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 森ノ宮医療学園附属診療所  院長 田中 邦雄
い く つ も の 薬 を 飲 む こ と に つ い て

 

 医者は薬理学という学問を通じて作用のわかっている薬を治療に使います。
その薬理学といいましても、各々の薬の作用は分かっていますが、二つの薬を
同時に飲めばどのような作用になるか分かっている薬は多くありません。

 いくつかの病気を持っている患者さんが、たとえば、胃炎で内科、腰痛で
整形外科、目が悪いので眼科、鼻炎で耳鼻科と同時に通院しますと、飲むように
と渡される薬の量はそうとうな数になります。それぞれの医者の間での連絡が
ないと、重複する薬がある可能性も増えます。どの医者も自分の担当した身体
の場所の病気をなおそうとして投薬治療するわけですが、ほかの医者がどんな
薬を投与しているのかは考慮しないことが、残念ながら、多いようです。

最近の新聞に、他の病院で投薬されている薬を調べてくれる親切な医者という
記事が載っていました。このように当り前のことが、珍しいということで記事に
なるようです。

 薬の中にはあわせて飲んではいけない薬があります。名前が違っていても
まったく同じ作用の薬もあります。あわせて飲むことでかんじんの作用が消えて
しまう薬の組み合わせもあります。

 昔、大学病院で診察をしていたときに、各科の診察を受けたあと、本当はどの
薬をどのように飲んだらいいのか教えて欲しいと、最後にやってきて各診療科から
渡された薬を目の前に積み上げられたことがよくありました。いくつかの薬を一緒
に飲まなければいけない場合、特にいくつかの診療科の治療を同時にうけている
場合は、信頼できる医者に薬を全部みせて服薬を指導をしてもらうのが、現代では
自分の身を守るために必要なのかもしれません。

 漢方薬といえども、薬ですから、例外とはいえず、西洋薬と併用する場合には
用心したほうがよい薬もあります。反対に西洋薬と併用したほうが治療効果がよい
場合もあります。ですから、当院に通院される患者さんには、他の医療機関で投薬
を受けておられれば、その薬をみせてくださいといつもお願いしています。

 難病の患者さんでしたが、十何種類の薬を飲んでおられて、なお漢方治療をして
ほしいと受診された患者さんがありました。薬の多さに驚いて、漢方薬とはいえ、
さらにこれ以上の薬を飲むつもりなのか、飲めるつもりなのかと思わず顔をのぞき
込みました。実際にあった話です。

 日本の医師は昔は薬師(クスシ)と呼ばれていました。その伝統からか、患者さんの
中には薬をもらわないと、それも多くの薬をもらわないと不満に感じられる患者さん
もおられます。さらに注射をしない医者はヤブ医者と考える患者さんもおられます。
しかし、薬は、飲まずにすめばそのほうがよく、必要であっても最小限度の量にに
とどめるにこしたことはないのです。まして注射などの痛い目に会わずに治れば
そのほうがいいにきまっています。

 「薬さえ飲んでいれば」ではなく、「養生してこその薬である」という治療原則
があることも頭の片隅にとどめておいてください。
                
                         文責  田中邦雄



 

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