IPEN 2023年3月7日
新たな研究が隠された有害プラスチック
廃棄物貿易を明らかにする


情報源:IPEN, 21 November 2022
New Study Exposes Hidden Toxic Plastic Waste Trade
https://ipen.org/news/new-study-exposes-
hidden-toxic-plastic-waste-trade


訳:安間 武化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
更新 2023年3月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/IPEN/230307_IPEN_
New_Study_Exposes_Hidden_Toxic_Plastic_Waste_Trade.html


新しい調査によると現在の推定に反して非 OECD諸国に輸出されるプラスチック廃棄物は 2倍にのぼる報告書原文(英)はここをクリック)(PDF 8 MB)

 プラスチックは化石燃料と化学物質の混合物であり、プラスチックに含まれる多くの化学物質は深刻な健康問題を引き起こすことが知られている。プラスチック廃棄物の輸出は、世界的な健康と環境への重大な脅威として認識されているが、現在の報告システムは、世界的に取引されているプラスチック廃棄物の量を過小評価している。

 プラスチック廃棄物の取引を追跡するための現在のシステムのギャップを強調するために、IPEN は、スウェーデンのヨーテボリ大学、トルコのククロバ大学、及び非営利団体ラスト・ビーチ・クリーンアップ(The Last Beach Cleanup)の研究者らと協力した。 日本、英国、EU 及び米国から非 OECD諸国及びトルコへの輸出に焦点を当てたこのグループの報告書「Plastic Waste Trade: the Hidden Numbers(プラスチック廃棄物取引:隠された数字)」は、しばしば見過ごされがちな大量のプラスチック廃棄物の輸出を強調している。

 現在のシステムで見落とされている隠れたプラスチック廃棄物の二つのカテゴリー、繊維製品からのプラスチック廃棄物、及び圧縮廃紙にかけられた帯(ベール)に含まれるプラスチックからのプラスチック廃棄物に注目して、報告書は次のことを発見した。

  • 現在のシステムでは、これら 2種類の隠れたプラスチック廃棄物を 180 万トンも見逃している。
  • 隠れたプラスチック廃棄物を勘定に入れると、非 OECD諸国への輸出は 2倍以上になる可能性がある。
  • 隠れたプラスチックを含めると、英国からの輸出は 18倍にもなる。 EU からの輸出は 2.2倍、米国からの輸出は 4.2 倍である。
  • 現在のシステムで追跡すると、日本はプラスチック廃棄物の最大の輸出国である(訳注1)。これらの隠れたプラスチック廃棄物を調整すると、EU 又は米国が最大の輸出国になる(使用した推定の範囲によって異なる)。
 ”私たちの報告書は、実際にどれだけのプラスチック廃棄物が輸出されているかについて、私たちが十分に把握していないことを示している”と、IPEN の科学及び技術アドバイザーであるテレサ・カールソン(Therese Karlsson) は述べている。”プラスチック廃棄物には、投棄又は焼却される場所で環境を汚染し、人間の健康を脅かす有害な化学物質が含まれている。私たちはプラスチックの生産を大幅に削減する必要があり、さもなければ、世界中の人々の命を危険にさらしている現在進行中の不平等で有害なプラスチックの輸出の危険に身をさらすことになる。

 輸出された廃棄物は、国際的なコーディング・システムの下で追跡されるが、このシステムは、取引される材料の種類によって輸出を追跡しない。 研究者らはしばしばこのコーディングシステムを使用してプラスチック廃棄物の取引を分析しるが、プラスチック廃棄物用に指定されたコードは、プラスチックから作られた材料が廃棄物として取引される方法の多くを見逃している。たとえば、圧縮古紙を束ねる帯には 30% ものプラスチックが含まれ場合があるが、現在のシステムではカウントされない。 さらに、着用済みの合成(プラスチック)衣類の輸出は、多くの衣類が使用できず、すぐに埋め立て地に投棄されるか焼却されるにもかかわらず、プラスチック廃棄物として分類されない。

 現在の推定では見逃されている他のカテゴリの隠れたプラスチックもある。電子廃棄物の 20% が輸出され、電子廃棄物には約 20% のプラスチックが含まれているが、リサイクルされている電子廃棄物は 20% 未満である。使用済み自動車タイヤの大きなカテゴリを含むゴム廃棄物は、プラスチック廃棄物取引コードには含まれない。 産業界はまた、プラスチック廃棄物を廃棄物由来固形化燃料 (Refuse Derived Fuel / RDF) として隠している。これは、単に再利用されて輸出される廃棄プラスチックである。

 高所得諸国は世界人口の 16% しか占めていないが、世界の廃棄物の約 34% を高所得諸国が生み出している。 廃棄物の大部分は、有害化学物質を含むことが多いプラスチックであり、高所得国は、プラスチック廃棄物を管理するためのインフラストラクチャが不足している低・中所得国に頻繁に輸出している。プラスチックからの有害化学物質は、プラスチック廃棄物が投棄され、埋め立てられ、リサイクルされ、焼却され、野焼きされる場所で、空気、水、土地、及び食物連鎖を汚染する。

 ”プラスチック廃棄物の取引に関しては、多くの要因と関係者が最終目的地の状況に影響を与える。廃棄物の分別と有害な化学物質の排除に関する規制を積極的に実施しなければ、プラスチック廃棄物に含まれる汚染物質は受け入れ国に影響を与え続け、コミュニティを汚染する”とインドネシアの公益団体であるネクサス 3(Nexus 3 の上席顧問であるユーユン・イスマワティ(Yuyun Ismawati)は、次のように述べている。”電子廃棄物や布製品を含んで製品中の有害化学物質への暴露がなくても」、プラスチック廃棄物取引に隠されている汚染物質が、ますますプラスチック汚染の負担を増大させます”。 IPEN とネクサス 3 による 2019 年のレポートは、プラスチック廃棄物がインドネシアの食物連鎖に与える影響を明らかにした。

 過去数十年の傾向は、プラスチック廃棄物の量が増加していること、廃棄物取引が増加していること、及び電気及び電子廃棄物などの非常に有害な化学物質を含むプラスチックを含むカテゴリのプラスチック廃棄物の取引が増加していることを示している。 2004年から 2021年の間に、EU の非 EU諸国への廃棄物の輸出は 77% 増加した。

 プラスチックの生産量が増えると、プラスチック廃棄物も急増する。 推定では、2050年までに 260億トンのプラスチック廃棄物が発生することが示されている。このグループの報告書に記されているように、”プラスチック生産を減らすための世界的な政策がなければ、高所得諸国から非高所得諸国へのプラスチック廃棄物の不平等な取引が存在し続けるであろう...。将来のための持続可能な廃棄物管理慣行を開発するには、プラスチックの生産を減らす必要があり、プラスチックは社会の機能に不可欠な場合にのみ使用する必要がある。”

 ”バーゼル条約が プラスチック廃棄物の取引を認識し、[2019年にバーゼル条約プラスチック廃棄物 改正が]採択、2021年に[発効](訳注2)し、管理が開始されたことは重要であったが、問題に片目を向けるだけで、”プラスチック廃棄物”の出荷として非常に明白にラベル付けされているものだけに対処することは意味がない。 一方、私たちは、あまり目立たないプラスチック廃棄物取引が北から南へと移動していることを認識し、制御することができていない。繊維廃棄物の輸出はプラスチックであり、タイヤ廃棄物はプラスチックであり、廃棄物由来の燃料は主にプラスチックであり、先進国から日常的に輸出され、アジアのパルプ工場の外で投棄され、焼却されるだけの圧縮廃紙を束ねる帯に混合されたプラスチックも同様である。 政府は、規制当局の目から隠れている世界的なプラスチック廃棄物投棄の全範囲を定量化し、対処する時が来た”と、世界の環境健康と正義のために有害な取引を終わらせるように活動する非営利団体バーゼル・アクション・ネットワーク (BAN) の代表であるジム・パケットは述べた。

International Pollutants Elimination Network (IPEN) は、125 以上の国、主に開発途上国と移行国にある 600 以上の参加組織のグローバル ネットワークである。 IPEN は、すべての人にとって有害物質のない未来のために、人間の健康と環境を保護する安全な化学物質政策と慣行を確立し、実施するために取り組んでいる。

The Last Beach Cleanup は、独立した化学エンジニアによって設立され、プラスチック汚染を終わらせるための実績のある実用的な解決策を促進するために、事実を最前線に持ち込むために活動している。

The Microplastic Research Groupは、トルコのチュクロワ大学の枠組みの中でプラスチック汚染に関する研究を行っている研究チームである。 このグループは主に、地中海とその沿岸におけるプラスチック汚染の原因と影響に関する研究を行っている。 さらに、このグループは、トルコのプラスチック廃棄物の輸入から生じる影響について研究を行っている。

The Environmental Toxicology - Plastics Research Group at the University of Gothenburgは、水生生態系におけるプラスチック、プラスチック関連化学物質、及びマイクロプラスチック粒子の発生源、運命、及び影響に焦点を当てている。 このグループは、学際的なネットワークを介して、地球規模のプラスチックの環境への脅威にも取り組んでいる。


訳注1:日本の廃プラ輸出は世界最大(参考)
訳注2:バーゼル条約プラスチック廃棄物

化学物質問題市民研究会
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