ミズバショウの尾瀬ヶ原 2004年5月25日-26日 夜行日帰り

5月25日

三角ビルのコンビニで、翌日の朝昼の分のおにぎりと、ペットボトルのお茶を買ってから都庁下へと向かう。
待合の駐車場へ行くと、なにやら不思議なようす。そう、人が少ないのである。なんとバスはたったの2台。ここはいつも大混雑の印象が強いのでびっくりだ。
バスはマイクロバスだった。定員は24人だがそれでも余りの席があった。マイクロバスなら戸倉で乗り換えの必要がなく、鳩待へ直行できる。こいつぁラッキーだ、と思った。しかし、小さいのだ(「マイクロ」なんだから当たり前だが)。なんとも窮屈なのである。短距離ならばいいが、これで一晩過ごすのはかなり辛く、ほとんど眠れなかった。

5月26日 快晴

バスは3時過ぎにはもう戸倉に着いた。津奈木のゲートは4時まで開かないので、どこぞの駐車場に30分ほど停車し、3:45に再発車。3分ほど前にゲートに到着すると、並んでいる車はわずかに3台。こりゃあ原も人が少なくてのんびりできそうだな、と思った。
時報とともにゲートが開き、その後も順調に進み、峠に着いたのはなんと4:15であった。
バスを降りると猛烈に寒かった。思わずウールシャツとカッパまで着込んだが、それでもまだ寒い。プロトレックは気温10度を示しているが、腕に着けているので体温の影響を受けており、あてにならない。おにぎりを食べ、家で沸かして持ってきた湯でカップスープを作って飲むと、温かさが体に染みわたるようだった。

4:51 鳩待峠発(高度計:1640m, 温度計:12.8℃)

登山道
まだ薄暗い新緑の登山道
ほとんどの人はすぐに山ノ鼻へと歩き出す。それにしても寒い。寒がりの相棒は、もう指先の感覚がないという。夏用のレイングローブを持ってきたのだが、これほど寒いのなら冬用でもよかったと後悔していた。念入りにストレッチをしてから出発した。
1ヶ月前は、ようやく芽が出始めたかな? というくらいだった木々は、新緑が清々しかった。まだ不揃いの若芽の間から見える至仏山に朝日が反射してまぶしい。ずいぶん雪も解けたもんだ。
などと思いながら歩いていると、突然足元をかっさらわれる。ところどころ、木道に霜がおりていて滑るのだ。こんなとこで滑落なんてシャレにならない。ストックで探りを入れながら、滑り止めの桟の間に足を入れて一歩一歩慎重に進む。今回、ストックを携行するかどうか迷ったが、2本だけ持ってきていたので助かった。転ばぬ先の杖。

5:22 小湿原

小湿原
最初のミズバショウ群落
30分ばかり下り、大岩を過ぎると道は一気に平坦になる。そして尾瀬に入って最初のミズバショウに出会う。咲いていてくれて少しほっとする。実は少しばかり時季が早いかなあという心配があったのだ。
あたりを見渡すと、奥の方にとんでもなく密集して咲いている場所があった。道の脇にロープが張ってあり「湿原の中に入らないでください」と書いてあった。
平坦でも滑る木道は怖い。

5:42 山ノ鼻(1450m, 11.6℃)

ミズバショウ
朝日を浴びる上田代のミズバショウ
ほどなく山ノ鼻に到着。ビジターセンター前の温度計が目に入った。なんと気温0度。てことは峠は氷点下だったのかも。道理で寒いわけだ。
日が差してきたので日焼け止めを塗り、暑くなる予想なのでウールシャツを脱いでTシャツ・カッパになった。上田代に入ると一面のミズバショウ・・・のはずだったのだが、なんだか思ったより花が少ない。記憶では、山ノ鼻から最初の橋をちょっと過ぎたあたりまでが、ミズバショウがにょきにょき生えていたのだが。やっぱり少し早かったのかなあ・・・
原では、凍結した木道が林の中よりも多かった。霜がおりやすいのだろうか。
歩き始めて間もなく、写真家の花畑日尚さんとすれ違った。なんだかむすっとしている。思うような景色ではなかったのだろうか? なんだかイヤな予感だ。

6:36 三叉路(1470m, 19.4℃)

至仏山
三叉路付近の木道からの眺め
6時を過ぎるとようやく木道の霜は溶け、普通に歩けるようになった。朝日がまぶしく、前があまりよく見えない。横を見ると、湿原から水蒸気があがっていた。暑くなりそうだ。
三叉路からは左に入り東電小屋に向かう。見晴までぐるっとまわって帰ってくれば、下ノ大堀川の定番ビューポイントは10時から11時くらいになり、太陽光線がちょうどいい具合だろう。まっすぐに竜宮を目指す人ばかりで、こちらに来る人はいなかった。木道の周りにミズバショウが増えてきた。
相棒の歩みが遅い。睡眠不足でバテはじめているようで、ちょっと歩くとすぐに遅れる。意識して、ゆったり、のんびりと歩く。

7:21 ヨッピの吊り橋(1480m, 25.3℃)

ヨッピの吊り橋
ヨッピの吊り橋
GWには骨組みがむきだしだったヨッピの吊り橋は、もうこの季節にはちゃんと橋げたがかかっていた。安心して渡れる。木道近くにショウジョウバカマが咲いていたので接写しようと木道に手をついたとき、左手の中指にトゲが2本刺さってしまった。ビクトリノックスに付いているトゲ抜きですぐ抜いて事なきを得た。花に夢中になりすぎたようだ。気をつけねば。
だいぶ腹が減ったので、橋のたもとのベンチに腰を下ろしてパンを食べた。ふと見ると、ケイズル沢の林の方にミズバショウが咲いていた。小さめの株が多いせいか、まばらな印象だ。奥の方もきっときれいなのだろうが、道がついていないので残念ながら見ることはできない。林はまだ芽吹き前、といった感じであった。
すっかり気温があがったので、カッパを脱いでTシャツ1枚になった。そよ風が心地よい。

7:54 東電小屋(1495m, 26.6℃)

東電小屋
東電小屋とヤマザクラ
若芽の美しいカンバの木の下を通って東電小屋方面へと向かう。ヨシッ堀田代のミズバショウは沢に沿って並んでいる程度で、ちょっとがっかりだ。やはりまだ早いのだろうか。それとも花が減っているのだろうか。そういえば笹ってこんなに多かったっけ。さきほどの花畑氏のしかめっ面が思い出される。
東電小屋の前も同じく花は少ない。しかしここで初めてリュウキンカが見られた。そういえば今まで歩いてきたところでは見かけなかった。リュウキンカの黄が混じっても、なんだかまだぱっとしない。7年前、小屋前のベンチから湿原を見下ろしたときはとても美しかった。
期待より花が少なくてモチベーションが下がりめ。ここで景気付けに残りのおにぎりを食べ、チョコパンもぱくつく。
小屋前のヤマザクラは散り始めだった。小さな花びらが風ではらはらと舞っていた。

8:25 東電尾瀬橋

ミズバショウ群落
東電尾瀬橋付近のミズバショウ群落
見晴方面へ。小屋裏からすぐに林に入る。林の中にはキクザキイチゲほかの林床の花が咲いていた。林を抜けると一面のミズバショウ群落に出会う。密度の濃い群落に喜ぶが、しかしここもどういうわけかリュウキンカが少ない。このあたりはミズバショウとリュウキンカが入り乱れて咲いているのが美しいのに。東電尾瀬橋までわずかな距離だが、このミズバショウ咲き乱れる小湿原を行く。
橋を渡り短い斜面を登ると、藁を敷き詰めたような、比較的乾燥した感じの湿原に出る。殺風景だが、ところどころで藁の間からミズバショウやショウジョウバカマが顔を出していた。意外と乾燥したところでも咲くんだなあ。

8:41 東電小屋分岐(1490m, 27.7℃)

ミズバショウと至仏山
下田代のミズバショウと至仏山
予定よりだいぶ早く分岐に着いた。すぐ近くに、リュウキンカがびっしり咲いていて、不自然なくらいにまっ黄色に染まっているところがあった。自然に咲いているのだから不自然というのはヘンな話だが、実際そう思ってしまうのだ。
赤田代まで往復しようかとも思ったが止め、その分を竜宮でゆっくりすることにした。見晴に向かって歩き出すと、右側が開けて至仏山が眺められるようになった。手前の湿原には、多すぎず少なすぎず、ほどよい密度でミズバショウが広がっていた。そして少し遠くの川沿いは、ミズバショウの密集群落があるのだろう、不自然なまでに白く塗りつぶされた帯となっていた。道の左側はすぐ後ろが燧へと続く森となっているが、こちらにもほどよい間隔でミズバショウが咲いており、逆光にきらきらと輝いて美しい。どちらを見てもすばらしい眺めだ。ようやく思い描いていた景色に出会えた気がした。

9:05 見晴(1500m, 24.5℃)

ミズバショウの道
ミズバショウに囲まれた道を行く
弥四郎清水
弥四郎清水
見晴の山小屋街も雪がすっかり解けて春の装いであった。GWには雪に半分埋もれていた弥四郎清水も全貌をあらわにしていた。
ここにはたくさんベンチがあり、かなりの人が休んでいてた。我々もここでミカンを食べ、栄養補給。

9:28 六兵衛堀

六兵衛堀
美しい六兵衛堀
竜宮へと歩くと木道を背負うようにして咲いているザゼンソウを発見した。ザゼンソウは六兵衛堀の右岸(見晴側)にかなり密生していた。しかし我々に背を向けていたり、潅木の下にあるものが多かった。サービスの悪い連中だ。座禅の邪魔をされたくないのかもしれない。
六兵衛堀周辺はミズバショウも美しい。流れに沿って密度の濃い群落が続く。川は一段低くなっているため、ほんの気持ち、俯瞰するような感じになるところが好きだ。写真を撮ろうとすると竜宮方面から夫婦連れが来たのでやり過ごす。がっ。この二人が遅いのなんの。5歩くらい歩いては立ち止まり、しげしげと花を眺める。尾瀬を楽しみまくっている二人には好感を持ったが、10分近くたってしまった。やっと通り過ぎたと思ったら次の人が来てしまった(泣)。でもこれは、10分間他に誰も来なかったということだ。ミズバショウのシーズンで好天でも、平日だといかに人が少ないか、ということだ。

9:47 竜宮小屋(1475m, 24.1℃)

竜宮十字路
竜宮十字路のミズバショウ群落と景鶴山
小屋周辺にもミズバショウが多い。また、トイレの周りにニリンソウがきれいに咲いていた。
トイレだけ済ませると、すぐに竜宮十字路に行く。十字路から左(富士見峠方面)にちょっとだけ入ったところはミズバショウの定番スポットだ。ここは期待どおりに見頃となっており、至仏を背景にした群落が美しかった。十字路の方を見渡すと、景鶴山をバックに、ミズバショウがはるかに続いているように見える。山ノ鼻へと向かうメイン木道のあたりにはリュウキンカらしい、不自然なくらいの黄色の塊が見えた。

10:37 竜宮

竜宮付近
リュウキンカの咲く竜宮付近
群落をじゅうぶんに堪能してからメインルートにもどる。先ほど見えたリュウキンカの群落は木道からは遠かったが、木道沿いにも少し見られたのでよしとしよう。また、竜宮の出口から流れ出た川に沿って咲いたミズバショウと景鶴山の眺めもよかった。
このあたりから、田舎くさい緑色のジャージを来た中学生たちとすれ違うようになった。学校登山だ。10数人程度のグループに分かれ、そのひとつひとつにガイドが付いていた。ガイドのひとりがストックの石突を露出させていたのが意外だった。木道の傷みが加速しそうな気がするのだが、どうなのだろう。

10:50 下ノ大堀川ビューポイント

下ノ大堀川
下ノ大堀川ビューポイントの眺め
10分ほどで定番スポットに到着。カメラマンで大混雑していたらイヤだなあと思っていたが、3人程度しかいなかった。また、出発前にウェブで調べたところ、増水してミズバショウが水没しているという情報もあって心配したが、これまた杞憂だった。水没は雨の日とその直後だけのようだ。きちんと顔を見せているし、数も結構多いではないか。ここは変わらず美しいなあ。頭の中でユーミンの「春よ、来い」のオートリピートが始まった。

11:02 ビューポイントを発つ

燧ヶ岳
ビューポイントから燧を見る
そろそろ帰りの時間が心配になってきた。14時に鳩待に着かなくてはならない。すると山ノ鼻を12:30には出発したいところだ。ということで、とても名残惜しいが、大好きな眺めに別れを告げた。またいつか来よう。
ビューポイントを振り返ると、シラカバと燧が並んで見えた。燧の山裾が新緑色に染まっているさまが美しい。ここではどうしても至仏山に目がいってしまうが、燧の眺めもかなりのものだ。
木道本線に戻ると、またもや花畑日尚さんに会った。今度は奥さんも一緒にいる。すれ違ってから振り返ると、氏がビューポイントに向かうのが見えた。今日の尾瀬は作品となるだろうか? もし発表されたら見てみたいなあ。自分が眺めたのと同じ時間の、プロの写真を。

11:17 三叉路(1495m, 28.0℃)

逆さ燧
逆さ燧
スピードをアップして山ノ鼻へとばく進する。徐々に人が増えてきた。今ここを歩いているということは、鳩待出発が9時頃の人たちだろう。1泊くらいのツアーだろうか。夜行バスだとこういう人たちと行動がずれてのんびりできるのがよいところだ。
振り返ると、波ひとつない池塘に、燧がきれいに逆さに映っていた。周辺はワタスゲの花がいっぱい咲いていた。カエルの声がやかましい。姿を一目見ようと探したが、結局見つからなかった。

11:53 山ノ鼻着(1505m, 28.5℃)

自然研究見本園
自然研究見本園のミズバショウ
山ノ鼻の広場はものすごい人だかりであった。うわー、木道でこんなのとぶつかんなくてよかったー。鳩待までは1時間で登れることがわかっているが、渋滞することも考えて90分かかると読み、山ノ鼻を12:30出発予定とする。あと30分あるので自然研究見本園を1周する。
うーん・・・花、ないじゃん。中央を横断する川に沿った群落がちょっと印象に残ったくらい。

12:36 山ノ鼻発

山ノ鼻にもどり、空いているベンチに座って残りの行動食を食べた。広場はたいへんな人だかりで、なにしろ騒々しい。気が付くと、なんと「もしもツアーズ」のロケだった。普段歩き慣れていないらしい芸能人たちはへとへとのようで、パラソルの下でスタッフかなんかにうちわで扇いでもらっていた。撮影風景の写真を撮ろうと思ったが、「写真はご遠慮くださーい」とのこと。ふーん、結構うるさいんだ。
そうこうしているうちに予定の12:30になったので出発する。続きはテレビで見ることにしよう。
番組を見て:至仏山が見えて「アルプスの少女ハイジ」のテーマが流れたときは、大げさすぎて爆笑しました。一行は下ノ大堀川まで行ってました。しかし、この時間からでは到着はおそらく15時近かったはず。逆光のうえに至仏山も霞んで、絶景というほどではありませんでした(山に慣れていない芸能人たちにはすごい景色に見えたかもしれませんが)。やっぱココは午前中に行かなきゃ、です。

13:25 鳩待峠着(2280m, 16.0℃)

新緑を楽しみながら快適に歩き、1時間もかからずに鳩待峠に着いてしまった。途中1回ベンチに座って休んだだけで、女子高らしい学校登山に会ったほかは混乱もなく、下りよりも早かった。これはおそらく、下りは早朝で木道が凍っていたため慎重に歩いたのと、小湿原でのんびり花を眺めすぎたからだろう。
いつの間にか「尾瀬名物」となった花豆ジェラートを食べながらバスを待った。朝は寒さに凍えていたのに、今はソフトクリームが美味しい。帰りのバスも往きと同じ車だった。定刻より早く出発し、20時新宿着の予定が18時過ぎには着いてしまった。車内では、昨夜の寝不足も手伝って爆睡できたが、目が覚めるたびに膝とか腰とかが痛くてまいった。
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