Unearthed 2020年8月30日
石油企業に支援された業界団体が
アフリカでのプラスチック推進のために
トランプ政権にロビーイングしている

エマ・ハワード

情報源:Unearthed, 30 August 2020
Oil-backed trade group is lobbying
the Trump administration to
push plastics across Africa

By Emma Howard
https://unearthed.greenpeace.org/2020/08/30/
plastic-waste-africa-oil-kenya-us-trade-deal-trump/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年9月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200830_Unearthed_Oil-backed_trade_group_is_lobbying_the_Trump_administration_to_push_plastics_across_Africa.html


 アメリカ化学工業協会(ACC)は、プラスチック廃棄物の南の発展途上国(グローバル・サウス)への流れを制限する新しい世界的なルールにも反対した。
 シェル、エクソン、トタル、デュポン、ダウなどの石油及び化学企業を代表するロビー・グループは、パンデミックの最中にトランプ政権に、米国とケニアの貿易協定(訳注1)を利用して、アフリカのプラスチック及び化学産業を拡大するよう働きかけている。

 アンアースド(Unearthed)が入手した文書類は、同じロビー・グループと米国のリサイクル業界が、低中所得国へのプラスチック廃棄物輸出に新しい制限を課す国際協定の変更に反対していることを示している。

 シェル、エクソン、トタルを含むが BPは含まないアメリカ化学工業協会(ACC)のいくつかの企業は、「プラスチック廃棄物のない世界」を創造することを誓約する 10億ドル(約1,100憶円)のイニシアチブの創設者であった。

 アメリカ化学工業協会(ACC)は、米国通商代表部(USTR)及び米国国際貿易委員会(ITC) の幹部への公開書簡で、”ケニアは将来、この貿易協定を通じてアフリカの他の市場に米国製化学物質及びプラスチックを供給するためのハブとして機能する可能性がある”と書いている。

 手紙はまた、廃棄物取引の制限の撤廃を要求している。これは専門家が言うにはプラスチック廃棄物に関する新しい規則を合法的に回避しようとする動きであり、文書が明らかにしているように、企業もまた激しく反対していた。

 ケニアの環境保護論者は、この提案は”ケニアがプラスチック廃棄物のゴミ捨て場になる”ことを意味すると述べた。

 昨年、プラスチック廃棄物危機に取り組むための法律を導入した米国民主党上院議員トム・ウダルは、企業を”裏表のある言行(double dealing)”と非難した。

 彼はアンアースドに次のように言った。”石油化学及びプラスチック産業が、増大するプラスチック廃棄物の危機に対する解決策はもっと多くの使い捨てプラスチックを生産することであると主張するのはとんでもないことである。これらの会社や企業は、海に出るプラスチック廃棄物について途上国のせいであると非難している。 この二重の取引は、プラスチック廃棄物危機の真の原因が何であるかを明らかにしている。会社や企業は数十億ドル(数千億円)を稼ぐために、その責任を海外に転嫁している。これらの企業に彼等の過剰な廃棄物と汚染の責任を負わせることが、私たちが巨大なプラスチック廃棄物問題取り組む唯一の方法である”。

 アメリカ化学工業協会(ACC)は、一部の石油メジャーの石油化学部門とともにダウやデュポンなどの化学会社を含む業界団体である。 BP は ACC のメンバーであるが、プラスチックを製造しておらず、先月、石油化学事業をイネオス(Ineos) に売却した。 広報担当者はアンアースドに、ACC での活動は自動車産業で使用されているカストロール・ブランドの潤滑剤に絞っているいると語った。

バーゼル条約

 プラスチック廃棄物に関する公の抗議に続いて、昨年5月にバーゼル条約と呼ばれる世界条約の下で合意された新しい規則(訳注2)は、2021年の時点で、OECD 以外の国のほとんどすべてが米国との混合、汚染、またはリサイクル不可能なプラスチックの取引を禁止されることを意味する。 なぜなら、米国はバーゼル条約条約に加盟していない数少ない国のひとつだからである。

 OECDは、米国からの反対を受けて、新しいプラスチック廃棄物裁定を受け入れるかどうかについてまだ決定していない。 バーゼル条約は、米国と OECD の 37加盟国との間の継続的な貿易を可能にする限定的な例外を提供しているが、それらの国が条約と同じくらい強いプラスチック廃棄物に関する基準を採用している場合に限られる。

 条約に加盟している 187か国は、輸入国から事前のインフォームドコンセントを得るための手続きに参加する必要がある。この手続きには、環境関連処理施設のチェックが必要である。

 情報公開法(FOIA)の下で アンアースドが入手した未公開の文書は、石油及び化学業界のロビー・グループが 2019年3月にバーゼル条約の事務局に書簡を書いたことを示している。

 ロビー・グループは、”規制上の負担”が生じ、出荷の遅延、物流の問題、コストの増加につながるということを根拠に、新しい規則に反対した。 2週間後、その通達を米国通商代表部(USTR)に転送し、懸念について話し合うための会議を要求した。

 文書はまた、米国リサイクル産業を代表する主要な業界団体であるスクラップ・リサイクル産業研究所(ISRI)が、新たな規則は米国の輸出を厳しく制限し、合法的な貿易を阻止し、プラスチックがリサイクル施設に到達するのを妨げることにより、海洋のごみ汚染を悪化させる可能性があることを根拠に、新しい規則に反対したことも明らかにしている 。

 ”原則として、我々は提案が採択されず、現状を維持することを望むと、2019年4月3日米国通商代表部(USTR)に送信されたメールに彼らは書いた。

 ACC の報道担当者は、新しいバーゼル規制に関する懸念の根拠は、それらの規制が廃棄物を他の諸国に輸出する能力を制限するであろうから、”アフリカや他の開発途上国のプラスチック廃棄物を適切に管理する能力を非常にうまく制限できる”ということであるとアンアースドに語った。

 スクラップ・リサイクル産業研究所(ISRI)はこれらの懸念を繰り返した。 新しい制限は、”収集、選別、リサイクルなど、廃棄物管理の基盤が不十分な諸国がリサイクル及び処分能力のある国に収集できるものを送ることを阻止することになる”と報道担当者はアンアースドに述べた。 ”発展途上国のためのこのはけ口がなければ、すでに悪い状況がさらに悪化することを ISRI は、心配している”。

 スクラップ・リサイクル産業研究所(ISRI)によると、2018年に米国は非 OECD 諸国から 92,000トン以上のプラスチック廃棄物を輸入した。

 ただし、その年の最初の 6か月で、米国の中国、香港、インド、マレーシア、タイ、ベトナム(すなわち OECD 以外の国)への輸出は合計で 480,432トンに達した。 これらの輸出は半年の期間で米国の年間輸入の5倍である。

 トランプ政権は OECD での新しい規則の実施に反対する業界の立場を支持した。米国の反対は、同国が変化を回避する方法を模索するかどうかに懸念をもたらした。

 ナイジェリアのアビア州立大学で環境化学の准教授を務めるイノセント・ノロム博士は、アフリカでのプラスチック消費の最近の目録を共同執筆したが、アンアースドに次のように語ってた。

 ”プラスチック廃棄物の取引を続けるために抜け穴が模索されているように見える。 アフリカに到着すると、他のアフリカ諸国への国境を越えた動きを容易にするために、新たに出現している自由貿易ルートを使用することになるであろう。 アフリカ同盟とその加盟国は警戒すべきである”。

 石油化学製品の需要は今後数十年で急増すると予測されており、企業は低中所得国に市場拡大を期待している。 プラスチックはすでに米国のケニアへの最大の輸出品目であり、2019年の売上高は合計で5,800万ドル(約64憶円)に上る。


spacer2x2.gif(809 byte)
二国間首脳会議で握手する米大統領ドナルド・トランプとケニア大統領ウフル・ケニアッタ
(ホワイトハウス、オーバル・オフィス 2018年)
Photo: Olivier Douliery-Pool/Getty
 今年初めの米ケニア FTA(自由貿易協定)に関するトランプ政権への手紙で、ACCは、”化学物質とプラスチックの生産又は消費の国内制限に対する課税、及び材料(materials)と原料(feedstocks)の境界を越える貿易に対する制限を禁止する”よう求めた。 原料にはリサイクル用のプラスチック廃棄物が含まれる可能性がある。

 彼らは、米国とケニアは”関連する国際的な約束に一致する健全な管理とリサイクルを目的として廃棄物の取引を可能にする」べきだと付け加えた。

 それでも、国際環境法センターの環境健康プログラムの弁護士でありディレクターであるデビッド・アゾレイは、アンアースドに次のように語った。”プラスチックの生産と消費に関する国の制限を先手を打って回避するために、この潜在的な合意を使用する提案は、このような貿易協定を活用して、プラスチックの生産と使用を抑制するための世界的な取り組み、並びにバーゼル条約から新たに採択された世界的なプラスチック廃棄物の貿易をより適切に管理するための条項を回避するという ACC の目的を明確に示している”。

 NGOバーゼル・アクション・ネットワークの事務局長ジム・パケットは、アフリカの別の条約であるバマコ条約(訳注3)にも矛盾するとコメントした。

 ”米国とケニアの間で廃棄物と有害化学物質の貿易を拡大する取り組みは、それがアフリカ中で取られた場合、アフリカへの多くの有害化学物質の輸入とともに、実質的にすべてのプラスチック廃棄物の輸入を禁止するアフリカのバマコ条約に直接対決するというかなり陰湿な取り組みである”と彼はアンアースドに語った。

ケニア

 環境保護論者は、この協定がビニール袋に関する新しい規則を含む、プラスチック消費を制限するための全国的な取り組みを損なう可能性があることを懸念している。

 報告によると、サハラ以南のアフリカはビニール袋法で世界をリードすると考えられており、34か国が税または禁止措置を採用している。

 ケニアの環境・正義・開発センター(CEJAD)のプラスチック・プログラム・コーディネーターのドロシー・オティエノ氏は、この貿易取引がこれらの取り組みによって生じた勢いと変化を脅かす可能性があるとアンアースドに語った。

 ”私たちは国として、ここで使用され、最終的には廃棄物となるプラスチックを削減するための飛躍を遂げた国として、キャリアバッグの使用と製造の禁止、そして最近では保護地域でのプラスチックの禁止を実施している。したがって、この貿易協定は 我々が国家として達成したことを減じる」ものである”。

 しかし、ケニアの政治家と業界団体は、そのような恐れは対応されるであろうと述べた。 数週間前に交渉が始まったが、コロナウイルスの懸念のために最近行き詰まっている

 与党ジュビリーパーティーの国会議員であり、貿易産業議会委員会のメンバーであるコーネリー・セラムは、アンアースドに次のように語った。”貿易協定の下でプラスチックの使用が国に再導入されるかもしれないという恐れは正当である。アフリカで、主にはケニアで事業を拡大しようと計画している事業者団体は歓迎されるが、今までまで禁止されていた原料を導入するために貿易協定を利用することはできないし、議会として我々は経済を台無しにする可能性のあるいかなる議定書も許可しない”。

 幅広いロビー・グループであるケニアの民間セクター同盟の CEO、キャロル・カルガは、次のように述べた。”経済政策でプラスチック材料の使用を禁止し、その後、貿易協定を通じて同じものを再導入することは、あまりよく考えられていない。最終的に合意される前の協定は、すべてのレベルでチェックされる必要がある”。

 オティエノはまた、より多くの廃棄物の影響について懸念を表明した。 ”廃棄物は増加するであろう。一部は再利用およびリサイクルされるが、大部分は最終的に処分場に行く。 最終的には、ケニアがプラスチック廃棄物のゴミ捨て場になる状況になるだろう”と彼女は述べた。

 ”それは私たちの水路と排水系を詰まらせ、洪水につながる。 プラスチックの燃焼による汚染の影響も見られる。それは呼吸器系疾患につながるダイオキシンとフランを生成する。誰かが家のすぐ隣でこれらの廃棄物を燃やして影響を被ることがあり得る。 また、プラスチックが原因で町の美的価値が低下していることもわかる”。

 昨年、シェル、エクソン、BASF を含むいくつかの ACC 企業は、主要な消費財および廃棄物管理企業とともに、アフリカとアジアのプラスチック廃棄物を浄化し、汚染を防ぐための廃棄物管理プロジェクトに融資する一環として、10憶ドル(約1,000憶円)を約束する”プラスチック廃棄物を終わらせる同盟(AEPW)”を立ち上げた。

 ACC は公の書簡の中で次のように述べている。”特にケニアなどの開発途上国では、使用済みプラスチックを収集、分別、リサイクル、および処理するための社会基盤の開発を支援する必要がある。

 ”そのような社会基盤は、貿易と投資の機会を生み出し、使用済みプラスチックを環境から締め出すのに役立ち、それにより海洋ごみを減らすことになる。米国とケニアは、より良い廃棄物管理と全ての国における使用済みプラスチック管理のために東アフリカにおける革新的な循環経済政策を促進する上で、強力な役割を果たすことができる”。

 情報公開法(FOIA)を通じて入手した文書の中で、そのような社会基盤の整備にはプラスチック廃棄物取引の継続が必要であり、循環経済には十分な原料が必要であるため、新しい規則は”海洋ごみの課題への取り組みを遅らせる”可能性があると ACC は主張した。

 ”世界のプラスチック貿易に対する障壁の増加は、調達国がリサイクルのための十分な社会基盤を持っているかどうかに関係なく、地元のプラスチック廃棄物管理への負担の増加につながるだろう”と彼らは主張した。

 ACC の報道担当者はアンアースドに、彼らの懸念は、制限が中低所得国からより強い社会的基盤を持つ国への輸出をいかにに妨げるかに関するものであると語った。

 米国政府との文書は、輸出と輸入の両方に言及している。

 これらの文書は、米国政府がプラスチック廃棄物を終わらせる同盟(AEPWAEPW)をサポートしたことも示唆している。米国通商代表部(USTR)の関係者は、2019年4月の ACC からの同盟のイベントへの招待を受け入れ、”同盟と行っていることは重要な対談”であると回答した。

 シェルのス報道担当者はアンアースドにこう語った。”シェル企業はさまざまな理由で業界団体に参加している。 本質的に合意に基づく組織であるが、彼らの立場は必ずしも個々の会員と同じ見解を反映しているわけではない。 ACC は米国を拠点とする数少ない業界組織のひとつであり、シェルが安全、気候変動、及び我々が共同で生産する製品の持続可能な使用、廃棄、リサイクルなど、さまざまな問題に関する業界のベストプラクティスを交換することを可能にする”。

 トタルは気候変動に関する彼らの報告書を私たちに紹介した、それはトタルが気候に関する ACC の立場と”部分的に調整されている”と述べていつが、プラスチックについては言及していない。

 エクソン、デュポン、ダウ、及び BASFE は、コメントの求めに対して ACC を我々に紹介した。 独立した連邦機関である米国国際貿易委員会は、貿易交渉に参加していないと私たちに話し、私たちにコメントのために USTR を紹介した。しかし USTR は我々のコメント要求に応答していない。


訳注1:米国ケニア貿易協定
訳注2:プラスチック廃棄物
訳注3:バマコ条約


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る