奥の細道歩き旅 羽黒山、月山

高原状のゆるい斜面を進む
白装束の先達さんを先頭に、19名のメンバーが進む

月山八合目、弥陀ヶ原
この辺りには池塘が散らばり、高山植物が咲き乱れる雲上の楽園である。この付近で標高1400mくらいである

羽黒山参拝

芭蕉は6月3日(陽暦7月19日)に羽黒山に到着した。新庄の少し先の本合海(もとあいかい)から最上川下りの舟に乗り、舟旅を楽しみながら清川で下船し、そこから羽黒山まで歩いている。
我々は前後の脈絡なしに、バスでいきなり羽黒山頂に到達した。山頂といっても羽黒山は単独の山ではなく、ちょっとした丘のような感じで標高も400mくらいである。私は、ここまではいずれ歩いて再訪問するつもりなので、詳しい紀行文はそのときに記すこととして、今回は山頂の様子を簡単に紹介しておこう。
羽黒山、月山、湯殿山を合わせて出羽三山という。月山、湯殿山は冬は雪に閉ざされ登ることができない。ところが羽黒山は低いところにあるので、冬でも登ることができる。そこで、羽黒山には冬の間だけ月山、湯殿山の神様も祀るようになった。これが三神合祭殿で羽黒山の中心である。
我々はバスで頂上まで来てしまったが、表参道は長い石段が続き、両側には樹齢300年にも及ぶ杉並木が続いている。今回はこの参道を歩くことはできなかったが、来年はキチンとこの道を歩こう。 (清川〜羽黒山へ)

芭蕉は、奥の細道の旅で月山に登っている。芭蕉が黒羽で長逗留している間、私は先回りして月山に登ってきた。芭蕉の時代から思えば、真夏の夜の夢のようなものだろう。
実は、私も月山登山は来年考えればよいと思っていたのだが、今回、月山・鳥海山のツアーに誘われたので、それにのったのである。月山といえば、山形県にある2000m近い山であり、鳥海山はその近くの2000mを越える山である。山登りには時期の制約があり装備も違うので、通常の街道歩きとは別計画とならざるを得ない。


羽黒山、月山、鳥海山登山ツアーのあらまし

今回の登山は、2泊3日のバスツアーである。したがって、それぞれの山の登山口まではバスが運んでくれる。われわれはそこから歩き始めればよいのだ。
 8月4日 7:40 さいたま新都心出発。羽黒山参拝後、鳥海山五合目、大平山荘へ。(宿泊)
 8月5日 5:00 大平山荘出発。鳥海山登山。登山後、羽黒山麓の宿坊へ。(宿泊)
 8月6日 6:30 宿坊出発。月山登山後、湯殿山ホテルにて入浴。20:30さいたま新都心着

表参道杉並木
麓の随神門から始まる表参道は、全長約1.7Km、2446段の長い石段である。両側には樹齢350〜500年の杉並木が続く。この杉は国の特別天然記念物に指定

三神合祭殿
冬の間は羽黒山のほかに月山、湯殿山の神様もここに祀られるのでこのように呼ばれる。厚さ約2.1mの萱葺屋根は東北随一のスケールを誇る。国の重要文化財に指定

鏡池
三神合祭殿の前の池は鏡池と呼ばれている。これまでに平安、鎌倉、江戸時代の鏡が発掘され、そのうち190面が出羽三山歴史博物館に収蔵されて、国の重要文化財に指定

鐘楼、大鐘
鐘楼は切妻造りの萱葺で、山中では五重塔についで古い建物。大鐘は建治元年(1275)の銘があり、中世以前のものとしては東大寺鐘に次ぐ大きさ。いずれも国の重要文化財に指定

月山登山

我々が月山に登ったのは8月6日である。4:30には起床し身支度を整え、食事をすませて6:30に宿坊をバスで出発する。現代の月山登山は八合目まで車で行くことができる。この道は羽黒山から続く道で、芭蕉もこの道を歩いている。シーズン最盛期には駐車場待ちでかなり渋滞することもあるらしいが、我々はすんなりと八合目駐車場まで到着できた。
お山は晴天、南のはるか遠くに朝日連峰が連なり、北には鳥海山がうっすらとその秀麗な姿を見せている。ストレッチ体操の後、7:30いよいよ登山開始である。

八合目までは結構きつい登りが続くようだが、八合目から九合目付近までは高原状のゆるい斜面で、弥陀ヶ原と呼ばれる快適なハイキングコースである。あちこちにチングルマ、ニッコウキスゲなどの咲くお花畑が見られる。
ここで、今回のツアーのメンバーを簡単に紹介しておこう。メンバーは総勢19名(男10名、女9名)で、そのうち私の仲間が5名を占める。いずれも60歳前後の男性である。他のメンバーも中高年と見られる。月山は信仰の山であり、白装束の先達さんが先頭に立つ。この方は、昨日宿泊した宿坊の若ご主人である。

途中に1回の休憩をはさみ、9時に九合目の仏生池小屋に到着した。ここには仏生池があり、周りにはお花畑がある。行く手にずんぐりとしたピークが見える。あれが月山頂上かと思わせるので「オモワシ山」と名づけられている。このオモワシ山を越えると、本当の月山頂上が見えてくる。

月山頂上への最後の一登りは結構きつい。一歩一歩踏みしめながらゆっくりと登る。芭蕉の記した「息絶え身こごえて頂上に至れば・・・」はこの辺りの状況だと思うが、今日は朝からカンカン照りである。風もほとんどないので汗が吹き出てくる。でも、時々サーっと風が吹くとさすがに冷たい。
神社や頂上小屋がある場所に出る前に三角点のあるピークで一休みした。さすがに八合目とは高さの感覚が違う。月山頂上の標高は1984mである。残雪が所々に見えるが、先達さんの話では今年はこれでも例年より多いほうだという。

一休みした後、月山神社本宮のある月山頂上に行く。頂上到着は10:30だった。月山神社の祭神は天照大神の弟である月読命(つきよみのみこと)である。延喜式(967年に施行)の神名帳にもその名があり、朝廷の信仰も厚かったという。現在でも水を司る農業神、航海漁労の神として広く信仰を集めている。
ここで、希望者だけ神社に入り、御祓いと祈祷をしてもらう。ここでの祈祷者は、我々の先達さんである。羽黒山伏、行者の研鑽も積んでいるというだけにさすがに堂々とした祝詞だった。後で、誰かが「かっこよかったね」と言ったら、あれが最大の見せ場ですからね、と笑っていた。

我々は直射日光を避けて、小屋の中で昼食にした。宿坊でおにぎりを3個用意してくれたが、とても3個は食べられなかった。頂上で1時間近く過ごし、11:30に山頂を出発する。

下りは登ってきたのと反対側の斜面を降りる。この方向に湯殿山があるので、芭蕉も次の日同じ道を下っている。こちら側のコースは登山口のアプローチが便利なせいか、登ってくる人の数が大変多い。中学生の団体や小学生くらいの親子づれ、白装束の信仰登山者など入り乱れてしばしば渋滞になる。ようやく抜け出して上を見上げると、登山者の団塊がところどころで滞っているのが見える。先達さんの話ではシーズン最盛期には登山者の列が頂上までつながってしまうそうだ。

今回のツアーでは湯殿山神社には参詣しないので、牛首というところから尾根筋をはずれ、しばらく山の北斜面を歩く。さすがにこの辺りは残雪が多く、我々も1箇所だけだが雪面トラバース(横断)をした。付近で夏スキーを楽しむスキーヤーの姿を見かけた。その後、平坦な木道が整備された快適なハイキングコースとなり、リフト上駅まで続いている。我々の歩き旅はここまで。ここからリフトに乗り、バスの待つ駐車場まで20分で行くことができる。

我々はこの後、バスに乗って湯殿山ホテルに行き、ここで風呂に入り汗を流し着替えをした。これですっかり下界への対応ができた。あとはバスに乗っていればさいたま新都心まで運んでくれる。ホテルを出発したのが15:30頃。途中、渋滞もなくさいたま新都心に着いたのは20:30頃だった。

次回は、真夏の夜の夢第2弾、奥の細道歩き旅番外編として「鳥海山登山記」を掲載したいと思っています。


  


仏生池
池の周りにはハクサンフウロ、ミヤマキンバイなどが咲き乱れている

九合目、仏生小屋
歩き始めてから焼く1時間半で九合目の仏生小屋に到着

本当の月山のピーク
オモワシ山を越えると本当の月山のピークが見えてくる。頂上まではあと一登りだ

オモワシ山
行く手にずんぐりした山が見える。月山頂上かと思わせるので、「オモワシ山」といわれる

コバイケイソウと残雪
咲き盛りのコバイケイソウは真っ白で、バックの残雪に映える

月山三角点付近からの眺望
前方の山は尾根続きの姥ヶ岳だろう。今年はこの時期にしては残雪が多いという

月山神社本宮入口
ここから先は、参詣料500円也が必要。中で御祓いと祈祷をしてくれる

月山頂上の様子
頂上には月山神社本宮がある。月山神社は月読命を祀る古い神社である

牛首付近から頂上方面を望む
登ってゆく人の姿が点々と見える。最盛期には登山者の列が頂上までつながってしまうという

下山路風景
我々にとっては下山路だが、この道を登ってくる人も多い。中学生の団体、親子連れの小学生など子供たちもがんばって登ってくる
木道からリフト上駅を望む
残雪箇所の少し先から平坦な木道となり、リフト上駅まで続いている

雪面トラバース(横断)箇所
月山では雪面をトラバースしたのはここ1箇所だけだった。付近で夏スキーヤーを見かけた

奥の細道歩き旅 第2回

同、北方面を望む
目を凝らすと鳥海山がその秀麗な姿をうっすらと見せている

月山八合目から南方面を望む
はるか遠くに朝日連峰が見える