EHP サイエンス・セレクション 2020年10月9日
PFAS と人間の流産:
希薄な証拠を拡大する

ウェンディ・ニコル
情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection 9 October 2020
PFAS and Miscarriage in Humans: Expanding a Sparse Evidence Base
By Wendee Nicole
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP7479?utm_source=EHP&utm_medium=email&utm_campaign=Monthly+TOC+Alert"

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年11月12日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/201009_ehp_
PFAS_and_Miscarriage_in_Humans_Expanding_a_Sparse_Evidence_Base.html

アブストラクト

 研究により、特定のパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質(PFAS)がげっ歯類の流産、低成長及び仔の死亡など、有害な出産結果に関連付けられた1,2。ヒトでは、妊娠高血圧症3、 出生時低体重3及び流産4との関連の証拠がいくつかある。Environmental Health Perspectivesに発表されたネステッド・ケース・コントロール研究5訳注1)は、PFAS暴露が人間の流産リスクと関連しているかどうかをさらに評価する。


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 PFASは、防汚性および焦げ付き防止のコーティング、塗料、洗浄剤、および多くの消費者製品に含まれる残留性の環境化学物質である。 2000年代初頭から中頃にかけて、広く知られている 2つのPFAS(PFOAとPFOS)の生産は、米国では自主的に段階的に廃止され、欧州連合では使用が制限されている8。ただし、これらの化学物質は類似化学物質で代替されているが、それらの潜在的な健康への影響についてはあまり知られていない9
画像:(c)iStockphoto / DragonImages。
 新しい研究の著者は、デンマークの全国出生コホートのために 1996年から 2002年に応募して登録された女性における 7種類の PFASへの暴露と流産リスクとの関係を調べた。研究参加者には、無作為抽出された流産した220人の女性と出産した 218人の女性が含まれていた。研究の主著者であるイェール大学公衆衛生学部環境健康科学準教授ザヤン・リューは、PFAS の暴露レベルは、研究期間中である 1996年から2002年まで、デンマークと米国の間で同等であったと述べている。

 研究者らは、妊娠8週頃に提供された血液サンプルを 7つの PFAS(パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、パーフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、パーフルオロヘプタンスルホン酸(PFHpS)、パーフルオロノナン酸(PFNA)、パーフルオロデカン酸(PFDA))及びパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOSA)についてテストした。これらの PFASのいくつかは、PFOA 及び PFOS の代替品として使用されている新しい化学物質である。

 交絡因子(母体の年齢、出産経歴、妊娠第一期の喫煙とアルコール摂取、流産の病歴、及び両親の社会的職業的地位)を調整した後、著者らは PFOA と PFHpS が最も一貫して流産と関連していることを発見した。他の 3つの化学物質(PFOS、PFHxS、及び PFOSA)の場合、流産の推定リスクは、特定の四分位数の暴露でより高かったが、明確又は一貫した暴露結果パターンはなかった。流産は、7つ全ての PFAS の混合を表す指標にも関連していた。

 ”全体として、これは非常にうまく実施された研究であり、PFAS が流産及び他の妊娠結果に及ぼす潜在的な影響に関する有意義な証拠を追加している”とマサチューセッツ大学アマースト校の疫学準教授で、この研究には関与していないヨセフ・オウルホートは述べている。”主な強みのひとつは、よく特徴付けられた出生コホートのひとつへの依存に加えて、PFASのこの早期測定である”。

 オウルホートは、著者がさまざまな交絡因子を検討し、感度分析の徹底的なセットを使用して複数のシナリオを調査したと付け加えている。”著者らは、流産と生殖歴の複数の危険因子を調整しようとしたが、残留交絡を排除することはできない”と彼は言う。

 妊娠歴(parity)による交絡は、おそらくこのような研究における最大の問題である。あるひとつ研究では、以前に出産した妊婦は、出産しなかった女性よりも一貫して PFAS 暴露と妊娠までの時間との関連を示した6。”分析では、最後の妊娠結果と最後の妊娠以降の時間差(last pregnancy outcome and time gap since last pregnancy)が管理されていた。効果の推定値は、経産婦の方が強いようであった”と主著者のリューは説明する。”それが、女性の生殖歴からの残留交絡の可能性を提起した”。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生殖の健康と環境に関するプログラムのディレクターであり、この研究には関与していないトレイシー・ウッドラフは、この研究が興味深いと感じた。 ”デンマーク国立出生コホートは、環境暴露と妊娠の悪影響に関する質問に答えるための、豊富でよく構築された将来のデータのソースであると、ウッドラフは言う。 ”著者らが指摘しているように、PFOA への暴露が血液サンプルで測定されるPFOAと流産との関連を発見したいくつかの研究1,2がある。そして、これらの研究は、動物研究による広範なデータによって裏付けられている。流産への環境影響を評価するために、動物データをしっかり活用する必要がある”。

 ”結論として、これらの化学物質は有害であることがわかっている”とウッドラフは言う。 ”私たちは他の多くの研究の結果もから、それらの有害性を見てきた。したがって、その観点から、これは、この問題に環境汚染物質の寄与があることを示す重要な研究である。また、米国のほとんどの人々が PFAS にさらされていることを考えると7、州および連邦レベルでこれらの暴露を軽減するための取り組みに対する追加のサポートが必要である。

 ウェンディ・ニコル(Wendee Nicole)は、テキサス州ヒューストンを拠点とする受賞歴のあるサイエンスライター兼編集者である。彼女は、Discover、Nature、Scientific American、およびその他の出版物に寄稿している。


訳注1:ネステッド・ケース・コントロール研究
Nested Case-control Study (疫学 と統計学の基礎講座/嶋本 喬)
 nested case control studyは 比較的新しい疫学の分析方法である。これは Breslow らにより示されたもので、cohortstudy の中に case-control study の手法をもちこむことによって、両手法の長所を併せもった分析を行なえるようにしたものである。つまり cohort という nest(巣)の中から case と contorolを選びだして研究を行ったところから、このように命名されたのであろう。・・・

原注
1.
Lau C, Thibodeaux JR, Hanson RG, Narotsky MG, Rogers JM, Lindstrom AB, et al.2006. Effects of perfluorooctanoic acid exposure during pregnancy in the mouse. Toxicol Sci90(2):510-518, PMID: 16415327, 10.1093/toxsci/kfj105. Crossref, Medline, Google Scholar
2.
Luebker DJ, York RG, Hansen KJ, Moore JA, Butenhoff JL. 2005. Neonatal mortality from in utero exposure to perfluorooctanesulfonate (PFOS) in Sprague-Dawley rats: dose-response, and biochemical and pharamacokinetic parameters. Toxicology215(1-2):149-169, PMID: 16129535, 10.1016/j.tox.2005.07.019. Crossref, Medline, Google Scholar
3.
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4
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5.
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6.
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