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  和平復興関連 No.93


2005‐7‐22
ブラットシンハラ君のブログ
愛のように 命のように


 
ブラットシンハラ君は30代の若いフォト・ジャーナリストで詩情の豊かな人だ。たとえ彼を知らない人でも、その名ブラットシンハラを聞いただけで、スリランカに習熟していれば、彼がシンハラ人の伝統的な生活と文化に深く傾倒していることが分かるだろう。もっともブラットシンハラを名乗るシンハラ人は多数いるが。
 
 そのブラットシンハラ君がこんなことをブログで言っている―トリンコマリーを大国の脅威から救えと。

 彼の警告はパキスタンのウェブ新聞に掲載された7月21日。同様の警告はインドのヒンドゥスタン・コムにも以前、別のライターから発せられている5月30日。しかし、スリランカのマスコミでは大きく扱われていない。
 それは一体どんな警告か。ブラットシンハラ君の警告が最も直裁で分かりやすいので、彼の書いた記事を見てゆこう。

 彼がこの警告を発するきっかけはデカン大学で歴史遺産を専攻するラメシュ・ソーマスランダム研究員が先月、インドで出版した「スリランカの戦略的意味」という著書に始まる。
 17世紀以来、スリランカは西欧4国にその独立を奪われた。西欧4国がこの島国を攻略するときに最も戦略的に重きを置いたのがトリンコマリだった。そして、そのトリンコマリの戦略的な重要性は今も西欧諸国に認められ現在に至っているのだと言う。かつてネルソン提督が「世界で最も優れた港」と賞賛したトリンコマリ港は今、核攻撃基地としてここに基地を置けば南西アジアが等距離に命中圏に入る、原子力潜水艦の母港としてインド洋には潜水艦がひしめいている格好の位置にあるという。トリンコマリの港は深い。原潜はレーダーやソナーに発見されることもない。
 米国はソ連崩壊前、スリランカを基地とするVOAボイス・オブ・アメリカを1983年に充実させた。それは中央アジアをも米国の世界戦略に収めるものだった。ソーマスランダム氏の論拠はかくして3点に集約される。@スリランカは戦略的な位置にあること、A情報基地として理想の場所にあること、Bそれはトリンコマリに集約されること。これが「西側」の、とりわけVOAの国の世界戦略に重要な役割を持つようになったのだという。

 歴史的にもトリンコマリは戦略上の重要な港として捉えられていた。カンディ王国は山上王国ながらこの港を掌握した。英国はインド支配にこの港を利用した。第2次世界大戦のときは英国第7艦隊をこの港が日本軍の攻撃から守った。すべてはトリンコマリの地理的好条件のゆえであると言う。
 
 トリンコマリは西側に切り立った山を配し、港湾には無数の小島が天然の要塞となる。
 「西側」が30億ドルもの津波復興資金をスリランカにつぎ込んだことの意味はこの戦略上欠くことの出来ないトリンコマリの獲得が目的だとブラットシンハラ君はブログに書き込む。
 こうした意見はスリランカにはない。スリランカを除いた南アジアの各マスコミ報道に共通して現れる。この「西側」という表現を更に踏み込んで、ブラットシンハラ君は「特に目立つのがアメリカだ」と書きこんでいる。

 ブラットシンハラ君はガリガリの民族主義者でもなく、硬直したゲバラやマオの崇拝者でもない。彼はフォト・ジャーナリストであり詩人である。
 「書くこと」という彼の詩がある。
「何に書こうか/わたしが選ぶなら/空に書きこもう/最も薄い枝の先で/枝先がポキンと折れた/愛のように/運のように/命のように」

 彼の短詩はスリランカのブリティッシュ・カウンセルが運営するホームページに掲載されている。スリランカのやらわかな魂の声がする。

 現代の超大国が画策する世界制覇戦略にはトリンコマリが必要不可欠か。スリランカにとっては物騒なことになったものだ。シンハラ人は日常会話でもこの話を話題に載せる。だが、スリランカのマスコミにはこの噂の片鱗さえない。実際、ブラットシンハラ君の警笛はパキスタンからスリランカに向けて鳴らされた。スリランカという島国の自立をこれからも守るなら、シンハラ政府とタミル自治組織が敵対している余裕など、もう残されていない。


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