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 森ノ宮医療学園附属診療所  院長 田中 邦雄
この国での漢方医学

 

 昔々といいましても明治の初めまで、この国では漢方医学と、蘭学という名の
オランダ医学の二つの系統の医学が共存し、漢方医学はおもに内科を、蘭学は
おもに外科を担当していました。当時は医師という名はなく薬師(クスシ)と称し、
身分はお坊さんと同じとされていました。
ですから医者はみんな坊主頭でした。

もちろん、当時は大学、医学部などはなく、医者になりたい人は、先輩のお医者さん
の家に丁稚奉公をしながら医学を学び、免許皆伝をもってあらたに医者として独立
したのです。

 
 しかし、明治時代にはいってから東京を皮切りに各地に大学や医学専門学校が設置
され、丁稚奉公をしながら医者になれる時代は終わりました。
国が認めた教育機関で、決められた年数の決められた西洋医学の授業を受け、政府が
定めた国家試験に受からなければ医者になれなくなったのです。
続いて、医者が漢方医学で治療することができなくなりました。
明治政府が、漢方医学は政府方針である富国強兵になじまないということで医学教育
から外し、西洋医学を学んだもの以外は医者になれないという法律をつくったからです。


 この法律はいまでも続いています。
ですから、現代のお医者さんは全員、現代医学(西洋医学)を勉強して医者になった人
です。漢方治療を実践しておられるお医者さんは全員、医者になってから、なんらかの
理由で、あらたに漢方医学を勉強した人です。

 

  現在、日本では厚生省が認可した医学治療しか受けられません。
しかも現代医学の考えにのっとった治療しかできないことになっています。
漢方薬も、厚生省としては、西洋医学の考えのもとで投与する薬であって、漢方医学
というものを認め、漢方医学の考えに従って投与する薬として認めているわけではない
のです。
とはいっても、漢方薬は、漢方医学の考えにのっとって病気を考え、投与しないと
効果が出ません。

西洋料理だけが料理体系である。ホテルのレストランで出す料理だけを料理として認める。
西洋料理のコックさんが作る料理なら、ホテルのレストランで出したお刺身でも料理
として認めよう。
しかし、日本料理は料理体系としては認めないので、日本料理の板前さんが作った
お刺身は料理としては認めない。違法である。ただし、板前さんの作ったお刺身で
あっても、ホテルのレストランで出すときだけは調理として認める・・・・。

 
この西洋料理のコックさんを現代医学(西洋医学)の医者、日本料理の板前さんを
東洋医学の医者と置き換えていただければ、現代の医療行政のなかでの東洋医学の
立場がおわかりになると思います。


  しかし、板前さんの作ったお刺身とコックさんが作ったお刺身を目の前に並べ
られたら、皆さんはどちらを選ばれるでしょうか。
きっと板前さんのお刺身を選ばれると思います。

 
漢方医学は、現代医学(西洋医学)とはまったく別な医学の世界です。
それに使う漢方薬も、薬は薬です。正しく使わなければ、効果は出ませんし、
へたすれば副作用も出ます。
漢方医学の知識がなければ正しい治療、投薬はできません。


  漢方薬は、漢方医学をきちんと勉強されたお医者さんにもらうほうがよいと思います。
たとえかかりつけの先生であっても、漢方薬を投与された場合は(他の薬にもいえる
ことですが)、投与理由は自分が納得できるまで尋ねるように心がけましょう。

                   
文責   田中邦雄


 

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