秋の涸沢・北穂高岳 (2/2)

10月13日 快晴

涸沢
夜明けの涸沢(5:47)
起床は4:30。テント内の気温は5.6℃。横尾より標高が600mも上がったのにこの朝の方が(ほんの少しだけだけど)暖かかった。空気がよほど乾燥しているのか、結露はまったくなかった。
まだ真っ暗な空は見事に晴れ渡っていて、月が沈んだために前夜よりも星がわんさか見えた。吊尾根の上にオリオン座がかかっているのが印象的だった。すでに登り始めている人がたくさんいて、北穂や奥穂への道やパノラマコースにライトの灯りがゆらゆら揺れているのが見えた。
起きてみて気付いたのだが、サーマレストのシュラフマットが空気漏れでペシャンコになっていた。寝ていて背中に石があたるなあと思っていたのだが、こういうことだったのか。口がゆるんでいるわけじゃなし、どうやらどこかに穴を開けてしまったようだ。こりゃあ困った。

5:45 涸沢小屋へ

奥穂
モルゲンロートに輝く奥穂(6:02)
テント場
モルゲンロートの穂高を眺めるキャンパーたち(6:02)
お茶漬けの朝食をとり、サブザックに必要なものを詰め、ひとまず涸沢小屋へ向かう。ヒュッテは逆方向&トイレ激混みなので、涸沢小屋にある環境省のトイレを使うことにしたのだ。こちらは待ち時間は朝でも10分なかったのではないか。相棒が並んでいる間にモルゲンロートが始まり、あっという間に終わった。この朝は太陽の上に薄雲があったため山の上段が暗く、あまりぱっとしない朝焼けだった。
小屋の玄関にテレビがあってウェザーニューズが垂れ流しになっていたので天気予報を見ていると、明日の松本は晴れのち雨ということだった。今日は北穂ピストンだけにしてまた涸沢に泊まり、カールの景色を眺めながらまったり過ごすというプランもあったが、これは早めに下りた方がよさそうだ。

6:13 涸沢小屋発(高度計:2265m, 温度計:10.4℃)

奥穂
色付いた葉の向こうに奥穂が(6:24)
道
ガレ場の先に目指す北穂が(7:08)
小屋から、紅葉のすぐ脇を登っていく。空が嘘のように青い。すぐに水源があり、さらに行くと蛇籠を積んだ堰堤のような場所がある。道はガラガラだが、やはり北アルプスの人気コースだけあって、歩きやすい方だといえる。ギザギザの前穂のシルエットが印象的だった。

7:25 南稜取り付きのクサリ場(2650m, 14.7℃)

クサリ場
下山の人で大渋滞のクサリ場(7:20)
奥穂
奥穂もだんだん低くなってきた(8:03)
快調に登り、南稜取り付きのクサリ場に到着。これまでストックを使っていた相棒は、ここでストックを収納する。
クサリ場は下りの団体で渋滞していた。クサリ場は、少し慣れた人ならクサリを使わなくても済む程度の岩場で、事実、クサリでもたつく人にしびれを切らした後続の登山者が、その脇の岩を尻セード状態で次々と降りてきた。登りの我々はそれを眺めているばかりだ。
クサリ場の上には大小2つのハシゴがあるが、下の短いハシゴは安定が悪かった。わずか4段ほどなので使わなくて済む。

8:30 テント場

北穂
テント場から北穂山頂を望む(8:33)
ジグザグのガレた登りが続く。道幅はあまり広くなく、休憩するスペースは少ない。そのまま惰性で登っていく。背後には八ツやら富士山やら南アやらが見えてきた。ずんぐりした浅間山からは噴煙とおぼしきものが視認できた。
再びクサリ場があり、その上の一方通行を過ぎると少ししてテント場に到着した。眺めは素晴らしい場所だが、ここで幕営するのはあまりにも不便だなあと思う。昨日もし登ってきていたら後悔していたに違いない。
奥穂方面への分岐はすぐで、その後少しだけ下って登り返し、松濤岩を過ぎてから北穂山頂へ。テント場から10分強だ。

8:49 北穂高岳登頂(3015m, 19.6℃)

吊尾根
北穂からテント場越しに吊尾根を望む(9:14)
思いのほか広い山頂に躍り出ると、それまで隠されてきた西と北の視界が一気に開けた(ぐるぐる写真)。心憎いばかりの演出だ。
まず目に飛び込んでくるのは槍ヶ岳だ。本当に雲ひとつない空の正面に鎮座していた。槍のすぐ右横に剱の稜線が少しだけ見えた。後立山・頚城・志賀の山々も完璧に見えた。槍の左手には黒部の山々が広がり、笠ヶ岳はあいかわらず優美だった。笠の後ろに広がる雲海の奥には白山も見えた。登り始めから終始見えていた前穂のギザギザはずいぶん低くなった。浅間・八ツ・富士・南ア・中アももちろん健在。南峰越しに見る奥穂はジャンダルムを従え、堂々とそびえていた。とにかく滅多に見られないほどの大展望だった。
大キレットを覗き込むと、歩いている人が豆粒のように見えた。そしてキレットよりもさらに凄まじい迫力だったのは滝谷ドームだった。この岩を登ることができる人間が存在することが信じられなかった。

10:40 下山開始(2990m, 13.1℃)

北穂
奥穂への分岐付近から山頂を振り返る(10:48)
平坦な山頂は、人が始終入れ替わり、常に10数人程度とスカスカだった。
10時に下山を始めるつもりでいたが、この、まれに見る大快晴の中の大展望を前にしてたった1時間で山頂を去るというのは無理な相談だった。というわけで結局2時間近くいたのだが、それでもまだ立ち去りがたかった。雲が湧く気配がまったくなく、見えなくなった山は白山と鹿島槍だけだった。
涸沢カールを眺めながら下っていく。朝はあれほど多かったテントがめっきり少なくなっていて、数えてみたら50張りくらいだった。

11:41 クサリ場通過(2655m, 19.9℃)

ハシゴ
なかなか高度感のあるハシゴ場(11:34)
もう登ってくる人も少なく、すれ違いに時間をとられることもなく、快適に下ることができた。今日は連休最終日だからだろう。おそらく前日はたいそう混みあったに違いない。もし11日の入山の日に無理に頑張って涸沢まで登っていたとしたら、その人ごみに巻き込まれたことだろう。
ここからストックを取り出して使う。

12:34 涸沢着(2310m, 26.6℃)

涸沢
テントに戻って涸沢を見上げる(12:58)
取り付きのクサリ場を過ぎ、紅葉ゾーンにさしかかると、光が強すぎて色が飛んでしまって朝の印象よりずいぶん色あせて見えた。
山頂からほぼ2時間で涸沢小屋到着。暑い。ということで、ミーハー心がむくむくと頭をもたげ、名物ソフトクリームを食べることになってしまった。急いでテントを撤収して13:30に出発すれば徳沢に17時までに着けると思っていたが、これでそれは不可能になった。まあこんな山旅もいいだろう。

14:06 涸沢発(2240m, 19.2℃)

北穂
下り始めて間もなく、紅葉の間から北穂が見えた(14:19)
道
秋の道を下る(14:53)
テント場を発ったのは14時ちょっと前。最後にヒュッテのテラスからカールを眺めてから下りにかかる。さすがにパノラマ売店も人は少なかった。
涸沢、というか本谷の紅葉は見上げるのが美しいと思うが、この時間は逆光でまったくさえなかった。道はあいかわらず歩きやすいが、しかしこの下りがどうも我々には合わなくて、ペースがあがらない。

15:36 本谷橋(1730m, 16.1℃)

コースタイムをさんざんオーバーして本谷橋到着。河原にはひとりが休んでいるだけで閑散としていた。

15:49 本谷橋発(1730m, 16.4℃)

16:47 横尾着(1555m, 14.7℃)

蝶
輝く蝶ヶ岳の稜線を眺めながら下る(15:58)
また横尾に泊まるのも芸がないので徳沢まで行きたかったが、この時間からだと18時になってしまう。さすがにそれでは遅いだろうということで、横尾止まりに落ち着いた。
夕食はレトルトカレー。なんかよく考えてみたら、今回の食糧は水物だらけで重いものばかりだった。
この夜のテントは20張なかったと思う。初日にテントを張った場所は草の上でふかふかだったが、この日は利便性をとって南側の入り口にした。整地のよいところなのでつぶれたマットでも痛くはなかったが、地面からの冷気がくるのはどうしようもなかった。
この夜は21時半にやってきてテントを張るという連中がいてびっくりした。しかもそんな時間に来たくせに、ひそひそ声じゃなくて普通にべらべらしゃべってる。もう理解不能です。

10月14日 曇りのち雨

前穂
どんよりとした空に前穂(6:49)
5時起床。テント内の温度は7.1℃。2日前の朝はフライが凍ったが、この朝はびしょびしょのままだった。
過去2年は9:10発のバスを目指して6時に出発していたが、今回はのんびりすることにした。LAGER のチーズリゾット(これがなかなかイケた)に卵スープ雑炊を食べ、さらにカフェオレまで飲んだりしたら、もう腹いっぱいになってしまった。

7:31 横尾発(1520m, 13.3℃)

どん曇りの中を出発。徳沢までの道はあまりおもしろくない。
足が軽く筋肉痛になっていた。2年前、奥穂から下りてきたときもそうだった。他の山ではこんなことないのに。涸沢からの下りが、我々によほど合わないのだろうか。

8:20 徳沢(1465m, 14.3℃)

紅葉
ツートンカラーの紅葉(8:39)
秋の道
明神付近の秋らしいながめ(9:01)
徳沢でザックを下ろして行動食をとる。なんだか風が生暖かく感じられた。雨降りが近いのかもしれない。
徳沢から先は植物がバラエティ豊かで楽しい道。黄葉した葉っぱや実などを撮りながら楽しく歩いたが、途中でカメラのストラップが解けてカメラを落としてしまうというハプニングがあった。保護フィルター1枚がお亡くなりになったものの、レンズ・本体は無事でほっとした。しかし、これがもし穂高の稜線での出来事だったらと思うとぞっとした。

10:05 上高地着(1395m, 14.4℃)

今日はのんびりすることに決めていたので、10年ぶりくらいにビジターセンターにでも寄ろうかと思ったが、なんだか妙に下山者が多いのでバスの混雑が心配になり、結局どこも寄らずにバスターミナルに突進した。
ターミナルに着き、10:40発のバスの整理券を受け取ると、そのとたんに雨が降ってきた。雨はすぐに本降りとなった。帰宅してから知ったが、この雨は涸沢では雪になっていたらしい。
新島々行きのバスはほぼ満席だったが、松本からの平日昼のスーパーあずさはがらがらだった。上高地からの行程では雨はずっと降りっぱなしで、山で使わなかった傘とザックカバーを駅からの帰宅路で使うことになった。
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