国際環境法センター (CIEL)
CIEL WORLDVIEW 2014年7月31日
わからないことを規制する:
国家の義務的なナノ登録が増大


情報源:CIEL WORLDVIEW, July 31, 2014
Regulating the Unknown: National Mandatory Nano Registers on the Rise
By David Azoulay and Alexis McGivern
http://ciel.org/wordpress_211560016/?p=1644

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年11月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/CIEL/CIEL_140731_Regulating_Unknown_Nano_Registers.html

 もし政策立案者がここで何を規制すべきかを知らなければ、彼らはどのようにして適切に規制することができようか? この投稿は、ナノ物質として知られる議論ある技術的発展に関する最新情報シリーズの第2弾である。(訳注:第1弾は Small Steps Taken by EU Towards Nano Regulation, Still Leaves Much to be Desired.)(後日紹介予定)

 ナノテクノロジー規制の核心は情報の必要性である。情報は、ナノ物質の望まぬ影響から作業者と環境を保護するための適切な規制ツールを開発するための手がかりであり、消費者が情報に基づく選択をすることができることを確実にし、研究の必要性を優先することで科学的知識を広げ、ナノテクノロジーへの暴露の複雑なリスクの理解を助ける。

 産業界の多くの関係者は彼らが企業秘密であるとみなすものを明らかにすることを望んでいないので、現在までのところ、産業界からの自主的な情報収集の仕組みでは、この重要な情報を効果的に収集することはできないないことが証明されている。したがって、義務的な登録の開発こそが、規制当局にとって関連する適切な情報を収集する唯一の実行可能な方法である。

 2009年に行われたナノ情報の利用可能性に関する公開討論は、義務的な登録を確立するという要求を結論とした。3年後に CIEL は、BUND(地球の友ドイツ)及び ClientEarth と協力して、『High time to act on nanomaterials』というタイトルの報告書の中で、より厳格なラベル表示要求と義務的なEU ナノ登録を通じての拡大した市場調査を提案した。この提案は、ウェーデン自然保護協会(SSNC)の報告書|(訳注1)の中でさらに拡張され磨きをかけられた。5年経過した現在、いくつかのEU加盟国は国家レベルでの登録を実施しているが、EUレベルのこの目標はまだ実現されていない。

 2012年2月、フランスは、将来のナノ登録を見据えつつ、ナノ物質に関する情報を義務的とした世界で最初の国となった(フランスの登録制度はナノ物質だけであり、それらを含む消費者製品はカバーしていない)(訳注2)。そのデータは毎年、フランス食品安全・環境・労働機関(ANSES)に提出されるが、これを遵守しなくても罰金はない。ナノ物質のための報告要求は、登録者の特定、ナノ物質の特性についての情報、その物質の用途、申告者がその物質を引き渡す事業者の特定(これは企業秘密情報として保護される)を含む。登録されたナノ物質は、サプライチェーンを通じて常に参照される単一の特定番号が与えられる。この登録制度は、フランス政府に有用な情報を提供することに成功しており、他の国もこれを先例にならい始めた。すなわち、ベルギーとデンマークの両国は最近、義務的なナノ物質報告制度を採択した。

 義務的ナノ登録を採択した二番目の国、ベルギー(訳注3)は、登録が潜在的に危険なナノ物質に対応するための健康と安全担当者の能力を改善し、新たな技術への信頼性を強化することを期待している。データの収集は2016年1月1日から始まり、2017年の同日までに電子データで提出される。登録の義務は物質及びナノ物質を含む混合物の両方をカバーする。化粧品、殺生物剤、医薬品、食品及び塗料は登録から除外される。

 ベルギーの数か月後、デンマークが、ナノ物質を含む混合物と製品について製造者と輸入者に法的なナノ登録を課したが(訳注4)、それはナノ物質だけでなく、むしろ製品に焦点を当てていた。登録は2014年6月20日に開始し、最初の報告書は2015年8月30日が期限となる。ベルギーと同様に、デンマークのナノ登録は、免除のロングリスト(訳注:候補リスト)を含んでいる。3か国全ての登録は、REACH登録で免除されている物質は除外していている。これらの除外は、重要な安全情報を公衆及び規制当局から隠すことによりナノ登録の価値を損なうものである。これらの国家データベースは、公共情報の透明性とアクセスの拡大を増す方向への励みになるステップであるが、EU全域の登録は、ナノ技術規制のアプローチを大いに調和させ、ナノ物質が欧州大陸全土の市場を通じて移動する場合にナノ物質の追跡を容易にするであろう。それは規制当局が、人又は環境汚染を監視し、その汚染に責任ある人々を特定することを可能とする。より広いEUのデータベースは、長期的に公共コストを削減し、人の健康と環境を守りつつ、重要なデータの共有と調和のとれた緩和戦略を可能にする。皮肉なことに、ほとんどの産業は、この技術の発展を支援するために、この種のヨーロッパ全体の法的確実性と法的安定性を求める一方で、彼らはEU全体のナノ登録に反対している。

 5月に、欧州委員会は、EU全体の登録の可能性に関するパブリック・コンサルテーション(コメント)を打ち上げた(訳注5)。コメントは、欧州委員会がすでに作成していた将来のEU全体の登録プログラムの影響評価案を伝えることが意図されていた。それは5つのオプションが想定されていた。
  • 第一:現状のままとする。
  • 第二:国家登録の実施を求める国のために最良の実施モデルを勧告する”ソフトロー・アプローチ”を生成する。
  • 第三:欧州ナノ物質監視機関で情報を収集するための構造的アプローチ(すなわち、既存の情報の編集)。
  • 第四:フランスのナノ登録(R-Nano in France)スキームに似た欧州のナノ物質の登録を確立する。
  • 第五:物質、混合物、及び関連成形品についての欧州登録スキームを創設する。
 全てを含んだEU全域登録は、意味のある規制の変更のために、重要な情報の入手を可能とするであろう解決策である。パブリック・コンサルテーションのコメント期間は2014年8月5日までである。コンサルテーションは、そのような登録制度に反対していることで知れわたっている企業・産業総局によって実施されている。欧州登録制度を実施し、安全と情報に関する欧州大陸全土の標準を確実にするよう欧州委員会に圧力をかけることが重要である。CIELは、ECOS(訳注:ドイツのコンサル会社)とOko Institute(訳注:ドイツの研究及びコンサル会社)と協力して、パブリック・コンサルテーションの質問に対する回答例を用意した。我々は、欧州委員会にあなた方がナノ物質の報告されない使用についてどの様に感じるかを知らせるために、それを使用するようお勧めする。



訳注1 2014年 スウェーデン自然保護協会(SSNC)報告書:見えないものを管理する ナノテクノロジーへの機会と挑戦

訳注2 SAFENANO 2012年3月5日フランス 2013年にナノ物質の義務的報告を導入

訳注3 Bergeson & Campbell, P.C., 2013年7月12日 ベルギー  ナノ物質登録を創設する法律の草案を 欧州委員会に通知

訳注4 NIA News and Alerts 2014年6月18日 デンマークのナノ製品登録指令、本日発効

訳注5 欧州労連研究所(ETUI)2014年5月23日 欧州ナノ物質登録に関する パブリック・コンサルテーション



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る