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『かしゃぐら通信』  和平復興関連No08 



2003-04-02
スリランカ、連邦制に移行か

 先月末、箱根で開かれた第六回スリランカ平和交渉ではドナー各国から供与される戦後の復興資金を背景にしてスリランカ政府とLTTEの間に和平の進展が見られるはずだったが、交渉の過程でいくつもの難問が新たに、また、明確に現れてきた。
 和平交渉の目的はスリランカを連邦制の国として再出発させ、海外から寄せられる戦後復興の資金を政府、LTTE両者に分配することにある。
 スリランカ政府はすでに連邦制を取るための準備を進めており、マレーシア、スイスに連邦制度調査団を派遣している。
 しかし、こうした進展の在り方に疑問を投げかける動きもある。

 S.ナラパーラシンガム氏は3月26日のアイランド紙に寄稿した論文に、箱根会議で浮かび上がった和平の問題点を指摘、検討している。
 以下にアイランド紙に掲載された彼の論文を集約し論点をまとめた。


2003年3月スリランカ和平交渉箱根会議の問題点

@「平和の配当」
 スリランカは国の再建、国内難民の再定住と再就職、また、経済全般の活性化のために相当な額の海外資金援助を必要としている。
 長年、スリランカへの主要援助国となっている米国、EU,日本は6月9〜10日に開かれる東京会議の前に政治的解決を目指して双方が実のある交渉で結果を出せば、実質的な援助を約束すると強調した。 しかし、イラク戦争が国際的に重大な関心を集めている以上、ドナー諸国の和平交渉への関心が薄まり、スリランカ政府が期待している戦後復興の援助額が低くおさえられるかもしれない。

 チャンドリカ・クマーラトゥンガ大統領とその党員からの批判があるにも関わらず、UNF政府はLTTEの取り扱いに寛容だ。「核心問題」の早期交渉にタイガーを引き出す事もなく、違法行為、挑発行為にもあわただしく反応していない。スリランカとノルウェー政府はLTTEの要求でボイス・オブ・タイガー局への新機器導入に対し援助をしている。

The Voice of Tiger said that the anti aircraft wing unit of the LTTE was deployed all over Vanni to give protection from the assumed attacks of the SLAF during the Maaveerar Celebrations to the tiger cadres and the public who witnessed the ceremony.[TamilNet, November 27, 1998 18:02 GMT]


 また、平和交渉のLTTE側メンバーはキリノッチ、バティッカロアからカトゥナヤカ国際空港を経由して出入国できるように便宜が図られている。地方のLTTE指導者は安全を確保されながらコロンボでの医療措置が受けられる。燃料を含む基本的な生活物資の輸送は制限から外されている。制限があるのは軍事物資---武器、弾薬、重火器で、LTTEはそれらを密輸しなければならず、船舶、トロール船、高速船が、武器などの密輸に使われている。

 
B連邦制の樹立
 LTTEのアントン・バーラシンガムは、西欧諸国に見られる連邦制の導入を声明の中で示唆したが、スリランカ政府はそれをタミル・イーラム建国の要求を妥協させたものとして受け止めている。平和交渉を支える諸国も、この連邦制はスリランカの統一性、主権、領土保全を達成するとして歓迎している。

 これまでの平和会議の前後に出されたG・L・ピーリス大臣(憲法問題)の声明でもこの連邦制案が支持されている。彼は箱根会議で進展のあったことを述べている。だが、ノルウェーの仲介者エリック・ソルヘイム氏(特使)は会議の後「和平の突破口は何もなかった」と語り、多くの難題と解決に至るには更に多くの困難な会議を重ねなければならないだろうとした。
 しかし、イアン・マーティン(国連人権アドバイザー/元アムネスティ・インターナショナル事務局長)の提案した外国の独立機関による人権監視は却下され、人権に関する共同宣言は次回の会議に持ち越された。

 3月21日、ノルウェー政府が出した箱根の第6回会議における声明には、「LTTEは政務委員会の構成を組織の首脳部21人で構成するものとした。この委員会は連邦制を集中的に研究し3ヵ月をめどにLTTEの政治的変化を構築する。世界の連邦制度を学び、LTTE幹部に対してセミナーを開き、また、タミル人の議員、教授、法律家、憲法専門家等の意見を取りまとめ、統一連邦スリランカを視野に入れ次回の会議に向かう」とある。

 平和交渉は進展を早めるべきではないという意見が大勢を占めている。G.L.ピーリス氏は箱根会議で、「議論するべきことは権力と税配分を連邦制でどうするかである」と指摘した。
 税配分に関しては、スリランカにとって望ましい連邦制の性格、連邦の数が決定されないままでは議題に乗せようがない。たとえ、第6回会議で連邦制への権限委任の「道筋」が示されたにしても、提案された件はアカデミックなものでしかなく、即座に実践できるものではない。

 双方が属する委員会では平和交渉の進展を早めるべきではないとしている。G・L・ピーリス氏は箱根会議で、「議論すべきは権力と税配分を連邦制でどう扱うかである」と指摘した。
 税配分に関しては、スリランカにとって望ましい連邦制の性格と連邦の数が決定されないままでは議題に乗せようがないと言える。たとえ、第6回会議で連邦制への権限委任の「道筋」が示されたにしても、連邦制の実情はまだ調べられていない。提案された制度はアカデミックではあるが、即座に実践できるものではない。

A政府の懐柔策
 UNP政府はLTTEに対して寛容を持って接しているが、チャンドリカ・クマーラトゥンガ大統領と彼女の党に属する人々からは批判がある。
 LTTEの違法行為、挑発行為にシンハラ人は寛容である。スリランカとノルウェー政府はLTTEの要求に甘く、LTTEが”ボイス・オブ・タイガー新しい機器を導入する際、両政府は援助の手をを差し伸べている。
 「平和交渉」のLTTE側のメンバーはキリノッチ、バティッカロアからカトゥナヤカ国際空港を経由して国外便に乗り、出入国できるよう処置を受けている。地方のLTTE指導者はまた、安全を確保されてコロンボで医療措置を受けているし、燃料を含む基本的な生活物資の輸送は制限から外されている。禁じられた武器、弾薬、重火器だけが密輸する必要のある物資なのである。

 スリランカに長期に亘る平和をもたらすためには長期に亘り交渉を重ね段階的に進めていくことが肝心であると双方が確認している。平常な状態を回復し信頼を築き、平和会議を支える温暖な気候を創り出すことが確認されてる。とりもなおさず平和交渉を支える取り組みは「なんとしても」LTTEに政治的なゴールへ辿りつかせる事にあると多くが信じている。

 LTTEのアントン・バーラシンガムが述べた声明は、LTTEに西欧諸国に見られるような連邦制を導入する意識のある事を示しているが、それはスリランカ政府にも受け入れられ、独立分離国家タミル・イーラムの樹立という彼等の要求を妥協させたものと理解されたいる。平和交渉を支える諸外国の間でも、この連邦制の提案はスリランカの統一性、主権、領土保全を達成するものとして歓迎されている。

 これまでの平和会議の前後に出されたG・L・ピーリス大臣の声明でもこの連邦制度案が支持されている。彼は箱根会議で交渉の進展があったと述べているが、ノルウェーの仲介者エリック・ソルヘイム氏は会議の後、「和平の突破口は何もなかった」と語り、多くの難題と解決に至るには更に多くの困難な会議を重ねなければならないだろうとした。
 平和交渉の進展は、LTTEに停戦持続を再確認させ、平和交渉の継続と統一スリランカを旗印とすることで達成される。
 イアン・マーティンの提案した外国の独立機関による人権監視は却下され、人権に関する共同宣言は次回の会議に持ち越された。

HSZ(高度安全地帯)の状況

 LTTEは2月14日のジャフナ公共図書館の再開を妨害しなかったが、現在、政府のコントロールに置かれている北東地区からもLTTEは徴税を行っていて、個人投資家、医師、エンジニア、教師、計理士など専門職の人々には不評を買っている。

 タイガーは連邦体制という政治的ゴールへの到達を難しくするどんな展開にも反対している。LTTEが「平和の配分」--外国の資金援助--を必要としているのはイーラム建国戦争によって被害を受けた北東部の家族を救うためである。
 しかし、絶えず起こる多くの紛争は箱根会議の際にも引き起こされた。HSZ地域でのLTTEの武器の廃絶を求めるスリランカ軍に対抗してLTTEはMouの委員会への参加をボイコットした。
 このような状況を打開するためスリランカ政府はインド軍の退役中尉サティシ・ナムビアール将軍を招き、事態の回避を模索した。彼の予備報告書に依れば、軍事的視点からHSZの範囲と内容は再検討を必要とするだろうと云う事であった。それは、LTTEが武器を中立な監督下に置くことに同意し、前線から通常の地点に撤退したにしても、である。この報告はLTTEのリーダーを激怒させ、LTTEの最高交渉者アントン・バーラシンガムは直ちにナンビアール大将の提案に完全な拒絶を表明した。LTTEはこの問題を第6回の箱根会議で議題としたが、スリランカ政府はジャフナ半島のHSZから軍を撤退させることは平和交渉の最終目的であると強調し、依然として対立の状況を示している。

 北アイルランドの平和交渉の現在の行き詰まりを論じてケビン・トーリスは「タイムス」の3月5日号に「共和主義者に銃を捨てろと言うのは魂を引き渡せというのと同じだ」を掲載した。これはタイガーの考え方とまったく同じである。スリランカ政府は武装解除を無効にするよう早く気付くべきである。しかし、米国国務副長官リチャード・アーミテージは最近ワシントンで、武装解除はスリランカの平和交渉のいつかの段階で行われるべきであると語った。外国の政権はスリランカにおける政治的解決のための交渉の現実の難しさを完全には掴んでいないようだ。

最近の紛争

 ムッラティウとデルフト沖で起きた事件は交渉を信頼の構築という初期の段階まで後退させ、政治的決着の難しさを露呈した。
 前者は3月10日、箱根での第6回平和会議の8日前に起きた。タイガーは武器を運ぶ船舶を無くし、11人の乗組員も亡くしたと報じている。SLMMはこの事件を調査したが結論を控え、その代わりに調査に協力しないLTTEと政府の双方に責任を投げかけている。
 デルフト事件の場合は複数の監視員が同乗しており、3人のLTTE中核グループは船舶に火を放って自殺したと彼等が確認している。監視員はLTTEが政府管理地区に武器を密輸したと非難している。
 このため、第6回の箱根会議席上、双方は「紛争に至る前に事態を打開するため、SLMMの役割を強化する権限を与える事」に同意した。このことは最近の敵対事件にもかかわらず、政府とLTTEが和平交渉に留まる意志を示した事を表している。

 デルフト沖事件ではLTTEの武器弾薬を運ぶトロール船が沈没し、3人の”海のタイガー”が自決した。それは2月7日のことだったが、その数時間前にはベルリンで第5回の平和会議が開催されていた。
 箱根会議の前日、3月17日にはスリランカ海軍が3人の海のタイガーを逮捕し、彼等がトリンコマリー港近くのHSZを通りサンポールからムッライッティウヘ武器を運んでいたとしている。
 また、政府とLTTEが日本での第六回会議を行っている間、中国船籍の船が北東海岸で攻撃を受け、18人の船員が行方不明になったと報じられた。タイガーはこの事件への関与を否定していて、現在、調査中である。こうした一連の事件は平和会議の前に起きる。彼等が平和会議を真に進める意志があるのかどうか、疑念を抱かせている。

 D.B.S.ジャヤラージは定期的に国内や外国の雑誌に民族問題と平和交渉に関する記事を寄せているが、彼によればLTTE首脳部には平和会議に対する彼等独自の目的があり、そのひとつは彼等が平和解決に反対しないという事をアピールすることであるという。また、連邦制度の創設に反対しているのはシンハラ人の側だという事を世界に知らしめることであるという。
 連邦制度が紛争を永久に終わらせ、スリランカ統一、主権保護、領土保全に寄与するということをスリランカ人の大部分が納得していない事はよく知られている。最近の意識調査によればわずか29パーセントのシンハラ人が連邦制を支持しているという。大衆に影響力を持つシンハラ人の指導者はこうした世論を宥める努力を何ひとつしていない。

 スリランカ政府はシンハラ人が連邦制度を認めるものと確信していたが、それは平和会談を通して民族問題に関する政治決着がなされた時の話だった。
 武力外交が民族問題を解決したなどという証拠はなにひとつとしてない。 
 SLFPとJVPが同盟を結ぶという可能性が日和見主義者によって鼓舞され、利己主義者は政府と反対政党が連邦制度に関して衝突していると言う。
 
LTTEの動向

 休戦協定の実行された後、北東部に自由が与えられる事で、LTTEは政府の統制地区に武器を密輸する事を控えると、スリランカとノルウェー両政府は確信していた。彼等は北東部で結成されたタミル国民同盟(TNA)のように強力な政治集団になりえるし、LTTEがタミルの人々の唯一の代表として受け入れられ、タイガーは政治活動に武器を必要としなくなり、MoUの下に受け入れられるだろう、としていた。
 スリランカ政府もLTTEを唯一の政治的権威として把握し、ワンニ地方の統治を首都としてのキリノッチと共に認めている。MoUは平和会議において、LTTEと政府団は対等である、と考えている。政府は外国援助を受けるとき、LTTEのサポートを得たいとの観点から交渉の席以外でも対等の条件を与え、LTTEとの関係を良好に維持したいとしている。また、こうした政策が非戦状態を維持しているとも考えている。だが、こうした状況にもかかわらず、子供の徴兵や人権の侵害は現在も続いている。

 LTTEは陸海軍、警察、国境管理、徴税、銀行、行政権、司法権を持っている。これは支配政党による国家管理という悪例と同じ状態である。

 国際的援助機関や外国の援助国はそれらの各国ではLTTEの活動を禁じながら、スリランカ北東部でのLTTEの支配を是認している。在コロンボの外交官の多くがキリノッチを訪ね、LTTEの政治面での指導者であるS.P.タミルチェルワン氏、および彼の同僚と会議を重ねた上で、このような状況を支持しているのである。


 LTTEは次の二つの理由から軍事力強化を維持している。ひとつは交渉を優位に進めたい事。また、ひとつは何らかの理由で現在の平和交渉が決裂した場合の用心のためである。

茫漠とした平和への道

 箱根で開かれた第六回会議の前夜、LTTEの主席交渉人アントン・バーラシンガムはこう語った。「持つべき権力を持つまでは、こうした事件を妨げることは難しい」。
 彼は現憲法下では3分の2以上の多数を占めなければ政権を取れないという事を忘れている。現在の政府が十分な行政権を発揮できないのは大統領と首相とが対立する政党の出身であるからだ。両者の政治的共存は事実上有り得ない。大統領は”憲法の力”を働かせることや、主要な現政府の閣僚を引き抜く事、議会解散を宣言することを側近から持ちかけられているが、もしそうした事態になれば経済の悪化と共に大きな政治的危機に見まわれるだろう。それは政府にとって最悪の事態であり、その事態をLTTEが見逃すなどとは有識者の一人として考えていない。

 平和会議の結末を握っているのは政府だけではない。連邦制樹立による紛争の完全解決を目指すには、まず、大統領と首相の対立に終止符を打つ事だ。それがLTTEから最近巻き起こっている「終わりのないゲーム」という批判に応えることにもなる。政府の側も同様なゲームを行っているように見え、それが政情不安を招いている。この現状はさらにひどい困難をもたらすと考えられる。

 LTTEが持つ平和へのロード・マップは政府のそれより道が入り組んでいる。戦場では敵対者が別々の道を選んで目的に達しようとするが、平和交渉では目的に向かって共にひとつの道を辿らなければならない。
 政府の現在の一方的なアプローチではLTTEに平和への同行を納得させることはできない。政府の方法に弱点があることは平和交渉における対立と矛盾の露見から明らかであるし、平和交渉の最終結論が不確実であるという様子がますます大きくなっている。
 スリランカの平和交渉を支持している国々は、最終的に統一スリランカの幕組みの中で連邦制が選択されるということを期待している。それは最善かもしれないが、しかし、そのことさえも、実はスリランカの苦境を諸外国がよく理解していないという事を示している。

 LTTEはタミルの唯一の代表の地位を獲得したが、UNPはシンハラの主要な代表であるとは言えない。さらに、平和交渉にはモスリムの関わりも無視することはできない。
 高度にセンチメンタルであり、また、緊張を伴なう国家的問題に関してはシンハラ、タミル、モスリムの主要な代表すべての参加が必要である。
 和平交渉に関わる外国政府もこの現実を認める時期が来ているのではないか。


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