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 森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
漢方医学の診断方法

 日本の漢方医学、中国の中医学、韓国の韓医学、インドのアユルベーダー医学、チベットのチベット医学、ヨーロッパのハーブ療法など、この広い地球では現代医学以外に色々な伝統医学がいまも実践されています。 

現代医学は、現代医学的な診察をしてから、血液検査・機械による検査などで病気の性質・程度を推しはかり、病名を決めて治療方針を決定します。これと同様にどんな伝統医学でもその医学の考えにのっとって、それぞれの医学特有の診察方法で病気を認識し、治療法を確定します。
 

 漢方医学には望診・問診・聞診・切診の四つの診察方法があります。 
望診とは患者さんを見ることで、顔色を見たり、歩き方を見たり、舌を見たりして、病気の性質を推しはかります。

現代医学では神経内科がこれに近い診察方法をとっています。
舌を見る舌診はあまり一般的ではないようです。私が舌を診るのは私に漢方医学を教えてくださった先生が日本漢方の舌診の大家で、この先生から舌診の方法を習っているからです。
漢方の先生がみんな舌を見るというわけではないようです。 

問診とは、いつから、どこが、どうなった、どうすれば悪くなって、どうすればよくなるか、どのお医者さんでも行っている、患者さんに色々な質問をすることです。当院では質問の内容には、現代医学の尋ね方だけではなく、漢方医学の理論にのっとった質問もします。

たとえば、風邪をひいてこられたときに、汗が出るか出ないかを質問するのは、漢方医学の考えでは汗が出ているのか出ていないのかで病気の状態が違い、薬が違うのでお聞きするのです。

聞診とは聞くことです。 
現代医学では聴診器をあてて胸の音を聞く、お腹の動きを聴診器をあてて聞くなど聴覚を通じて病気の程度を推しはかります。漢方でも現在は聴診器を使いますが、目的は同じです。

他に、現代医学でも漢方医学でも行う、口臭をかいだり、吐物の臭いをかいだり、大便を臭ったりという嗅覚を介して病気の程度を推しはかることも聞診に入ります。
漢方医学では話声の勢いでその人の体力を推しはる場合がありますが、これも聞診に入ります。これは現代医学でも、精神神経科、心療内科では行われています。 

切診とは患者さんの体にさわって病気の性質・程度を推しはかることです。
腫れている場所を触って熱があるかどうかを診るのも切診の範疇(はんちゅう)に入りますが、切診の代表は脈診と腹診、それに背診です。

 脈診とは、脈をとることで病気の性質・程度、それに患者さんの体力などを推しはかる診察です
。昔でいう「お脈拝見」です。漢方医学でも中国の伝統医学たる中医学でも脈診は行います。

 腹診。これは日本の漢方医学独特の診察方法で、生活習慣の違いか、中国では行わないようです。ただ日本の漢方医学を実践するからにはこれができないと話になりません。

現代医学ではお腹を診るときには膝を曲げますが、漢方医学では足を伸ばして、お腹を触り、押さえ、お腹のいろいろな場所の張り具合・痛み具合・力のなさなどから病気の性質・程度を推しはかり薬を決めます。

これは漢方治療をしているお医者さんなら誰でもが行う診察方法なのですが、耳鼻科の先生とか眼科の先生で漢方医学を実践している先生は、診察の途中で「お腹を診ます」というと患者さんの目にありありと不信感が出てくるとおっしゃっておられます。漢方医学と現代医学の診察は違うということを患者さんは分かっておられないという見本です。 

それに背診、背中の張り具合いも診察の対象になります。

 また時には、鍼灸医学のツボの圧痛の有無などを調べることもあります。

 このように漢方医学では医者の感覚を重視して診察・診断し、それにのっとって治療をします。
しかし、現代の日本は漢方医学だけしかない時代ではないのです。漢方医学的に病態を把握しないと漢方治療はできないのですから漢方治療をするにあたり漢方的診察をするのは当然として、現代医学の検査による病態の把握を無視して、漢方医学の病態把握だけで病気の診断・治療をするわけにはいきません。
現代の日本では漢方医学と現代医学の両方の面から病態を把握することが必要と考えています。         

 文責  大阪鍼灸学校附属診療所院長 田中邦雄






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