秋の涸沢・北穂高岳 2008年10月11日-14日 テント縦走

10月11日 曇りのち晴れ

上高地
雨上がりの上高地バスターミナル(11:14)
始発で家を出て各駅停車を乗り継いで松本へ。甲府盆地の南アの眺めは全滅だったがこれは予想通りだ。松本着は名古屋からの特急しなのよりわずかに遅く、新島々行きの電車の席は大半が埋まっていたが、なんとか席を確保できた。その後、臨時のあずさからの乗客がやってくると、でかいザックが多いために2両編成の車内は満員電車並みに混雑した。
松本大学前で学生を降ろすと少し落ち着いたが、それでも新島々では精算窓口に長〜い行列ができた。我々はほとんど最後尾となってしまった。バスは2台で発進。6人ほどの人があぶれて次の便にまわることとなった。我々はぎりぎりセーフで、補助席に着席した。
家を出てからこれまでの行程では雨の気配はなかったが、沢渡あたりでふと気づくと路面が濡れていて、雨があがったばかりといった感じだった。焼岳は雲の中、穂高も岳沢の上はまったく見えず。上高地も空気がしっとりとしていて、いかにも雨上がりな雰囲気だった。

11:38 上高地発(高度計:1495m, 温度計:19.9℃)

沢
落ち葉を集めた明神近くの小沢(12:42)
腹が減ったのでバスターミナルの売店でおやきを買って食べてから出発した。とりあえず横尾を目指し、あわよくば涸沢まで登ってしまおうと考えた。何の気なしに歩き始めたが泥はねがひどくて小梨平のキャンプ場あたりで一度ストップし、スパッツを装着した。これでちょっと気勢をそがれた感じになってしまった。
さわやかな初秋の林を楽しく歩く。

13:17 徳沢(1555m, 18.2℃)

マユミ
徳沢近くのマユミ(13:13)
3連休の初日だが、意外にも下ってくる人が多かった。みんな一様にカッパを着ていて、裾にはかなり泥が付いていた。徳沢近くにはきれいなピンク色のかわいらしい実をつけた木があった。マユミという木だった。
時間的に涸沢まで行くのは無理になってきた。すると雰囲気のいい徳沢で泊まりたかったが、翌日以降のことを考えると、横尾までは行っておいた方がいいだろうという結論に。しかしこの13時を少し過ぎた時点で、徳沢にはレンタルを除いて20張りほどのテントがあった。横尾のテント場はどのような状況だろうかと少々不安になる。

14:15 横尾着(1600m, 15.3℃)

道
横尾の手前で眺めのいい車道に迂回する(14:05)
テント場
今日は横尾のテント場も大賑わいだ(15:29)
3人並ぶのがギリギリな道を、二列縦隊で下ばかり見てくっちゃべりながら突っ込んでくる団体に辟易しながら進む。道はあいかわらず泥はねが激しい。歩いていると風で黄葉した葉がはらはらと落ちてきて、もう気が気じゃなかった。横尾の手前では落石防止の工事が行われていて、梓川沿いの車道に迂回させられた。こっちの方が眺めがいいなあ。工事は来年3月までのようだ。
横尾に着いてみると驚愕の光景が。過去に見たことのない多数のテントで南のテント場がいっぱいだったのだ。それでも割とプライバシーが保てそうな場所が空いていたので、とりあえずテントを張った。しかししばらくすると、ソロテントを張るにもちょっと狭いようなそのわずかな隙間を窺う人が出てきた。これはタマランと、まだまだ余裕のあった北のテント場に移動した。北のテント場も徐々にテントが増えてきて、結局この夜は、自分が数えただけでも南のテント場に約50張、北のテント場に約70張という、自分の知る横尾とは思えない数のテントで埋め尽くされた。
一眠りしてから17時頃に起きて夕食をとる。今日は肉団子鍋で、最後はごはんと卵を投入して雑炊にして〆た。

10月12日 晴れのち曇り

橋
夜明け前の横尾大橋にカシオペアがかかる(4:12)
4時にいちおう起床。テント内の温度は5.1℃だった。フライの内側は結露していて、見事に凍り付いていた。トイレに行くと、まだ暗い空には星がいっぱいだった。
朝食にお茶漬けを作って食べ、テント撤収にかかる。フライの結露を拭き取ろうとしたが凍っているのでタオルでは全然ダメ。涸沢だから要らないかなと思いつつも持ってきたミニスコップで削り落とした。意外なものが意外なところで役に立った。

6:35 横尾発(1540m, 6.5℃)

前穂
朝の前穂(6:33)
橋
凍てつく横尾大橋(6:36)
横尾大橋にも霜がついていて、寒々としていた。小屋からもどんどん人が発っていく。親子連れの2歳くらいの子どもは、あまりの寒さに「寒いよぅ」「もう帰る」などと泣きながら歩いていた。

7:02 坊主の岩小屋(1595m, 7.5℃)

ブナ
ブナの黄葉(7:36)
道
人々が群がっているところは眺めがよい(7:38)
快晴の秋晴れの中、屏風岩を眺めながらの平坦な道を20数分で、坊主の岩小屋跡に着く。近くにあったモミジガサの葉やノコンギクの花は凍っていた。岩小屋から登りが始まり、ややあってから再び平坦になる。
ヤブデマリの赤い実や、黄葉したブナが一際美しいゾーンを過ぎると、人々が道に群がっているところが。そこでは木に邪魔されずに、屏風岩と、目指す北穂が眺められた。屏風岩の下部の木々は色づき、上部の岩の陰影が迫力を増しているようだ。本谷の中央に聳え立つ秋の北穂は息を飲むほど美しく、神々しくさえあった。果たしてあそこまでたどりつけるのだろうか。

7:52 本谷橋着(1725m, 11.1℃)

橋
本谷橋は左岸が石積みになっていた(8:01)
相棒の調子があがらないため、スローペースで本谷橋に到着。予想通り大勢の人がいたが、なんとか腰を下ろすスペースはあった。

8:16 本谷橋発(1745m, 15.0℃)

道
紅葉の本谷の奥に吊尾根が見えてきた(9:04)
橋から斜面をジグザグに登ったあと、斜度が緩くなって先が見通せるようになる。右手に横尾右俣が見渡せた。ここは去年の秋、槍ヶ岳からの帰り道に上から見下ろしたところで、とてもきれいだったことを覚えている。
それにしても相棒のペースが一向にあがらない。どうも対向者を待ったり待たれたりで調子が狂ってしまったらしい。あわよくば涸沢を越えて北穂まで行ってしまおうかとも考えていたが、これじゃとても無理だ。

10:07 涸沢着(2220m, 15.8℃)

紅葉の美しい道をずんずん登っていくと涸沢のテント場が見えた。かなり下の方まで張ってあって、恐ろしい混雑が予想された。相棒はもうこれ以上スピードが出せないというので、場所取りのために自分ひとりで先を急いだ。他の2パーティほどとデッドヒートを繰り広げつつ、ヒュッテと涸沢小屋の分岐点では、迷っているライバルパーティを尻目に、テント場に直行する小屋方面に突撃し、ちょうど撤収を終えたばかりの、メインストリートからちょっと外れた比較的整地のよい、静かそうなサイトを確保できた。ほかに良い場所が空くかもしれないので、テントは張らないままでちょっと様子を見ることにした。
しかし後から考えてみたら、先にヒュッテに行ったほうが上からテント場全体の状況を見渡せるので、有利かもしれないということに気づいた。事実、ライバルのパーティはメインストリートに近いなかなか良いサイトをゲットできたようだった。まあ、それも結局は運次第ということなのだろうけど。
そのへんのテントの人の話を聞くともなしに聞いていると、やはり11日の朝は雪ではなくて雨だったらしい。それもかなり降ったようだ。

11:00 涸沢ヒュッテへ

北穂
涸沢ヒュッテテラスからの北穂(11:00)
紅葉
ヒュッテの下の紅葉(11:26)
相棒はたっぷり写真を撮りながら登ってきたらしく、30分も遅れて到着した。話を聞くと、良いスポットで撮ろうとしてなかなか人通りが途切れず、時間を食ったらしい。なにしろ人が多すぎるのだ。
腹が減ったところで、とりあえずヒュッテへ。ミーハー心に打ち勝つことができず、名物のおでんを食べることにした。売り切れることもあるというヒュッテのおでんだが、まだ時間が早いためかたっぷり残っていた。ミーハー心に打ち勝つことができず、全具材を楽しめる生ビールセットを思わず注文してしまった。ビールはどうせスーパードライだろうと思っていたが、意外にも麦の味が感じられて美味かった。どうやらドライじゃなかったようだ。
おでんを食べ終えたところでまだ11時過ぎ。そこそこよいサイトも空いてきたが、結局は最初に確保した場所が静かで落ち着けそうだということで、そのままテントを張った。ザックからテントを取り出して見ると、フライシートは朝の姿のまま白く凍りついていた。

12:30 パノラマコースへ散歩に

涸沢
パノラマコースからの涸沢カール(13:00)
午後はパノラマコースまで行って涸沢カールを眺めることにした。
涸沢は、紅葉ももちろん楽しみだったが、日本最大のテント村の眺めも一度見てみたかった。ほぼ全体を見渡せるところでテントの数を数えてみたら、ざっと350以上あった(涸沢ヒュッテの小屋番日記によると、この連休のテント数は史上最高だったらしい)。それは噂どおりの壮観な眺めだった。全体に黄色やオレンジ色のテントが多いように感じられた。
朝はよく晴れていた空は、いつの間にか曇っていた。高曇りの状態なので視界は良好だが、しかし青空でないと紅葉は映えない。なんだかあまりぱっとしないという印象。ヒュッテ直下の紅葉はちょうど盛りできれいだったが、全体的にはなんだかなあという感じ。ちょっと期待しすぎちゃったかも。このときは空が青くないからだろうと思ったのだが、帰宅してからヒュッテのウェブサイトの写真と見比べると、涸沢小屋の左脇の紅葉がごっそりと落ちてなくなっていることに気付いた。やはり11日朝の雨がピークの最後だった紅葉にダメージを与えたのだろう。

13:30 テントへ戻る

槍
槍ヶ岳と紅葉の横尾右俣を見上げる(13:31)
本谷
美しく色付いた本谷を見下ろす(13:34)
パノラマコースを進んでいくと、岩場をいくつか通過したところで槍の穂先が見えた。屏風のコルまで行こうか迷っていたが、ある程度進んだところでかなり道がアップダウンするのが見えたので、ここを潮時と引き返すことにした。パノラマコースは今回下山に使おうかと考えていたが、結構道が悪くて、テントを担いで歩くのはちょっとイヤな感じがした。

涸沢の夜

夜景
ヒュッテから見た涸沢テント場の夜景(19:29)
14時を過ぎると日が陰ってめっきり寒くなったので、さっさとテントに入ってまったりすることにした。
今日の夕食はおでん。ヒュッテのものではなく、家からボッカしてきたものだ。なにも名物をわざわざ、という気もしないでもなかったが、暖まるものということで思いついたのがコレだったのだ。それにヒュッテのおでんは売り切れになることもあるというし。味はどちらも同じようなものだったが、やはり大根はヒュッテの方が上だった。
夕方ヒュッテのトイレに行ったら、もんのすごい行列だった。男の小用で10分は待たされた。トイレの入り口が喫煙所になっていたので、待つ間中煙を浴びせられ続けたおかげで服や髪が臭くなり、気分が悪くなってしまった。
夜半には雲が徐々にとれてきた。月が明るすぎて星空の撮影には不向きだったが、それでも写真を撮ると明るい雲が流れるように写り、肉眼で見えない景色になるのがおもしろかった。
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