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和平復興関連 No60


2004-11-12
シンハラとタミル
「季刊・民族学110号」スリランカを特集

 レイアウトが一新されスマートになった「季刊・民族学」(発行/財団法人千里文化財団)がスリランカを特集した(2004.110号)。  「戦いは武力から政治の場へ」と題された竹内幸史朝日新聞ニューデリー支局長の記事がLTTEの動向を詳しく報じている。記事に寄ればキリノッチのLTTE本部での取材を始めたのが2002年、そして今年にいたる3年間、タミルの動向を追って簡潔に表された記事は和平交渉の一方の当事者LTTEの姿を丁寧に描いている。

 記事にはコロンボに住むタミル人商店主の話を引用し、「シンハラ人との間に境界線を引くようなタミルの祖国建設には何ら関心はない」というくだりがある。記事の最後の部分だ。
 シンハラ人が多数を占める地区に暮らすタミル人の思いはその商店主と同じだろう。しかし、その思いを抱くタミル人がいる中で、1983年に勃発した暴動が、今は組織化されてテロルを繰り返し、今なお続いている。
 特集の冒頭に掲載された写真(左)はジャフナでの写真展会場に掲げられたスリランカ地図だとある(撮影・廣津秋義氏)。記事にはキリノッチ、ワウニヤといったタミルが事実上の自治を行っている地域を写した写真が多く掲載されている。

 左の写真をシンハラ人に見せた。即座にその彼から意義が申し立てられた。「タミル人の人口は全人口の20パーセントだ。その彼らが住んでいるのが赤い部分だ。その彼らがスリランカの半分をよこせと言っている。これは受け入れられない」 
 意義を申し立てたシンハラ人はスリランカの現政権への批判的な目を持ち、また、発言をする人物である。SLFPにも、UNPからもフリーな立場にある。タミル人に敵意を抱く民族主義者でもない。ただ、領土を削り取られるのが理不尽だと憤激したのである。
 
 領土という問題は民族のアイデンティテイに深くかかわる。
 同じ特集の中にシンハラとタミルの民族関係を歴史の中から読み解く澁谷利雄和光大学教授の論文がある。これも読みやすい。澁谷氏はサンフランシスコ講和会議で日本の再独立を擁護する演説をした際に故JRジャヤワルデネ大統領が引用した仏陀の「憎しみは憎しみによってではなく愛によって消える」ということばを、今回の民族紛争解決のキーワードとしてシンハラとタミルに投げ返している。戦後6年を経てなお日本軍の残虐性に憎しみを抱いていた世界中の国々に対して、スリランカの代表が宛てたあのメッセージが、いま、日本人の文章としてスリランカの人々に向けられるのは皮肉なことである。多くの日本人がこの仏陀の言葉をスリランカに対して口にする。しかし、仏陀の慈悲によって消えるのは敵の抱く憎しみではなく、自らに内在する憎悪であろう。JRジャヤワルデネ・セイロン全権大使がサンフランシスコ平和会議で投げかけたこの仏陀の慈悲の言葉は己の怒れる心への彼自身の自戒である。

 多民族、多宗教であるがゆえに揺れるスリランカ。混迷するスリランカに向けてこの仏陀のメッセージを発する日本人は多い。だがこの言葉は自らが自らに発する時にこそ有効であると理解する日本人は少ない。
 明石康日本政府特別代表がスリランカに持ち込む「平和の分け前」は今だ和平に効を奏していない。この仏陀のメッセージが有効であるなら、それに越したことはない。


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