尾瀬ヶ原テレマークツアー 2004年4月29日-5月2日 山小屋利用

4月29日 晴

朝4時起きで家を出る。休日の6時台だというのに山手線はたいそうな混雑で、でかいザックにスキー板を持った自分たちはドひんしゅくだ。しかしさすがに上野発の高崎行きはガラガラで、ゆっくり眠ることができた。
高崎で乗り継ぎ、沼田到着は9時すぎ。すぐに接続の鎌田行きバスに乗る。鎌田の関越交通タクシーは、1台だけのキャリア付きの車がちょうど予約客を運送中ということで、キャリアのない車の助手席に強引にスキーを押し込んで乗り込む。やはりタクシーは予約した方がいいようだ。鳩待峠まではおよそ8,000円で、11時ちょっと過ぎに到着した。
峠の休憩所で、いかにも休憩所のカレー的な味のするカレーを食べて昼食とし、身支度をととのえると12時になんなんとしていた。

11:58 鳩待峠発(高度計:1695m, 温度計:17.7℃)

アヤメ平方面
アヤメ平への登り口
午後は偵察のために周辺を散策する。足慣らしも兼ねているので、至仏山方面よりも等高線の間隔の広いアヤメ平方面に向かうことにした。14:30を時限として、行けるところまで行って引き返すことに決めた。横田代くらいまで行ければいいだろう。登り2時間30分、下り1時間30分で16時までに帰ってくる計算だ。
鳩待山荘の右横の、登山ポストのある夏道の入山口は雪の壁に阻まれていて使えないので、駐車場の脇の雪壁が低くなっているところから上がる。いきなり100m弱の急登なので、板をザックに付けたままツボ足で登る。振り返ると至仏・小至仏が美しい山容を見せていた。

12:13 急登終了(1770m, 20.9℃)

緩やかな道
至仏山をバックに明るく緩やかな林間を登る
登るに連れて傾斜がきつくなり最後は難儀したが、どうにか登りきると武尊ほたか山の見える台地状の地形となった。ここでスキーを履く。シールはつけない。
踏み跡が森の奥へと続いていた。また、木々にはくどいくらいにピンクの目印テープが巻いてあった。これが夏道なのだろう。ツボ足の踏み跡の上は歩きにくいので、離れたところを進む。気温が高めでちょっと溶けてきた雪をウロコスキーが確実に捕らえ、すいすいと歩く。登りが苦手な相棒も、この斜度なら問題ないようだ。
道は尾根の一番高いところよりも少し北側をトラバース気味に進む。とは言ってものっぺりとした地形なので、トラバースという感覚はない。木の間から至仏山がずっと見え隠れしている。進むにつれてほんの少し木が煩くなり、ほんの少し傾斜が増してきた。

13:36 横田代(1940m, 13.1℃)

横田代
横田代の上部では地面が露出していた
林間歩きにいい加減飽きてきたところで横田代に到着。14:30までにここまで着けるか心配だったが、これでなんとか山行の格好がついた。想像よりもはるかに良い眺めに歓声を上げる(ぐるぐる写真)。美しい傾斜湿原の上部から、至仏・平ヶ岳・景鶴山・燧ヶ岳が見えた。
まだタイムリミットの14:30には間があるので、アヤメ平まで足を伸ばすことにした。湿原は斜め上方、アヤメ平方面に向かって広がっており、上の方では地面も出ていた。その脇を登っていく。ここの雪質は林間とは明らかに違っていた。クラストした雪が溶けて、食べるタイミングを逸してしまったべちょべちょのシャーベットのようだ。こうなると自慢のウロコも空振りが多くなってくる。苦労しながら進む。

14:25 アヤメ平(2040m, 10.8℃)

アヤメ平
アヤメ平の奥に燧がぽっかりと浮かぶ
夏道は小さなピークをふたつ越して行くが、面倒なのでトラバースする。横田代のすぐ隣にもうひとつ傾斜湿原があり、ここもまた眺めがよい。トドマツの間をすり抜けるように滑っていくと、やはり同じことを考えたスキーヤーがいるらしく、シュプールが幾筋か付いていた。
なんの前触れもなく突然湿原に到着した。アヤメ平だ。それにしても広い(ぐるぐる写真)。湿原は空中にぽっかりと浮かび、その向こうに燧がまるで島のように浮かんで見えるのがおもしろかった。至仏のムジナ沢は雪が途切れているようだ。ザックを下ろし、雪の空中庭園でしばしスキーを走らせて遊ぶ。
そうこうしていると時間がやってきたので、わずかな時間しかいられなかったが帰ることにした。

15:05 横田代(1950m, 13.7℃)

横田代
至仏を眺めながら横田代を滑り降りる
同じ道を引き返し、横田代へ。さっき苦労して登った傾斜湿原は、快適に下ることができた。ここで登りの登山者に出会った。こんな時間に登ってくるとは、上でキャンプでもするのだろうか、などと思っていると、なんと「あのう、山ノ鼻はこの道でいいんでしょうか」などと聞いてきた。唖然としながら、道を間違えていることを教えた。「山と高原地図」を持っていたのだが、おそらく読めないのだろう。山ノ鼻は方角が違うのもさることながら、登りではなく下りだ。登りと下りの違いもわからないで雪山に入るなんて・・・
そういえば、今日はここまででツボ足2、スキー1の合計3パーティとすれ違っただけだった。

16:03 山荘裏の崖の上(1755m, 15.5℃)

武尊山
崖の上からは上州武尊山が見える
横田代からは先行するスキーの跡を追ってぐいぐいと滑り降りた。実に気持ちいい・・・と思ったら、なにやら方角がぁゃιぃ。正面に見えるはずの至仏が左に。むむっ、そういえば、登りではしつこいくらい見かけたピンクテープが見当たらない。地図を見ると、どうやらこのスキーヤーたちはメッケ田代を経由して、山ノ鼻に下ろうとしているのではないかと思われた。とりあえず夏道に戻るため、樹林の間にちらほら見える至仏山を目指して、沢に誘い込まれないようにトラバースで左へと進む。するとぽっかりと木が開けているところに出て、至仏と小至仏が並んで見えた。ありがたい、これで現在地がわかる。コンパスを使うと、思ったよりもはるかに北に流されていた。どんどん左にトラバースして、ようやく夏道のテープを発見した。
それからはわずかな時間で、行きにスキーを履いた、崖の上に出ることができた。帰りはスキーで楽チン、と思っていたが、道を失ったおかげでトラバースばかりでなんだか損した気分だ。

16:15 鳩待峠着(1685m, 16.0℃)

急斜面
急斜面をツボ足で降りる
スキーをザックにくくりつけて斜面を降りる。実にあっけなく峠に到着した。シュプールもいくつか見えていたので、上手い人ならスキーで降りることもできるのだろう。
さっそく小屋にチェックイン。宿泊客は10名ほどで、部屋も個室で使え、快適であった。しかし営業を開始したばかりで、風呂はまだお湯の出が安定していなかった。洗い場に敷き詰めた石が素足に冷たかった。また、乾燥室がなかった。特に濡れたものはなかったので大丈夫だったのだが。
夕食のメインは豆腐ハンバーグだった。「今日から生ビールやってます」といわれ、どうせアサヒだろうと思ったらキリンだったのでつい1杯飲んでしまった。アルコールはとらないつもりだったのに。

4月30日 晴

今日は至仏山に登る。至仏山は7年ぶりで、残雪期は初めてだ。できればムジナ沢を滑りたいが、我々の足前では難しいだろう。上に行って実際に見て、滑れそうなら滑って降りよう。
寒いと思ってたくさん着込んで外に出てみると意外と暖かい。実は小屋の中の方が冷え切っていて、逆に外より寒いくらいだった。

7:07 鳩待峠発(高度計:1665m, 温度計:13.2℃)

樹林の登り
明るい樹林の尾根を登る
山荘向かいの駐車場の奥から登山道が始まる。ツボ足の人はアイゼンを装着、スキーの人はシールを装着して出発する。
広く、明るいブナの樹林の緩やかな登りが続く。昨日のアヤメ平と同じく、こちらもピンクテープと踏み跡が多い。

8:07 1866mピークのトラバース

至仏山
至仏山の稜線が見えた
突然、道の傾斜がきつくなった。1866mのピークだ。夏道は左を巻き、富士山や武尊の眺めが良かったという記憶がある。ピンクテープはピークに向かって直進している。相棒はピンクテープに従い、自分は右を巻くことにした。ピンクテープも頂上まで行かずに途中で右に巻くようになっていた。自分は下、相棒は上のまま平行に進んでいく。
トラバースの途中で林が開け、目指す至仏山の稜線が見えた。

8:17 トカゲ岩(1930m, 13.9℃)

尾瀬ヶ原
トカゲ岩から尾瀬ヶ原と燧ヶ岳を望む
白い尾瀬ヶ原が見えてくると、トカゲ岩だ。ぐるりと景色が見渡せる(ぐるぐる写真)。
のんびりしたいところだが、このあたりは斜面の途中。トカゲ岩が出ていれば腰かけることもできるだろうが、もちろん今は雪の下。あまり休憩には適さないと思い、トラバースを続ける。ここらでちょっと斜登高も使うようになる。
トラバースが終わるとトドマツの樹林の中に入る。シールでも登りにくいほどの斜面となり、ジグザグに進む。しだいに木がまばらになってきて、青空が多く見えるようになってくると森林限界だ。

9:07 オヤマ沢田代(2095m, 17.1℃)

稜線
雪の稜線
森林限界あたりがオヤマ沢田代だ。森林限界上の稜線をスキーで行くのがツアーっぽくて憧れだった。しかしほぼ平らなので、シールのままではあまり快適ではない。また、シールが水を吸って板がとても重くなり、相棒がとうとうギブアップ。帰りはムジナ沢の滑降は諦めて往路を戻ることにして、湿原の終了地点で板をデポすることにした。
さて自分はそのままスキーで進んだが、小至仏直下のトラバースを見てギブアップ。トレースがあることはあるが、ここをスキーで行く自信はない。つるっといったらそのまま数百m滑落だ。他にもスキーヤーが通過しているが、みんな結構腰が引けているように見えた。トラバースの手前に板を置いて、ツボ足で山頂に向かう。

9:41 小至仏トラバース終了(2180m, 17.4℃)

小至仏
小至仏を振り返る
トラバースのトレースでは、雪が緩んでいて足をとられ、結構神経を使わされた。スキーを脱いでよかったと思った。アイゼンの足跡も見えるが、これだけ緩んでいるとアイゼンは無用だろうと思った。
小至仏の頂上へ向かっている跡も見えるが、ほとんどの人は直下を巻いているようだ。

10:13 至仏山登頂(2280m, 16.0℃)

至仏山の眺め
至仏山頂より尾瀬ヶ原と燧を眺める
そのまま腐った雪を登りつめ、登頂。最後の急斜面は夏道沿いに直登したら上で雪が途切れていた。右に巻くとずっと雪が繋がっていた。6本爪アイゼンを持っていたのだが、結局使わずに済んだ。
晴れてはいたが霞がすごく、展望はまあまあといったところ(ぐるぐる写真)。谷川岳は靄ってしまって確認できなかった。
山頂はだいたいが雪に覆われており、わずかな岩の露出に登山者がたむろしていた。そのほとんどはスキーヤーのようだった。雪の上にザックを置くとびしょびしょになりそうなので、我々もその狭い一角に割り込み、まずココアを飲んだ。無事に登れたことが素直に嬉しかった。

10:58 至仏山発(2290m, 19.5℃)

記念写真などを撮ってから昼食にした。小屋の弁当は、大きめのおにぎり2個に、きゅうりの漬物とふりかけと「一口さんま」がセットになっていた。しかし、きゅうりの漬物は箸がないとチトつらいぞ・・・いや、そんなことより、具の梅干は種がごみになるし、ふりかけなんて風が強いと粉が飛び散っちゃうじゃん。ごみ持ち帰り運動のメッカたる尾瀬なんだから、もうちょっと工夫が欲しいなあと思う。ということで、次からは注文しないことにしよう。
弁当を食べ終え、もう一度景色を眺めてから往路を引き返す。スキーヤーたちは次々とワル沢方面へ消えていった。

11:37 滑降開始(2125m, 17.6℃)

斜面
1866mピーク直下の斜面を見下ろす
小至仏直下でスキーを回収し、シールをはがして滑降開始。稜線は快適であるが、すぐに急斜面があって2度3度とコケまくる。コケるのもまた楽しいが、べちゃ雪なのでカッパから浸水してきたのにはまいった。
オヤマ沢田代のすぐ下からちょっと急な斜面になるが、今日の雪質なら大丈夫。ときおりテレマークターンの真似事をしながらほいほい下るとすぐにトカゲ岩のトラバースになる。慎重にコケながら徐々に高度を下げ、1866mピークまで来るとあとは林の中を楽しく下るだけだ。尾根上だし、トレースも多くて迷う心配はないが、昨日の失敗のこともあるのでちょっぴり慎重にあたりを見回しながら滑る。

12:55 鳩待峠着(1695m, 15.8℃)

鳩待峠
鳩待峠
傾斜が緩くなって歩き混じりになると峠も近い。峠は閑散としていて人声もなかったので、すぐ直前になるまで気が付かなかった。下りも3時間くらいかかる計算だったのだが、2時間で帰れた。我々のスキーのレベルと斜面とが上手く合ったのだろう。
スキーを脱いで乾かしながら、峠のベンチに座ってコーヒー牛乳などを飲んだ。うららかな春の午後であった。

13:30 鳩待峠発(1675m, 18.6℃)

尾瀬ヶ原への入り口
尾瀬ヶ原への入り口は雪に閉ざされている
山ノ鼻への道
山ノ鼻への道はところどころで雪が切れている
山ノ鼻へは16時までにつければいいと思っていたが、このまま峠にいてもしかたないので、山ノ鼻に下りて、原でのんびりしようということになった。
無雪期の入り口は雪に閉ざされており、やはり駐車場の裏から下らねばならない。道はスキーで滑れないこともないが、途中で雪が切れていることが多いという話なので、板はザックに付けてツボ足で降りていった。

14:56 山ノ鼻着(1495m, 15.4℃)

燧
ゥ然研究見本園からの燧ヶ岳
河原に出て平らになってからがなぜか長く感じられ、無性に疲れた。少しシャリバテ気味なので、河原でクッキーなどを食べたら元気が出てきた。また、スキーの背負い方も悪かったようで、直したらザックが軽く感じられた。そんなこんなで予定をはるかにオーバーしての到着となった。
山ノ鼻は見覚えのある夏の景色とまったく違っていた。自然研究見本園がすべて見渡せるのにびっくりした。まだ15時なので、小屋に荷物を置いてすぐさま散歩に飛び出した。無雪期には入れないところを歩けるのが嬉しい。研究園をぐるっと回ってから、明日の偵察の意味も含めて原の方に少し進んだ。思ったより近くに橋がかかっていた。こりゃあ明日は歩き出したらすぐにスキーを脱がなきゃならないなあ。
16時に小屋に戻った。

至仏山荘

至仏山荘
至仏山荘の2階廊下
小屋は建て替えたばかりとかで、とてもきれいだった。客は20人ほどで、部屋は個室で使えた。風呂は鳩待山荘よりは広かったが、それでも6人で満員になってしまうくらいだった。
下りで足の裏に靴擦れのような痛みを感じていたのだが、部屋にあがって足を見ると、やはり軽い靴擦れを起こしていた。これは浸水によるものだ。浸水が始まったのは鳩待からの下りだ。キックステップを使ったので、革ブーツ用のゲートルの中に雪が入り込んでしまうのだ。浸水によって足の皮がふやける。すると足の体積が膨張し、靴の中で圧迫される。ふやけて皺になった部分がつぶれ、ひりひりと痛いのだ。
ここもまだ営業を始めたばかりで、売店の品物が段ボール箱に入ったまま廊下に山積みになっていたりした。しかしビールの需要は高いようで、ビールだけは冷蔵庫に詰め込まれ、即販売できる態勢になっていた。が、スーパードライだったので飲まなかった。まあ、もともとアルコールはとらないつもりだったのだけれど。
下品な笑い声のグループがうるさかったが、とても疲れていたので18:30には寝てしまった。
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