IPEN プレスリリース 2018年11月23日
水銀条約 COP 2
法的拘束力のないガイダンスに向けてわずかに前進するも
世界の水銀排出量は過去5年間で 20%の急上昇


情報源:IPEN Press Release, 23 November 2018
Mercury Treaty COP2 inches forward on non-binding guidance,
while global mercury emissions surge 20% in 5 years.
https://ipen.org/news/press-release-mercury-treaty-cop2-
inches-forward-non-binding-guidance-while-global-mercury


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年11月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/COP2/IPEN/181123_IPEN_PR_
Mercury_Treaty_COP2_inches_forward_on_non-binding_guidance.html

解決策は? 石炭火力発電所と水銀貿易の停止

【ジュネーブ】 水銀に関する水俣条約の第2回締約国会議(COP2)への代表団が 1週間、法的拘束力のないガイダンスの広範囲にわたる文言について協議している時に、世界の有害水銀排出量が過去 5年間で 20%上昇したという驚くべきニュースが、国連環境計画(UNEP)により発表された(訳注1)。

 IPEN 共同議長であるタデッセ・アメラ博士は次のように述べた。”IPEN は、長い間、我々は世界の水銀危機の真っ直中にいると警告し、迅速な国際的対応を求めてキャンペーンを行ってきた。現在、条約は最終的に法律となったが、我々は破局の瀬戸際にいる。もしこのまま水銀排出量が増え続ければ、我々は大変な海洋汚染と世界の魚資源の急速な汚染に直面するであろう。多くの大型魚種はすでに安全に食するには汚染され過ぎており、もっと多くの魚種も同様に汚染されていくであろう。多くの小島嶼国の女性らは、タンパク質の摂取を魚に依存しており、我々のデータは、彼らの大部分の水銀レベルは安全な暴露レベルを超えている。もし、我々がこれらの諸島の住民を保護したいと望むなら、我々はもっと多くの行動を直ちに起こさなくてはならない。この水銀汚染の暴走を止めるただ一つの確かな方法は、小規模金採掘に供給される世界の水銀貿易を禁止することと、大気を汚染している石炭火力発電所を停止することである”。

 世界中の数百万の貧しい金採掘者らは鉱石から金粉を抽出するために、元素水銀を使用しており、その過程で水銀蒸気が大気中に放出される。汚染された金採掘現場からの排水は、淡水系の主要な汚染源となっており、漁業資源をメチル水銀で汚染している。海洋系及び淡水系の両方が影響を受けており、汚染された魚の摂取は世界中で人間の体内水銀汚染を増大させている。残念なことに水俣条約は、それが大気汚染の主要な発生源であるにも関わらず、このような ASGM 実施のための水銀貿易とその使用をさらに数年間、継続することを許している。

 ”水銀の環境中への排出と放出の急速な増大を防ぐために、小規模金採掘(ASGM)で使用されることになる水銀採掘と生産は、直ちに禁止されるべきである”と、IPEN の ASGM / 鉱山の主担当であるユーユン・イスマワティは述べた。” ”ラテンアメリカ地域における、主に ASGM 分野からの水銀排出は世界の水銀排出の58%を占め、一方、東/東南アジア地域における ASGM 分野から排出は約38%を占めると言われている。水銀生産諸国(特にメキシコとインドネシア)における政策と規制の改革の遅れは、世界中で、社会的、環境的、及び健康のためのコスト上昇をもたらすであろう”。

 世界中での石炭火力発電所からの排出もまた、空前の勢いで水銀を地球大気に吐き出し、それらの水銀は結局海洋にいたり、魚類への水銀汚染を悪化させる。

 IPEN の水銀政策顧問、リー・ベルは次のように述べた。”条約における様々な措置を用いて水銀排出を削減する進捗は痛ましいほどに遅い。達成されているわずかな削減は、排出の世界的な急上昇によって圧倒されている。石炭火力発電所は条約中で軽く触れられているだけである(訳注:条約付属書Dに大気排出発生源のひとつとして石炭火力発電所が挙げられている)。既存の施設は、最良の汚染管理技術を使用することを求められておらず、今後数年間に建設される施設もまた求められない。このことは、5,000 以上の石炭火力発電所が有意な管理技術を免れるであろうことを意味する。”自分たちの石炭産業を守るために、これらの例外を協議した代表団らは、我々に水銀汚染の絶対的な力を止めるための貴重な時間を費やさせている”。

 IPEN は、最新の水銀生物監視報告書、『Mercury Threat to Women and Children Across Three Oceans: Elevated Mercury in Women in Small Island States and Countries (3つの海洋にまたがる女性と子どもたちへの水銀の脅威:女性と小島嶼諸国)』を COP 2 発表したが、それは、調査された 21か国の大部分で妊娠可能年齢女性の体内水銀汚染は安全レベルを超えていることを示した。毛髪サンプル・プログラム調査に参加した女性の 58%の体内水銀レベルは、米国 EPA の安全閾値限度に相当する 1 ppm 以上であった。

 IPEN の小島嶼開発途上国拠点担当(フォーカルポイント)のイモゲン・イングラムは、太平洋における妊娠可能年齢女性の広範な毛髪サンプリングを実施した結果、不安になるような結果を得た。イングラムは次のように述べた。”他の非域における研究は、魚食住民らは有害な健康影響を被っていることを示している。さらに、最近の科学は、たとえ低用量メチル水銀であっても、長い間に体内に蓄積することを示している。私は太平洋の人々に魚を食べるなとは言いたくないし、多くの場合、魚を食べないということは、彼らが日々のタンパク質の摂取をできないことを意味する。さらに魚は有用なオメガ3脂肪を含んでいる。したがって、各国はこの条約を通じて魚の水銀汚染を低減するよう協力すべきである。そうすれば全ての人々が魚を安全に食べることができる”。

 COP 2 における協議は、水銀廃棄物閾値に関する法的拘束力のないガイダンス、水銀放出、汚染現場、暫定的保管及び放出目録を策定するための遅いお役所仕事に関する合意の周辺に集中した。ガイダンスに関する進捗は、多くの諸国にとって有用であるが、効果を出すまでにはまだ時間がかかるであろう。ガイダンスを開発するであろう委員会の詳細は夜遅くの協議で徹底的に議論された時に、世界の水銀排出は 2010年から2015年に大幅に急上昇したという不吉なニュースが国連環境計画(UNEP)からの発表され、今後の事態の推移と水銀汚染を管理するのに間に合うよう迅速に行動する条約の能力に暗い影を放った。たとえ各国がそれぞれに行動し、さらなる水銀貿易を止めるために水銀輸出を禁止しなくてはならないとしても、条約の時間の枠組みに先立つ緊急行動が必要であることは明らかである。

 IPEN 共同議長のアメラ博士は、次のように述べた。”世界のほとんどの国は、経済に影響を及ぼすことなく、明日にでも水銀の輸入及び輸出の禁止を発表することができる。影響を受けるかも知れない少数の国にとっては、それは無視できる程度であろう。世界の水銀貿易禁止を通じて、水銀貿易を終わらせることが、この水銀汚染大災害を終わらせるための最速の方法である。諸国は条約を乗り越えなくてはならない。我々は時間を無駄にすることはできない。有害な水銀貿易は終わらせなくてはならない”。

訳注1
訳注:当研究会の参考資料


化学物質問題市民研究会
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