飯豊連峰縦走 4ページ目

8月11日 晴れ

杁差岳
朝の杁差岳
3時半起床。風は一晩中止まずにうなりをあげていた。あらあらのパッキングをして荷物を全部持って外に出て朝食。とてもよく晴れていて、新潟平野の街の灯が見えた。
今日はこの縦走最後のピークにして最終目的地である杁差岳に登ってから足の松尾根を下山する。17:30頃に中条駅を出る特急に乗れば、その日のうちに帰宅できる。下山口の奥胎内ヒュッテで入浴したりする時間を考慮すると、15時までにはヒュッテに到着していたいところだ。もし遅くなっても、ヒュッテに泊まるかテント場を利用することができるだろう。

5:19 出発(1590m, 22.4℃)

道
まずは大石山を目指す
朝の風景を楽しんでいたら、またまた出発が遅れてしまった。歩きだした頃には風はかなり弱まっていた。陽射しが強く、今日はあぶられることだろう。
大石山への道も花がたくさん咲いていた。マツムシソウやアザミなど、秋の花が多かった。

5:54 大石山(1535m, 24.1℃)

道
分岐の裏を回ると鉾立峰が迫る
1/25000図では1567mのピークが大石山のように記載されているが、現地では杁差岳と足の松尾根の分岐点に大石山の標識があった。
ここにザックをデポして杁差岳へ向かう。サブザックに水などを詰め込んでいると、頼母木小屋に泊まっていた人たちが2パーティやってきて、杁差岳を目指していった。

6:41 鉾立峰(1570m, 31.1℃)

道
鉾立峰への強烈な登り
大石山からいったん大きく下り、鉾立峰へはまた登り返す。この登りは鞍部から見上げると殺人的な急登に見えるが、荷物が軽いのと距離が短いのとで大したことはなかった。ただちょっとずるずる滑りそうないやらしい道だった。大石山から休まずに30分で到着した。
展望は申し分ない。目の前の杁差岳が大きくて立派だった。昨日ガスの中をひたすら歩いた稜線がよく見えた。ああ、この晴天の中を歩きたかった・・・

7:20 杁差岳(1645m, 35.3℃)

杁差小屋
マツムシソウと杁差小屋
花
マツムシソウ・ナデシコの花畑と飯豊連峰
さらに30分で杁差岳登頂。
山頂直下・小屋周辺の花畑では、ニッコウキスゲはすでに終わりマツムシソウが咲いていた。ここはハクサンイチゲやニッコウキスゲが斜面一面を埋めることで有名だが、マツムシソウはまだ咲きはじめだからかそれとも花の性格なのか、わーっと一面、という感じではなかった。ハクサンシャジンやらタカネナデシコといった花が入り乱れて咲いている。
花はまあまあだったが展望は最高で、朝日連峰もよく見えたし、一昨日登った飯豊本山もきれいに見えた。しかし大日岳は門内岳の影に入って見えないようだ。歩いてきた山並みを見ても、一番長かった中核部がガスの印象しかないため、「ホントにあそこ歩いたのかな」という感じだ。

8:09 杁差岳発(1595m, 29.0℃)

小屋
振り返るとニッコウキスゲの斜面の上に杁差小屋が見えた
花
マツムシソウの斜面を下る
みかんを食べたりしてのんびり過ごしてから、杁差小屋の前で靴紐を結び直し、大石山へと戻る。小屋の水場となる雪渓がどうやら消えてしまっているようだった。昨日もしここまで来ていたら困っていたことだろう。

8:41 鉾立峰(1555m, 28.0℃)

鉾立峰
マツムシソウと鉾立峰
陽射しはますます強く、風はずいぶん弱くなってきた。光が強すぎて花の色が飛んでしまう。たまのそよ風が心地よい。昨日のあのガス・強風はなんだったんだと思う。

9:20 大石山着(1545m, 29.4℃)

花
大石山直下のギボウシの草原
鞍部から大石山への登りは、斜度は大したことはないが、行けども行けども着かない感じで、精神的に辛かった。おまけに、日を遮るものがない。
大石山には、朝一番で足の松尾根を登ってきた人が休んでいた。ふと気になって尾根の途中の水場のようすを聞くと、登山道からかなり下らなければならないという。この人は地元の人で、いつも足の松を登るときは水は下から担いでくるという話だった。我々の残りの水は2リットルほどと、ウィダーインゼリーくらい。途中で補給できるからとたかをくくっていたので、ちょっと心配になってきた。後悔しても始まらないので、とりあえず下ってみて水場に着いてから考えることにする。また、道は乾いていて特に問題になるようなところはないということだった。
パッキングを直しているとじりじりと暑くなってきた。

9:49 下山開始(1565m, 34.2℃)

杁差岳
下りはじめてから杁差岳を振り返り見る
道
樹林を下る
この日はなぜか朝露ごときで靴が浸水していて足がふやけてしまった。構わず靴下を2枚に増強して下山開始。のっけから急な下りが始まった。ちょっと崩壊しているところがあって気をつかったが、刈払いのササの葉が積もっているため路面のようすがわからないのが一番困る。それにしても暑い。暑さ対策で持ってきた保水繊維手ぬぐいは、乾いているのでただの汗拭きタオルと化している。
標高1400mあたりからようやく樹林帯となり、木陰で少し涼めるようになってきた。するとササはなくなったが今度はザレて滑りやすい道が続く。それから木の根の階段が登場。なんか斜度がとんでもない感じになっている。こんな急坂見たことない。そして木の根は足の置き場に神経を使う(濡れてなくてよかった)。もう泣きたくなってきた。

10:47 水場(1110m, 31.7℃)

道
木の根の坂を下る
道
木の根の坂を振り返る
地形図上の1095mピークのごく近くに水場への分岐があった。看板を見ると「80m下る」とある。となると下り10分、登り返しには20分程度かかるだろう。水は残り1リットルちょっとある。ここで水くみに30分ロスするならその分早く降りた方がよいと判断し、体温なみに温かくなったウィダーインゼリーを飲み込む。

11:33 滝見場

滝
滝見場から見える滝
道
滝見場直下の急坂を下る
1095mピークを越えて下っていくと滝見場の看板が。はるか右手に滝が見える。相棒がだいぶ辛そうで、先行するかつりんが振り返って足の置き場を指示しても「もう考えてられない」と返事するばかりで朦朧と歩いている感じだ。自分もへんなリズムで、熱中症が心配になってきた。

11:53 岩場

岩場
ロープの張られた岩場
かなり消耗してきたところに追い討ちをかけるように岩稜が登場。ロープが張ってあるが、「あそび」があるので頼るとかえって危ないと考えた。岩の上をストックでバランスをとって歩く。まだ判断力は鈍っていないようだ。岩場のあとはまた登り返しがあったりする。泣きたい。

12:36 姫子の峰

道
とにかく下る
道
とにかく下る
姫子の峰の直前でザックを下ろして水を口にしたらふたりともちょっと復活した。ここまで来ればもうあと一息な気がする。

13:31 足の松尾根登山口着(540m, 33.6℃)

道
強烈な下り
あとひとふんばりと思いながら進んでいくと強烈な下りが登場。斜面、というより壁の一面に木の根がはびこっていて、それが階段状になっているのだ。下りきった先は平坦になっているのが見えるが、マンション3階のウチのベランダから道路を見下ろすよりも高く感じる。長いトラロープがあちこちに何本も垂れているが、重い荷物に振られてしまうため用をなさないだろう。ほとんど泣きそうになりながら一歩一歩慎重に足を運び、下りきったときは心底ほっとした。そして意外にも、この平坦な道を数分行くと登山口に着いたのだった。
わずかな日陰にザックをおろしてしばし休憩してから林道を奥胎内ヒュッテに向かう。まだ苦行は続く。

14:27 奥胎内ヒュッテ着(455m, 38.0℃)

林道は、完璧にアスファルト舗装されたダム建設用の道を途中で合わせたあたりから日陰がほとんどなくなって、灼熱地獄と化した。工事用車両がひっきりなしに行き交い、暑さとやりきれなさは最高潮に達した。30分ほど歩いたところでザックをおろし、水筒に最後に残った水を飲んでからまた歩きだす。かなり参ってきて、もうどうにかなっちゃうんじゃないかと思いはじめたところでようやくヒュッテに着いた。足の松登山口から約40分だった。プロトレックの温度が体温を越えているのを初めて見た。

飯豊をあとに

16時に迎えに来てもらうようタクシーを予約してからヒュッテの風呂に入った。干からびたまま入って脱水症状になってしまうといけないので、まずはペットボトルのお茶を買って飲んでから入った。山から下りて風呂に入るといつも充実感を感じるが、このときのそれは今まで味わったことのないほどのものだった。それくらい厳しい下りだった。
風呂からあがり、冷房のきいた涼しいロビーでコーヒーを飲んでタクシーを待っている時間は、あまりに気持ちよくて眠ってしまいそうだった。タクシーは羽越線の中条駅まで45分、8000円。駅についても次の電車が40分来ないので、冷房のきいたいささか涼しすぎる待合室で残りの行動食をたいらげた。その後、特急いなほ・新幹線ときと乗り継いで帰った。新潟の駅弁「まさかいくらなんでも寿司」はす・け・に・いくらの押し寿司で、まさに味の宝石箱だった。容器の蓋のつまみなど、細かいところに気が利いているのもいい。こういうところはまっさきにコストダウンの対象となるだろう。最近やたらと食品表示偽装が多いが、こういう儲けのあがらないところで地道にがんばっている会社もあるのだなあと、(山行直後にありがちな)感傷にふけった。
高崎から先で3箇所くらい花火大会があった。家には22時すぎには着いた。朝にはあれだけ深い山にいたのに、その日のうちに帰宅できるのが凄いと思った。
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