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   森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
高血圧・低血圧 


 血圧が高い、低いとよくいいますが、漢方医学の世界には血圧というものは
ありません。血圧は血圧計で測ります。つまり血圧計がなければ血圧は
存在しないわけです。

血圧計は西洋医学の機械ですし、血圧計で測った値が”血圧”ですので
漢方医学には”血圧”という概念は存在しないことになります。

現在、最高血圧が140以上、最低血圧が90以上を高血圧と呼び、
生活指導を含めて治療の対象とします。
しかし低血圧は治療の対象にはなりません。また、西洋医学では血圧を
適切に下げる薬はいろいろとありますが、血圧を上げる薬は注射薬以外には
ありません。西洋医学では低血圧は薬物治療の対象にはならないのです。 

漢方医学に血圧という概念はないといいましたが、血圧の変動による症状を
取るくすりは色々とあります。また、それらの薬を使用することで血圧の変動に
よる症状を解消することはできます。しかし漢方薬で血圧が下がっても症状が
改善されないのなら漢方医学的には治療の失敗ということになります。

 高血圧の場合で説明します。
高血圧によると思われる症状、たとえば頭痛・のぼせ・めまい・肩こり・
後頭部のツマリなどに漢方薬を投与して血圧が下がった場合、西洋医学的には
血圧が下がったのですから治療の成功になり、その漢方薬は西洋医学的にみて
血圧を下げる作用があるという認定をうけます。

もっともそれは西洋医学からみた漢方薬の作用であって、○○湯が
西洋医学からみて血圧を下げる作用があると分かっても漢方医学的には
何の価値もありません。血圧を下げる、とくに今すぐに下げる作用は西洋薬
の方が確実です。

今すぐに血圧を下げないと危険なほど高い血圧の方もいらっしゃいます。
そこで当院では、血圧の高い方には最初は西洋薬と漢方薬を併用して、
漢方薬の効き目が出てきて血圧が安定してきたら徐々に西洋薬をやめていく
という方法をとっています。

 低血圧の場合で説明します。
低血圧の症状としては全身倦怠・めまい・朝起きられない・やる気がおこらない
等があります。西洋医学は低血圧は治療の対象としないのですから、これらの
症状は”気のもの”、”精神的なもの”でかたずけられてしまいます。
せいぜい精神科、心療内科に行きなさいというか、精神安定剤を出すのが
せきのやまです。

漢方医学は症状を治すのを第一目的としていますから、この低血圧の症状
(全身倦怠・めまい・朝起きられない・やる気がおこらない等)を治すことは
得意中の得意の一つです。
こちらは西洋医学の薬は必要なく漢方薬だけでの治療のほうが確実です。

 血圧に関しては日本のようにお年寄りが増加するに従って高齢者の
血圧のコントロールに関する考えが変わってきました。

つまり高齢者は壮年者とを同じに扱ってはいけない、70才以上は
しゃかりきになって血圧を正常化するのはかえって危険であるということが
分かってきました。70才まで病気知らずで元気にすごされた方はそれで
バランスがとれているのですから血圧を無闇にいじくるとせっかくのバランスが
崩れてかえって病気になると考えるようになりました。

 最後に高血圧の方と低血圧の方の人生の典型例をお話しします。
田中角栄元首相の人生は高血圧の方の人生の典型です。
コンピューター付きブルトーザーと言われたほど、健康な時は不眠不休で
みんなの先頭にたって活動し、人々の脳裏に強烈な印象を残し、
ある日バタッと倒れるタイプです。

一方ライバルであった福田武夫元首相の人生は低血圧の方の人生の
典型です。まわりに気を配り、自分から旗を振ることはせず、周りに印象深い
記憶はのこさず、可もなく不可もなく、引退してもいつまでも、
まだ静かに生きていくといったタイプです。        
                                          
                                      文責 田中邦雄







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