秋の涸沢・奥穂高岳 2006年9月29日-10月1日 テント縦走

9月28日 曇り

上高地行きのさわやか信州号を予約したのはつい2日前だったが、席の残りはちょうど最後の2人分だけということだった。こりゃあいったいどれだけ混んでいるんだろうと思ったが、バスは2台だけ。
行き先が行き先だけに観光客が多いだろうと思い、車内で騒がれて眠れないと困ると考え耳栓まで買って臨んだが、乗客のほとんどは登山客だった。耳栓は強力で、また前日にわざわざ夜更しして寝不足にしたこともあり、このテのバスにしてはたいへんよく眠れた。

9月29日 晴れのち曇り

穂高
朝の河童橋から輝く穂高連峰をのぞむ
明け方、沢渡でハイブリッドバスに乗り換えさせられた。夜が明けても雲が多くがっかりさせられたが、バスの運転手は「今日は絶対晴れて穂高が見えます、見えなかったらみなさんに1万円ずつ払いますから」と高らかに宣言。をいをい太っ腹なおぢさんだなあと思ったが、予言どおりに空は晴れわたり、穂高の峰々が姿を現したのだった。運転手氏の言うには、ここ10日ほど連続で見えているということで、40年運転していてこんな年は初めてだという話だった。
上高地には予定どおり6時に着いた。前夜にコンビニで買っておいたおにぎりを食べ、身支度をととのえる。

6:52 上高地発(高度計:1575m, 温度計:15.6℃)

道
明るい林の中を行く
なんだかんだ言って出発は7時近くになった。さらに河童橋で記念撮影などして遊んでしまい、ますます遅れてしまった。河童橋の前で水筒を1本だけ満タンにしてから奥に進む。今日の行程は途中に小屋が多くあるため、必要最小限の水だけ持てばよいのでラクだ。
明るい林の中の平坦な道を行く。涸沢までのコースタイムは6時間ほどで、ゆっくり歩いても夕方までには着けるだろう。

7:38 明神(1605m, 16.6℃)

山
雲がかかり始めた
まだ8時前だというのに山には雲がかかりはじめた。でも今日は涸沢までの行程だ。明日晴れてくれればいい。そんな気持ちで進む。

8:32 徳沢(1645m, 18.6℃)

徳沢を過ぎたあたりで色づいた木を見付けた。
それにしても、天下の北アルプスの人気コースだけに人が多い。前を見ても後ろを振り返っても人が見える。こんな山道はここ最近歩いた記憶がない。さらに、徐々に下山の人も増えてきて、すれ違いざまに「こんにちは」「おはようございます」と声をかけてくる。1日に数組の登山者としか出会わないようなところだと、嬉しくて思わず、また情報交換のために会話を交わすことが多いが、こうまで人が多いとうるさくてしかたない。しまいには文字どおり閉口してしまった。

9:35 横尾(1700m, 18.6℃)

横尾大橋
横尾大橋
道
歩きやすい道を行く
明神・徳沢でそれぞれ10分ほど休んだが、それでも横尾には2時間半ほどで着くことができた。9年前に渡った横尾の橋は戦争映画に出てくるような柵のない木製の橋だったが、今や立派に生まれ変わっていた。新しい橋は、錆で強度が増すとかで、支柱が塗装されていない。ヘンな感じだ。横尾は槍ヶ岳方面への分岐点だが、登山者の動向を見ていると、やはりこの時期は多くの人が涸沢方面へ向かうようだった。
急に猛烈な空腹を感じ、バウムクーヘンなどを食す。なんだかだらけてしまい、20分近くも休んでしまった。
ここからはストックを使って歩く。しばらく広く明るい河原を行ったあと、林の中に入る。3時間も平地を歩いていたので、ちょっとした登りにも違和感を感じる。少し行くと樹間はるか遠くに岩峰が見えた。北穂のようだ。俄然やる気が湧いてきた。

10:57 本谷橋(1880m, 23.3℃)

屏風岩
屏風岩
本谷橋
本谷橋
傾斜があるんだかないんだかほとんどわからない左岸の道をじりじりと進む。左手には屏風岩がド迫力で座っていた。なだらかすぎる歩きにいい加減飽きたころにようやく本谷橋に着いた。
橋を渡ってからザックを降ろした。周囲は休憩している登山者で賑わっていた。

11:10 本谷橋発(1870m, 20.8℃)

道
歩きやすい登山道
道
日差しが強くなってきた
橋から先は本格的な登りになる・・・と思いきや、平たい石が階段状に積み上げられたなだらかなジグザグ道であった。昔通った記憶ではいきなり急登だったが、どうやら道が付けかわったようだ。その後もなだらかな登りが続く。路面もフラットで歩きやすい。なんという歩きやすい道なのだろう。
しかしなかなかペースがあがらない。日が照りつけて暑くなってきたせいかもしれない。風がほとんどないので、温度計の数値以上に暑く感じるのだ。また、夜行の疲れもあるだろう。あとで聞いたところ、相棒は眠くて意識が朦朧としていたそうだ。

13:12 涸沢着(2375m, 22.5℃)

涸沢
涸沢カールが見えた
涸沢
涸沢ヒュッテからの眺め
右岸のカンバ林の中を1時間近く歩いたところでようやく森林限界を突破、カール全体が見えるようになった。普段ならそれで疲れがふっ飛ぶのだろうが、この日は逆にほっとしてしまい、みるみるペースダウン。それでもだいたい、山と高原地図のコースタイムどおりに涸沢に着いた。
まずはヒュッテからの眺めを堪能する。が、雲が多くてなんだかあまりぱっとしなかった。紅葉じたいも、出発前にチェックしたヒュッテのサイトの紅葉情報では2分ということでまだまだこれからというところだ。しかしそれでも初めて見る目にはまずまず美しい。

涸沢にて

テント場
涸沢のテント場
あらかじめ水をくみ、トイレを済ませてからテント場へ。受付は14時からなので、とりあえずテントを張る。まだ空いていたので場所は選び放題だった。小屋と、メインストリートからちょっと離れた静かそうな場所をチョイス。サイトの真ん中の地面からとがった石の角が露出していたが、他の大きな石でガンガン打ち付けて掘り出し、整地もほぼOK。
気になったのは今回持参した食材。生ものが多かったので(もちろん冷凍できるものは冷凍させていたが)、登りの暑さで傷んでいないか心配だった。相棒のザックからそれらを取り出してみると、全て解けきっていた。今晩食べる予定の豚肉はいいとして、翌日に予定しているイクラはこのままではもたない。そこで残雪を掘り出して冷蔵することにした。幸いにも雪はテント場のごく近くにあった。中くらいの大きさのスーパーの袋いっぱいに雪を入れて、その中にイクラを埋める。このテの袋は地面に置くと細かい孔が開くため、融けたあとの水は袋の外に排出されるので都合が良い。あとは運を天にまかせるだけだ。
というわけで、本日の夕食はキムチ鍋だ。辛いもので体の中から温まろうというつもりであった。そういう点ではよかったが、そこらじゅうがキムチくさくなって困った。計画段階では臭いのことはまるで頭になかった。野菜類はスーパーなどで「寄せ鍋用」として売っているものを使ったが、上述のように傷んではいなかった。
テントは、ざっと数えたところ60張り程だった。それでもスカスカ。さすが天下の涸沢、やはり広い。
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