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![]() 一楽章冒頭、Es durの主音が若干ぶら下がり気味なのはご愛敬。聴き進むうちに当時の記憶が鮮やかに蘇ってきます。目前には銀色に光った厚生年金のステージと居並ぶ面々。平常心のつもりでもやはり緊張していたのか、練習より若干速めのテンポで開始。おっさん(オーボエ1番)のアインザッツもつんのめり気味、なかなか腰の据わった落ち着きが得られず、内心焦りつつもやり直す訳にいかず、曲はどんどん進む。それでも練習時間の半分以上を割いただけあって響きは思った以上に整っているかな。なんとかいつものペースを取り戻そうと、ここしかない!と必死で、ぐいっと、しかも聴衆に気付かれない程度に、ほんの僅かだけテンポを押さえつけた。すでに再現部が終わったあたりの561小節目でした。誰か気が付いていた人、いますか? ようやく地に足がついた感じで、ここからはやっと思い通りになるぞと思ったのも束の間、一楽章はあっという間に終わってしまう。でもコーダは決まった! ![]() 三楽章以降は練習量の少なさが露呈して若干荒さが残るものの、当初からイメージも固まっており、自信を持って演奏。と思って始めた三楽章開始早々、快い緊張感みなぎるppから立ち上がる隆元のフルートソロが半拍ほど乗り遅れた。練習では一度も事故がなかったところで油断したわけではないのだけれど、私のアインザッツが曖昧だったことが原因。演奏全体の素晴らしさからすればごく些細な取るに足らぬミスだったにもかかわらず、隆元氏これが原因で本因寺の打ち上げで目をむき「大魔神」に変身、伝説の大立ち回りを演じた。(そんな彼も冬季オリンピック金メダリスト荻原健二の恩師として一躍有名に。)今だに語り草、当時プロでもこうはいかぬと評された見事なアンサンブルの坂井、土定、田村のホルンのトリオは今聴き直しても惚れ惚れする。 ![]() 今持って若さ漲る(若気の至りか)すばらしい演奏と自画自賛し得るこの演奏会の記録が、こうしてCDとしていつまでも手元に置ける幸せを、そしていつでもあの感興の時にtime slipできる楽しみを、当時の出演者、そしてこのCDを手に取られた総ての方々と分かち合えることを心から喜び、制作に当たられた中西、南両氏に深甚たる謝意を表します。 最後にとっておきの種明かしを。当時カラヤン、ベームの全盛期、手に入る限りのLPやLive tapeを聴きまくった末に、私がお手本として選んだ演奏が2つありました。今は隆盛を極める同時代楽器による復元演奏など影もなく、ようやくホグウッドのモーツアルト全集シリーズが出始めた頃であった当時、常識であったワインガルトナーの校訂を洗い直して、疑問は持たれつつも一応定番とされていたブライトコップ版スコアに極めて忠実に従い、しかもベートーヴェンのvitalityをよく生かした演奏として選び出したブロムシュテット-Dresden Staatskapelle(当時東ドイツ)の演奏が一つ目。これはかの斉藤さんに見事に見破られました。さすが!。そしてもう一つ。昨今のブームを見るにつけ「何を今更・・」の観がなくもないけれど、高校生の頃にショックを受けて以来いまだに私の宝であり続ける、チェリビダッケ-シュツットガルト放送響の1974年の演奏のAir check tapeです。マニアの方のために付け加えますと、この演奏はまだDGやEMIの正規盤には入っておらず、数年前METERという海賊盤レーベルからCD化されていました。 ![]() 本投稿は、近く発売が予定されている、金大フィルLPのCD復刻シリーズの演奏記録の内、82年サマーコンサートの、「エロイカ」のCDのために、山口氏が執筆されたライナー・ノートを、先駆けて公開させていただきました。 更新 2002/1/19 |