ピコ通信/第170号
発行日2012年10月22日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 福島県民健康管理調査で甲状腺がん1人確認 検討委員会は「放射線被ばくとは関係ない」と断言したが、これはおかしい
  2. 2012年9月17−21日 ナイロビ 第3回国際化学物質管理会議(ICCM3) SAICM討議の概要紹介
  3. 調べてみよう家庭用品(56)トピックス(6)
  4. お知らせ・編集後記


2012年9月17−21日 ナイロビ
第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)
SAICM討議の概要紹介

 9月17日(月)から21日(金)までナイロビ(ケニア)で第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)が開催されました。この会議の内容については、主催者である国連環境計画(UNEP)、会議に参加した国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)、及び持続可能な開発のための国際協会(IISD)がウェブ上にICCM3に関する多くの文書・報告書を発表しているので、ICCM3の詳細を知ることができます。
 当研究会はその中から約30項目を日本語化し、当研究会のSAICM関連情報ウェブサイト(*)で紹介しました。
 本稿ではこれらの情報に基づき、国際化学物質管理会議(ICCM)と国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)について経緯と今回のICCM3での討議と結果の概要を紹介します。
(*)SAICM関連情報/ICCM3

1.ICCM及びSAICMの経緯と概要

 ICCMとはUNEPが主催する国際化学物質管理会議のことであり、SAICMとはICCMで決定された「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」のことです。

■第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)
 2006年2月にドバイ(アラブ首長国連邦)で開催されたICCM1で、2002年ヨハネスブルグサミット(WSSD)で定められた実施計画に述べられている "2020年までに化学物質が人の健康と環境への著しい悪影響を最小限にするような方法で使用され、製造されることを目指す"とする、いわゆる"2020年目標"を達成することを目指すSAICMが採択されました。
 SAICMには、下記の3つの基本文書があります。

■第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)
 2009 年5月にジュネーブ(スイス)で開催されたICCM2では、新たに出現している化学物質問題として、◆製品中の化学物質◆電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質◆塗料中の鉛◆ナテクノロジーと工業的ナノマテリアルをSAICMの新規政策課題とすることが決まりました。
 また非公式な課題ではありますが、◆過フッ素化合物(PFCs)も取り組まれることになりました。

■第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)
 今回、ナイロビ(ケニア)で開催されたICCM3では、◆内分泌かく乱化学物質(EDCs)を新らたに新規政策課題に加えること、及び◆電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質と◆ナテクノロジーと工業用ナノマテリアルを新たにSAICMの世界行動計画(GPA)に加えることが検討され、採択されました。

2.ICCM3の概要

■参加国及び参加組織
 環境省の報道資料によれば、各国政府代表、関係国際機関、産業界、非政府機関等約120カ国、約550名の参加があり、参加国は、アフリカ、アラブ、アジア・太平洋、中央・東ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カリブ海、西ヨーロッパ・その他の地域という分類の中で、それぞれ可能な範囲で共同行動をしています。国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)に参加する多くの環境・健康・医療関連のNGOsも世界中から参加しました。

■議事  UNEPが事前に示した議事の概要は次のようなものでした。
 ◆開会◆組織事項◆各種委員会報告
 ◆SAICM実施
 (a) SAICMの実施、点検及び更新に関する評価とガイダンス
 (b) 国際条約及び国際プログラムの実施と整合性
 (c) 国内の化学物質管理能力の強化
 (d) 実施のための資金的技術的支援
 (e) 新規の政策課題
 (f) 情報交換と科学的及び技術的協力
 ◆保健分野の戦略◆政府間組織との協力◆事務局の活動と予算の採択◆その他事務的事項◆報告書の採択◆閉会

 本稿ではSAICM実施のための新規の政策課題と資金支援についての討議と結果の一部をICCM3のハイライトとして紹介します。

3.ICCM3のハイライト

■アフリア地域諸国とNGOsの意気込み
 IISD及びIPENの報告書を読むと、発展途上国と移行経済国、特にアフリカ地域の政府とNGOsのSAICMにかける期待と意気込みが感じられます。
 IPENは、"アフリカ・グループは世界の交渉の場で主導的な役割を果たしている"とするプレスリリースを9月19日に発表し、アフリカ地域の政府はINC3において、特に3つの重要な課題である◆内分泌かく乱物質◆塗料中の鉛◆安全な化学物質管理のための長期的な資金調達、に重要な役割を果たしていると称賛しました。

■塗料中の鉛
 IPENとケニアのNGOであるiLimaは、共同で『ケニアの家庭用塗料中の鉛』という報告書を発表し、9月18日にプレスリリースを発表しました。9月17日にはIPENはUNEP及びWHOと共同で塗料中の鉛廃絶のためのサイドイベントを開催しました。
 会議での議論を経て、次のような内容の決議案が採択されました。
  • 塗料中の鉛を廃絶するための世界連合(GAELP)の設立と、塗料中の鉛を廃絶するという目標を達成するための、具体的な目標、明確なマイルストーン、及び進捗指標をもったビジネス・プランを歓迎する。
  • 全ての政府、市民社会組織、民間分野がGAELPの作業に貢献し、下記6つの領域への技術的・資金的支援
    • 意識向上;潜在的な鉛曝露を特定するための技術的及び資金的支援
    • 鉛フリーの塗料の国際的な第三者認証
    • 曝露削減プログラム
    • 国家の規制の枠組み
    • 加鉛塗料の安全な代替への企業の取り組みへの技術的・資金的支援
■EDCsを新規政策課題とすること
 内分泌かく乱化学物質(EDCs)については、既に2006年のICCM1で採択されたSAICM世界行動計画中の数か所で記述されていますが、地球規模の行動を必要とする緊急の課題であるとして、今回EDCsを新規政策課題に含めることが提案され、これについて特にアフリカ地域やNGOsが強く支持しました。

 アフリカ地域は、EDCsに関する世界の意識を向上させ、能力構築を支援し、EDCsに関する情報の早期提供を確実にするための協働プロジェクトのために、EDCsを新たにSAICM新規政策課題に含めることを求める決議を提案しました。

 ノルウェーは、 全ての分野を包括的に横断してEDCsに対応するためにICCMがSAICMを利用することを強く促しました。

 これに対してブラジルは、世界保健機関(WHO)がEDCsに関する科学の現状の報告書を発表するまでこの課題に関する決議を延期することを提案しましたが、WHOは問題の報告書は現在発表の手続き中であるとして、もしEDCs を新たな新規政策課題として含めるなら、WHOは国際化学物質管理会議(ICCM)と共同で取り組む用意があると述べました。

 国際化学工業協会協議会(ICCA)は、EDCsを含めることで他のフォーラムでの作業と重複することがないよう警告し、米・国際ビジネス評議会(USCIB)は、EDCsに関する科学的知識の必要性を強調し、それらを新たに新規政策課題に加えることは時期尚早であると述べました。

 結論として、EDCsを新規政策課題に含めることが同意され、決議案が採択されました。

 なお、内分泌かく乱化学物質(EDCs)は、今回の会議における主要テーマのひとつであり、参加者の多くが高い関心を持っていたと思われます。総会においてもIPENを含む複数のNGOsがEDCsに関連する発言を行いました。IPENはポジション・ペーパーを発表して次のようなことを求めました。
  • 新規政策課題として優先的にEDCsに取り組むこと
  • 内分泌かく乱特性をもつ化学物質の世界的リストを確立すること
  • 情報交換、ラベル表示要求、能力構築のキャンペーンを通じて、EDCsの世界的な意識向上を図ること
  • EDCsに関する作業は、内分泌学の専門家はもちろん、NGOs、労働組合、及び健康分野の代表も含めること
  • 最も脆弱な集団、特に妊娠可能年齢の女性、胎児、子どもたちに影響を及ぼすEDCsの廃絶を優先事項とすること
 また会議開始の前日にEDCsに関するテクニカル・ブリーフィングが、また会期中にもEDCsに関するサイドイベントが開催されました。発表されたパワーポイント資料10点には当研究会のウェブサイトからリンクを張りました。

■ナノマテリアルを世界行動計画に含めること
 INC3準備期間中に、スイス政府はナノテクノロジーと工業用ナノマテリアルの環境的に適切な管理のための活動を新たに世界行動計画に含める提案をICCM3事務局に提出し、その提案に対して、アメリカ、EU、日本などがそれぞれのコメントを事務局に提出しました。日本政府のナノマテリアルに対するコメントは次のようなもので、消極的な態度が記されていました。
  • 法的文書の"法的"を削除し、拘束力のない枠組みを提案
  • 義務的なラベリングの"義務的"という語の削除を提案
  • ナノの定義が確立しておらず科学的知見は限定されているので、製品中のナノマテリアルの存在に関する世界的な自主的認証制度は時期尚早
  • ナノを含む廃棄物に関する規制条項の削除を提案
  • ナノのライフサイクルを通じての管理は重要であるが、ERP(拡大生産者責任)には慎重・・・
 米国、EUなども基本的には同様であり、世界行動計画に含めることになっても、義務的な活動を規定することは難しそうな状況でした。

 会議では、アフリカ地域は、ナノマテリアルを含む製品への対応を強化するためにさらなる情報交換、能力構築、及び、訓練資料の開発を求めました。ノルウェーは、ナノテクノロジーのハザードとリスクに関する情報の不足を問題にしました。スイスはメキシコと共に、ナノテクノロジーに対する包括的なアプローチを求めました。

 IPENを代表して国際環境法センター(CIEL)は、ナノマテリアルはサイズに依存する多くの新たな特性を有しているので、新たなグループとすべきこと、リオ宣言第15原則の予防的アプローチを適用すること、ナノマテリアルの義務的な登録制度を創設することを求めました(デービッド・アゾレイの発言)。

 オーストラリアと国際化学工業協会協議会(ICCA)は、EUとその27加盟国による世界行動計画(GPA)の中で提案されている活動を合理化するための提案を支持しました。ICCAとペルーは、能力構築を強調しました。

 カナダはナノマテリアルに関する作業は既存の世界行動計画の構造に収めることができると提案しました。パキスタンは、ナノマテリアルのライフサイクルと健康影響評価を開発するための支援を含めることを強く促しました。

 結論として、世界行動計画に含めることは合意されましたが、採択された決議は予想されたように規制的ではなく、法的拘束力や義務的要求のない非常に弱い下記のような内容でした。
  • リスク評価、リスク削減措置、環境、健康、安全についての研究等の情報交換の促進
  • 国際的な技術及び規制ガイダンス及び訓練資料の開発
  • SAICM利害関係者の公開対話の促進
  • 産業のスチュワードシップの役割と責任の強化、意識向上、情報交換と訓練活動、公開対話及びリスク研究への支援
  • GHSのナノマテリアルへの適用の検討
  • ナノマテリアルのライフサイクルを通じての安全な取扱いと使用を促進するため情報生成。
■電気・電子製品を世界行動計画に含めること
 アフリカ地域会合は、INC3準備期間中に、電気・電子製品中の有害物質に関する活動を世界行動計画に含めることを求める決議を採択して事務局に提案書を提出しました。これに対して日本政府が事前に事務局に提出していたコメントは次のようなものでした。
  • データベースと情報はハザード特性に限られるべきではない。特定製品グループに関連する証拠とリスクを明らかにし、そのような情報を含める方が良い
  • 製造者による実施可能/適用可能なリソースの選択のためのツールと最良の慣行は、もしそのようなツールと最良の慣行が、リソースタイプによる製品の分類を通じて、及び不適切な処分のリスクに基づいて、特定することができるなら、発展途上国と移行経時国にとって有用な情報となる。
  • 日本は、この作業領域(環境的に適切な製造)の普及の重要性を支持する。
 ICCM3でアフリカ地域は、スイス及びEUとともに、電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質の環境的に適切な管理を強化することを目的として世界行動計画にこの課題と活動を含めるよう促しました。EUは、廃棄物の国境を越える移動に関して強調することを求めました。IPENは、国連機関がこの課題に関して会合間作業を調整するよう求めました。カナダは他のフォーラムで実施される組取りみとの重複を警告しました。

結論として、世界行動計画に含めることが合意され、次のような内容の決議が採択されました。

◆この課題に関する国際的な最良の慣行のリソース一式を特定し編集し生成するための作業を継続することを決定したが、それらは下記内容を含むかもしれない。
  • 電気・電子製品中の有害化学物質の使用を低減し廃絶する設計の実施を促進するツール
  • 電気・電子製品の製造、使用、廃棄における有害な化学物質の存在を追跡し、明らかにするためのビジネス基準及び慣行
  • 潜在的なより安全な代替に関するツールと情報
  • ビジネスと政府のグリーン購入実施
  • 拡大生産者責任(EPR )政策
  • 有害物質の廃絶が可能になるか又は代替が利用可能となるまでの設計及び製造における暫定的戦略及び行動。
■製品中(CiP)の化学物質
下記概要の決議案が同意されました。

◆CiPプロジェクトを継続する。そのプロジェクトは、下記の任務に着手しつつ、サプライチェーンに沿って及びライフサイクルを通じての製品中の化学物質に関する情報のための自主的な国際プログラムのための提案を開発する。
  • 主要な利害関係者グループの責任の役割と提案を明らかにすること
  • 製品のライフサイクルを通じて様々な利害関係者グループの必要に合致するために、どのような情報が提供され、どのように情報へのアクセスと交換が行なわれるべきかに関するガイダンスを開発すること
  • 開発されたガイダンスの建材、電子機器、衣料品又はおもちゃの分野での適用可能性を実証するためのパイロット・プロジェクトを実施すること
  • 消費者の意識を向上させ、ビジネス、産業界、及びその他の利害関係者から支持を得るための活動を実施すること
  • 決議はさらに、CiPプログラムはGHSを考慮し;UNEPに対して関連する文書の作成及び前述の任務の成果を検討するために多様な利害関係者のワークショップの促進を要請し;全ての利害関係者に対して自主的で適切な人的、資金的及び現物リソースを提供するよう促し;UNEPに対して前述のプログラム提案をICCM4に提出するよう要請する。
■実施のための資金的及び技術的リソース
 2020年目標を達成するためにSAICMの実施に要する資金調達について議論がなされました。
 ラテンアメリカ・カリブ海地域は、アフリカ地域及びアジア太平洋地域、及びその他の諸国と共に、長期資金調達制度が運用できるようになるまで、現状の短期的資金調達のためのクイックスタートプログラム(QSP)を延長することを求めました。IPENは、化学産業の拡大を挙げ、産業が"公平な分担を支払うべき時であると強調しました。

結論として、下記内容などが決まりました。

  • クイックスタートプログラム(QSP)をICCM4まで延長すること
  • 長期的資金調達については、UNEP事務局長が提案した化学物質と廃棄物の適切な管理のための資金調達への統合されたアプローチに関するドラフト提案を含んで、2012年11月の地球環境ファシリティ(GEF)理事会及び2013年2月のUNEP管理理事会で検討されること
  • 産業の資金調達への関与が求められる
(まとめ:安間 武)


化学物質問題市民研究会
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