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 森ノ宮医療学園附属診療所  院長 田中 邦雄
この国の現在の漢方医療

日本では、明治時代の初頭より漢方医療を行うことはできなくなりました。
漢方医学を教える教育機関も、つい最近まではまったくありませんでした。
 
 現在の時点(平成6年)では、国立大学では富山医科薬科大学、私立
大学では東京女子医大、北里医科大学、近畿大学医学部に漢方研究所
はあります。しかし医学生に漢方医学を系統だって教えているのは
富山医科薬科大学と東京女子医大だけというのが現状です。

 そんなわけですから、現在、臨床の第一線で漢方治療をしておられる
先生方は、何らかの理由から、医者になってから漢方医学を勉強した人
に限られます。

そのほとんどの先生の後ろには、古い表現ですが、”師匠”と呼ぶに
ふさわしい先輩がひかえておられます。漢方治療をしておられる先生方は、
全員、”師匠”から直接教えていただいた経験を持っています。

 最近は漢方エキス剤というインスタントコーヒーの作り方と同様の作り方で
製造された漢方薬ができ、医者なら誰でも漢方薬を患者さんに投与できる
ようになりました。しかし、これには漢方医学を知っていても、まったく知ら
なくても漢方薬を患者さんに投与できるという危ない面もあります。

 現在の日本の医療を統制している厚生省の考え方ではでは、医者は、
国家試験に合格したてで医者になりたてホヤホヤの医者でも、臨床経験
数十年のベテランの医者でも、研究ばかりして患者さんを診たこともない
医者でも、医師免許を持っているかぎるは、診療を行う場合は、まったく
同じレベルの治療ができるという前提になっています。

 医師免許を自動車免許に置き換えて考えてみて、免許とりたての若造と、
運転歴何十年のベテランの運転手さんが同じ運転ができると誰が信じる
でしょうか。それを、医者はすべて同じレベルであるから信じろをいうのが、
厚生省の考えということになります。

 話がすこし横にそれましたが、そんなわけで、現在、漢方医学を教えられる
”師匠”と呼べるベテランの漢方医は、残念ながら、全国には数えるほどしか
おられません。
したがって、”師匠”についてしっかりと漢方医学を勉強した医者も全国的に
少なく、残念ながら、ここ大阪でも少数です。

 漢方薬も薬です。正しく使わなければ副作用も出ます。漢方医学の知識
がなければ正しい薬は選べません。しかし、今の日本の医療制度では、
漢方の”か”も知らないお医者さんであっても自由に漢方薬を患者さんに
投与することはできるのです。

 たとえかかりつけのお医者さんでも、漢方薬を投与された場合は(他の薬
にもいえることですが)、投与理由は納得できるまで十分に尋ねるように心
がけましょう。
この国の現在の漢方医療
 
  
          
                        文責 田中 邦雄




 


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