CHE パートナーシップ・コール 2006年3月22日
内分泌かく乱と環境健康
「奪われし未来」 から10年

テオ・コルボーン博士:EDX, Inc. 代表
ダイアン・ダマノスキーさん:ボストン・グローブ紙元記者
ジョン・ピーターソン・マイアーズ博士:エンバイロンメンタル・ヘルス・サイアンス(EHS)代表
司会:スティーブ・ヘイリング:サンフランシスコ医学会公衆健康と教育部ディレクター

情報源:CHE Partnership Calls, March 22, 2006
Endocrine Disruption and Environmental Health: Ten Years After Our Stolen Future
Theo Colborn, Ph.D., President, TEDX, Inc.
Dianne Dumanoski, former reporter for the Boston Globe
John Peterson Myers, Ph.D., CEO of Environmental Health Science
Call Moderator: Steve Heilig, MPH, Director of Public Health and Education
http://www.healthandenvironment.org/articles/partnership_calls/346

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年4月30日
更新日:2006年5月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/che/CHE_Calls_060322_Endocrine.html

訳注:
原著:Our Stolen Future: Are We Threatening Our Own Fertility, Intelligence, and Survival?
    - A Scientific Detective Story
邦訳:『奪われし未来』 長尾 力 訳 翔泳社 発行(1997年9月初版)


 この電話会議は2006年3月22日、太平洋時間午前9時/東部時間正午12時に行われ、影響力のある著書『奪われし未来:我々は自身の繁殖、知性そして生存を脅かされているのか? 科学探偵物語』 から10年後の内分泌かく乱物質の現在の状況について討議された。


電話会議録
1. 紹介:エレニ・ソト
2. 歓迎:スティーブ・ヘイリング
3. 最初のスピーカー:テオ・コルボーン博士
4. 二番目のスピーカー:ダイアン・ダマノスキーさん
5. 三番目のスピーカー:ジョン・ピーターソン・マイアーズ博士
6. 討議と Q & A (訳省略)

1. 紹介:
エレニ・ソト CHE 国内コーディネータ


 皆さん、おはようございます。この電話会議に参加いただきありがとうございます。私はエレニ・ソトと申します。環境と健康共同(Collaborative on Health and the Environment / CHE)の国内コーディネータです。今日の電話会議は、”内分泌かく乱と環境健康 『奪われし未来』から10年”という議題です。

 この会議の司会者はスティーブ・ヘイリングです。彼はサンフランシスコ医学会公衆健康と教育部及びCHEのディレクターです。我々は今日の議題に関連するいくつかの記事と資料を我々 CHE のウェブサイトに掲載しました。もしこれらの資料をご覧になりたければ、そしてお手元にコンピュータがあれば、どうぞ hhttp://www.healthandenvironment.org/をご覧ください。CHEのウェブサイトです。
 (コンピュータ操作についての説明:省略)

 この電話会議は1時間続きます。会話は録音されMP3オーディオファイルと会議録が来週中にはウェブに掲載される予定です。次に4月の CHE パートナーシップ・コールの予定を申し上げたいと思います。日時は4月28日太平洋時間午前9時/東部時間正午12時です。議題は”科学の高潔さ”です。この電話会議の詳細は来週中に我々のCHE パートナーにメールで連絡いたします。それでは電話をスティーブにお渡しします。スティーブ?

2. 歓迎:
スティーブ・ヘイリング:サンフランシスコ医学会公衆健康と教育部及び CHE のディレクター


 皆さん、おはようございます。そして良い日和です。これは間違いなく評判の電話会議となりますが、私は実際、それには驚きません。このアイディアは、6ヶ月前に私が書いている記事の参照を探している時に出てきました。私は『奪われし未来』という本に手を伸ばしましたが、この本の中にはいまだにすばらしい関係書目録があります。

 そこで医学会のジャーナルのある号と一緒にしましたが、それは CHE の全てのパートナーが、我々が話し合っているような様々な問題に関し、直ぐにアクセスできるでものです。私は『奪われし未来』の著者らに”10年後”という簡単なエッセイを書いていただきたいとお願いしました。それが、先ほどエレンが述べた CHE ウェブサイトにある関連資料のひとつです(訳注1)。その時に我々は思いました。”そうだ。我々は3人に電話に集まっていただき、お話をしたい。”そしてこれは必ず評判の電話会議になると確信しました。
訳注1
奪われし未来:10年後/ジョン・ピータソン・マイヤーズ、ダイアン・ダマノスキ、テオ・コルボーン
  (当研究会訳)

 この本自身もまた評判です。どうしてそれが分るかって? 今の時代には Google (検索エンジン)に行くのです。昨日、の Google で、”Our Stolen Future”と入れてみました。114,000 ヒットし、そのうち780は重複したものでした。もうひとつの測定方法は Amazon.com です。昨日、人気コンテストを見ると 17,916票でした。それは、非常に有名な本『The Power of Positive Thinking by Norman Vincent Peale』の次を行くもので、その本は700万部売れています。

 今日のスピーカーからこの本を簡単に紹介するよう私に依頼がありました。私はこの会議を聞いている多くの人々はすでにそれを読んでいると思います。しかし、それでは非常に簡単に・・・。1950年、奇妙な名前のジャーナル『もし実験的生物学と医学があれば、その議事録』の論文に最初の研究があり、そこでは農薬である DDT がエストロゲン様の作用をするということが示されていました。十数年位後に、もちろん1962年に、『沈黙の春』が世に出ました。それはエストロゲン様作用ついて幾分触れましたが、しかし多くは、がん及び鳥と野生生物に目が向けられていました。それからさらに四半世紀後、10年前に、『奪われし未来』が、OSF として多くの人々に知られていますが、世に出ました。当時の副大統領アル・ゴアは序言の中で、それを”沈黙の春の志を継ぐ書物”と呼びました。

 なぜこの本はそのように重要であったのか? なぜ我々は、今日、それに注目しているのか? 私はそれには5つの理由があると思います。まず第一に、第二次世界大戦後の化学物質の使用量の爆発的な増加の下に使用に供された化学物質が、ホルモン的なメッセージを出し始めており、著者らによって”ホルモンの大混乱(Hormone Havoc)”と呼ばれたものを生み出しましたが、それが科学と証拠という非常に感覚のよいものを提供したということです。これは実際、ある章のひとつのタイトルとなっています。

 彼らは、4,000以上の証拠、ほとんどが動物−を用いました。そこには、ワシ、カワウソ、キンギョ、ホッキョクグマ、クジラなどの記述があります。それは生物蓄積係数の概念についての、そして特に批判された長年のパラダイムである”毒性は用量次第”についての話があります。そして彼らは発達影響−特に子宮内で−の概念を加えました。

 この本からの引用として、”ホルモンかく乱化学物質は古典的な毒物でも一般的な発がん性物質でもない。彼らは、用量が多ければダメージも大きいという仮定に立つテスト・プロトコールの直線的な論理に真っ向から立ち向かった”−を挙げます。もうひとつの理由は人のための証拠と影響を探究し、議論のある領域に踏み込んだことです。彼らは、DDTとDES、PCB、ダイオキシン、そして精子数、前立腺がん、乳がん、子宮内膜症、流産、そして学習発達生涯などへの影響について話をしました。

 化学物質に関し、がんに焦点をあてるという従来の見方を彼らは乗り越えて、実際にそれをもっと広げました。影響は特定の病気だけに及ぼすのではなく、彼らが、”生まれる前から人の潜在能力を奪う”と呼んだような機能にも及んでいることを示しました。

 三番目の重要な見地は、第12章に行動のための勧告項目を挙げたことです。それは、”我々自身を守ること”と呼ばれています。今、これらを読んでも、それらは依然とし有効であり必要なことです。そして我々が、今日、それらのあるものについて少しは前進していることを望みます。

 四番目は、これは非常に重要なことですが、サブタイトルに”科学的探偵物語”とつけたことです。ワシントン・ポストが”環境スリラー小説”と呼んだものを作り出すために、彼らは実在の人々を登場させました。この電話会議に参加している人々のうちの何人か、そして我々のスピーカーらです。このことは非常に重要です。それが、現在でもアマゾンで人気を得ている理由です。この点について私は申し上げたい。それは無味乾燥な本ではなく、非常に魅力的な読み物なのです。

 そして最後ですが重要なことは、我々 CHE の見解に示されていいることです。これは CHE の電話会議ですから・・・。CHE 合意声明を見れば、趣旨が書かれており、そこには科学があります。それは我々が行っていることの多くをはっきり示しています(訳注2)。それは我々の使命の一部であり、まさに我々がしようとしていることの一部です。
訳注2
The Collaborative on Health and the Environment (CHE) Consensus Statement
  (後日、翻訳紹介の予定)

 それでは、我々のスピーカーにお話をしていただきますが、順序はこの本に従った順番としましょう。テオ・コルボーン博士。第一章は、実際に判明したことについて7年間にわたってまとめたことを詳細に記述したものです。彼女は現在、”内分泌かく乱についての交流(Endocrine Disruption Exchange)”の代表であり、今までに世界野生動物財団(WWF)及びアメリカ EPA、国連、国立研究協議会などで活躍され、2004年には、公益科学センター(Center for Science in the Public Interest)からレーチェル・カーソン賞を受賞されました。

 彼女について魅惑的なことのひとつは、私は本当に感激させられることだと思いますが、彼女がこの分野を大学院で学び始めたのは51歳の時であり、それは彼女が以前にかかわっていた薬剤師の道ではなかったということです。私がアマゾンで調べると、読者は自分の感想をそこに投稿できるのですが、最初のアマゾン感想文はスターと遭遇したように書かれています。それは、”私はテオ・コルボーンに会った”と言っています。それは一人の女性からのものですが、”栄養学会議で私は食物とナルゲン(訳注3)の飲料水容器を持って座りました。私が座った時にその日の講演をすでに終わらせていた一人の女性が話しかけてきました。’その水を飲むのはおよしなさい。’私はあっけにとられましたが、彼女の一言で有毒物質と食物及び容器についての長い会話を始めることとなりました。私はさようならをしてから、帰りの飛行機の中で彼女の本を読みました。それは分厚い科学書でしたが、私は読むのをやめることができませんでした。我々の将来を気づかう人々にとって、これは必読の書です。”それでは、これからコルボーン博士にお願いしましょう。
訳注3
Nalgene社製ポリカーボネート・プラスチック製容器

3. 最初のスピーカー:
  テオ・コルボーン博士:内分泌かく乱交流(EDX, Inc.) 代表


 最初に、私は CHE の全ての方々にこのような電話会議を開催していただいたことを感謝いたします。私はお祝いをするのにこれ以上の良い方法は思い当たりません! しかし、本日、お話をするにあたり、『奪われし未来』の場面は1994年に終わっているということを指摘したいと思います。我々がこの本の原稿を印刷するまでに、1995年の初頭の事柄を押し込むのがやっとでした。

 したがって、実際には、『奪われし未来』の中の科学は現在12歳です。しかし、その時までにピアレビューされた論文の中で内分泌かく乱についての新たな研究がすでにぽつぽつ発表され始めていました。今日では、ほとんど毎週開催される内分泌かく乱に関連した会議、セミナー、ティーチインなどの活動や新たな論文をフォローし続けることはほとんど不可能です。

 この本が10年前に世に出て以来、この本を書いている間に我々が予測したよりもはるかに深刻な問題であるということを確認する広範な証拠が積み上がっています。『奪われし未来(OSF)』はこの問題をはっきりと理解していました。内分泌かく乱がどのようにして発見されたかについて知るためには OSF が出版される8年前1988年にまでさかのぼる必要があります。カナダの報告書が、深刻な生殖被害を受けており、ある種はすでに絶滅している五大湖の上位16捕食種をリストにしました。

 その報告書は、種の減少は卵又は子宮中で胎児が受けたダメージの結果、野生生物の子孫が適切に発達しないことに関係があることを明らかにしました。それらの動物において報告されている最も有害な健康影響は内分泌機能のかく乱の結果でした。ダメージの範囲は、当時母動物の体内に多く存在していた化学物質である残留性の有機塩素系汚染物質の量の増加と関連していました。

 化学物質の従来の毒物学的テスト手法では広範な数の合成化学物質を規制の安全ネットで捉えることができないということがわかった時には、そして、合成化学物質は市場に出される前に発達と機能に与える影響についてテストが行われていなかったというこがわかった時には、ショックを受けました。それから、1991年7月に、異なる17分野からの21人の科学者らが、性的発達における化学的に誘引される変更−野生生物と人の関係−について討議するためにウィスコン州ラシンのウィングスプレッド会議センターで人里離れた週末を過ごしました。

 そこでは起きたことに関し注目すべきことは、1991年9月にひとつの合意声明が発表され、1992年にテクニカル・ブックが刊行されたことです。しかしそれは一般の人々が理解するためには非常に難しいものでした。それにもかかわらず、その本は世界中の学者らに灯をともし、それはピアレビュー文献の中で見られる論文の洪水となって現われ始め、OSFも出版されることになりました。しかし、それはまた目立たないけれども、しかし非常に潤沢に資金供給された、国際的企業と多国間にわたる業界組織による世論操作と戦術的計画の洪水が、内分泌かく乱について、否定し、嘘をつき、政治家、規制機関担当者、及び公衆を混乱させ始め、それは現在に至るまで増大し続けています。

 しかし、1993年、私は誰でもが理解できるような本を書くよう勧められました。私はピーターとダイアンのところに行き、”私を助けて!”と言いました。私はここTEDXで見なければならない多くのデータベースに囲まれていましたので、残念ながら私一人でできるなどと楽観的にはなれなかったからです。現在は、どこに向けて”我々を助けて”といえばよいのでしょう?  私は、内分泌かく乱影響について化学物質をテストするためのスクリーニングと分析の設計を設定するためのEPAの3つの委員会のメンバーでした。その期間中、委員会に対し内分泌フィードバック・システムの中で学界から低用量データ及びその意味合いについての提出と討議は一度も行われませんでした。従来の毒物学教義を検討するための時間をとる可能性はありませんでした。部屋の中にいて、完成させるべき精密な仕事を与えられ、それを実行するための一対の工具を与えられているようなものでした。

 現在は大学のキャンパスでなされる科学や産業界のラボでなされる科学とEPAによるものとの間には大変な隔絶があります。そしてまた、大学で発見されたことと公衆の安全を決定するために用いられるものとの間にも大きな断絶があります。

 しかし、私のチームと私は、内分泌システムがどのように機能し、どのようにかく乱されるかについての新しい発見があるたびに大喜びしたことを申し上げなくてはなりません。そして、もちろん、数週間前のわくわくするような発表にも喜びました。それはエンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)から指弾を受けていたデュポン社があるテフロン関連化学物質の製造を削減するとEPAに約束したと発表したことです(訳注4)。しかしこの場合、たった一つの企業と一つの化学物質族が対象となっただけです。内分泌かく乱物質の場合には、世界中のほとんど全ての主要企業がそれらを製造又は使用しています。
訳注4
EPA プレスリリース 2006年1月25日EPA、PFOA の排出削減をメーカーに求める(当研究会訳)
 (環境団体 EWG の長年の働きで、EPAは本年1月25日、PFOA及び分解してPFOAになるフッ素化合物の排出削減と製品中の残留を2010年までに95%削減し、2015年までに曝露源を除去するよう取り組むことをデュポン、3M、アサヒガラス、ダイキンを含む8社に要請した。−訳注)

 我々は100のエンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)を持っているわけではありません。我々は、10年たっても内分泌かく乱を検出する大まかな分析の一つも提案することができない完全に機能不全におちいった一つの機関を持つだけです。ありがとうございました。それではダイアンにお渡しします。

スティーブ・ヘイリング:
 これからお話をうかがうダイアンをご紹介したいと思います。彼女は、1970年のアースデーやテレビ報道記者、そして環境問題に目向けた著名な環境ジャーナリストとしてこの本の”スリラー”の面に最も貢献されたといっても他の二人の著者に失礼になることないと私は感じています。ボストン・フェニックス紙及びボストン・グローブ紙の記者です。彼女はマサチューセッツ工科大学(MIT)の科学ジャーナル Knight Fellow であり、また彼女の母校であるエール大学でも講演を行いました。それではダイアン?

4. 二番目のスピーカー:
 ダイアン・ダマノスキーさん:元ボストン・グローブ紙記者


 こんにちは。この記念日は、いかに我々が内分泌かく乱の複雑性について知らせることに成功したかを記す理想的な時です。私は、我々が”スリラー”の面でうまくいったと考えていますが、このアイディアを全体を通じてどのようにうまく織り込んだのでしょうか?

 "『奪われし未来』は、この新しい化学的危険性を分りやすく描き出すことを何よりも目指しました。当時、テオ、ピート、そして私は一緒に本を書くことについて話し合い、テオが言ったとおり、内分泌かく乱についての本がすでに出版されていました。タイトルは、・・・少し深呼吸して・・・『性的及び機能的発達における化学的誘引による変更:人/野生生物との関連』です。それは歴史的なウイングスプレッド会議に参加した科学者らの仕事であり、それぞれの著者の専門分野毎に独立した章立てとなっていました。そのタイトルが示すとおり、非常に限られた人々以外には手に届きにくい内容でした。

 親しみやすい二番目の本を書く理由は、この本より30年早く『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンを奮い立たせたものと同じような理由でした。彼女の本の中で、カーソンは最初にいかに合成化学物質が人の健康に影響を与えているかという疑問を提起しました。我々の本はその疑問を追究しただけではありません。我々の本は最終的には、いかに合成化学物質がカーソンが述べた鳥類やその他の動物に様々な生殖障害を引き起こしたかについて説明しました。

 『沈黙の春』と同様に、『奪われし未来』は科学者ではない人々のために書かれました。『沈黙の春』の力はカーソンの記述力だけでなく、現代科学のばらばらで専門化した世界で、広く無視されていた仕事−合成化学物質に関する極めて重要な仕事−を取り上げたという事実によるものです。彼女は、様々な科学分野に散乱していた証拠の破片を集め、その意味を特定し、より広い像の描写を試みました。

 我々の目的は多くの点で同じでした。我々は、科学的情報をもっと分りやすい言葉に翻訳したいと望みました。我々は、この科学的な本の中で、多くの科学分野に散乱していた証拠を合成し、異なる角度からの様々なスナップショットを集めて、もっと一貫した全体像を描き出すことを望みました。我々は認識されていないリスクについて警告したいと思いました。我々は化学物質の危険性について考える現在の枠組みに挑戦したいと考えました。しかし、我々は、とりわけ、内分泌かく乱について新たに出現した証拠が、答を必要とする深刻で緊急な疑問を提起したと信じています。

 ホルモンやその他の化学的メッセージをかく乱する化学物質は、当時、小さな限られた科学者の仲間に、そのあいまいな現象が知られているだけでした。我々はこの問題に光をあて、世間の関心を呼び起こし、その疑問を公共政策の議題になるようにしたいと思いました。我々は、一般の人々の懸念が研究−これらの質問に答えるために必要な研究と可能性ある危険のよりよい評価−のためにもっと多くの資金を呼び起こすとを希望しました。我々は、一般の人々の懸念と結びついたもっと多くの証拠が化学物質を製造と環境から排除するための規制を促進することを希望しました。

 そこで、この10年間を振り返ってみると、我々はどのくらい成し遂げたことでしょうか? この本を書きながら、我々はそれが大きな波紋を投げかけるか、又は他の多くの本の暗いプールに中に石のように沈んでしまうか、どちらかであろうと考えました。しかし、『奪われし未来』は大きな波紋を投げかけました。我々は我々の懸念の多くを描きだし、アメリカだけでなく、世界中に注意を喚起することに広く成功しました。

 しかし、私は個人的には、記者らがストーリーを扱う方法に挫折感を感じました。彼らはしばしば、物事の兆候のうち、ひとつ又はふたつに目を向けるだけでした。精子の数の減少。乳がん。性比の傾向と野生生物。プラスチック危険性のタイプ。いつも話はそこで終わってしまいます。彼らはもっと広範な現象について何も言いません。彼らは我々が非常に一生懸命に示そうとした現在の本質的な像のほんの一部だけに目を向けました。そのようなアプローチで、例えばタイロン・ヘイズの”カエルの研究 (訳注5)”について、もっと大きな難問の重要な部分ではなく、アトラジンのためにカエルに起きている不幸なことがらだけが取り上げられました。
訳注5
農薬混合物、内分泌かく乱作用、そして両生類の減少我々はその影響を理解しているか?/OSFの解説(当研究会訳)

 すでに申し上げたとおり、『奪われし未来』は、がんだけではない化学物質の危険性を議論するよう全員が力をそろえた努力の結果でもあります。この点に関しては、我々は部分的に成功したと私は思います。記者らが内分泌かく乱物資と様々ながんとの可能性ある関連についてハイライトしようとした時には本当に激怒しました。その時には発達系をかく乱するという強い証拠がすでにあったにもかかわらずです。しかし、これは予測されたことでした。ジャーナリストも記者も古い思考形式、”有毒化学物質はがん”の方が居心地が良いのです。事実、私がボストン・グローブ紙にいた時には内分泌かく乱物質について一言も記事にしたことがありませんでした。それは私があまりにも一生懸命この本を売ろうとしていたので、私の周りの記者たちは精子数の現象やメスのカモメの巣作りのことなどに気が回らなかったのです。

 私が思うに、我々の最も野心的な目標は化学物質に関する一般の人々の議論のために新たな包括的な枠組みを作り上げることでした。そのためになすべきことは、我々は、一般の人々の頭の中に、職業的科学的集団の中に、そして政府や規制機関の中に長い間存在している前提に挑戦することでした。私の考えでは、この本は重要な概念の移行に拍車をかけることに役立ちました。しかし、我々は、高用量暴露におけるがんを越えて、低レベル暴露における発達系への危険性にまで、懸念を拡大するという目標を完全には達成していません。

 長らく安全であると考えられてきたいたるところにあるバックグランド・レベルでの暴露が現在、ある科学的及び医学的集まりの中で懸念の対象となってきているものもあるということは事実であり、私は、過去10年間に、一般の人々がそれがいったい何なのかということについて明確な考えを持ったとは思いません。これは、内分泌かく乱現象の本質的な複雑さやメディアのこの問題のバラバラな取り上げ方など、多くのことがらのためかもしれません。
 そしてウイングスプレッドにおける”内分泌かく乱”という包括的な言葉の選択ですが、私は経験から、オゾン・ホール”や”酸性雨”のような比喩的で効果的な名前は、複雑なな問題を一般の人々に伝えるために非常に役に立つと申し上げることができます。ありがとうございました。

スティーブ・ヘイリング:
 ダイアン、どうもありがとうございました。それでは、我々の三番目のスピーカーであるジョン・ピーターソン・マイアーズ博士ですが、彼は、環境健康科学(Environmental Health Sciences)の設立者であり代表です。この組織は、健康の環境的関連に関する一般の人々の理解を推進し、また、環境健康ニュース(Environmental Health News )を出しています。このニュースはCHEパートナーなら誰でもが知っており、ニュースレターも受け取っていると思います。彼は、アルトン・ジョーンズ財団のディレクターであり、オードゥボン協会(米国の野生生物・自然保護団体)及び自然科学会の上級研究者であり、もちろん、『奪われし未来』の共著者であります。それではピート?

5. 三番目のスピーカー:
ジョン・ピーターソン・マイアーズ博士:環境健康化学物質(EHS)代表


 スティーブ、大変ありがとうございます。そしてダイアンとテオ、どうもありがとう。この本を書いたことはすばらしいことでしたし、魅惑的な仕事でした・・ [聞こえない]。私が振り返ってみて、我々が成し遂げたことで最も重要なことは文字通り数億ドル(数百億円)を科学的研究に投資させる引き金になったことだと考えています。カナダとアメリカ、ヨーロッパ、そしてその他どこでも、テオが述べたように、実際一人の人間が全てをフォローするのは不可能であるような新たな科学の洪水を生み出したのも、この投資です。

 1996年に我々が見た科学は、ある領域では強く、他の領域ではそうでもないという状況でした。まだ結論を出して発表する準備はできていませんでした。我々が出版した後に、結論として出てきたものは我々が提起した懸念を強化し、多くの疑問を付け加えるものでした。もしテオ・・・[聞きとれない]、我々はその程度を過少評価しました。

 新たな科学にはいくつかの重要な傾向がありました。科学者らは我々が書いたよりも低いレベルでの影響を見ていました。もっと多くの化合物が特定され、ホルモンかく乱物質として示唆されました。もっと多くのホルモン系が脆弱であるということが分りました。実際、科学者らが遺伝子がいかに振舞うかに関連して化学的組織を注意深く見るたびに,彼らはステロイド・ホルモンだけではない、かく乱の例を見つけました。

 それらの結果のひとつは、広範な健康影響項目が、我々の本にはまだなかった肥満や代謝障害に関連することがらを含む成人の多くの慢性疾患に関わっているとされていることです。もうひとつの傾向は、健康科学の他の領域−胎児の発達又は成人の疾病の発達起源の領域−に向けられる内分泌かく乱の研究です。これらふたつが一緒になった組み合わせは科学的な強さを生成するパラダイムを作り出します。

 あなたはこれを厄介な問題であると見ることができるし、事実その通りでなのでが、しかし、私はまた率直に、大きな希望の源として、この科学的理解の出現を見ています。全体として、科学は環境暴露を、今日、社会に莫大なコストを及ぼしている広範な健康問題に関連付けています。内分泌かく乱物質に暴露することによって100%引き起こされるというケースはありません。しかし、ある条件下では、大きなパーセントになることがあります。これらについては暴露を低減することで防ぐことができます。

 全国子ども調査に資金がつかないことについての議論の中で、科学者の一人は記者発表の中で、”現代の歴史において、成人に移行しつつある子どもたちのこの世代は、彼らの両親よりも健康的でない最初の世代である”と述べていました。科学は、内分泌かく乱の集中と成人疾患の胎児期起源という結果を示し、そのことが、次世代が同じ道をたどらぬことを確実にする機会を我々に与えています。

 私はまた、分子を再設計する化学−特にグリーン・ケミストリーの分野の新たな発展を見て勇気付けられています。それらはホルモン系と相互作用することはなく、有害であると知られている化合物を代替とすることができます。この分野への道は遠く、消費者の要求と起業家によって前に引っ張られます。

 我々は、より健康な製品を作ることによってお金を稼ぐ経済的な機会を見ています。現在、我々はそこにはいません。私はテオの悲観主義のいくらかを共有します。私はまた、この科学は、もっと健康な将来を作るために進むべき道を我々に示しています。ありがとうございます。

6. 討議と Q & A

(訳省略)



化学物質問題市民研究会
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