UNEP プレスリリース 2018年11月22日
世界の水銀排出が20%上昇する中で、
水銀に対応するために諸国が参集


情報源:UNEP Press Release, 22 November 2018
Countries meet to address mercury as global emissions rise by 20%
https://www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/
countries-meet-address-mercury-global-emissions-rise-20


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年11月28
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/COP2/UNEP/181122_UNEP_PR_
Countries_meet_to_address_mercury_as_global_emissions_rise_by_20pct.html

  • 水銀に関する水俣条約の第2回締約国会議(COP2)がジュネーブで2018年11月19日から23日まで開催されている。
  • 来るべき報告書によれば、水銀排出の上昇は、国際社会に水銀への取り組みを強化するよう圧力をかけている。
  • 世界で70か国以上にある小規模金採掘現場で水銀の使用により1,500万の労働者が水銀に暴露している。
【ジュネーブ 2018年11月22日】環境中への世界の水銀排出量が 2010年から2015年の間に約20%上昇していることを新たな報告書が明らかにしている中で、約150か国−そのうち水銀に関する水俣条約の締約国は 94か国−が、水銀の有害影響を低減し、廃絶するための取り組みを強化するために、今週ジュネーブで会合を持っている。水銀は深刻な汚染の脅威であり、人の健康と環境に非常に危険である。

 歴史的な発効から一年以上経過して、水銀に関する水俣条約は国連環境計画(UNEP)により主催される第2回締約国会議(COP2)をスイスのジュネーブで開催している。COP2 は最近確立された同条約を強化することを目指しており、一方、各国は、水銀のライフサイクルを通じて、この重金属汚染物質に対応するため様々なの戦略を更新している。

 2017年に COP1 で各国は、この神経毒素に取り組むと約束した。石炭燃焼及び小規模金採掘を含む人間活動を通じて数千トンの水銀が、大気、土地、及び水に放出れている。

 いったん環境中に放出されると、食物連鎖中に入りこみ、体内に蓄積し、全ての年代の人々の脳、心臓、腎臓、肺、免疫系を害することができる。水銀は、神経系がまだ発達中の胎児及び幼児に特に有害である。脳が受けた損傷は元に戻らない。

 国連環境計画(UNEP)の来るべき『世界水銀評価 2018』での予備的発見が会議で発表されたが、そこでは会議期間の1週間を通じて数十の活動や催しが、世界保健機関(WHO)が我々の健康に対する上位10位の化学的脅威であるとみなしているものにスポットライトをあてた。

 ”国際社会が、かつてなく水銀排出を削減するという決意を強化する必要を感じていることは明らかである”と、国連環境計画の事務局次長ジョイス・ムスヤは述べた。”世界で最も新しい多国間環境協定である水俣条約は、世界で最も危険な汚染物質のひとつと取り組むことにより、人の健康と環境に真の影響を及ぼすであろう。ますます多くの諸国が世界的な水銀排出の懸念すべき上昇に積極的に対応しているということは、勇気づけられることである”と彼女は付け加えた。

 その『世界水銀評価 2018』によれば東/東南アジア、サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南も地域)及びラテンアメリカが、2010年から2015年の間の世界の水銀排出の最大の増加の要因である。排出削減のためのたゆまぬ行動がいくつかの地域と分野における控えめな排出削減をもたらしたが、他の大部分の地域では、主にいくつかの産業分野に関連する経済活動の増大により水銀排出量の増大がみられる。2010年と2015年の相違は、2010年の世界の排出に影響を及ぼしたかもしれない 2008 年の経済恐慌(訳注:リーマンショック)後の回復を反映している。これらの要素は水銀排出を削減するためのどのような(技術的)取り組みをも相殺しているように見える。

 水銀に関する水俣条約の締約国は新たな世界条約の実施に一年を費やしており、それは新たな水銀採掘の禁止と既存採掘の廃止;小規模金採掘における水銀の使用を低減するための措置;ある種のコンパクト蛍光灯、及び電池のような日用品の製造における水銀使用とともに、ある産業プロセスでの水銀使用の廃止;及び石炭燃焼を含んで広範な産業分野からの副産物としての水銀の排出管理を含む。

 水銀への曝露は主に、最も有害で生物蓄積するメチル水銀で汚染された魚とその他の海洋生物の摂取を通じて起きる。人々はまた、職業上の活動又は漏洩時の水銀蒸気の吸入を通じて、あるいは水銀使用時の直接接触を通じて、元素水銀又は無機水銀に暴露する。水銀は元素なので破壊することはできず、したがって条約はまた、それが廃棄物になった時に、その暫定的保管及び安全な処分のための条件を規定する。

 何世紀にもわたって水銀は、温度計や血圧計のような測定機器で使用されてきた。水俣条約は、2020年までに、これら及びその他の水銀添加製品の輸出及び輸入はもちろん、それらの製造の廃止を規定している。南アフリカ、ブラジル、及びフィリピンような国々における医療施設は水銀の廃止は実行可能であることを実証した。諸国は水銀を使用しない代替医療機器の使用を推進しており、医療従事者及び一般公衆の水銀への曝露を低減させている。

 水銀はまた、化学産業でも、例えば塩素と苛性ソーダの製造でも使用されている。この分野は、水銀を使用しない技術に切り替えるために非常に多額な投資をしているが、それでも数トンの水銀を使用する施設が数十、稼働している。水俣条約の条項は、他のある産業プロセスとともに塩素−アルカリ工業での水銀使用の最終的な廃止を求めている。

財政的メカニズム

 水銀に関する水俣条約は二つの要素からなる財政的メカイズムをもっている。地球環境ファシリティ(GEF)は、各国が水俣条約初期評価(Minamata Initial Assessments)を開発するために 110か国を、各国が小規模金採掘に対応するための国家行動計画を設計するために 32か国を支援した。二番目の要素である特定国際プログラム(Specific International Programme)は、総額 100万ドル(約1憶1,000万円)に達する第一段階プログラム(the First Round of the Programme)を承認した。COP2 においてはノルウェーとスイスがそれぞれ、第二段階プログラムのために約 100万ドル(約1憶1,000万円)を約束した。

記者への注記

水俣条約について

 128か国により署名され、100か国及び欧州連合により批准された同条約は、日本の水俣で1930年代に始まった産業廃水の水俣湾への投棄が続いた後、1956年5月に明らかになった歴史上最も深刻な水銀中毒事件の名前に由来する。同湾の魚類や貝類を食べた地域の住民は、けいれん、精神障害、意識消失、及び昏睡の症状を被り始めた。全体で数千の人々が直接的に水銀中毒を被ったとして認定され、現在は水俣病として知られているん。

 水俣条約は、水銀が使用され、放出され、又は排出される広範な製品、プロセス及び産業にわたり、管理及び削減を含む水銀の全ライフサイクルに関連する条項を含んでいる。同条約はまた、水銀の採掘、その輸出と輸入、それが廃棄物となった時のその安全な保管、及びその処分に目を向けている。更なる情報は Minamata Convention on Mercury を参照ください。

国連環境計画について

 UN Environment(国連環境計画)は、環境についての世界の主導的表明者である。それは、将来の世代のそれをそこなうことなく生活の質を改善するために国家と人々を鼓舞し、情報を与え、権限を与えることにより、指導力を発揮し、環境保護のための連携を推進している。国連環境計画は、政府、民間分野、市民社会、及びその他の国連組織及び世界中の国際組織とともに活動している。



化学物質問題市民研究会
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