HEAL, 2021年10月13日
グリホサート:41の健康環境団体が欧州委員会に
信頼できない産業側の研究の使用を止めるよう強く促す


情報源:Health and Environment Alliance (HEAL), 13th October 2021
Glyphosate: 41 health and environment groups urge EU Commission
to put an end to use of unreliable industry studies

https://www.env-health.org/glyphosate-41-health-and-environment-groups-
urge-eu-commission-to-put-an-end-to-use-of-unreliable-industry-studies/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年11月月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/211013_
HEAL_Glyphosate_41_health_and_environment_groups_urge_EU_Commission_
to_put_an_end_to_use_of_unreliable_industry_studies.html

 成功した欧州市民イニシアチブ(訳注1) #Stop Glyphosate (訳注2)の主催団体のいくつかを含む 41 の市民社会組織(CSOs)は、EU 保健委員のステラ・キリヤキデス(Stella Kyriakides)に対し、グリホサートの継続的な評価は最新の独立した科学的証拠に基づいており、既得権益から自由であることを保証するよう求めている[1][2]。

 本日(2021年10月13日)発表された公開書簡の中で、同組織は、グリホサートが人間と動物の健康に有害な影響を及ぼさない、又は環境に容認できない影響を及ぼさないとする EU 加盟 4 か国による予備的結論に続いて、グリホサートの現在の更新評価手順について懸念を表明している[3]。

 現在のグリホサートの認可は 2022年12月15日に失効するが、同組織は業界が同農薬のヨーロッパ認可の更新を支援するために提供したグリホサート研究(訳注3)の信頼性について具体的な懸念を表明した。

 最近の独立した科学的分析は、活性物質の評価のために業界から提出された 38のグリホサート遺伝子毒性研究(がんの発生を強調するメカニズム)のうち、方法論の観点から信頼できると見なすことができるのは 2つだけであることを示した[4]。これは、まだ独立してレビューされていない業界の他の研究にも当てはまる可能性がある。

 ”独立した科学的証拠は、グリホサート及びグリホサートベースの製品への暴露を、ヒトの特定の種類のがん、若年期の発達及びホルモンへの悪影響と関連付けている”と、健康環境同盟(HEAL)の代表であるゲノン・ジェンセン(Genon K.Jensen)は強調している 。”業界の研究を優先すれば、欧州委員会は、客観的で透明性のある評価、そして最終的には人の健康と環境に害を及ぼす農薬を EU 市場から排除するという公約を果たすことができない。”

 41の組織は、現在の評価手順が新たな独立した科学的証拠に基づいており、活性物質グリホサート及びグリホサートベースの製品の毒性を考慮に入れていることを保証するよう欧州委員会に要請している。この点で、彼らはラマッツィーニ研究所(Ramazzini Institute)のグローバル・グリホサート研究(Global Glyphosate Study)に注目を集めている。これは、独立した非営利団体によって農薬物質に対してこれまでになされた最も包括的な毒性研究である[5]。

 最近導入された透明性規則(Transparency Regulation)(訳注4)の規定は、欧州委員会に、”深刻な論争または矛盾する結果の状況において”欧州食品安全機関(EFSA)に科学的研究を委託するよう求める権限を付与されている[6]。グリホサートの評価はそのような状況を説明するものであり、ラマッツィーニのグリホサート研究はこのニーズに応えるためにサポートできる独立した研究である。

 ”独立して実施されたグローバル・グリホサート研究は、規制当局がグリホサート及びグリホサートベースの製品の実際の暴露の毒性に関して、がんの可能性やその他の健康への影響に関連して残っている疑問を解決するための鍵となる可能性がある”と HEAL の上席科学政策担当アンジェリキ・リシマシュー(Angeliki Lyssimachou)は説明している。 ”欧州委員会は、グリホサートの毒性に関する国民の懸念の高まりに応えて、入手可能なすべての結果が適切に報告され、EU の評価で考慮されるようにする必要がある。”

連絡先
 Angeliki Lyssimachou, Senior Science Policy Officer at the Health and Environment Alliance (HEAL), angeliki@env-health.org, +32 (0)2 329 00 81

編集者へのメモ
[1] https://www.env-health.org/wp-content/uploads/2021/10/13-October-2021-Letter-to-EU-Commissioner-Kyriakides-concerning-assessment-of-glyphosate_final.pdf

 グリホサートは、世界で最も広く使用されている農薬である。グリホサートベースの除草剤への暴露は、特定の種類のがん、並びに発達及びホルモン系への悪影響に関連している。

 2015年に、国際がん研究機関(IARC)は、グリホサートを「おそらくヒトに対して発がん性がある」と分類した。 EU法(EC 1107/2009)によると、このクラスの化学物質を農薬製品の有効成分として使用することは許可されていない。

 しかし、その間、ドイツ保健局(BfR)、続いて欧州食品安全機関(EFSA)及び欧州化学物質庁(ECHA)は、この物質は、たとえ発がん性、変異原性、生殖毒性、または内分泌かく乱性があっても、他の健康被害や人体へのリスクをもたらさないと結論付けた。 EU当局とIARC の間の発がん性評価の矛盾と、健康上の懸念からグリホサートを禁止を求める 100万人以上の市民の要求により、加盟国は当初提案された15-年の期間の代わりに 5年間だけ、グリホサートの認可を更新することに合意する結果となった。

 現在の認可の満了 (2022年12月15日に予定)に先立ち、グリホサートの再評価が進行中である。我々の大きな懸念は、評価を主導し、グリホサートに関する評価グループを形成する 4つの加盟国(フランス、オランダ、スウェーデン、ハンガリー)がグリホサートは EU 農薬規制(EC 1107/2009)で設定されている承認基準を満たしているという同様の予備的結論を発表したことである。ハザードとリスクの評価をそれぞれ完了するために、ドラフト評価レポートが ECHA と EFSA に配信されている。

[2] グリホサートを停止する−グリホサートを禁止する欧州市民のイニシアチブhttp://www.banglyphosate.eu/

[3] 2021年6月、4つのEU加盟国(フランス、ハンガリー、オランダ、スウェーデン)は、グリホサートは人の健康にリスクをもたらさないと結論付けた声明を発表した。 https://www.env-health.org/ominous-first-step-in-eu-renewal-process-of-glyphosate-4-member-states-suggest-no-risk-for-human-health-heal-comment/

[4] 2021年7月に発表された科学的分析は、以前の EU グリホサート評価が欠陥のある科学に基づいていることを明らかにし、グリホサートは遺伝子毒性ではないという欧州食品安全機関の主張はメーカーの研究に基づいて正当化できないと結論付けた。https://www.env-health.org/revealed-eu-glyphosate-assessment-was-based-on-flawed-science/

[5]ラマッツィーニ研究所(Ramazzini Institute)のグローバル・グリホサート研究は、この種の長期動物毒性研究の最初のものであり、世界的に最も有名な動物施設のひとつで現在実施されている。https://glyphosatestudy.org/

 特別なウェビナーが 2021年6月に HEALによってラマッツィーニ研究所と共同で開催され、主任科学者がグローバル・グリホサート研究を発表した。https://www.env-health.org/webinar-the-global-glyphosate-study-the-most-comprehensive-study-on-worlds-most-used-pesticide-ever/

[6] https://ec.europa.eu/food/horizontal-topics/general-food-law/implementation-transparency-regulation_en


訳注1:欧州市民イニシアチブ
  • 欧州市民イニシアチブとは?(EU MAG)
     欧州市民イニシアチブ(European Citizens' Initiative=ECI)とは、EU が権限を持つ政策分野について、加盟国 7か国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度。
訳注2:#StopGlyphosate イニシアチブ
訳注3:業界によって提供されたグリホサート研究
訳注4:透明性規則(Transparency Regulation)


化学物質問題市民研究会
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