サマコンの思い出
第6回 1981年
2001/5/22

「ブラームス 交響曲第1番」と
     「リエンツィ序曲」の想い出


第6回サマコン 学生指揮者  花本康二氏



花本氏 手許にブラ1のスコアがあります。本番(第6回サマコン)で使ったものですが、パラパラとめくって感じたのは、私が学生時代に関わった他の交響曲(シベ2、マラ1、ドボ8)に比べると書き込みの量が非常に少ないということです。これは何故か?うーん…。思うに、当時の金大フィル、特に弦楽器のみなさんの「ブラームスやりたい、もう我慢できない」という気持ちが自然に曲を作り上げていったので、私の出る幕があまりなかったということなのかもしれませんね(関連エピソード:花本氏2参照下さい)。

 さて、20年が経過した今、当時の演奏を聴きながらつれづれなるままに…。楽譜(スコアが望ましい)をお持ちの方は理解を深めるため是非お手元にご準備下さい。なお、登場人物は意識的に記号化しています。

 まずは第1楽章。冒頭は有名なTimp.の「51発のC」で始まります。Timp.はTCKW氏。テンポ設定は若干遅めですが、これは良く鳴らそう、聴かせようという気持ちの表れかな。そしてひとくだり終わったところで、何を思ったか、何かに感動したのか、突然「オゥ」という子供の声が聞こえてきます。この子供を仮にKDM氏としておきましょう。KDM氏はブラ1の中で頻繁にしかも効果的に登場してくれます。いまでは丁度二十歳ぐらいに成長しているはずですが、どこかの成人式で奇声を上げていないことを祈っております…。さて、29小節目からはOb.の最初の聴かせどころ。FJN氏が実に豊かに歌います。DNJ、SKI両氏(Hn.)の伴奏も美しい。
 NKNS、MNM両氏(Tp.)のよく締まったCの音が響いて始まる8分の6拍子のAllegroでは、とにかく4分音符が短くならないようにと気をつけました。でも、あまりそれを意識すると重く(というか遅く)なってしまうのでそのあたりの塩梅が難しいところです。こういう音の処理をさりげなく正確にできるかどうかでそのオケの技量がわかるという気もします。
再現部へ戻る前の部分、294小節目(練習番号I)からは極端にテンポを落としました。ここは第1楽章の中で音楽的なポテンシャルが最も低い部分なので暗く澱んだ感じを出したいところです。そして再現部へ向かってenergyを蓄えていく…(わあ、かっこいい!)。
第1楽章最後のハーモニー(W.W.)はとても綺麗ですね。申し分ありません。練習量の豊富な学生オケならではの安定感です。市民オケではこう上手くはいかない。

 続く第2楽章のアタマは、何と言ってもFg.でしょう。弦楽器が「p」で演奏するところにただ一人参加する孤独感といったらたまらない。トレーナーの京響YMMTさんから、「2楽章へは、西本(本名NSKW:団長:愛称ポン)の顔色を確かめてからゆっくり入るように。とても緊張しているはずだから。」とアドバイスを頂きました。本番ではその言いつけのとおりNSKW氏の顔を見たのですが、彼はいつものように落ち着いた表情でホッと一息。
39小節目(練習番号B)からは、Ob.とCl(MEN氏:PL議長:愛称ガッツ)のsoloが続きますが、シンコペーションで伴奏をしている弦楽器(Vn.Vla.)が意外に揃わない。普段あと打ちに慣れていないせいでしょうかね…。
 さてお待たせしました、91小節目(練習番号E)からはこの楽章のクライマックス、Vn.のsoloですね。もちろんコンマスのKUKT氏です。実にみずみずしい音色で素晴らしい。Hn.(DNJ氏)との掛け合いもぴたりと決まっています。

 おっと、第2楽章で忘れてならないのは、Tp.の知られざる苦労でしょう。「pでそーっと出る」という、金管楽器にとって最も難しく過酷な技術をブラームスはこの楽章で何度も求めています(第4楽章にもしつこくありますが)。この難しさを知っているTp.吹きが集まって「アンチ・ブラームス協会」を作ったという噂があるほどです(本当か?)。しかし我等が金大フィルのNKNS、MNM両氏は大健闘。この楽章最後のハーモニーなど素晴らしい。Tp.が下手くそだとここまで良い響きにはなりません。
もう一つ印象に残っているのは、本番の一ヶ月ほど前に佐藤功太郎さんから手ほどきを受けた時のことです。この楽章は、遅い上に微妙なテンポの揺れがあるために指揮者にとって非常に振り難い曲なのですが、「学生にしてはよく振っている方だと思うよ。」と言われてちょっぴり嬉しかったのも束の間、お手本として振っていただいた佐藤さんの棒がとても滑らかだったのです。プロとアマの厳然たる違いをまざまざと見せつけられました。まあ、比べること自体間違っているのでしょうけど…。

 第3楽章はCl.のsoloで始まりますが、ブラームスの気まぐれのせいでCl.奏者はとても苦労します。なぜなら、E-durの第2楽章とAs-dur の第3楽章の間で楽器をA管からB管に持ち替えねばなりません。しかもいきなりのsoloという、「虎の穴(そこの若い貴方、タイガーマスクを知っていますか?)」のように過酷な試練なのです。気の利いた指揮者ならここでチューニングの一つも挟むのでしょうが、私にはそんな余裕はなかったようです。MENくんには申し訳ないことでしたが、彼はしっかりと吹いてくれました。
 45小節目(練習番号B)から、またまた弦楽器にとっていやな伴奏のパターンが続きます。16分音符の単位でW.W.のメロディーと噛み合わせようという作曲者の神経質な試みは金大フィルには全く通用せず、どうしてもズレてしまいます。こういうのをピッタリ決めるには、室内楽(アンサンブル)を数多くこなすのが一番ではないかと思います。

 中間部は突然調子が変わってH-durとなります。B管に持ち替えているCl.にとっては臨時記号のオンパレードで、もはや試練を超えてイジメの世界ですね。ブラームス万歳(やけくそか)! おっとそうそう、この中間部はリピートするのですが、その直前に出てくるTp.とHn.のアルペジオが絶品でした。練習の時にもこうは上手くいかなかった(失礼!)といえるほどの素晴らしい出来栄えです。お見事。
リズミカルな中間部が終わったあたりでまたまたKDM氏が登場します。きっと、第2楽章でゆっくり休養をとっていたのでしょう。お目覚めで「啓蟄」って感じです。

 さていよいよ第4楽章ですが、有名なブラ1の中でも殊更有名な部分であり、これまでHP上でいろいろと紹介されていますので細かな説明はなるべく避けたいところですが、後世に伝えねばならないエピソードもそれなりに沢山あるのです。
まず、Tb.のコラール(練習番号C)に触れておきましょう。30分間ずーっと舞台の上で待ちぼうけ、やっと出番がきたと思ったらむちゃくちゃ緊張するsoli。これはTb.奏者でなくとも告訴したくなるひどい仕打ちです。KNGU氏、NIGUR氏(愛称:カモリ)、ARKW氏の3人はよくぞ耐えてくれました。そして本番で見事にハモッてくれたのには文句なしで大拍手といったところでしょう(HPにupされていますので是非お聴きください)。
 61小節目のAllegro non trppo,ma con brio からはもう指揮者は必要ありません。多分どんなオケでも、ここから先は演奏者に任せておけば自然に音楽が流れていくところです。私のスコアもこのあたりは随分書き込みが少なくなっています。テンポの揺れに注意しておけばOKというところです。
285小節目(練習番号N)あたりからKDM氏が絶好調です。「ママー」に続いて「キャハハハハ」とすっかりsolist気分のご様子ですね。…おんどりゃ、しばいたろか!!
 381小節目からコーダに入るまでの10小節間はちょっとトレーニングの必要なところで合わせるのに苦労しました。W.W.の4分音符とVn.Vla.のシンコペーションが楽譜どおりズレてほしいのですが、これがなかなか難しい。accell.をかけながらですからね。でも2nd PLのYSMTさん(愛称:かおるちゃんorおばさん)が事も無げに弾いているのが妙に印象に残っています(この部分も含め最終部がHPにupされています)。
 391小節目からはコーダです。それまで出番の少なかったTb.、特にBass Tb.の元気が非常によろしい。言わずと知れたARKW氏です。まるで、宴会の最後のほうに登場してたちまち皆と同じだけ盛り上がっているような感じです。さすがです。素晴らしい!!!
さて、いよいよ最後のコード(C-dur)を語る時がやってきました。Vla.のKBYS氏は、0.2秒のフライングにより、その後「ジュリーニKBYS」と呼ばれるようになったということを、知らない人以外はみんな知っています。しかし彼の名誉のために言いますが、最後のコードに入るタイミングは私自身かなり気まぐれでした。本番の時にはいつもよりちょっと「ため」過ぎたのかもしれません。ゴメンネ、KBYSくん。



 さてさて、第6回サマコンについて追加でもう一つ。オープニングはワーグナーの「リエンツィ序曲」でした。ワーグナーの序曲は金管パートにとって非常に「美味しい」「やりがいのある」ものが多いのですが、このリエンツィも例に漏れません。私も練習の段取り上、リエンツィの金管パート練習にお付き合いさせて頂きましたが、和音を一つたりとも外してはならぬ、といった意気込みで練習にも随分熱が入っていたように記憶しています。実際、充実したメンツ・充実した響きですばらしい演奏でした。OBのSITUさん(Hn.)をして「参った」と言わしめたことを今でも誇りに思っています(この演奏もHPにupされていると思うのですが…)。
 ところで、この曲の最後のほうでTp.が「(実音)レレソー」と演奏するところがあります。何故かこれが「タゴツーン」に聴こえるわけで、TG氏は自分の名前を思いっきり叫んだということです。幸せ者ですね。なお、アンコールの「星条旗よ永遠なれ」でも最後のメロディーに「タゴツーン」が隠れています。暇な人は探してみてください(要は、同じ音が二つ続いた後に高い音を伸ばせば、みんな「タゴツーン」なのです)。



 以上、「第6回サマコンの想い出」と題していろいろと勝手気ままに書いてきましたが、随分「金管(あるいは管楽器)ライク」な内容になってしまっており弦楽器の皆さんにとってはピンとこないところもあるかもしれません。ブラ1の演奏においても、特に弦楽器の皆さんには至らぬ指揮者であったかと思いますがどうかお許し下さい。しかし幸いなことに、次の年(第7回)ではVn.のYMGC氏が「エロイカ」を指揮し、このあたりから合奏における弦楽器のレベルが次第に上がっていったように思います。そして今や、金大フィルのサウンドは完全に弦楽器中心になっています。在りし日の金管パートの隆盛を知るOBとしては少なからず寂しさを感じている今日この頃ですが、いつかまた現役だけでマーラーやブルックナーの作品が演奏できるほどに賑やかなパートになることを願いつつ結びとさせていただきます。
 あー疲れた。