Nanotechnology Law Report 2009年8月28日
中国におけるナノ粒子と死亡
ロバート・オスザキーウスキー
情報源:Nanotechnology Law Report, August 28, 2009
Nanoparticles and Deaths in the People's Republic
by Robert Oszakiewski
http://www.nanolawreport.com/2009/08/articles/nanoparticles-and-deaths-in-the-peoples-republic/

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年9月4日


すでに、このブログの多くの読者は、最近『European Respiratory Journal』に Yuguo Song、Xue Li、Xuqin Du によって発表された論文 『ナノ粒子への暴露は肋膜胸水流出、肺繊維症、肉芽腫に関連する』、あるいはそれに基づくロイターの記事などを読んでいると思う。その論文は非常にまじめな気持ちにさせるものである。

 まだ、この記事を読んでいないない人のために、その概要を順序立てて紹介する。

 2007年1月から2008年4月まで、7人の女性患者が北京のチャオヤン病院(Chaoyang Hospital)に収容された。7人全員はある印刷工場の同じ部署で働いており、7人全員は同じ症状−呼吸困難、胸膜浸潤(pleural effusion)、心嚢水貯留(pericardial effusion)であり、抗生物質の投与と手術を受け、酸素吸入が施された。5人の女性は安定し、29歳と19歳の二人は、呼吸障害で死亡した。更なる調査の結果、彼女達の肺にナノ粒子の蓄積が見出されたが、それは女性達が職場で様々な期間、暴露していたナノ粒子であった。

 著者らは次のような結論に達した。

 ・・・ナノサイズ粒子を含むナノ物質が暴露した労働者に見られる毒性を生成したように見える。

 我々は、ポリアクリル酸塩乳剤に含まれていたナノ粒子が多分この病気を引き起こしたことを示すもっと多くの証拠を持っている。この報告書にはナノ粒子の潜在的な有害特性を示す兆候がある。ナノ粒子は、赤血球の細胞膜周囲に凝集し毒性を及ぼすとともに、肺上皮細胞の細胞膜を浸透し、細胞質とcaryoplasmに刺さることことができる。患者らは、いくつかの治療法の障害となる進行性肺繊維症を含む損傷を受けた呼吸器系機能に関連した臨床的に深刻な症状を引き起こしたかもしれない。

 ナノテクノロジー及びナノ産業に対する多くの批判家はこの研究を製造プロセスでのナノ粒子の使用をやめることを求めるための、又はナノ産業の操業停止を求めるための拠り所として利用するかもしれない。しかし、それは起こりそうにない。操業停止が現実となるためには、あまりにも多くの時間と金と努力が今までに投資されてきた。ジニーは魔法のランプから飛びだした。元には戻らない。

 さらに、著者らが彼らの記事を通じて述べているように、ナノ粒子と同様に女性らの職場が彼女らの病気に大きく寄与していた。

 患者の職場の調査が実施された。それは70平方メートルの広さであった。ドアも窓もなく、一台の機械が材料にエアースプレーし、ボードを加熱し乾燥するために使用されていた。この機械は3つの噴霧ノズルと、ひとつの換気ユニッがあったが、換気ユニットは病気が起こる前の5ヶ月間、壊れたままであった。

 堆積したダスト粒子が排気口で見つかった。病気が起きる前の5ヶ月間、職場のドアは、外気温度が低いので閉め切ったままであった。労働者らは、労働衛生についての知識や、彼らが扱っている物質からの有毒性についての知識はもっていなかった。場合によって使用されていた唯一の個人防具(PPE))は木綿ガーゼのマスクだけであった。患者によれば、エアースプレー中にしばしばふさ状の塊り(flocculi)が生じ、顔や腕がひりひりした。窓がないことや閉め切ったドアのために、空気の流れや屋内空気の換気量が非常に少ないことが推定される。

 結論として、著者らは次のように述べている。

 ・・・可能性あるメカニズム、診断、治療、及びナノ物質関連疾病に関する調査がさらに必要である。

 ・・・これらの出来事は、防護措置なしでのあるナノ粒子に対する長期的暴露は、ヒトへの深刻な損傷に関連するかもしれない・・・効果的な防護措置が、暴露労働者をナノ粒子によて引き起こされる病気から守るために重要であるかもしれない。

 著者らが求めるような将来の研究が、この研究中の二人の若い女性の死というような悲劇を防ぐために、ナノ産業の環境の新たなそしてもっと効果的な規制のための基礎として用いられるかもしれない。


訳注:関連情報




化学物質問題市民研究会
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