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ワーグナーほどわがままで、不遜で、あつかましい男はいない・・・という人がいる。彼の個人的な生涯は、借金の踏倒しと、他人の女房を寝取るの繰り返しだった。しまいには、ルードヴィッヒ王を騙して、大金をせしめ、自分の楽劇だけを演奏する劇場を作らせたという(バイロイト劇場)。 30分ばかり居眠りをして、目を覚ましてみると、また同じ2人の主役の歌手が、1メートル移動したところで、まだ歌っていたというのを楽しいというのは、ドイツ語を完璧に理解できる日本人を除いては、マゾヒストの悦び以外の何物でもないだろう。(石井宏著、学研M文庫、「帝王から音楽マフィアまで」が面白い) バイロイト劇場の座席には、片側にしか出口への通路がないという。ワーグナーの音楽を中座することなど許されないからだそうだ。 ワーグナーのオーケストラ作品を演奏するのは、また、別の話だ。 金大フィルが最初にワーグナーをとりあげたのは、1975年第36回の定演、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の前奏曲だった。この演奏の録音は手元にない。レパートリーをブラームスにまで広げて3年後、レパートリの幅をさらに着実に広げていったようである。マイスターが最初に選ばれたのは、知名度や難易度からも順当なところだ。ワーグナーを演奏するための一つの条件は、金管楽器の力量の充実があるだろう。もっとも、金管の演奏がある程度様になれば、マイスターは比較的簡単にまとまるという手軽さがある。実際のところ、ワーグナーの演奏の弦楽器、木管楽器の難しさは大変なものだ。1979年の第4回サマコンに再度マイスターが再登場したのは自然の成り行きだ。その後、1983年、1991年、そして2000年の京大合演で再演している。音楽教室や芸交祭でも多く演奏しているように思われる。 次に登場したのは「リエンツィ」序曲だ。1981年の第6回サマコンでの、山口氏の熱演だ(氏の指揮者としての初舞台)。最後の息がピッタリあったコードは大きな成果だ。金管楽器群の充実振りもさすがだ。1997年に金洪才氏との第57回定演で再演している。 「ローエングリン」は1981年の第42回定演で堤俊作氏と演奏している。このときは、金大合唱団中心の混声合唱と2つのTpバンダ隊、オルガンパートを模した金管バンダ隊、さらにYAMA○○のかなり安っぽい電子オルガンを交えて、大スペクタクルを演じた。11年後、1992年には、ブルックナー7番の前座として、第1幕への前奏曲と「エルザの大聖堂への行進」を演奏している。このときは、合唱はなく、オケのみの演奏だった。 特筆すべきは、1991年の第51回定演での、山下一史氏によるオールドイツ物プログラム(メインはブラ4)だ。 前半に、マイスタージンガー前奏曲と、「トリスタンとイゾルデ」を演奏している。これが、なかなかの力演だ。ソプラノの大沼恵美子女史を迎えた「愛の死」は、声楽ソリストとの共演という、金大フィルにとって非常に貴重な体験となった。大沼氏のソプラノにはゾクゾクするものがある。 最後に登場したワーグナーレパートリーは、1995年の「タンホイザー」序曲だ。80年代には、何度かサブメインとして選曲に上がっては消えていった難曲。オープニングの序曲としては、余りにも演奏者への負担が大きい曲だ。1回生の初舞台としては、大きなチャレンジだったろう。 この時、岡田司氏による第55回定演のメインは「ブルックナー8番」だった。大曲路線の行き着く果てといったプログラムだ。(サイドストーリ) ある時期、ワーグナーの映像作品(LD)をほとんど収集した時期があった。指輪のLDセットはバブル時代、7万円もした。今でも狭い部屋の中で偉そうに鎮座している。最近、10年ぶりに観てみたが、やはり正直言って苦痛であった。指輪のセットが1、000セット以上も売れる国は世界でも日本だけだという。実際に指輪を心から愛することの出来る筋金入りのマゾヒストが1、000人もいるとは驚きだが、他人の趣味をとやかく言うのは止めよう。やはりオペラは、イタリアオペラだ。 ワーグナーで一番演奏したかったのは、「パルシファル」の前奏曲、そして、「神々の黄昏」の最終部、ワルハラの城が燃え落ちる部分だ。オーケストラだけのワーグナーなら、実にいけるのである。21世紀の金大フィルがいつかとりあげてくれるだろう。 |
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★ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲 ![]() 指揮:大杉和彦 コンサートマスター:山田荒太 ![]() ★リエンツィ序曲 ![]() 指揮:山口泰志 コンサートマスター:纐纈直樹 ![]() ★「ローエングリン」より 最終部分 ![]() 指揮:堤俊作 コンサートマスター:纐纈直樹、金大合唱団他 ![]() ★トリスタンとイゾルデより 前奏曲冒頭 「愛の死」ラスト ![]() 指揮:山下一史 ソプラノ:大沼美恵子 コンサートマスター:村田 淳 ![]() ★「タンホイザー」序曲 ![]() 指揮:岡田 司 コンサートマスター:斉藤丈晴 ![]() |