欧州労連研究所ニュース2009年9月3日
中国での死亡と肺損傷 ナノ粒子に関連

情報源:ETUI News, 03/09/2009
Deaths, lung damage linked to nanoparticles in China
http://hesa.etui-rehs.org/uk/newsevents/newsfiche.asp?pk=1278

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年9月13日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ETUC/090903_ETUI_Death_Nanoparticles.html


 中国の7人の若い女性が、ナノ粒子を使用した塗装工場で適切な防護なしに数ヶ月働いた後に、恒久的な肺損傷の被害を受け、そのうち2人が死亡したと、中国の研究者らが2009年8月19日に発表した。

 『European Respiratory Journal (ERJ)(欧州呼吸器ジャーナル)』に発表されたこの研究は、過去の動物実験ではナノ粒子がラットの肺を損傷することができることを示していたが、ナノテクノロジーが人に健康影響を及ぼすことについては、初めて報告したものであると研究者らは述べた。

 ”これらの症例は、防護措置なしにナノ粒子に長期間暴露するとヒト肺に深刻なダメージをもたらすかもしれないという懸念を引き起こす」と北京のチャオヤン病院の職業病/臨床毒性学部門のユグオ・ソンは ERJ に書いた。

 数ヶ月の間に、これら女性の全ては呼吸障害とともに腕と顔に痒みのある皮膚発疹が生じて入院した。

 検査の結果、患者らは心臓と肺の周囲に液体流出があり、どのような治療も有効ではないことがわかった。全員の症例について幅広い調査が行われた結果、肺機能を悪化させる肺線維症(pulmonary fibrosis)という診断が下された。

 中国チームの疑いは、特に使用された化学物質、生体組織、及び胸膜浸潤(pleural effusion)の電子顕微鏡検査の結果によって提起された。3つ全ての検体は約30ナノメートルの径の丸いナノ粒子を含んでいることが分かったが、それらは肺上皮と中皮細胞の細胞質の中にも見出された。

 ユグオ・ソンによれば、これらの粒子は、女性達が日々の作業で使用していたポリアクリル酸塩ベースの粘着塗料に由来するに違いない。この段階では彼は繰り返し努力をしたが、当該塗料の成分に関する詳細なデータを得ることができなかったと強調している。同様に、調査が始まる数ヶ月前にその職場は閉鎖されたので、研究者らは空気中に浮遊する粒子の測定を通じて労働者の暴露レベルを決定することはできなかった。

 彼女らが呼吸系症状について医師に相談するまでの間、7人の若い女性らは5ヶ月から13ヶ月間、白い塗料をポリスチレン板にスプレーする同じ職場で働いていた。スプレーとポリスチレン板の加熱及び乾燥工程は自動化されていた。作業者の仕事は大きなひしゃくを用いて自動機に粘着塗料を積み込むこと、ポリアクリル酸塩を調合すること、及び板を取り扱うことであった。

 研究者らは、70平方メートルの作業場の換気が数ヶ月間非常に悪かったことが作業者の病気をもたらしたことを知った。作業場には窓がなく、外気が寒いのでドアは密閉されており、換気システムは5ヶ月前から故障していた。”小作農出身のこの作業者らはまた、職場の健康と安全の規定及び彼女達が取り扱っている物質の潜在的な毒性について全く知らなかった”とユグオ・ソンは説明する。”彼女らが使用した唯一の防具は木綿ガーゼのマスクだけであった”。問診した時に女性らは小片がしばしば空気中に存在し、それが彼女らの顔と腕に痒みをもたらしたと述べた。

 このような不都合な状況であったにもかかわらず、この論文の著者らは、換気の悪さの結果としての塗料ベーパーによる単なる中毒が原因ではなく、この病気はナノ粒子の本質的な毒性によって引き起こされたものであり、それは気道又は皮膚を通じて、あるいは多分その両方を通じて、体内に入り込んだと主張している。”我々の患者の症状、検査結果、及び病気の進行具合が塗料の吸引により引き起こされる呼吸器系病理学とは著しく異なることは明らかである”とユグオ・ソンは強調する。証拠として、彼は2年以内に2人の女性が死亡し、他の患者の肺線維症が暴露がなくなった後も徐々に進行し続けたという事実を指摘した。

 労働者らが病気になって以来、その機械は停止したので、更なる発症は特定されていない。関係した粒子の詳細な特性を含んで、多くの疑問が解決されずに残っていることを中国の研究者らは認めている
。 Sources: www.medicalnewstoday.com, Reuters


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る