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 森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
漢方医学の治療

 漢方医学では細菌、ビールス、アレルギー原因物質、化学物質などが病気の原因(病因)であるという現代医学の考えはありません。このような細菌、ビールス、アレルギー原因物質、化学物質などがわからない時代に確立された医学です。

現代では漢方医学といえども現代医学のこういった知識を知らないではすまされませんが、治療となりますと、漢方医学的な病気に対する考え方・治療原則を守らなければ効果が出ません。 

漢方医学では、何かわからないが体に悪影響を及ぼして病気にするもののことを「邪」という言葉であらわしています。この邪が体内に入ってきて、体がそれを追い出そうとする状態を「陽病の病態」といいます。

「陽病」とは体が邪を追い出すだけの力をもっている状態です。「邪」が体に入っても体がそれを追い出すだけの力がなく、邪に体がどんどんと冒されていく状態もあります。これを「陰病の病態」といいます。

 陽病の状態の治療には四つあるとされます。
陽病は体に邪が入って、それを何とか追い出そうとしている状態なのですから、治療は体が邪を追い出すのを手助けしてやればいいのです。考えてみますと、体から出るものには「発汗、吐くこと、大便、小便」の四つがあります。

この出方のどれかが滞るか、どれかのルートで邪を追い出すことがうまくいかなくなったときに病気が起こる、もともとある病気がひどくなると考えます。ですからこの「発汗、吐くこと、大便、小便」のどれかが滞っていれば、まずそれを治すことを考えなければなりません。

例えば、食中毒にかかりますと薬を飲まなくてもほとんどの場合、吐くか、下痢をします。
これは消化器にある「邪」を追い出して治ろうと体が反応していると漢方医学では考えます。

昨年のOー157による食中毒では腹痛・下痢があったのでこの腹痛・下痢を抑えるために腸の動きをとめる現代医学の治療をしたことが、結果的にいつまでも消化器の中に邪(この場合はO−157という細菌とそれが持っているベロ毒素)をため込むことになり重症者が多発したと、漢方医学の立場からは考えます。 

江戸時代までは吐かせることで治療するという方法(吐方といいます)もよくとったのですが、現在は「あの薬を飲んだら吐いて吐いてえらい目にあった」といわれますので、この吐方はまず使いません。

その代わり、例えば吐いて吐いてしかたがないという場合に下痢させるようにして、邪を追い出す出口を変更することによって吐くことを止めるという方法をとったりします。

現代の漢方医学では、患者さんを診たときに、吐く以外の三つ(汗、小便、大便)の出口のどれかが不調なら、まずその不調な出口を開ける(発汗させる、小便を増やす、便通をつける)というのが基本になる治療姿勢です。病気を治す薬を考える場合に、この「発汗させる、小便を増やす、便通をつける」ということは必須として生薬を併せて漢方薬として使います。

エキス剤という薬を使う場合も、その中身を考えて、上記の基本に則して使用します。

 陰病の状態の治療は、邪に対抗できるだけの体力がないのですから、まず邪に対抗できるだけの体力を付けるのを基本と考えます。体力を付けるというのは長い時間を必要とします。

陽病の場合は、邪が体から出ていけば、あとは体にそなわった治癒力で治るのですから、そんなに時間はかかりません。しかし陰病の場合は、体力を付ける、いわば地力を増やすのですから治療に時間がかかります。もっとも、体力の無い人が治るのに時間がかかるのは現代医学でも同じです。

 現代医学は救急医療が得意です。
現代医学の代表は悪い物はとってしまえ、場合によっては交換してしまえという現代の臓器移植を代表とする外科治療です。漢方医学でいう「邪」を殺してしまうことはできます。抗生物質がそうです。

しかし足りないものを補う、体力をつけるとなると、現代医学には点滴、輸血、ステロイド剤以外にこれといった薬がないのが現状です。

現代医学の限界から漢方医学の見直しが言われていますが、体力をつけることで病気に対する抵抗力をつける方法として、漢方医学はこれからみなおされてくると考えています。 

             文責 大阪鍼灸学校附属診療所院長 田中邦雄






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