ドイツ環境庁(UBA)2012年6月4日
ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の概念


情報源:Federal Environment Agency (Umweltbundesamt/UBA) 04.06.2012
Concept for a European Register of Products Containing Nanomaterials
http://www.umweltbundesamt.de/sites/default/files/medien/378/
publikationen/information_concept_nanoregister_npr_e_0.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年2月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/UBA/120604_UBA_Concept_European_Register_Nano.html

ナノ物質を含む製品の欧州登制度録の概念

内容

A. ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の主要点
B. ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の目的
C. ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の正確な法的構成のための概念
 a) 規制体系
 b) 届出対象となる利害関係者
 c) 届出の範囲
 d) EU 規制と国内規制
 e) 既存の製品関連規制のベース
 f) 既存の物質関連規制のベース
 g) 法的構成
 h) 消費者への情報
D. 実行可能性
 a) 予備的的な意見
 b) 物質と混合物
 c) 製品6
E. 結論


A. ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の主要点

1. 人の健康と環境へのナノ物質の可能性あるリスクの評価に関する特別の不確実性のために、ドイツ連邦環境庁(Umweltbundesamt / UBA)は、予防措置として、ナノ物質を含有する製品の欧州登録制度の確立を支持する。

2. そのような製品登録の目的は、消費者分野と開放環境中で応用されるナノ物質を含む製品の全体像を作り出すことである。このことは、人と環境の暴露を見積るために、そして有害影響がある場合には追跡性を確実にするために、当局が実施と監視の優先度を設定することを可能にする。

3. そのような電子的製品登録制度の確立は、EUレベルで実施され、中央で一元管理されるべきである。国毎の製品登録制度はEUの様々な立法と重複し、個々のEU加盟国の義務と規制を変更するという結果をもたらすことになり、このことは当局と届け出対象となる利害関係者のコストが増大することを意味するであろう。

4. そのような製品登録制度の綿密な仕上げは、義務の重複を回避し、合理的なコスト−便益の比率を維持することを目標にすべきである。欧州には、物質関連規制ベースの法(REACH及びCLP規則)と製品関連規制ベースの法(化粧品及び新規食品規則)がある。このふたつの法的ベースは共に、製品登録制度のために利用されるべきであるが、それは両方とも適切な出発点(例えば、登録要求と届出要求)を持っているからである。一貫した法的実施の目的のために、欧州製品登録規制の立法化が勧告されるべきであり、それは包括的規制(an umbrella regulation)の形で一般的条項を規定し、既存の物質及び製品関連条項を修正し、届出要求を改変又は作り出し、作成された情報を統合することになるであろう。

5. ナノ物質からなる又はそれを含む物質と混合物(製造又は輸入された物)は、届出の対象となる。さらに、ナノ物質を意図的に又は非意図的に放出する(REACH 第7条3項に関連して2項に類似)成形品は届出の対象となる。届け出は基本的に、製品名/記述、各物質の特性と濃度、製造又は輸入されるトン数帯(tonnage bands)、及び適用と機能に制限されるべきである。市場に最早出ていない製品は登録から除外され、成形品の別形(article variants)は個別に登録されてはならないことを確実にしなくてはならない。登録は、一般的にアクセス可能な”公開部分”と当局だけがアクセスできる”機密部分”からなる。機密情報の保護を保証するために、あるデータは機密部分にだけ含まれる。

6. 製品登録の実行可能性に関し、届出対象となる利害関係者のコストと当局のコストは制限されることが確実にされなくてはならない。 ナノ物質を含む製品に関しては、産業側代表によれば、ナノテクノロジーの今後の発展により、10万にいたる混合物中で数百のナノ物質 が予測されなくてはならない。届出の対象となるナノ物質を含む成形品の数はこの数値より大きくなりそうにないが、それは、そのような成形品の大部分についてはナノ物質の放出は無視することができるからである。製品中のナノ物質に関する信頼できる数値は、現状では入手することができないが、”影響調査”の中で確立されるべきである。条項のコスト効果のある監視のためのメカニズムもまた開発されなくてはならないが、それは特に輸入成形品で届出要求に合致しないものが大量にあるということを経験が示しているからである。

7. 製品には届出番号が割り当てられるべきであり、それは、警告とみなされることなく調査に便利なように、個々の製品に表示されるべきである。

8. 製品登録は、REACH規則の綿密な仕上げにおけく、それは単にそれらについてのひとつの要素に過ぎない。


B. ナノ物質を含む製品の欧州登録制度の目的
 ナノ物質(NMs)は、新たな法的チャレンジを提起する。現在まで、ナノ物質のための特別の規制は、限られた場合にだけ確立されている。現在検討されている大きなプロジェクトは、ナノ物質を含む製品の登録(以後ナノ製品登録:NPR)により、適用されるナノ物質に関して透明性を生み出すと共に、中央の物質関連条項を改訂することである。この報告書はナノ製品登録(NPR)だけに関わるものとする。物質関連条項の改訂に関する考えは別途開発されている。

 どのような規制についても必要な条件はナノ物質の定義である。欧州委員会は2011年10月にナノ物質の定義に関する勧告を発表した[1] 。我々はこの勧告を法の異なる分野におけるナノ物質の規制のために基本的に適切であると考えている。

 現在まで、ナノ物質が市場に出される形状に関して、特に特定の製品中で使用されるナノ物質とそれらが果たす機能に関して包括的な情報で利用できるものはない。ただひとつ、EU化粧品規則[2]の場合には、ナノ物質を含む化粧品は、2013年から、市場に出される6か月前に届け出なくてはならず、ナノスケール成分は包装に”ナノ”という表記をもって示されなくてはならない。ナノ物質はまた、EU新規食品規則の範囲内で規制されることになっている[3]。しかし、欧州議会(EP)、理事会及び欧州委員会の間での約3年にわたる協議の後この規則提案は、その後の調停手続きの中で他の問題に埋没した。欧州議会と理事会は2011年7月と9月にそれぞれ、”ナノ”と表記する食品成分の表示に関する規則を決定したが、これは2014年12月13日から発効する[4]。

 大部分が申告と登録義務の不備に起因するナノ物質の使用と濃度についての知識の欠如は、消費者だけでなく当局をも困惑させる。 REEACH規則[5]は、主に物質と混合物を規制する規則なので、適切な改善をすることができない。EEACH規則はまた、個々の製品の成分に関する登録要求がほとんどない。REACH規則中の特定の物質関連条項は、修正なしにはナノ物質に関する適切な情報を保証しない。

脚注:
[1] Commission Recommendation of 18 October 2011 on the Definition of Nanomaterial (2011/696/EU).
訳注:欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告

[2] Regulation (EC) No. 1223/2009 of the European Parliament and of the Council of 30 November 2009 on Cosmetic Products.
訳注:2009年11月30日欧州議会及び理事会 化粧品に関する規則(EC) No 1223/2009 ナノ関連抜粋

[3] Regulation (EC) No. 258/97 of the European Parliament and of the Council of 27 January 1997 concerning novel foods and Novel Food Ingredients.

[4] Regulation (EU) No. 1169/2011 of the European Parliament and of the Council of 25 October 2011 on the provision of food information to consumers […].
訳注:Bergeson & Campbell, P.C., Nano and Other Emerging Technologies Blog, 2013年12月20日 EU 工業ナノ物質の定義に関連する食品表示規則を修正

[5] Regulation (EC) No. 1907/2006 of the European Parliament and of the Council of 18 December 2006 concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemical Substances (REACH), establishing a European Chemicals Agency […].

 タイプ、量、及び応用に関する透明性が欠如しているので、曝露の見積り、したがってナノ物質から発散する人の健康と環境への潜在的なリスクの評価は非常に限られた程度でのみ可能である。この点に関し、ナノ製品登録(NPR)なら改善することができるであろう。この報告書では、我々はナノ製品登録(NPR)の可能性ある構築にてついての提案を示す。

 届け出義務を伴うナノ製品登録(NPR)の目的は、欧州で製造されている又はEU内市場で入手可能なナノ物質を含有する製品の全体像を当局に提供することである。答えなければならないひとつの重要な疑問は、ナノ製品登録(NPR)に含まれるべき情報と、誰がそれにアクセスできるべきかに関することである。同時に、ナノ製品登録(NPR)の検討と実現に当たり、ナノ物質の意味のある全体的規制の範囲が考慮されなくてはならない。既存の規制もまた正確に決定されなくてはならず、望まれる目的のために、さらにどのように改善することができかに関して結論を出さなくてはならない。

 ナノ製品登録(NPR)の利用者は、主に当局であろう。しかし、透明性のためにで、保管されたデータの一部は一般公衆がアクセスすることができるべきであり、一方、機密情報の保護を確実にするために、一般公衆はあるデータについてはアクセスできないようにすべきである[6]。かくして、責任ある当局だけがアクセス可能であるが、ある領域はまた消費者のための情報に公衆がアクセスすることを許すような登録制度が確立されなくてはならない。

脚注:
[6] Where appropriate, further legal aspects of data protection should be examined.


 国家の見地からすれば、ナノ製品登録(NPR)は次のような便益を生み出すかもしれない。
  1. 施行と立法/規制における優先度を決定するためにナノテクノロジー及び適切ならば個々のナノ物質の妥当性を見積るために一般市場を概観できる。
  2. 応用と暴露に関する異なる情報を通じてナノ物質のリスク評価が強化される。
  3. ナノ物質を含む製品の有害影響に対する感応性を改善できる。
 消費者のために、ナノ製品登録(NPR)は次のような便益を提供するかもしれない。
  1. 市場のナノ物質に関するより高い透明性。
  2. その構造に依存しつつ、ナノ物質を含む製品の購入に関する選択の自由。
 製造者、輸入業者及び販売業者のために、次のような便益が生じるるかもしれない。
  1. 他の規制オプションに比較して市場活動の厳格さが緩い(認可要求、表示義務、又はモラトリアム)。当局の強化された知識は、さらなる予防的措置の必要性を低減するという効果をもって差異のある評価を可能とする。
  2. 全ての市場参加者にとっての透明性。製品に対する責任は製品の成分について知識がある場合にのみ受け入れることができる。適切に設計されれば、ナノ製品登録(NPR)は、供給と加工チェーンにおけるコミュニケーションを確実にする。
 実用的なナノ製品登録(NPR)の構築は、得られる情報と、既存の規制体系への統合がいかに影響を受けるかに依存する。規制は、設定された目的の達成を促進し、同時に過剰なコストを回避しなくてはならない。後者は、不必要に重複した規制、設定された目的に関連する要求のつり合いの遵守、及び利用能な規制的代替の考慮を暗示している。さらに、規制は実施できるものでなくてはならない。規制の対象者は、自身の義務について明確に理解していなくてはならず、行政的管理が可能でなくてはならない。

 ナノ製品登録(NPR)は、影響を受ける利害関係者と登録の管理に責任ある組織の両方にあるコストをもたらす。影響を受ける製品に関する初期の見積りは、セクションDで知ることができる。連邦環境庁はコストに関するさらなる調査を計画している。



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