飯豊連峰縦走 2007年8月7日-11日 山小屋・テント縦走

計画


目標

まずは主脈全山の縦走を目指す。
会津側から入山し、本山・大日岳を登って長い稜線を杁差岳まで行き、新潟の胎内へ下山する基本計画とした。
そしてやはり飯豊は花の名山だ、花畑を楽しみたい。お目当ては、本山 - 御西小屋間の草月平、門内岳付近、杁差岳付近。この3箇所がよさそうだ。イイデリンドウはもう咲いているだろうか。杁差岳はハクサンイチゲ、ニッコウキスゲが凄いらしいが、この時季だともうマツムシソウになっているだろう。

行程

入山口は、眺めや花・森などの見どころが多い点から大日杉が良さそうに思えたが、それでは主なピークのひとつである三国岳を経由しないので今回は却下。ほとんどの人は川入から入るのだろうが、エアリアマップ付属の小冊子によると弥平四郎コースが比較的楽だという。飯豊の登山道はそのほとんどが尾根筋についた道で、例外は石転び沢と弥平四郎だけだ。確かに、斜面を斜上していくようについており、キツいのは松平峠と疣岩山の間だけのように見受けられた。三国岳までのコースタイムも、秡川山荘からの方が小白布沢からよりもわずかに早い。川入の民宿で登山口までの送迎を頼むと時間の制約を受けるが、秡川山荘は無人小屋だから出発時間を気にすることもない。それに、川入コースの難所のひとつである剣が峰の岩場をパスできるのがいい。もともと歴史のある道のようだし、これで決まり。
杁差まで縦走したあとは大石ダムへ下るルートがあるが、あまり一般的でないようなので、距離も短く新潟に近い足の松尾根を下ることにした。
エスケープは、御西小屋までならそのまま弥平四郎か川入に、梅花皮小屋より先なら梶川尾根や丸森尾根から飯豊山荘へ一日で下山できる。御西小屋 - 梅花皮小屋間が引き返しの判断のポイントとなるだろう。

交通

東北の山は概して交通がよくない。マイカーでないとつらいところばかりだ。
今年から中条 - 奥胎内間のバスが廃止になった。したがって帰路は奥胎内ヒュッテからタクシーを使わざるをえない。会津側も川入はまだいいが、弥平四郎はバスが一日2往復。このバスは午後は13時に徳沢駅を出るが、徳沢駅は便が非常に悪く、郡山方面からの列車は9時台の次はなんと15時までない。東北新幹線を使った場合は、始発で東京を出てもぜんっぜん間に合わない。上越新幹線で新潟からぐるっとまわればよいのだが、そこまでするんだったら徳沢の近くの山都駅で降りて、名物の蕎麦を食ってからタクシーで入山した方が楽しめそうだ。しかも車なら弥平四郎 - 秡川山荘間の林道歩きをちょろまかせる。というわけで結果行き帰りともにタクシー利用となってしまった。

宿泊

小屋はすべて避難小屋なので、食事も寝具も自分で用意する(切合小屋だけは食事提供がある)。北アルプスや尾瀬のような営業小屋ばかりの山域とは違って、夏山の最盛期にだけ地元の人が管理に入っているのだ。
テントの方が気楽でいいが、飯豊連峰は原則テント禁止。だが諸般の事情により、小屋のまわりに限って幕営が容認されているということらしい(だからヤマケイの「初めてのテント山行」みたいな特集でモデルコースにとりあげられたのはおかしいはずだ)。ということなので、テント携行で、空いていれば小屋に入ることにする。
燃料のガスカートリッジは250の使いかけ1缶と新品1缶、それに予備として125を1缶。過去に、水を煮沸する必要のある北海道で3泊して1缶使いきったことがあるので、今回4泊だがこれでも充分すぎるくらいだろう。

暑さ対策

先達諸氏のネット上の記録と、自身で2年前の夏に朝日連峰を歩いた経験から、暑さが気になった。飯豊はかなり暑いらしい。水筒を多めに持つことと、そしてできるだけ満タンにしておくこと。
また、朝日連峰縦走時は濡れ手ぬぐいがかなり有効だったので、保水繊維でできた手ぬぐいをあらたに購入した。これはバンダナのように頭に巻くこともできるし、首に巻いてもいい。首なら日焼け防止にも役立つだろう。

8月7日 晴れ

家を早朝に出て東京から東北新幹線で郡山、磐越西線で会津若松へ。会津を訪れるのは、喜多方の蔵めぐりをした1994年以来のことだ。1時間ほど時間をつぶしてから新潟行きに乗って山都駅で降りた。
山都で降りたのは、ここが蕎麦の町として売り出しているからだったが、駅は売店すらない完全無欠のローカル駅。まあそれも、列車が一日数本しか止まらないことを考えると当然のことだ。そして楽しみにしていた蕎麦は、正直言ってまずかった。夏の蕎麦は犬も喰わぬというが、蕎麦の香りがまったくしない、まるでところてんのような・・・
失意のまま、タクシーで弥平四郎の登山口へと向かった。山都からは9000円弱。野沢駅からならもうちょっと安いんじゃないかと運転手氏は言っていた。蕎麦目当てで山都で降りたのは失敗だったか・・・

13:27 秡川山荘

秡川山荘
ひっそりとした秡川山荘
登山口の駐車場には車が10台ほど。アブが凄い。そこからちょっとだけ戻って(駐車場の奥にある道はそのまま鏡山方面へ登ってしまうらしいので注意)、ちょっとだけ谷を下って川を渡り、ちょっとだけあえぎながら山道を行くと今宵の宿、無人の秡川山荘に着く。駐車場からおよそ20分。午後1時過ぎだからということもあろうが、中にはまだ誰もいなかった。
小屋は古く、窓を開ける人もいないためカビ臭かったが、しばらくしたら慣れてしまった。小屋の中の炊事場に水がひいてあるのがいい。水は豊富で、どばどばと音がうるさいくらいだった。トイレも屋内にある。ありきたりのボットンだったが、室内に臭いがもれることはなかった。
このまま他に誰も来ないかと思っていたら16時半ころ、50代くらいの女性ばかり5人のパーティがやってきた。我々は1階に、彼女たちは2階に陣どった。18時過ぎ、夕食を食べてから寝ようとすると、階上から脳みそが蕩けそうな強烈な音程の演歌が聞こえてきた。テープかなにかに合わせて唄っているようだ。あまりの傍若無人ぶりにいったいどうやって仕返ししてやろうかとわくわくしてきたが、ジャイアン・リサイタルは19時きっかりに終了し、急に静まりかえった。
標高が低いせいもあるだろうが、小屋の中は暖かくてシュラフなしで寝られた。

8月8日 曇り一時雷雨

3:30に起床。外に出るとぽたぽたと音が聞こえるが果して雨なのか、それとも朝露のしずくなのか。

5:12 秡川山荘発(高度計:745m, 温度計:26.6℃)

相変わらずぽたぽたと音がするが雨なのか判然としない。目に見える雨だれはないようだが、とりあえずザックカバーだけ装着した。4:30には出るつもりだったのに、暗かったのでもたもたしてしまった。
地図から予想したとおり、道は斜面を斜上していく。ところどころ大きな段差があるが、さして問題はなかった。進むにつれて、いまいち正体のはっきりしなかったぽたぽたが、雨であることがはっきりしてきた。

6:52 十森の水場(1180m, 25.9℃)

まだ水筒はほとんど満タンなので、補充はせずに通過。水場は水量も豊富で秋でも渇れないだろうと思った。近くにはテントを張ったあとがあった。
歩き始めからずっと山鳴りのような音が聞こえていたが、どうも雷のような気がしてきた。そして十森を通過して間もなく、それはまぎれもない雷の音となった。まだ樹林帯にいるので、危険は少ないだろう。雷が過ぎ去るのを待つことにし、ザックを下ろしてカッパを上下とも着込み、さらに傘をさしてラジオのスイッチを入れた。するとそのとたん、あたりは映画館で本編前の予告編が始まるときのように急に暗くなり、土砂降りと雷がやってきた。稜線に出る前でよかった。朝もたついたおかげで救われたのだと思った。

8:48 再出発(1180m, 23.2℃)

1時間ほど辛抱していると、雷鳴はほとんど聞こえなくなった。ラジオには相変わらず雑音が入るのでどこかに落ちているには違いないのだが。雷は遠のいたがまだ雨は降り続いていた。しかしそれも徐々に弱まったようで、心なしか空が明るさを少しだけ増したような気がしたので、行動を開始することにした。傘をたたんでいると、今朝駐車場から登り始めたという夫婦二人のパーティがやってきた。一時はどうなることかと思ったが、他に人がやってきたことで気分は落ち着いた。その二人によると、昨夜同宿だった演歌5人組も下の方をゆっくり登ってきているという話だった。
ザックを降ろしてから再出発まで、およそ2時間近くの停滞だった。

9:05 松平峠(1260m, 23.3℃)

松平峠
松平峠から疣岩山を見上げる
雨の中を登ると、10分少しで稜線に出た。ここから尾根道となり、急登が始まる。一部に痩せ尾根があるが、路面は花崗岩でしっかりしていて強風でもない限りは問題ない。ただこの日は気温が高く、カッパを着て汗だくになりながらの登りは不快だった。Tシャツがびしょ濡れだが、自分の汗なのか、それとも雨が浸みてきたのかわからない。

9:56 猪鼻(1505m, 27.4℃)

雨が少し小降りになってきたので休憩する。水場の標識があるがロープを使ってかなり下るという話なのでここはパス。2時間停滞したが何も口にしなかったので、水はまだまだたっぷりある。
それより、アブだかブヨだか、とにかく虫が増えてきて文字どおり閉口した。こいつらは、笹をつかんでいたりで手が使えないときを見計らって攻撃してきやがる。自分も相棒も、顔を刺されてしまった。

10:37 疣岩山(1610m, 25.8℃)

大日岳
大日岳の雄姿
雨の中、虫を払いのけながら急登を登りきると鏡山への分岐となる。ここで進路を右にとり、疣岩山へ向かう。平坦になったためだろう、道は突如としてぬかるみになった。樹間から大日岳がちらちらと見えた。
ぬかるみを抜けると展望がぱっと開けた。周囲を見回してもここが一番高く、どうやら疣岩山の山頂のようだ。ぬかるみを歩いている間に雨は上がっていて、山頂一帯は花崗岩の乾いた砂地になっていたのでザックを下ろして休憩した。大日岳は完全に姿を見せていたが、飯豊本山は雲の中だった。右手には一面の雲海の先に磐梯山がぬっと頭を出していた。

11:32 三国岳着(1605m, 28.3℃)

道
三国岳(左)を目指す稜線の道
本山
三国岳から見たはるかな飯豊本山
疣岩山から楽しい稜線歩きとなって、三国岳に到着。てっぺんに避難小屋が建っている。この頃には飯豊本山も見えていた。朝小屋を出てから一度も腰をおろしていなかったので、ここで大休止。
ところで三国岳は、名前からすると福島・山形・新潟の県境となるべき山だが、実際はちょっと違っている。飯豊山神社が福島県の管轄であるため、この三国岳から飯豊本山を経て御西小屋まで、福島県の領域が盲腸のように伸びているのだ。県境が道に沿って描かれている1/25000図の見難いことといったら。

12:07 三国岳発(1625m, 32.0℃)

道
種蒔山を目指す
道
種蒔山を目指す
三国岳を出てからは、細かいアップダウンを繰り返しながら徐々に登っていく印象。道は思いのほか険しく、鎖場やイヤらしいザレがあったりする。

13:33 種蒔山(1735m, 29.5℃)

花
種蒔山付近のモミジカラマツ群落
種蒔山に着いたころはまたガスに包まれていた。ここまでくるとようやく花が増えてきた。タカネニガナやクルマバナ、キンポウゲなんかが多かった。

13:53 切合小屋(1705m, 28.0℃)

道
この裸地の向こうが切合小屋
あわよくば本山小屋まで、と思ったがもう疲れたので今日はここでストップ。コースタイムどおり登ったらあと2時間半かかるし、それにてっぺんのテント場では強風が心配だ。
小屋はいかにも混んでいそうだったので迷わず幕営を選択。切合のテント場は小屋裏にあり、まだ誰も張っていなかったので場所を慎重に選んだ。整地はあまりよくなかった。まあもともとテント禁止の山なんだししかたないか。朝の雷雨でザックの底の方がわずかに浸水していて、着替えやシュラフが湿っぽかった。
小屋は混雑していたようだが、テントは我々を含めてわずか4張。夕食後はすぐ寝ようと思ったが、ワンゲルだかなんだかのテントと、小屋から人が来ておしゃべりしていたのとでうるさくてなかなか眠れなかった。
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