少女革命ウテナ 決闘の歌 注釈:黒薔薇編

制作者:KrK (Knuth for Kludge)

情報・ご感想はこちら

KrK's Cracked Text > 雑多

※すべて「一解釈」です。


E-13 不人幻魂合体術

坪内逍遥翻訳シェイクスピア『ハムレット』より。

不人幻魂合体術

人でない幻・魂を合体させる術。

神霊にもあれ 悪鬼にもあれ あー天の顆気 持ち来るとも

神霊

天界の者達。生まれる前の存在。

悪鬼

地獄の者達。死んだ後の存在。

顆気

光の気。「顆」は丸いの意。

底意は善にもあれ! 悪にもあれ!

底意

奈落の心、妖気。

あー地獄の妖氛 携え来るとも

妖氛

怨みの気分、妖気。

かかるいぶかしい姿にて来る上は 問答せん!

かかる

そのような。

いぶかしい

不審に思われる。

問答

議論を尽くして真理を導き出す行為。

さらでも凄き月の夜に あくがれいでたまひぞや

然らでも

それでなくても、ただでさえ。

憧れ出で給いぞや

居るべき所から離れてお出ましになる。

人智の及ばぬこの不思議 造化の侏儒たる人間を 恐れをののかせんその姿

造化

神が創造を行うこと、また神が創造したもの。

侏儒

小人。

その姿

小人である人間を恐れ慄かすからには巨大な姿である。
人間以前の人類あるいは創造の神が巨人であったとする神話・伝承は
世界各地に存在。

私的解釈

創造主の事をうたった歌。


E-14 架空過去型《禁厭》まじない

初出『ダーウィン~時は幻想と仮説の舞台装置~』

禁厭

まじないで病気や災害を防ぐこと。

架空過去型まじない

想像上の過去へ行くおまじない。

蓮華のじゅうたん 人形あそび

蓮華

レンゲソウ、マメ科の緑肥植物。
田植え前の田に生やして窒素固定をさせ、土に鋤き込み肥料とする。

人形あそび

自己を外部化する行為。

驚きももの木 わたしのこころは

ももの木

桃源郷の仙果の木、季節も無く実る。

私的解釈

過去への望郷の念をうたった歌。


E-16 円錐形絶対卵アルシブラ

初出『瓶詰実験劇 バーベQソース』

寺山修二『棺桶島を記述する試み』より

円錐形

ヒエラルキアの形。
ゼンマイのほどける速度を一定に保つ装置の形。

絶対卵

卵は、それだけで生命を生む、絶対的存在。

アルシブラ

シャルル・フーリエ『Archibras』
アルシブラとは先端に手のついた万能尻尾のこと。
太陽人、すなわち来るべき未来の完全なる人類が持つとされる第五肢。

哲学的存在

哲学的存在

思考の中のみの存在。

通俗奇術のグランギニョールの領域

通俗奇術

みせもの、大道芸、手品。

グランギニョール

Grand Guignol。仏語で「大きな指」。
19世紀末から約60年間続いた劇場の名。
一回の公演で短い恐怖劇と喜劇を交互に上演することにより、日常に滑稽と狂気の紙一重の恐怖が潜んでいることを再認識させる。

吐息、溜息、青息、嘆息、鼻息

神は土の人形に自らの息を吹き込んで人間を造ったので、人間の息は神の息であり霊であるとされる。
そしてその息の種類を分けるのは人間の感情である。

吐息

ため息。緊張が緩んだ時に吐く大きな息。

溜息

失望した時や、悲観が喜びに変わった時に吐く大きな息。

青息

困難や心配を乗り切る事ができそうもなく、苦しみ悩む様子。

嘆息

ため息の字音語表現。絶望の思いを深くする意にも。

鼻息

興奮したときに出るとされるもの。

息の蒐集、息の貯蔵器、虫眼鏡

蒐集

収集。

虫眼鏡

光を集める道具。

一切合切エネルギーなし! 一切無駄なエネルギーなし!

一切無駄なエネルギーなし

永久機関の実現条件。

絶対人 息する機械 絶対人 肉の人体模型 絶対人 ラッキョの分解 絶対人 超なる合成

絶対人

人間の造り出した人間に似たもの。錬金術で言うところのホムンクルス。

ラッキョ

入れ子構造をしている。

アッアー 天体回転 アッアー 存在合成

天体回転

エネルギーを必要としない永久運動。

存在合成

無から有を作ることはできないので、新たなモノを作るには存在を合成する必要がある。

どっちもコチコチ こっちもドキドキ 時打つハンマー トントントントン 時行くボクが 戸をあける!

コチコチ

時計の歯車とテンプの噛み合う音。

ドキドキ

人間の心臓の鼓動によって血液が送られる音。

最初に造られたゼンマイで動く自動装置は、自動時計と自動人形であった。
同じ技術で動く両者が組み合わさって自動人形時計が造られるようになる。

カラクリ時計の一種である鳩時計は戸を開けて時を告げる鳩が現れる。

私的解釈

想像上の「絶対人」をうたった歌。


E-17 成熟年齢透明期

初出『錬劇術胚期劇 ペストシュタイン』

Vanish! Fade away! Melt away! 消えうせろ!

Vanish

消える。

Fade away

じわじわと消える。

Melt away

溶けてなくなる。

インスタントのニセモノたちよ

インスタントのニセモノ

その場しのぎの存在。

無人のサイドカーにまたがって

無人のサイドカー

重量バランスが悪い上に自動車のように人間を守るボディもなく、事故が起きると死亡率はかなり高い。

ゆくぞ時速百キロの 怪傑、疾風、逃亡者

怪傑

不思議な、超人的な能力を持つ者。

私的解釈

この世からの逃避欲を描いた歌。


E-19 幻燈蝶蛾十六世紀

坪内逍遥翻訳シェイクスピア『ハムレット』劇中劇に登場するギリシャ神話より。

十六世紀

歴史上、西洋の革命前夜とされる時代。
キリスト教の束縛、既得権益者の腐敗等によって
進歩が停滞していた時代から
科学革命,産業革命,社会革命等、人々の生活に劇的変化が現れる時代。

ああゝ いたはしや老いの身の 手馴れし剣に 力こめしも 老いたる腕のあわれなる

労しや

かわいそうだ、哀れだ。

覘は外れて太刀風に よろめきまろぶ 老人よ!

こっそり機会を伺うこと。

まろぶ

「転ぶ」ころぶ、倒れる。

老人

トロイのプリアモス王で、ゼウスの末裔の一人。
老爺、老王も同じ。

唸る太刀風 トロイの城楼 燃ゆる頂上 雷火と砕け落ちければ ピーラス暫く 耳聾ひたり

トロイ

トロイの木馬の舞台となったトルコの古代都市。

城楼

城に作られた物見やぐら。

雷火

雷はギリシア神話の主神ゼウスの力。
プリアモス王はゼウスの繋累なので、その加護があった。

ピーラス

Pyrrhus

耳聾ひたり

耳が聞こえなくなってしまった。

見よ!白頭の老爺! 斫らんと上げし 剣は空にとどまりて ピーラス立縮む

斫り

「はつり」。
構造物を壊したり、表面を削ったりすること。
老王の剣はとてもピーラスに当たるようには思えないが、ゼウス神が加護したので形成はピーラスに不利となる。

ピーラスやがて敵意を復し 血汐したたる血刀を 老王めがけて打下す!

トロイ戦争終結直後のエピソード。
戦争に負けたトロイの老王プリアモスは許され生き延びたものの、父アキレスをプリアモスの息子パリスに殺されたピーラスに討たれてしまう。
若きピーラスの力が主神の神力に勝ったことは、主権交代が暗示されている。


E-20 地球は人物陳列室

初出『あるサイズの奇術劇 アウトマトスの方舟~ネジ式宇宙の見果てぬ夢~』

無限に対の関係が 二枚の鏡の狭間で 増殖してゆく欲望の

無限に対

合わせ鏡の中にできる無限の虚像。

気まぐれ無情の偽りの

無情の偽り

鏡の中の存在は虚像であり、感情がない。

光とて影つくり わたしをわたしと対にする

わたしをわたしと対にする

光があるところに必ず影ができるように、「わたし」がいれば必ず「わたし以外」が存在する。

孤独の発生、その理由 わたしをわたしと対にする

孤独の発生

「わたし」は「わたし以外」と決して交わらず、孤独である。

双児 義理の双児 カラクリ双児 不在の双児

双児

二面性ゆえに完全な一者と同義。

私的解釈

地球には男女に分かれた不完全な人間が連なっている。


E-22 ワタシ空想生命体

ウテナ用録り下ろし。

暗黒灼熱 誕生人形 名付けられて人動説

暗黒

生命誕生の場。

人動説

天動説、地動説になぞらえた造語。
世界は、人が動いているから変化がある。

世界あやつる単一存在 他は空想人形術

単一存在

すべての空想生命体の基となった究極の一者。
人動説の立場からすると一人の人間と考えられる。

他は空想人形術

単一存在以外は魂のない人形である。

暗黒零下 誕生生物 関係づけられ人動説

誕生人形、誕生生物

人形と生物を同一視している。

天然舞台に単元存在 成るは空想生物術

天然舞台

人は神の創りし舞台で「人」を演じているにすぎない。

単元存在

単一存在に同じ。

言葉誕生 出会いそして迷い 知識誕生 出会いそして現ろ

誕生

時間の発生でもある。
言葉があって知識が得られる。誕生があって出会いが得られる。

迷い

究極の一者に属していない、他者が相対的に存在している状態。

現ろ

虚実は一つの存在の両面にすぎない事を示している。

舞台運命魔術鏡

わたしは、一者の虚像のようなもの。
姿形は同じだが中身がない。

満月 謎の変幻自在 わたし果てなる空想生命体 満月 謎の変幻自在 わたし果てなる空想運命体

満月

太陽と大地の間にある両性性、満ち欠けから来る変幻自在性から、すべてのものに変化する単一、単元存在の象徴。

時を求めて 安息なしの 生きつづける空洞形態

安息なし

不完全な私は迷い、現ろな存在であるため、安定しない。

空洞形態

我々は物体から反射してきた光を見ているにすぎず、物体の外からしか観察はできない。
一者が自分を見るには自分の外からの観察者を作らなくてはならない。
しかし観察者を作ると一者は空洞なので結局は観察できない。

土地を求めて 手なく足なく

土地を求めて

実態を創造する行為。
神は土からアダムを創った。

手なく足なく

究極の一者は球形をしているので手も足もない。

在りつづけるワタシ 透明無形 かすかに吐息

在りつづけるワタシ

ワタシは一者が創造したものなので不滅である。

透明無形

完全なるものは実体は持たず霊的な存在なので透き通っていて形もない。

私的解釈

私達は一者を模した虚構の存在である。


最終更新:2024/02/24

主要参考文献

©J.A.シーザー:当ページでは引用の範囲内で歌詞を使用しています。

免責事項