飯豊連峰縦走 3ページ目

8月10日 霧・強風

磐梯山
雲海に浮かぶ磐梯山
3:30に起床、4:30出発を目標とする。昨夜のうちに身の回りのもの以外の荷物を1階に移動しておいたので、起きて早々に階下に移動し、暗い中で朝食・パッキングを済ませる。
外は素晴らしい天気だった。大日岳や、雲海に浮かぶ磐梯山が目に焼き付いて離れない。本山方面に数分行ったところは、小屋前のテントを排して手前に残雪を入れることができる大日岳撮影の好ポイントだ。眺めていたらどんどん時間が過ぎていった。5:02に大日岳が雲に隠れたのを機に、小屋に戻って出発の準備をすることにした。雲に覆われはしたものの空は明るく、このときが大日岳を見た最後になろうとは夢想だにしなかった。

5:10 出発(1915m, 17.1℃)

道
コバイケイソウの咲く東側斜面の道
道
ササに覆われた稜線の道
出発する頃にはあたりはガスに包まれていた。小屋からすぐに下って、登り返す。霧の中の花畑もいいもんだ。コバイケイソウ、ハクサンイチゲ、チングルマ、ノウゴウイチゴ、シラネニンジン(ハクサンボウフウか?)、ミヤマキンポウゲ、ハクサンコザクラ、etc... ガスってはいるけど明るいから今日はきっと晴れたり曇ったりなんだろう・・・
などとお気楽に歩き始めたものの、風が次第に強くなってきた。稜線に出ると平地の台風なみの強風が吹き荒れる。斜面は花が美しいが、稜線はササに覆われていて、はっきり言っておもしろくない。徐々に苦行の様相になってきた。

6:00 天狗の庭(1780m, 19.1℃)

花
コバイケイソウと残雪の谷
道
雪解けでようやく現れた登山道
強風にあおられながら1時間ほど歩くと天狗の庭の標識が。それまでの稜線ではザックを下ろせなくて歩きつづけたので、ここでザックを下ろして休憩をとった。
天狗の庭はかつては美しい花畑だったに違いない。登山者に踏み荒されたのだろう、裸地が広がっていて、ロープで侵入が制限されていた。尾瀬のアヤメ平を連想した。ここから雲の下に雲海が広がっているのが見えたが、目指す烏帽子岳はどでかい胴体がちらりと見えるだけだった。
天狗の庭のあとも花の斜面のトラバースが続く。ハクサンシャジン、コバイケイソウ、ニッコウキスゲ、シラネアオイ、カライトソウ、etc...

6:47 御手洗ノ池(1790m, 21.4℃)

御手洗ノ池
霧の御手洗ノ池(すぐそこに池があるのに・・・)
霧の中の花崗岩の砂利道を進む。御手洗ノ池はちょっと休憩しただけで通過。このあたりから、逆方向の登山者とすれ違うようになった。
この界隈は縦走登山者の世界。シュラフも食糧も担いでいるので、大きめなザックの人ばかりが行き交う。石転び沢を登ってくる人なんかはピッケルまで持っているから、なんだか凄い山に来たんだという気がする。今日びは南アルプスでも食事・寝具つきの小屋ばかりになってしまったから、こんな山はもう飯豊くらいしかないのではないだろうか。

8:09 烏帽子岳(1950m, 20.6℃)

道
マツムシソウやハクサンシャジンの咲き乱れる道を行く
花
シナノキンバイやコバイケイソウの咲き乱れる道を行く
それまでアップダウンを繰り返していた道が登り一辺倒になると烏帽子岳が近い。この登りでほとんどオバサンばっかりの20人もの大軍団と遭遇。こんなところにまでツアーが来てるなんて、とがっかりすると同時に、同宿にならなくてよかった、とほっとした。登りきった東側の斜面は小さな窪地になっていて花が美しい。タカネナデシコ、コバイケイソウ、イブキトラノオ、ヒナウスユキソウ、チングルマ、シナノキンバイ、ニッコウキスゲ、マツムシソウ、etc... 白いポンポンはイソツツジのつぼみだろうか。ああ、晴れていれば・・・
ここまで道が上下に2段付いているところが数箇所あったが、上を行くのがいいだろう。下を選ぶと残雪に吸い込まれていってしまうことがある。天狗の庭から梅花皮小屋までの区間では残雪を歩いていて滑落する事故があるそうだが、この日は雪の上を歩いたのはわずか1箇所、それも10mほどで危険はなかった。

9:00 梅花皮小屋(1790m, 19.4℃)

花
コゴメグサの群落
梅花皮小屋
人っ子ひとりいない梅花皮小屋
烏帽子岳から梅花皮岳までは平坦になり、梅花皮岳を過ぎると大きく下り始める。この斜面でコゴメグサの群生が見られた。細かい種の識別は難しいが、飯豊特産のマルバコゴメグサかもしれない。大きく左にカーブを描いていくと道の左手にロープが張ってあり、小屋が近いのかな、と思ったら唐突に梅花皮小屋に到着。
梅花皮小屋は小屋番も外出中で(いったいどこに?)、まったく人気がなかった。水場で水を汲み、小屋のかげで軽食をとる。

9:29 梅花皮小屋発(1795m, 19.0℃)

道
北股岳を目指す
続いて梅花皮小屋から北股岳まで一気の登りだ。朝よりも風は強く、ガスが濃くなってきたみたいだ。道は赤い土で、ちょっとザレていたが問題ない。

9:59 北股岳(1950m, 19.8℃)

鳥居のある北股岳に登頂。風が強く寒いので、立ったままちょっと休憩したあとすぐに次を目指す。ここから石転びの大雪渓が覗き見えるということだが、今日はとてもそんな状況じゃない。

10:57 門内岳(1825m, 20.1℃)

花
このあたりがギルダ原だろうか・・・
この山行の目的のひとつだったギルダ原の花畑は、ガスの中でなんだかよくわからずじまい。もう6時間近くずっと真っ白な景色でいい加減飽きてきた。今山行を振り返ってみても、この北股岳 - 門内岳間の印象が一番薄い。とにかくガスと、なんかやたらと花が凄そう、というくらいの印象だ。ああ、晴れていれば・・・
門内岳山頂で対向者と少し会話を交わしてから、すぐ直下にある門内小屋に移動して休憩をとる。この小屋もまた人気がなかったが、小屋番が管理棟にいた。ここで相棒が飯豊のバッジを買ったが、リンドウの花をあしらったシンプルなデザインのバッジだった。頼母木小屋でも同じものを売っているという話だった。

11:33 門内小屋発(1815m, 21.9℃)

小屋
やはり閑散としていた門内小屋前の広場
このころ風はますます強くなり、轟々とうなりをあげていた。

11:58 扇ノ地紙(1840m, 25.0℃)

花
ハクサンコザクラ
相変わらず景色は真っ白で、相変わらず花は美しい。ハクサンシャジン、クルマユリ、etc...
扇ノ地紙は梶川尾根との分岐点で、ちょっとした広場になっている。分岐は稜線の東側にあって、残雪が豊富でハクサンコザクラ、アオノツガザクラやキンポウゲの群落がきれいだった。

12:29 地神山(1800m, 21.7℃)

道
地神山直下の地味な登り
扇ノ地紙から地神山までの30分はササの中の道。花らしい花もなく、飯豊稜線の中で一番地味だったように思う。余談だが、さっき通過した扇ノ地紙とこの地神山で字が違うのがややこしい。
この先はふたたび花の稜線となり、ハクサンフウロやイイデリンドウが姿を見せ始めた。

12:54 地神北峰(1740m, 20.9℃)

道
狭い登山道でかがんでイイデリンドウを撮影する
花
すっきりと美しいイイデリンドウ
地神北峰は丸森尾根への分岐点。扇ノ地紙のような広場はないが、ザックを置いて休むことはできる。地神山頂で休んだばかりだったのでここは通過。ここまで来れば頼母木小屋は近い。
いったん下るが、この斜面がすばらしい花畑のようだった。「ようだった」というのは、ガスで全体像がつかめないからだが、かなりの花が咲いているのがわかる。中でもイイデリンドウがたくさんあったのには感激した。花が花だけに「一面の大群落」ということはないのだが、両側の足元にたんまりと咲いている。陽射しがないと開かない花だが、ちゃんと開いているものが多かった。あわよくば杁差小屋まで行くつもりだったが、もう頼母木小屋止まりにして、ここで花を堪能することに決めた。しかしなにしろ風が強くて花が揺れまくるので、写真を撮るのはたいへんだった。

13:39 頼母木山(1680m, 21.2℃)

山頂に地蔵が1体。強風にはためく頭巾はTMレボリューションのPVのようだった。
あとはもう小屋まで下るだけだ。

13:55 頼母木小屋(1595m, 23.3℃)

頼母木小屋
霧の中の頼母木小屋
歩いていたらガスの中に唐突に小屋が現れ、本日の行程終了。朝5時から9時間、まったく晴れることはなかった。メインの行程だったのでとても残念だ。
テント場は小屋の周辺で、小屋のかげに張ってもOKということだったが、あまりの強風に怖気づき、この日も小屋に入ることにした。どうせ混まないだろうし、そもそも幕営禁止の山域なのだ。

頼母木小屋にて

杁差岳
頼母木小屋からの杁差岳
大石山
頼母木小屋からの大石山
最終的に小屋に泊まったのは我々を含めて10人で、テントはいなかった。1階に8人、2階に2人が入った。板の間が土間をコの字に囲んだいかにも避難小屋な間取りで、2階に上がるにはいかにも避難小屋な垂直の梯子を登らねばならないため、2階は人気がない。ここは水が小屋前まで引いてあるのがとても助かる。トイレはおがくずをかき回す方式のバイオトイレでとてもきれいだが、男女1ずつしかないので混雑したらたいへんだ。
気象通報を聞いてから(今日のガスは高気圧の縁辺流が原因のように思われた)夕食をとった。この調理中に1本めのガスカートリッジを使いきった。
食後、歯を磨こうと外に出ると、あれだけ頑固にへばりついていたガスがとれ始めた。ついには青空まで見えてきて、眠りについた人も再び起き出して小屋中総出で夕景を眺めた。信濃川や日本海がきらきら輝いていた。新潟港の巨大な煙突も見えた。ここで初めて見た地神山は、胴体が大きくて堂々とした山容だった。明日行く予定の杁差岳への想像以上に厳しそうなアップダウンも見えた。ガスはときどき湧いてきて、この日もまたブロッケンが見られた。
19時過ぎには眠りについた。寒がりの相棒はシュラフを掛け布団のように使い、暑がりの自分はシュラフは使わずに、足先だけ小屋の毛布にくるんで上半身はTシャツ・ウールシャツで寝た。
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