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   森ノ宮医療学園附属診療所 院長 田中邦雄
ガンについての雑感

 ちかごろ通院しておられる患者さんで、夫が、妻が、兄弟が、ときには自分がガンであるとおっしゃる方が増えました。 動物は、人間も含めて細胞でできています。細胞は、細胞分裂によって増えます。最初の一つがまったく同一の二つになり、その二つが四つになるという細胞分裂をして増えていきます。細胞分裂をして世代交代をしていきます。

人間のカラダを作っている細胞の中で、できあがってから一回も細胞分裂をしないのは脳と脊髄の、中枢神経と呼ばれる細胞だけです。その他の細胞は、骨も含めて一生の間、細胞分裂をくり返します。おおまかにいえば、2年で、先にのべました中枢神経を除くすべての細胞は新しいものになります。つまり、二年前の自分と今の自分はまったく別な自分なのです。 

生物はよくできた機械ですが、どんな名投手でも時に投げ損なってホームランを打たれるように、永遠に同じものを作ることは難しいのです。細胞分裂のしそこない、つまり全く同じものが作れないことが時に起こります。

このでき損ないの細胞は、ほとんどはカラダがもつ免疫という機能(警察のようなものです)でこわされますが、でき損ないの細胞の生命力が強いか、自分の免疫の機能がよわいと、カラダがこのでき損ないの細胞をこわすことができません。でき損ないの細胞は徐々にカラダで増えていきます。これがガンであるといわれています。

 ガンは、現在のところ検診による早期発見・早期切除しかないといわれています。ところが、池田勇人首相は咽頭ガン、阿部晋太郎代議士は膵臓ガン、昭和天皇は膵臓ガン、渡辺美智雄代議士は肝臓ガンで亡くなっています。これらの方々には当然一流の主治医が常にそばにいたはずです。

となりますと主治医がととのっていても早期発見ができなかったということになります。最近は、このようなことから、検診の有用性に疑問が出てきています。もっとも、検診・人間ドックがあるのは日本だけで、アメリカ、ヨーロッパでは、無駄であるということでやりません。 

以前、京都府の病院で友人のガン患者を院長が安楽死させるという事件がおきました。マスコミに出る意見は賛否両論ですが、安楽死の是非以前に問題とすべきは、この患者さんが自分がガンであるという告知を受けていなかった点でしょう。 

ガンを告知するかどうかは賛否両論の意見が山積しています。 告知すべきでないという意見の背景にあるのは、ガンと知ると患者が絶望して死期をはやめるからという意見です。

しかしガンと知ったほうが心の持ちようで延命できるという場合も多くあるのです。「知らせない」ということは、この延命できる可能性を患者さんから奪っているということになります。告知したあとの患者さん、その家族の精神的動揺に医者が対応したくない、できないという本音もあるようです。

ホスピスという、末期ガン病棟の主治医は全部精神科の医者です。つまり、自分がガンという病気であると知ったあとの患者さんの心の動揺に対応できる訓練を受けているのは精神科の医者だけである、精神科以外の科の医者は対応できない、できるように教育していないという医学教育の問題があります。

ガンの痛みを止めるために麻薬を使いますが、この麻薬の使い方、麻薬の副作用に対応できるのが精神科医しかいないというのもホスピスに精神科医が勤務している理由です。 

私はガンは告知すべきと思います。ガンはすぐに死ぬ病気ではないからです。患者さんは自分の病状を知る権利があります。どんな治療を受け、その有効率などを聞く権利があります。その権利を、医者の、上記の理由による「ガン告知はすべきでない」という勝手な思いこみで奪われないようにしましょう。ガンと知った上で、主治医と相談して治療法を選ぶのが最上の対応でしょう。

                   文責 田中邦雄 

ガンの治療は医者にまかせるとして、かかった患者さんの心がまえである程度ガンの進行をふせげるのではないかという研究が最近なされています。
自分がガンであると知ったときに、人間の反応は三種類に分かれます。

1)絶望する。
2)なんとしてでもガンと戦おうとする。
3)ガンも身内なのだからと仲良くしようとする。

 結論からいいますと、
1)絶望する。
 このタイプの方は予想より早く、あっというまに亡くなってしまいます。このことが日本で未だにガンの告知をしない理由の一つになっています。

2)なんとしてでもガンと戦おうとする。
 このタイプは、医者の治療に協力していただけるので、医者にとってつきあいやすい患者さんです。手術、制ガン剤、放射線、民間療法とありとあらゆる治療をしつくして、刀折れ矢尽きて亡くなる方です。1)のタイプより延命する可能性があります。予想以上の延命も期待できます。最近話題のガンの生きがい療法はこのタイプの方を対照にしています。ただ、治療をやりすぎて早く亡くなってしまう場合もあるようです。

3)ガンも身内なのだからと仲良くしようとする。 このタイプは、しんどいとき、つらいときのみ必要最小限の薬(麻薬も含めて)をのんで、死を迎えます。2)の方と同程度の延命は期待できるようです。   

                   文責 大阪鍼灸学校附属診療所院長 田中邦雄




 


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