ロイズ ニュース特集 2010年10月6日
規制当局 ナノテクノロジーと真剣に取り組む

情報源:Lloyd's News and features 06 Oct 2010
Regulators get to grips with nanotechnology
http://www.lloyds.com/News-and-Insight/News-and-Features/360-News/Emerging-Risk-360/Regulators-get-to-grips-with-nanotechnology

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2010年10月14日


 ナノテクノロジーは、材料科学の分野はもちろん、電子機器、線維、化粧品、食料品等の製造者に製品設計を一変させる革新をもたらしている。

 しかし、保険業者にとっては、製品中での使用が増大するナノテクノロジーと、それらの安全性に関しては依然として不確実性が存在する。

規制のギャップ

 消費者製品中でのナノ物質の使用が増大しているが、ヒトと環境への長期的な影響について誰もほとんど理解していないという事実にも関わらず、ナノテクノロジーの使用に関する特定の規制はほとんど存在しない。
 例えば、カーボン・ナノチューブ(CNTs)は、最も一般的に使用されているナノ物質であり、現在では工業的規模で製造されている。市場は急速に成長しており、2011年には一次生産だけでも4億6,000万ドル(約380億円)に達している。2014年までに全製品の15%(金額ベース)がナノテクノロジーを使用するであろうと見積もられている。

 カーボン・ナノチューブは微細な円筒状又は針状であり、塊になると繊維状のダストになる。労働者(又はCNTsに接触する誰でも)が製造、輸送、又は使用中に吸引すると、それらはアスベストと同様な有毒な特性を持つかもしれないという恐れがある。
 ナノ物質の同様な形状のものが、例えば、自己洗浄機能製品や機器を製造するためにフィルムやコーティング中で使用されている。化粧品会社は肌の手入れ用品中でナノ物質を使用している。しかし、これらの製品のヒトDANや環境に及ぼす影響はまだ明確ではない。

健康影響が不明

 ナノテクノロジーに関わるリスクの理解の欠如が、ほとんどの国でまだ制定されていない”ナノに特化した”規制とのギャップをもたらしている。

 しかし、いくらかは進展している。ヨーロッパでは、欧州委員会の化学物質規則 REACAH が2008年にカーボン・ナノチューブの特定のリスクに対応するために採択された(訳注1)。2009年3月には、化粧品に関するEU規制がナノ物質についてラベル表示、定義、及び安全評価を要求することで採択された(訳注2)。

 さらに次回の欧州環境健康行動計画が、その優先分野の中でナノ物質の課題に取り組むことが期待されている。

 2011年、欧州委員会はまたナノ物質の規制に関する2009年4月の欧州議会決議(訳注3)に対応しなくてはならない。同決議によれば、ナノ物質とナノテクノロジーに関する安全を確保するために、様々な野心的な措置が取られるであろう。

 その一部として、EU議長国ベルギーは、欧州連合と各国当局及び科学・規制機関に、要求される規制条項備に導く必要な措置を取るよう示唆した(訳注4)。

 エネルギー・環境・持続可能な開発・消費者保護担当のベルギー大臣ポール・マニェットは、消費者の安全を確保しつつ消費者の必要に対応するための5つの提案を発表した。
  • 消費者製品中のナノ物質の存在を消費者に知らせるための義務を定義すること。
  • 必要ならその源をたどれるよう流通チェーンの追跡性(traceability)を確保すること。ナノ物質の登録の維持管理を必須とすべきこと。
  • リスク評価と管理のためのEUレベルでの最も適切な規制の方針を特定すること。
  • この過渡期に、リスク管理、情報、及び監視を強化するよう、EU加盟国が責任をもって統合的な国家戦略と確固とした措置をとるようもとめること。
  • ナノ物質を含む製品のラベル表示に関してなされている要求を立法化すること。
 アメリカの連邦政府及び州の当局は、ナノ物質の使用を規制する動きを調整することについて、ヨーロッパに遅れをとっている。しかし、2009年に、環境保護局(EPA)は、まだ立法化には至っていないが、多層及び単層カーボン・ナノチューブのための二つの新たな規則を提案した(訳注5)。本年中には発効するかもしれないこの規則は、会社に対してカーボン・ナノチューブの製造、輸入、又は加工に先立つ90日前までにEPAに届け出るよう義務付けるものである。

 アジア諸国では、既存の規制をナノ物質に特化して修正を行なった国はまだない。

 保険業界は、ナノテクノロジーの周囲に依然として存在する不確実性、リスク、及びそれらに対する規制に対して、どのように最善の対処をすることができるのか? ヨーロッパの保険会社のリスク管理首脳者らのグループであるCROフォーラムは、次のような先制的リスク緩和戦略を示唆している。

  • 顧客の意識向上をはかること。
  • リスクのある領域を明らかにすること(例えば、個人の顧客がどのようにナノテクノロジーに対処するかの理解を改善すること)。
  • カーボンナノチューブのライフサイクル全体とそれらの従来のビジネスに及ぼす影響を検討すること。
  • 会社毎に適切な保険引き受け業務を開発し、引き受ける個々のリスクの事実と状況にそれらを適合させること。

訳注1
Nanotechnology Law Blog 2008年10月22日 欧州委員会 カーボンなど REACH 免除を抹消 ナノ懸念のため
訳注2
EurActiv 2009年11月24日 欧州連合:化粧品のナノ表示を求める新たな規制を採択 ドイツは化粧品の”ナノ”表示に反対
訳注3
Nanotechnology Law Blog 2009年4月3日 欧州議会委員会報告書 ナノ物質について ノーデータ・ノーマーケット原則を要求
訳注4
EurActiv 2010年9月15日 REACH ナノ物質の追跡性を確実にするために登録
訳注5
Nanotechnology Law Report 2009年6月26日 EPA 多層及び単層カーボンナノチューブに重要新規利用規則を適用


化学物質問題市民研究会
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