ES&T 2007年4月25日
ナノはトロイの木馬
新たな研究がナノ粒子は
有害金属を細胞内に運ぶことを示す


情報源:Science News - April 25, 2007
A nano Trojan horse
A new study demonstrates that nanoparticles can carry harmful metals into cells.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/apr/science/lt_nano.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年5月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/est/070425_est_nano_Trojan_horse.html


 ナノ粒子が容易に様々なタイプの細胞に浸透することができることを示す研究が増大している。しかし細胞内で問題を引き起こすのは粒子そのものだけではないかもしれない。本日、ES&T's Research ASAP website (DOI: 10.1021/es062629t) に発表された新たな研究は、毒性はナノ粒子が随伴する有害金属によって大幅に増大するということを示唆している。

 スイス連邦技術研究所(ETH)チューリヒ、及びスイス連邦物質テスト試験所の研究者らはヒト肺の上皮細胞を広範な金属含有ナノ粒子に暴露させ、細胞から放出される又は異物によって生成される化学物質である活性酸素種(ROS)のレベルを測定した。[訳注1:活性酸素種(ROS)岐阜薬科大学|研究 ] これらの活性分子が過剰になると酸化ストレスと細胞のダメージを引き起こし、毒物学者らはROS生成がナノ粒子の毒性のメカニズムであるらしいと理解してきた。酸化コバルト及び酸化マンガンのナノ粒子に30ppmの濃度で暴露された細胞内においては、ROS生成は同等濃度のコバルト及びマンガン塩に暴露されたコントロール細胞に比べると8倍多かった。

 ”コバルトとマンガンによって起きていることも、もしそれらが塩化物なら、細胞はそれを好まず、細胞死することもない”とETHチューリッヒの機能物質試験所の長であるウェンデリン・スタークは述べている。”実際にそれらは自分自身で非常によく防御することができる。”

 以前にヒトの肺の繊維芽細胞によるナノ粒子の摂取を示した(Environ. Sci. Technol. 2005, 39, 9370-9376)スタークスは、細胞膜がイオンに対する選択的な防御を提供し、溶解金属塩の侵入を防ぐことを説明している。しかし、金属含有ナノ粒子が細胞に一旦侵入すると金属イオンは粒子から放出され、細胞内部でROSを生成することができ、それをスタークはトロイの木馬のメカニズムと呼んでいる。デューク大学土木環境工学教授マーク・ウィエスナーは測定されたROS生成のレベルは塩に暴露した細胞中よりも金属酸化物ナノ粒子に暴露した細胞中の方がはるかに高がいことを確認している。しかし、彼は生成されたROSのタイプ及びそれらの細胞への影響についてのもっと詳細な情報があったなら役に立っていたであろうと信じている。

 純粋金属酸化物の研究に加えてスタークと彼の同僚らは、0.5〜1.6重量%のチタン、鉄、コバルト、及びマンガンを含む20〜70ナノメートルのサイズのシリカ・ナノ粒子で実験を行ったが、その選択は不均一触媒分野におけるスタークの経験によるものであり、そこでは遷移金属がしばしば酸化還元反応中で用いられる。研究者らは、4つの異なる遷移金属を含むナノ粒子の試験管内での挙動が触媒反応中での関連動作に合致することを見つけて驚かされた。チタン添加粒子は、光が存在しない中での光触媒に予期されるように、ROSの生成が最も少なかった。コバルトとマグネシウム含有粒子は鉄添加したものに比べて著しく多くのROS生成があった。

 カーネギー・メロン大学土木環境工学教授グレッグ・ローリーによれば、特定の金属−細胞中で粒子の存在だけではない−がROS生成を促進しているというよい事例を作った。”ナノ粒子とそこに添加された物質の影響を分離することは難しいであろう”と彼は述べている。”しかしこの仕事は、同様なサイズ、形状、及び物理的特性を持つ粒子表面中の鉄、チタン、コバルト、及びマグネシウムの異なる影響を明確に示している。”

 スタークスの研究結果はナノ粒子の毒性は懸念があるかもしれないというますます増大する証拠に加えられるが、彼はそれらはまだ予備的であるということを強調している。彼は、試験管での結果を生体システムに翻訳することが必要であるとしながらも、遺伝子毒性(genotoxicity)を評価するための、及びナノ粒子の挙動を他のよく知られた有毒物質と比較するための分析評価手法を使用して、細胞でのROS生成の影響を検証するための研究を拡張することを計画している。

 それにもかかわらず、スタークはナノ粒子の潜在的な毒性評価は新技術の開発の初期段階に実施されるべきであると信じている。”私の試験所の他の部署では応用志向の研究が行われているが、私はいずれ訂正しなくてはならないような応用研究はしたくない。”
リズ・スラル(LIZZ THRALL)


訳注:同一記事
nanoforum.org 26 April 2007, Lizz Thral, Environment Science and Technology
A nano Trojan horse




化学物質問題市民研究会
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