■恩田陸『小説以外』(新潮社)
レビューから14年分のエッセイを集大成。
初めて明かす、創作の舞台裏。(以上、帯より)
ブックガイドとして読んだ。
何かと何かを比較して、それよりも……というところは正直引っ掛かるのだが、
(たとえば「あまりにも確信犯的な」(p.86)で取り上げている
マイケル・マーシャル・スミスとP・K・ディックの対比や、
「『続巷説百物語』解説」(p.290)での学者と市井の研究者の対比等)
紹介されている本のいくつかには興味をひかれた。
読んでみたくなる解説であり、紹介だと思う。
たとえば「青春はいつだって暗号である」(p.274)の『フランチェスコの暗号(上・下)』や、
「これだからイギリス人は……」(p.193)の『はなれわざ』など。
それにしても、竜田揚げに似た犬(p.146)が気になる。なんという犬種だろうか。
■『若草物語』派と『赤毛のアン』派
大体、本を読むようになった女の子の間では『若草物語』派と 『赤毛のアン』派に分かれるものである。 私は断然前者だ。 『若草物語』派の女の子は、つまりは次女ジョーのタイプにシンパシーを覚える子なのだ。 『赤毛のアン』はどうも苦手だった。ギルバートとの恋は素敵だったが、 なにしろ最初の二冊ではほとんど頼まれもしないのに一人で喋り倒してる女なので、 本当に辟易した。私はあんなに喋る女は嫌いだ。
(恩田陸『『恐怖の報酬』日記』(講談社)p.76)
「人は二種類に分けられる。何でも二種類のタイプに分けたがる人と、そうでない人と」
という言葉を思い出しながら、笑ってしまった。
アンは確かに喋り倒すが、相手に喋ることを要求しないので、案外気楽な相手ではないかと思う。
と今になって思うが、私は、当時どちらの本も食べ物や風景の描写を楽しみに読んでいて、
登場人物の好き嫌いはほとんど無かった。今読んでもたぶん同じだろう。
『赤毛のアン』に出てきた痛み止め薬入りケーキはレイヤーケーキ(layer cake)ですね。
『トリポッド』1〜4、続きが気になって、家でも読んだ。面白い。
■ トム・デマルコ,ティモシー・リスター/ 松原友夫,山浦恒央 訳 『ピープルウエア 第二版 ヤル気こそプロジェクト成功の鍵』 (日経BP社)
ソフトウエア開発における、人の管理について書いた本(以上、ものすごく乱暴なまとめ)。
第二版では、
初版(原著1987年、日本語訳1989年)の1〜5章に小さな変更が加えられ、
新たに6章(ピープルウェアの小さな続編)が追加されている。
(以上「まえがき──第二版にあたって」より)
読んでいて「泣きながら一気に読みました」が頭をよぎったのは、
第2部「オフィス環境と生産性」。
ここで著者たちが批判的に取り扱う「開放型オフィス」や
「73個の部品がついていてこの価格、簡単便利ワンタッチ間仕切り部屋」は、
私が仕事をしてきた、たくさんの仕事場のなかでは相当にマシなほうなのだ。
こんな仕事場であれば、と思わせられた。 業務の難かしさに関係なく、考えながら仕事をしている人全てに言えるのではないか。
面白いと思ったのは、品質についての文章。
大抵の人は、自尊心を、自分の作った製品の品質── 製品の量ではなく質── と強く結びつける傾向がある (このため、本来の仕事とはいえ、 アクビが出そうな仕事をどんなにたくさんこなしても、 何の満足感も得られない)。 どんなことでも、製品の品質を落としかねないことを指示すれば、 それに反抗する感情に火をつけることになる。(p.23 強調は原文のまま)
一方、作る側の品質論理は全く異なる。というのは、 自尊心が製品の品質と非常に強く結びついているので、 開発者は自分の品質基準を当てはめる傾向があるからだ。 プログラマーを満足させる最低基準は、 今までに達成した最高の品質である。 この水準は、マーケットが望み、金を払って手に入れようとするものよりも、 ずっと高い。(p.25)
何故面白かったかというと、
「自分の作った製品」という言い方が、「エゴレスプログラミング」
(G・M・ワインバーグ『プログラミングの心理学 25周年版』p.106〜)と、
対立するものに見えたからである。
「自分が作ったプログラム」と言わないように出来ないのなら、
(これは難しいと思う。
たとえどんなに簡単なツールに対してでも「自分が」とつい言ってしまうものだし、
障害を指摘されると、自分に対する批判でなくても、ちょっと傷ついたりする)
「自分が作った」という考えが製品の質をより高める力になるって、かなり魅力的だと思う。
こんな管理だったらと思いつつ読んだので、すこし悲しい気分になった。
第二版で追加されたなかでは、「プロセス改善プログラム」(pp.239-249)と
「人的資産」(pp.261-267)が興味深い。
後者では「メンバの入れ換えによる生産性の低下」がメンバの能力差によるものではない
ことが分かりやすく説明されている。
今の時期は、新しい仕事場に配属され、以前のメンバと比較されてしまう人も多いだろうが、
仕事になれた人とまだなれていない人を比べるほうがおかしいとわかれば、
少しは気も楽になるだろう……比べられることに変わりは無いけれど。
生産性がマイナスの新任プログラマーが、退職者と同じ能力や技術を身につけるのに 必要な期間は6ヵ月と仮定できるだろうか? 新規にアプリケーションプログラムを開発する場合、この仮定は妥当である。 しかし、もう少し複雑なシステムを作るプロジェクトでは十分といえない。 そんなプロジェクトを筆者がコンサルテーションする場合、 6ヵ月よりずっと長い期間を見積もる。 例えば、ネットワークプロトコルの解析プログラムや パケット検出プログラムを開発しているプロジェクトでは、 新人が通常の能力や技術を習得するのに2年以上かかると予測する。(p.266)
■ジョン・クリストファー/中原尚哉 訳 『トリポッド』1〜4(ハヤカワ文庫SF)
世界の3箇所に突然あらわれたトリポッド。
彼らが何ものなのか、その目的が何なのかは分からないままだ。
けれど、彼らがやってきたあと、世界は急激に変わりはじめた。
第1巻は、トリポッドがやってきた時の話。
第2〜4巻がそれから100年くらい未来、トリポッドに支配された世界での話。
話の続きが気になる話。
次はどうなるんだろう?と、なかなか止められない。
話がさくさくと進むのは気持ちがいいが、
とにかく登場人物が淡々と退場するので、悲しいなあと思う暇もない。
子供むけの話なので、楽しい冒険とか勇敢な戦いが出てくるのかなと思っていたが、
そういう話ではなかった。第2巻のはじめのほうで出てきたように
「旅の終わりに待っているのは、きびしい生活」なのだ。
それにしても、第2〜4巻の主人公がトラブルを起こすたびに、
今度はもう駄目だろうと思っても何とかうまくいくのが不思議だ。
第4巻でそれについてフォローされているのには笑ってしまった。
さし絵(西島大介氏)は、とても良かった。
第4巻の表紙のヘンリーがかわいらしくて、話を読んだあとも、何度か見返した。
■PS3
E3にてPlayStation3正式発表 (スラッシュドット ジャパン)
名前はPS6000かPS400にして欲しかった(しつこい)。
RSXの手を借りずに全部Cellで計算して作ったデモがある (スラッシュドット ジャパン)が面白そう。
■任天堂の次世代機
任天堂が次世代ゲーム機(Revolution)の情報を一部明らかに (スラッシュドット ジャパン)
■ジョージ・R・R・マーティン/酒井昭伸 訳 『タフの方舟』(ハヤカワ文庫SF)
宇宙一あこぎな商人ハヴィランド・タフ登場!(第一巻、帯より)
あこぎの意味がわからなくなったので、辞書をひく。
あこぎ(名)[阿漕] [勢州安濃郡ノ地名、「逢ふことを─の島に引く鯛のたびかさならむ人も知りなむ」、 トイフ古歌ニ出ヅ]
(一)事ノ度重ナルコト。
(ニ)転ジテ、イヅクマデモ非道ニ貪ルコト。
ひだう(名)[非道]道理ナラヌコト。無理。
(大槻文彦『言海』(ちくま学芸文庫))
余計わからなくなった。
全ての話を読み終えたあと(あっという間だった) 「自分の持つ力に見合っただけあこぎなのだろうか」 と思った。身分相応なあこぎ、というか。
本書は商人タフを主人公とする連作集。舞台は、遥か未来の銀河系。
タフの職業が職業なだけに、面白い名前をもつ生き物がたくさん出てくるのが楽しい。
速駆けナマケモノなんて、名前だけなのに笑える。
大事件や災厄のさなかに出てくる、とぼけたような描写が面白かった。
たとえば、火のように燃える赤い巨眼を持った「闇の狩人」
(見た目も名前も恐ろしそう)が買いにくるのが、武器ではなく傘だったり(「プロローグ」)、
"全能の神"(焔の柱のオプションつき)が、
いきなり「いやはや」と言いだしたり(第六話「わが名はモーセ」)。こんな神はちょっと……
そういう意味でいちばん笑ったのが、第三話「守護者」。
人口問題に悩む惑星ス=ウスラムを舞台とした三部作(第ニ話、第四話、第七話)は、
また違った味わいだった。
面白いのだけれど、少し重い。単純な悪党がいないので、なおさらそう感じる。
それにしても、第七話のタフの贈り物の味 (<伏字開始>乳と蜜</伏字終了>)だが、 何故彼はあの味を選んだんろう?