藤艮山は米粒大の灸をすすめていました。実際、灸は胡麻粒大からせいぜい米粒大で、すえても火傷にならない程度もので十分です。すえる回数は一カ所に3回から5回くらいから始め、必要なら鍼灸の先生の指導のもとに回数を増やします。 

火傷にならないようにするには良質のモグサを使用しなければなりません。
質の良いモグサは、古いもので、やわらかく、手ざわりがよく、淡黄白色で、繊維がこまかく、混ざり物が全くなく、点火したときに容易に燃えるものです。

質の良くないモグサは手触りが悪く、混じり物が多く、繊維があらく、黒褐色で、新しく、点火して途中で火が消えたり、つけた時の火勢が激しく、皮膚に強い刺激となって、水泡ができやすい物をいいます。

ただ、ショウガ灸・ニンニク灸・ビワの葉灸のように、皮膚との間にショウガ、ニンニク、ビワの葉などを置いてその上から灸をする場合はそれほど良質のモグサでなくてもかまいません。

すえたあとはツボを圧迫しておきます。こうすると水泡になりません。 
灸治療後は、一時間程度すぎれば入浴してもさしつかえありません。

お腹のへっている時、満腹の時は灸をするのをひかえます。

生理中や妊娠中の灸治療はさしさわりありません。すえる時間と効果とは関係ありません。
「すえたい時がすえる時」といえます。ただ極度に衰弱しているときだけは慎重をきさなければなりません。健康のためのお灸はいつでもお教えします。
詳しくは医師もしくは鍼灸の先生にお聞き下さい。    

  文責 大阪鍼灸学校附属診療所院長 田中邦雄






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