9月30日 晴れ
4時起床。満天の星空。いくつか流れ星を見ることができた。明け方のテント内の気温は8.1℃もあった。これは、なんと7月に泊まった大雪山ヒサゴ沼とほぼ同じ。氷点下覚悟でダウンジャケットも持ってきたけど、これでは不要であった(夏装備のヒサゴ沼ではよく耐えたなあと思った)。涸沢ヒュッテのウェブサイトの紅葉情報には直近3日間の気温が掲載されているが、帰宅後見てみたところ、この日は3℃となっていた。
5:30 出発準備完了
サブザックに荷物を詰め、イクラをテントの北側の陰に移してからヒュッテに向かう(雪は一晩で3/4くらいに減っていた)。トイレを済ませ、水を汲んで、夜明けを待つ。ヒュッテの別館前は三脚を構えたカメラの砲列が並ぶ。そんな中、期待どおりの朝日を浴びる涸沢カールの図が見られて大満足。雑誌の写真などでさんざん見た絵柄だが、やはり実物の雄大さは堪らない。百聞は一見にしかず、なのだ。6:12 テント場発(2330m, 11.5℃)
朝の景色を堪能したあと、ふたたびテント場を通りそのまま涸沢小屋経由で奥穂を目指す。寒いので上はTシャツ・ウールシャツにカッパまで羽織った。が、日が出れば暑くなることは必定なので、下はスポーツタイツ+短パンという夏の格好。涸沢小屋の前で北穂への道を分けるが、奥穂・北穂それぞれに向かう人の割合はだいたい半々といったところだろうか。
6:46 パノラマコース分岐(2565m, 16.0℃)
前日歩いた涸沢までの道と同じく、こちらも平らな石が積んであったりして非常に歩きやすい。荷物が軽いこともあって快調に進む。夜明け直後は雲が多かったが、カンバの林を抜けてカールの上部全体が見渡せるようになったあたりでは空は不気味なまでに晴れ渡った。涸沢岳の岩塊の白とのコントラストが美しい。このあたりでカッパの上着を脱いだ。遠くから眺めている分にはきれいだったカール上部の草紅葉だったが、近付いて見るとただの枯草で(当り前だが)、なんだか薄汚ないのは予想外だった。
7:06 ザイテングラート取り付き(2685m, 14.2℃)
あいかわらず歩きやすいが薄汚いトラバース道を通ってザイテングラートの最下部に到達。これより急登になるので、腰を降ろして一休みした。ここからは斜度が増してキツくなる・・・と思っていたが、傾斜の割には歩きやすかった。普通これくらいの斜度の道だと厳しい段差があったりして、比較的小柄な相棒を引っ張りあげたりすることがままあるのだが、そんな必要は一切なし。歩いていて落石を起こすかもしれないとも思っていたが、よほどひどいところを歩かないかぎりはそんな心配もなさそう。必要ないと思われるところにまで鎖があったりして、やはり人気コースは違うなあと思うのだ。
はるか上にやぐら型の標識が見え、それを目指して登る。「ホタカ小ヤ20分」とある岩からジャスト20分で穂高小屋へ。
8:11 穂高岳山荘着(2990m, 12.9℃)
小屋前の広場には20人からなる団体が休んでいた。例によって50代くらいの人たちばかりだ。風は西風で、建物が遮ってくれているために日が燦々とふりそそぐ広場は暖かかった。我々も腰を下ろして行動食をとる。団体より先に出発するべきだったが、なかなか発つ気がおきなかった。登る気満々の相棒に対して、かつりんは穂高を登ることにはあまり興味がなく(涸沢カールの景色が見たくてやってきたのだ)、そんな気持ちのまま岩場に挑んだら事故を起こしそうでイヤだと思ったのだ。いや、それよりも、ネットで情報収集していて、ここでほかの登山者が起こした落石で怪我をしたとかいう記録もいくつか読んだので、ビビっていたというのが正直なところだ。自分は、加害者にも被害者にも絶対になりたくない。
そんなこんなでだらだらしていると、とうとう団体が立ち上がり、ハシゴ場に取り付いた。周囲の登山者から「しまった・・・」という呟きが洩れる。みんな
8:38 穂高岳山荘発(2995m, 17.1℃)
大勢で登るもんだからすれ違いもたいへん。遅々として進まない団体にしびれを切らした人たちがついに登り始めた。というわけで、今度は団体を待っていた人たちの渋滞と相成ったのである。我々はその最後尾についた。直前までビビっていた岩場だったが、いざ登ってみればしっかりとしたホールドがあり(というかホールドだらけ)、特に難しいところもなかった。ハシゴはともかく、鎖は使わないでも登れる程度のものだった。なんというか、フツーの岩場、という感想。丹沢の行者が岳あたりとそんなに変わらないような気がした。
ここでは岩よりも寒さの方が強敵だった。岩場全体が日陰であるうえに西風が吹き付けて寒く、プロトレックの温度計は4℃近くまで落ち込んだ。ということは、気温は0℃前後だっただろう。途中で10分くらいすれ違い待ちがあり、じっとしていると寒くてたまらなかった。出発前にカッパを着込んだのは正解だった。
真ん中に大きく穴の開いた転落防止の網を過ぎると、手を使わなくても歩ける道になる。右に笠が岳、左に常念岳が見える。
9:23 奥穂高岳登頂(3165m, 9.8℃)
大きく目立つ岩峰の右肩に出るとジャンダルムが見え、そこを左に曲がるとすぐに山頂に着いた。山頂の祠の前は記念写真の順番待ちの行列ができていた。とりあえず記念撮影を済ませてから、前穂寄りの風の来ない場所に陣どり、ゆっくりと景色を楽しんだ。展望は360度で言うことなし(ぐるぐる写真)。遠い南アルプスも、どれがどの山かはっきりとわかるほど視界は良好。もちろん富士山も見えた。大好きな黒部五郎もよく見えたが、この日の一番のお気に入りは常念だった。きりりと引き締まった形もよかったが、上手い具合にバックに雲があって、山をよく引き立てていた。
過去に登ったり見たりして馴染みのある山々がみんな下に見えることにちょっとした感動を覚えた。黒部五郎や鷲羽から見た北アルプスは、みんなだいたい同じくらいの高さに見えていた。しかしここでは、肩を並べるのは槍ヶ岳だけで、あとは明らかに低いのだ。
10:37 下山開始(3210m, 23.8℃)
例の20人の団体が去ると山頂は急激に静けさを増した。それがまた居心地がよくて、さらにのんびりとしてしまった。快晴の山頂に1時間もいたわりには写真を10枚ほどしか撮っていなかったことに気づいたのは帰宅後。あまりに気持ちよすぎて写真を撮ることすら忘れてしまっていたのだ。帰り道は槍を正面に眺めながらの稜線漫歩。ガレてはいるが、クサリ・ハシゴ場まではなだらかで気持ちよく、道はよく踏まれていて危ない箇所もない。
11:07 穂高岳山荘着(2980m, 11.6℃)
下りでも鎖は使わずに下りられた。やはりすれ違い待ちで時間を少しくった。だいぶ陽射しが強くなってきた。この先はカールに入り暑くなると予想、Tシャツ1枚になる。テントに置いてきたイクラがちょっと心配になってきた。例の団体が昼食弁当を食べているすきに先発する。
11:21 穂高岳山荘発(3005m, 21.0℃)
涸沢を見下ろしながら下る。正面の屏風の頭付近が適度に色づいていてきれいだった。左手には北穂が不自然なくらいに澄んだ空にそびえていた。12:04 ザイテングラート取り付き(2715m, 25.1℃)
ザイテングラートの下りは少し渋滞した。穂高小屋の上の岩場といい、どうも岩に不慣れな人が多いようだ。もっと経験を積んでから来ればいいのにと思うが、まあそういうもんでもないんだろう。12:26 パノラマコース分岐(2590m, 25.2℃)
帰りはパノラマコースを下る。上から見ていて、紅葉エリアの中を通っているように見えたからだ。分岐からすぐに、平らな石を積んだまるで遊歩道のような道になり、走るように下る。残雪を横断して少ししたところ、見晴らし台の手前あたりが紅葉エリアで、手前にナナカマドを入れて涸沢槍を見ることができた。ヒュッテ前でも似たような構図がとれるが、こちらは人も少なくてよい。パノラマコースは下るにつれて岩がちになり、遊歩道から登山道の趣きになる(とは言っても普通よりははるかにあるきやすいのだが)。途中、ヘリコプターがやってきて北穂南稜の中程でホバリングしていた。なにか事故でもあったのだろうか。
12:55 テントに帰着(2365m, 23.7℃)
テントに帰ってきてまずイクラの救出を行う。午後になり太陽はテントを回り込んでいて、イクラを置いていた辺にも陽射しが当たっていた。しかしまだ雪は残っていて、イクラは半分ほど雪に埋まった状態だった。これならイケると、そのままビニール袋と新聞紙(夜行バスで足元に敷くために持っていたのだ)でぐるぐる巻きにして保冷バッグにいれて横尾に向かうことにした。14:30 下山開始(2355m, 18.9℃)
テントの撤収に思いのほか時間がかかってしまった。パッキングを終えてから、朝同様、ヒュッテに行ってトイレを済ませ、テラスからカールを眺めた。しかしすでに雲が多く湧いていて、陰に入ったカールはさほど美しくは思えなかった。往きはヒュッテにつながる道を歩いたので、この下りはテント場からの直接下る道を行った。周囲のナナカマドは少しだけ色づいていた。
15:53 本谷橋(1855m, 19.8℃)
往きの印象から帰りは相当速く歩けるものと思っていたが、そうではなかった。歩きやすいことは歩きやすいが、重荷だと走れないからスピードはさほどあがらないのだ。果てしなく続くだらだら歩きに消耗し、本谷橋についた頃にはへとへとだった。横尾に早く着いたら徳沢まで行っちゃおう、とか思っていたがとんでもない。この道でもかなりの人とすれ違った。今晩の涸沢の混雑は凄いことだろう。