USC ケック医学校ニュース 2021年9月1日
日用品中の残留性環境有害物質への暴露は
ラテン系若者の糖尿病リスクを増大させる

USC ケック校の研究者による研究が’永遠の化学物質’と
グルコース代謝の変化との関連を発見
ジェレミー・ドゥッチマン
情報源:USC Keck School News September 1, 2021
Exposure to persistent environmental toxins in everyday products
may increase diabetes risk in Latina adolescents

Study by Keck School researchers finds link between
'forever chemicals' and changes in glucose metabolism
By Jeremy Deutchman
https://keck.usc.edu/exposure-to-persistent-environmental-toxins-
in-everyday-products-may-increase-diabetes-risk-in-latina-adolescents/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年10月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/210901_USC_
Exposure_to_persistent_environmental_toxins_in_everyday_products
_may_increase_diabetes_risk_in_Latina_adolescents.html



 新しい USC(南カルフォルニア大学)の研究は、「永遠の化学物質」として知られる環境汚染物質のあるグループが、ラテン系の女の子の 2型糖尿病のリスクを高める可能性があることを発見した。パー-及びポリ-フルオロアルキル物質(PFAS)と呼ばれるその汚染物質は、調理器具、防汚剤、ピザボックスなど、さまざまな工業製品及び消費者製品で米国全体で使用されている人工化学物質のグループである。

 ”PFAS は非常に広く使用されており、分解しないため、約 2億人のアメリカ人の飲料水を汚染している”と、 USC のケック医学校の地域住民・環境衛生科学の教授であり、環境健康に関する新しい USC の橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ)センターの所長であるレダ・チャッチ博士(MD, PhD)は述べた 。”これは、思春期・若年成人(訳注:AYA 世代 / adolescents and young adults)のグルコース代謝(訳注1)への潜在的な影響を経時的に測定した最初の研究である。”

 この研究は、Environmental Health Perspectives に掲載されている。

 研究者は、SOLAR(2型糖尿病のリスクがあるラテン系若者の研究プロジェクト)(訳注2)の中から 8歳から 13歳までの 310人以上のラテン系の子どもたちを調べた。各参加者は、研究の開始時に特定の PFAS のレベルについてテストされ、その後、最大12年間追跡され、体がどのようにブドウ糖を代謝したかを毎年チェックした。

PFAS とグルコース代謝

 この研究のデータは、パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)(訳注3)と呼ばれる PFAS のレベルが小児期に高い女の子は、子どもとして PFHxS のレベルが低かった女の子よりもグルコースの代謝が思春期後期から低い傾向を示した。高レベルの PFHxS と調節不全のグルコース代謝との関連は、思春期後に増加し、18歳まで持続した。研究者たちは、南カリフォルニアの子どもたちの健康調査とは別の若年成人グループで調査結果を再現し、この関連性が成人期まで続く可能性があることを示した。

 この研究では、男児における高レベルの PFAS と調節不全の糖代謝との間に一貫した関連性は見られなかった。

 ”思春期の糖代謝に最大の変化が見られ、少年と少女の間で思春期に多くの違いがある”と、USC のケック医学校の博士研究員で研究の筆頭著者であるジェシー・グッドリッチは述べている。 ”ひとつの仮説は、PFAS が性ホルモンと相互作用する可能性があるというものである。 PFAS と 2型糖尿病との関連の背後にある生物学的メカニズムを調べることにより、この研究をフォローアップする予定である。

2型糖尿病のリスクが高い若いラテン系アメリカ人

 米国のラテン系の子どもたちの糖尿病の割合は、非ヒスパニック系白人の子どもたちの 5倍である。ラテン系の成人では、その割合は非ヒスパニック系白人よりも 80%高くなっている。しかし、食事とライフスタイルだけでは違いはわからない。

 ”2型糖尿病は潜在的に予防可能であり、焦点となる重要な領域のひとつは環境への影響である”とチャッチは述べている。”PFAS 暴露は、焦げ付き防止調理器具や食品保管用のプラスチック容器を避けるなど、個々の行動によって変更可能である。しかし、私たちはひとつの場所またはひとつの暴露源だけにさらされているわけではない。 PFAS はいたるところに存在する。政府は PFAS の使用を規制する上で主要な役割を果たすことができる。”

 環境保護庁によれば、特定の PFAS 化学物質は米国で製造されなくなったが、国際的には製造されており、カーペット、皮革、アパレル、繊維、紙、包装、コーティング、ゴム、プラスチックなどの消費財で米国に輸入されている。下院は本年 7月 21日に PFAS 行動法を可決した(訳注4)。これにより、環境保護庁はこれらのいわゆる「永久化学物質」の国内飲料水基準を確立する必要がある。

研究について

  Chatzi (チャッチ)と Goodrich(グッドリッチ)に加えて、この研究の他の著者には、USCの Brittney Baumert、Zhangua Chen、Frank Gilliland、Katerina Margetaki、Sarah Rock、Nikos Stratakis、David Conti、コロラド大学ボルダー校の Tanya Alderete;コロンビア大学の Kiros Berhane;ロサンゼルスの小児病院のマイケル・ゴラン、エモリー大学医学部の Xin Hu と Dean Jones;マウントサイナイ医科大学のダマスキニ・ヴァルヴィとダグラスウォーカーが含まれる。

 この研究は、国立環境衛生科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)によって支援された。(R01-ES029944, T32-ES013678, R00-ES027853, R00-ES027870, R21-ES029328, P30-ES023515, P01-CA196569, P30-ES007048, P30-CA014089, R01-ES030691, R01-ES030364, R21-ES028903, R21-ES029681).


訳注1:グルコース代謝
訳注2:CORC と2型糖尿病
訳注3:パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)
訳注4:下院 PFAS 行動法を可決
訳注:当研究会が紹介した PFAS 関連記事
訳注:欧米日の PFAS 取り組み


化学物質問題市民研究会
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