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  森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
薬について 

本質的には薬は、私たちの身体にとっては異物です。ですから本来の
作用(主作用)以外に、具合の悪い作用(副作用)は薬につきもので
あると思わなくてはいけません。

もっとも、下痢気味の人に下剤を投与して下痢がひどくなった場合、
薬の使い方が間違っているわけですが、これを副作用だという人もいます。
最近は副作用という言葉だけが一人歩きしているようにも思います。

 効果だけあって副作用のない薬は存在しません。「作用あれば
副作用がある。作用のない薬は薬でない。従って副作用のない薬は
薬でない。」というのは薬学の常識です。ですから、無害な薬は
少ないと思った方がよいでしょう。 

日本人は薬好きといわれています。病院の薬を十何種類も飲む人
もいます。健康のためにと色々な薬を購入して服用される方もよく
おられます。そのような薬好きの方の言い分は、「普段の生活で
不足がちのものを補うのである」ということのようです。

しかし、大切なのは不足しがちな生活の改善であり、それを
そのままにして手軽に薬で補おうという了見はよろしくありません。
「養生あっての薬である。」という考えを忘れてはいけません。

 薬は、本来異物ということを考えると、必要最小限度の服用が
鉄則でしょう。しかし、最近の日本では病気の中心が感染症・急性病
から成人病・慢性病に移ったことで、余病の併発を抑えたり、
苦痛の軽減や症状の緩和を図るために、どうしても薬を長期間服用を
しなければならなくなってきています。長期にわたって飲み続け
るための安全確認のチェックは欠かせません。 

副作用といっても皮膚にブツブツや蕁麻疹が出たり、吐き気・腹痛・
下痢・便秘などの胃腸障害が出たら、自分で分かりますし、治療している
医者は気づきますのでさほど問題ではありません。
ところが、肝臓、腎臓、骨髄(血液の製造工場)などの内臓障害は、
進行しないと自覚症状が現れないので、長期にわたって飲み続ける
ためには安全確認をチェックする必要があり、どうしても定期的な
血液の検査や尿の検査などの臨床検査をする必要があります。

 漢方薬は長期服用でも安全といわれますが、現在のように大勢の人
が長期に漢方薬を服用できるようになったのは、健康保険で漢方薬が
使えるようになった昭和50年頃からで、それ以前の漢方治療は
健康保険がきかない自費診療でした。当時は金銭的に余裕のある方
以外は漢方薬を長期に服用したくてもできなかったことを忘れて
います。漢方薬も薬ですから、前記の理由で、定期的な臨床検査は、
長期にわたって飲み続けるためには欠かすことができません。

 私の先輩は、クスリの有用性・安全性の見分け方として、
10年間販売が続けられている薬の効き目は信用でき、安全と
考えてよいとおっしゃっています。エキス漢方薬(漢方薬の粉クスリ)
は健康保険に採用されてから16年ほどたつので、安全性・有効性は
かなり高いと考えても良いかと思います。

昨年小柴胡湯に関する副作用の問題がありましたが、あれは二万人に
一人に起こる副作用で、どんなクスリでもこれくらいの率の危険はあります。
それでも一般の西洋薬よりも格段に少ないのです。漢方薬のエキス剤の
安全性はかなり高いと思います。

同じ漢方薬ですが、煎じグスリは各患者さん一人一人でクスリの内容が
違います。煎じグスリにおいても副作用に関しては、エキス剤と同様に
綿密なチェックが必要です。

 薬の副作用は、早めに気づいて中止すれば、それほど
恐れることはありません。薬に対してあまり神経質になりすぎるのは
よくありませんが、病気を治すには養生が第一で、養生だけで治らないときに
薬を併用すると考えるべきです。薬を飲んで何か異変を感じたら、
薬を出され医者に相談されることをお勧めします。   
                    
                                       文責 田中邦雄





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