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 森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
人間ドック

 最近のニュースで人間ドックを受ける方が増え、人間ドックは、1954年に東京にある国立第一病院(現在の国立医療センター)で始められた健康診断です。当時は七日間の入院を必要とし、当然、時間的にも経済的にも余裕のある人だけのものでした。

その後、1959年に聖路加国際病院が中心になって一泊二日の短期ドックをスタートさせたのをきっかけに、多くの人に受け入れられるようになりました。この短期ドックが現在の人間ドックの原型です。 

いまではコンピューター診断による「半日ドック」も登場し、時間的にもずっと短縮されました。費用の面でも日本病院協会を健康保険組合連合がタイアップすることで、受診料の一部を健康保険組合が負担するようになり、人間ドックの受診率が飛躍的に伸びてきたのです。

このこと自体は病気の予防という面では望ましいことですが、その反面、人間ドックが、病院の患者集めの方法として利用されていることは否定できません。 

現代、医師法という法律があり、いくら腕がよくても、いくら最新設備をそろえていても、それを宣伝することはできません。そこで病院の経営陣が目につけたのが、医師法違反すれすれのところで宣伝可能な人間ドックです。 人間ドックは保険適用外ですから、一般的なコースでも5万円や10万円は請求でき、会員制や一流ホテル宿泊ドックなど豪華さや快適さを売り物にすれば、それ相当の日銭を稼げます。

しかし、ドックそのものだけでは、医師・看護婦の人件費、検査代、医療器械の購入費、ランニングコストなどを考えると、それほどウマ味のあるものではありません。 それにもかかわらず病院がドックを続けるのは、病院にとって人間ドックを受診にきた「一見さん」は、すぐ患者という「お得意さん」に変わる可能性を秘めているからです。検査で異常ありと診断されて、再検査や入院となれば、それだけ病院の収入が増える仕組みになります。

 現代、何も治療しなくても、入院患者一人当たりで月間約30万円の収入となり、それに投薬・治療費を加えると平均40万〜50万円になります。
もし、病院に空いたままのベットが四床あるだけで、一ヶ月で、200万円近く、一年では2400万円の減収になります。ホテルでいえば空き室、製造業でいえば在庫が残るという、最も効率が悪い状態です。ですからドックで少しでも異常があれば、すぐに死ぬように脅かしてでも入院させてしまえと考える病院があってもおかしなことではありません。 

検査というものは、総合的な立場で診断がつけられるべきもののはずです。ところが、例えばコレステロール値は現在220mg/dl以下とされたいますので、221なら”高脂血症”と病名を付けて、治療してもいいわけです。その異常値を理由に検査・入院・治療をいう医者・病院はがあることも真実です。

 人間ドックは、体のすみずみまで調べるようなイメージがありますが、実際はそうではなく、最近では、自治体や企業で行う一般健康診断の検査内容が充実し、ドックとの大差はなくなっています。それに人間ドックというのはその受診した時の健康状態を示したもので、「正常」といわれても、その次の日に健康であるという保証はどこにもありません。

 高い費用をはらって、その日の健康を保証してもらうより、気心の知れた、なんでも相談のできる医師をみつけて、定期的な健康診断をうけているほうがいいのではないでしょうか。 人間ドックにするか、会社の検診にするか、これは個人の判断の範囲ですが・・・・。  

         文責 大阪鍼灸学校附属診療所院長 田中邦雄




 


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