マザージョーンズ 2016年5月11日
環境活動家らはフラッキングを嫌悪するが、
彼らは正しいか?

天然ガスの賛否両論を説明
ティム・マクドネル
情報源:Mother Jones, May 11, 2016
Environmentalists Hate Fracking. Are They Right?
The pros and cons of natural gas, explained.
By Tim McDonnell
http://www.motherjones.com/environment/2016/03/
did-fracking-ruin-obamas-climate-legacy

訳:安間 武 (
化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年5月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
160511_Mother_Jones_Environmentalists_Hate_Fracking.html

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Lonny Garris/Shutterstock

バラク・オバマ大統領の気候変動に関する最大の成果が実際には完全な失敗であったら、どうするか?

” アメリカは化学を悪用しているように見える。
本当に悪く”。
 それは、ジャーナリストであり環境活動家であるビル・マッキベンによるネーション誌での最近の所説の中心的な論点である。”もしあなたが化学を悪用していたら”とマッキベンは書いている。”いかに多くの画期的な気候協定にあなたが署名しても、あるいはいかに多くの演説をあなたがしても、そんなことは問題ではない。そしてアメリカは化学を悪用しているように見える。本当に悪く”。

 マッキベンの批判は全てフラキングについてのこと、すなわち地下にあるシェール層を高圧の水、砂、そして化学物質を用いて粉砕する議論あるオイルとガスの採掘技術についてのことである。(彼は、マザージョーンズ誌2014年9月号で同様な議論をしている。) 我々は、過去10年間にわたり、太陽光やその他の再生可能な電源に長足の進歩を見てきた。しかし、アメリカのエネルギー状況の際立って大きな変化は、石炭から天然ガスへの大きな転換であった。この傾向はオバマ政権になった時にはすでに進行中であったが、頂点に達したのは彼が政権についている間であった。3月に連邦政府のエネルギー分析官らは、2016年は、アメリカの電源の比率において天然ガスが石炭を上回る歴史上初めての年になるであろうと報告した。

アメリカの総発電量に占める電源毎の比率(1950-2016)
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 全米で多くの石炭火力発電所は、天然ガスに対応するよう改装が行われているか、又は完全に閉鎖され、新たな天然ガス火力発電所に建て替えられている。この転換は、ある程度は単純に経済的な理由のためである。すなわち、アメリカのフラッキング・ブームは、低価格の天然ガスを市場に満たし、石炭価格を押し下げるという結果をもたらしている。それはまた法的規制によっても加速された。気候変動に対応するためのキャンペーンの中で、オバマ政権は主に、最も支配的な温室効果ガスである二酸化炭素の排出削減に力を注いだ。石炭火力発電所はアメリカにおける 1番の CO2 排出源である。天然ガスの場合 CO2 の排出は同一ネルギー当たり約半分である。従ってオバマ政権の見解では、石炭消費を大幅に削減し、一方再生可能エネルギーが追いつくまで、ガスはよりクリーンな将来への”懸け橋”となることができる。

 現在までのところ、それはうまくいっているようにみえる。今週発表された連邦政府の分析は、アメリカのエネルギーに関連する CO2 排出(電力、交通、ビル内のガス使用を含む)はこの10年間で最小であることを示したが、それは”発電における石炭使用の減少と天然ガス使用の増大”によるところが大きい。

アメリカのエネルギーに関連する CO2 排出(2005-15)
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 しかし、マッキベン及び彼が共同で設立した組織である 350.org を含んで、多くの環境活動家にとって、オバマの”懸け橋”理論はごまかしである。それは、天然ガスの主要な成分であるメタンやその他の温室効果ガスを無視しているからである。燃焼していないメタンが大気中に漏れ出すと、比較的短期間に、劇的な温暖化を促進する。メタン排出は長い間、アメリカのつぎはぎ細工の気候政策の中に見当たらない部分であったが、今週、オバマ政権はこの問題に対応することを意図した初めての規制を発表することが予想されている。しかしその新しい規制は新規の設備だけに適用され、すでに存在する不規則に広がったガス系統には適用されないであろう。

メタンとは一体何か?

 オバマの懸け橋戦略が成功するためには、パリ協定中に記載されている地球温暖化制限−気温上昇を産業革命前と比較して”2度C(3.6度F)をはるかに下回る(well below)”に沿った温室効果ガス排出の削減という結果を出す必要があるであろう。そこでガスそのものの話から始めよう。

 環境保護庁(EPA)によれば、2014年にはメタンはアメリカの温室効果ガス総排出の約11.5%を占めていた。(残りはほとんどが CO2 プラス少量の亜酸化窒素とハイドロフルオロカーボン類である)。そのメタンの概略 5分の 1 は天然ガスに由来する(これは埋立地排出と牛のオナラとゲップに続き 3番目の排出源である)。フラッキング・ブームであっても、天然ガスからのメタン排出は過去 5年間のレベルとほぼ同じに保たれており、それらは実際には 10年前からかなり減少している(EPA の統計を信じると仮定すればの話であり、このことについては後述)。容量では、それらはジェット燃料からの CO2 排出とほぼ同じレベルであり−言い換えれば相当な発生源であるが、発電所や車からの CO2 排出に比べればその量は小さい。

 しかし、温室効果ガスについて油断ならないことは、容量は必ずしも主要な懸念ではないということである。分子形状のために、異なるガスは熱を閉じ込める効果(温室効果)が大きかったり小さかったりする。ガスを比較するために、科学者らは”地球温暖化係数(Global warming potential)”という尺度を使用するが、それは一定の容量のガスが一定の期間に、例えば100年間にどのくらい多くの熱を閉じ込めるかを測る尺度である。科学者らの間に、メタンの温暖化係数をどのように CO2 の温暖化系数と比較するかについて大きな議論がある。 メタンは 100年間で CO2 より25倍、能力が高いと EPA は述べている。マッキベンは、メタンのもっと適切な数値は、今後10年から20年の間に CO2 の能力の 86〜105 倍であるとするコーネル大学のある研究者の言葉を引用している。

結局、CO2 はやはり
一番の敵だ。
 二つのガスは異なる寿命を持っているので同一条件で比較することは難しい。CO2 は大気中に数千年間、存在できるが、一方メタンはわずか数十年しか持続できない。(その後 CO2 に分解する)。地球温暖化係数はまた、熱の閉じ込め以外の他の種類の影響を除外しているので、不完全な比較尺度であると、デューク大学の気候学者ドリュー・シンデルは述べた。大気中のメタンはまた、例えば植物や人の健康に有害なオゾンを生成する。シンデルの計算によれば、全ての影響を含んで、1トンのメタンを大気に放出させないと短期的には 100トンの CO2 放出防止に相当し、長期的には 40トンの CO2 放出防止に相当する。

 時間の尺度が鍵になると、ストックホルム環境研究所の常任理事ヨハン・クーレンスティエルナは述べた。メタンは地球の温度により速く影響を及ぼすので、今後十年又は二十年経過すればメタン排出の削減は地球温暖化の即時の影響を食い止めることのできるひとつの方法であろうと、彼は説明した。

   ”もし我々が短期的な温暖化の速度を低減すれば、生物種の生息環境への影響を低減できる”とクーレンスティエルナは述べた。”我々はぜい弱な生物集団が順応するための時間を買うことができる。我々は北極の氷河の溶解の速度を遅くすることができる”。

 しかし、気候への永続する長期的なダメージを制限し、パリ協定の目標を達成するという点に関しては、”それを実現するための唯一の方法は CO2 に対応することである”と、彼は述べた。

 ”厳格な二酸化炭素の規制が実施される前の[メタン及びその他の短寿命の汚染物質]の軽減の実施によって得られるものはほとんどない”ということが、シカゴ大学の地球物理学者レイ・ピエールハンバートによる2014年の研究の主要な結果であった。ピエールハンバートと彼の同僚らは、今世紀の半ばまでに CO2 排出が管理されなければ、メタンによって引き起こされる短期的温暖化など関係ないとする今月の新たな研究の結論を繰り返し述べた。言い換えれば、結局、CO2 がやはり一番の敵だということである。

 そうは言うものの、最終的には気候変動に対する唯一の解決は全ての温室効果ガスの排出を止めることである。そこで、ある時点でメタン対 CO2 論争は科学的でなくなり、主観的で事実に基づかない価値判断となってきた。我々は、長期的にダメージを及ぼす排出を低減することの対価として、どのくらいの短期的な気候ダメージなら受け入れるつもりであろうか?

 一方、もう一つの問題がある。メタン対 CO2 の相対的危険性を議論することは、天然ガス産業が実際にどのくらいのメタンを排出しているかを知らなければ、価値が限られる。そしてそれを理解することは、簡単に聞こえるけれど実は難しい。

メタンを測定する

 天然ガス製造・供給システムは、採掘井戸元から始まり各家庭への供給配管にいたるまで、プロセスのほとんど全ての段階でメタンを排出する。これらの排出の約 3分の 2は”意図的”である、すなわちそれらは設備の通常の使用中に生じる。例えば、空気式計器をオン・オフ動作をさせるために(空気圧力の代わりに)天然ガスの圧力を利用するが、それらが動作するときに微量のメタンが排出される。他の 3分の 1は、いわゆる”一時的”放出、すなわち漏えいであり、危機の一部が破損したり、又は故障した時に生じる。

 天然ガス会社にはメタン排出を測定し報告する法的な義務はないので、科学者や EPA は総量を導き出すために多くの経験に基づく推定をしなくてはならない。EPA の公式測定値の不適切性は 2月に明らかになった。すなわち EPA はオイル・ガス産業からのメタンの排出量の見積りを発表したが、それは完全に高い値−以前に報告された値より約27%高い−であった。NGO である環境防衛基金(EDF)によれば、その差異は、20年間の気候影響は 200の火力発電所に相当するということを示している。その修正は、天然ガス基盤が実際にどのくらいあり、それぞれの部分からどのくらいのメタンが排出されているのかを示す改善された計測に由来するものである。EPA はこれらの両方の数値を数年間、意図的に低く見積もっていた。

ガス系統からのメタン漏えいを測定することは難しく、しばしば不正確だ。
 メタン排出は EPA が以前に見積もったものより高いということを示唆するそのほかの証拠も蓄積されている。環境防衛基金(EDF)は、テキサス州、コロラド州、及びその他の場所にある特定のフラッキング・サイトからのメタン排出に関する 12以上のピアレビューされた研究を調査したが、それらのほとんど全ては排出レベルは以前に報告されていたものより高いことを見出していた。マッキベンは彼の所説をメタン排出は過去10年間に30%以上増えていると結論付けたハーバード大学の新たな研究を用いて導いている。それは、その期間中には顕著な増加はないことを示唆する EPA の分析とは大きなへだたりがある。

 しかし、ハーバード大学の論文は大きな警告を含んでいる。著者らは、”メタン増加をどのような特定の発生源にも簡単には関連付けることができない”と告白している。言い換えれば、メタンの増加は農業廃棄物源からよりフラッキングからの方が多いという証拠はないということである。どちらにしても、ガス系からのメタン排出はほとんどの人々が考えているより多いということは明白であり、もし気候変動との闘いが最終目標なら、そうあるべき排出量より確かに多い。EPA 長官ジーナ・マッカーシーですら 2月に、”ガスに関連するメタン排出の当初の EPA の理解と新たな研究が明らかにしていることとの間に大きな食い違いがあることを認めた。

 意図的であろうと事故であろうと、ガス系からのメタン漏えいを測定することは難しく、しばしば不正確であるということが分かっている。携帯赤外線検出器がスポットチェックをするうえで機能するが、それらは労働集約的であり、また漏えい個所が地下のパイプの場合には難しい。地域的な調査は全体的な 排出のより良い展望をもたらすが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の画像が示すように、やはり特定の漏えい個所を探すことはできない。

 メタンについての公衆の懸念の増大がガス産業により良い排出検出方法を採用するよう圧力をかけているということは良いニュースであると、環境防衛基金(EDF)の上席科学者ラモン・アルバレスは述べた。これらは排出源を正確に指摘することを難しくしていた気象条件(例えば、風が吹けば排出源からメタンを吹き飛ばす)に対しても良い精度と調整が可能な走行車搭載検出器を含む。

 ”検出方法は改善されている”と彼は述べた。”これらの新しい計器を装備した可搬型調査のあるものは、受け入れることができる方法であり、規制当局はこれらのことを要求することを検討中である”。

それでは、我々は漏えいを直すことができるのか?

 石炭火力発電所からの CO2 排出とガス系からのメタン排出との重要な違いは、メタン排出の方がはるかに容易に削減できる点である。言い換えれば、多くの漏えいはかなり容易に、そしてコスト効果をもって直すことができるということである。それは石炭に勝る重要な利点である。石炭火力発電所から排出される CO2 を回収することは極めて高くつき、非常に効果的であるというわけではない。アメリカでは実用的な”二酸化炭素回収隔離”装置を持った石炭火力発電所はなく、現在建設中の二つの発電所のひとつは、、まだ運転前なのに予算を数十億ドル(数千億円)超過している。

 環境防衛基金(EDF)によって委託された2014年の研究は、既存の技術を利用しつつ、天然ガス 1,000 立法フィート(Mcf)当たり1ペニー(1セント)以下の産業側負担で、 系全体の排出を 40%削減できることを見出した。(一般的な新規フラッキングによるシェールガス井戸は約 2,700 Mcf/日のガスを生成する )。いくつかの修理は他のものより容易である。マッキベンは、井戸のセメント・ケーシングの修理の難しさについて警告している。パイプラインもまた、やっかいである。 EPA によれば、アメリカには、古い鋳鉄パイプ 1マイルにつきプラスチック・パイプが約 21マイルある。しかし、鋳鉄パイプは非常に漏れやすいので−プラスチックパイプからの排出(漏れ)の24倍−、それらの累積排出はプラスチック・パイプの累積排出より実際には高い。鋳鉄パイプをプラスチック・パイプに置き換えることは技術的には力仕事で何も問題はないが、非常に高価で時間がかかる。

メタンの単一最大の漏えい源は、いくつかの機能的部品をもっと頻繁に交換することにより簡単に大幅削減を実現できる。
 しかし、井戸はガス系メタン排出の約 5%を占めるだけであり、パイプラインは 2%だけである。その他のメタン排出源は制御がもっと容易であろう。単一最大の漏えい源であるコンプレッサーは、現状の産業基準よりもっと高頻度でいくつかの機能的部品を交換することにより簡単に大幅削減を実現できる。二番目の最大漏えい源である(ガス圧を利用した)空気式計器は、ガス圧力の代わりに、可能ならいくつかの小さな太陽光パネルを設置して電気式にすることにより実現できるかもしれない。(訳注:防爆の問題を解決する必要がある)。

 要するに、何もしなければ漏えいしてしまうガスを確保することの価値を含んで、 EDF によって見積もられた 40%削減は産業側と消費者に年間 1億ドルの利益をもたらす−気候上の利益は勘定していない−ことをその研究は見出した。

 それではなぜ、ガス会社はこれらの措置をもっと積極的に追求しないのか? 市場リサーチ会社 ICF インターナショナルのオイル・ガス専門家であり、 EDF 報告書の著者であるヘマント・マリアは多くの要素を指摘した。様々な修理のコストは場所によって大きく変動する。自社のガス基盤を運転し保守する業務を他の会社に移す、又はその逆を行うというような会社の努力があるかも知れない。最もコスト効果のある措置でも先行投資が必要であり、それは競合する資金的ニーズを持つ会社にとって非常に高いハードルであり得る。しかし恐らく最も重要なことは、メタン排出は現在規制されていないので、会社は単純にそれらについて何かしなければならないということではない。修理することが求められていないのに修理するためになぜ金を使わなくてはならないのか?

 ”どの様な自主的措置のための資本投下も、ビジネスを促進する必要のあるプロジェクトに比べて優先順位が低くなるであろう”とマリヤは述べた。

 その計算はすぐに変わるであろう。今週、EPA は、新たなガス基盤からの漏れを、2025年までに40〜45%削減することを狙いとするメタン排出に関する規制を仕上げることが予期されている。その新たな規則は、 EDF の計算によれば今から 2025年までのガス産業分野のメタン排出の 70%以上は既存の排出源に由来するものなので、完全な解決のほんの一部分にしかならない。3月にオバマはカナダの首相ジャスティン・トルドーと既存排出源でのメタン規制を実施することを共同で約束したが、これらのことはオバマの在任中にはまとまりそうにない。従ってそれを継承するかどうかは次期大統領次第である。民主党のヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースはメタン規制を強化することを約束している。ドナルド・トランプは黙っているが、もし彼が気候変動はでっち上げだと考え、”環境省(Department of Environmental)”を解体することを望むなら、メタン排出規制はおそらく彼の高優先順位にはランクされないと言うのが安全な言い方であろう。

閉じ込める

 メタン排出に何が起きようと、オバマの天然ガス”懸け橋”構想には懸念されるべきもう一つの理由がある。特にガス基盤の構築は、我々がほとんど完全にそれらを止める必要が生じた後にも国が化石燃料を長く使い続けることを強いるのではないか?

 12月にパリでまとめられた国際気候協定の一部として、オバマは、アメリカはその温室効果ガス排出の総量を2025年までに2005年レベルより26〜28%削減すると約束した。しかし、パリ協定の義務的な地球温暖化の制限である 2度C(3.6度F)を”はるかに下回る(well below)”を守るためには排出はそれよりもっと低減しなくてはならないであろう。米国大規模な脱炭素化への道筋プロジェクト(US Deep Decarbonization Pathways Project)と呼ばれる科学者らのグループは、アメリカにとって 2 度C 目標は 2050年までに 1990年レベルの 80%を下回る排出削減であり、それは現在の我々状況からの社会全体の大幅な変化を意味することを発見した。言うまでもなく、同グループが勧告する戦略の中心は可能な限り多く、可能な限り迅速に化石燃料の使用を削減することである。
新たな化石燃料基盤に金をより長くつぎ込み続けるほど、クリーン・エネルギーへの転換はより難しくなる。

 天然ガス系統からのメタン排出と漏れをなくすよう我々が管理しても、ガス火力発電所はかなりの量の二酸化炭素−石炭火力発電所よりは少ないが−を排出するであろう。そして新たな化石燃料基盤に金をより長くつぎ込み続けるほど、クリーン・エネルギーへの転換はより難しくなる。それは、発電所は数十年間の耐用年数があり、巨額の先行投資コストをゆっくり回収するからである。カリフォルニア大学バークレー校の新たな研究が、平均して今日建設されるガスプラント−そして、オバマのクリーンパワープランは−もっと多くの天然ガスプラントの建設に掛かっているということを思い出すこと−2057年まで操業される。年々新たなガス・プラントが建設され、その期限を押し戻している。

 このいわゆる”閉じ込め効果(lock-in effect)”は、石炭の減少により残される溝を再生可能エネルギーで埋めるのではなく、再生可能エネルギーを電源ミックスから締め出したままにするであろう。カリフォルニア大学アーバイン校( UC-Irvine)による 2014年市場予測研究は、天然ガスの高い供給により再生可能エネルギーは 2050年には米国の電力の 26%しか生成せず、一方もっと天然ガスの供給が低ければ、再生可能エネルギーの割合は 37%に増大すると予測した。その研究によれば、ガスへの依存が増大すると、今後数十年間にわたり温室効果ガスの排出の減少は非常にわずかであるという結果になるということが結論である。その研究は、たとえメタン漏えい率がゼロになったとしても同様な結果になることを示した。

 このことは、米国もまた過去の気候目標を吹き飛ばすか、計画された期限前に幾分強制的にガス・プラントを閉鎖せざるをえないか、又は政治家や投資家にとっては面白みのない選択であるが、再生可能エネルギーが自身でガスを打ち負かせるほどに安くなるというような状況を作り出すほかないであろうが、そんなことは起こり得ない。しかし、 UC-Irvine の研究はその予測を既存の政策は変わらないという前提に置いている。すなわち、メタン排出の規制はない(但し、今週中に状況は変わりそうである);再生可能エネルギーのための連邦政府、州政府、及び地方政府レベルでの新たな動機付けはない、などである。言い換えれば、”懸け橋”からの出口はないということである。もう一度言うが、それは、出口を作るのか、作らないのかを設計する次期大統領及び議会次第であろう。

石炭からガスへの転換の他の利点

 全ての様態のエネルギー生成は気候変動とは関係ない環境への副作用をもたらす。そして EPA の科学者らは昨年、”フラッキングは飲料水に広範な全体的な影響をもたらしていない”と結論付けたが、個々の汚染は継続して起きている。フラッキング現場での地下への廃水注入処理は地震を引き起こすことがあり得るという証拠が強まっている。

 もちろん、アパラチア山頂除去石炭採掘を見た人は誰でも、そこは壊滅的な影響であふれていることを知っている。石炭火力発電所からでるヒ素やその他の有害物質を含む焼却灰は、深刻又は致命的である多様な病気を引き起こす石炭採掘は極めて危険な職業である。そして石炭焼却は近隣の地域社会に途方もない危険をもたらす。2010年のカリフォルニア州大気浄化タスクフォースによる研究は、アメリカでその年だけで石炭火力発電所は直接的に 13,200人の死亡、9,700人の入院、及び 20,000人の心臓発作をもたらしたと非難した。フラッキング・サイトの近くで水道水が燃え出したこともあったが、石炭焼却の公衆への健康影響は、ガスによって引き起こされるものより明らかにはるかに悪い。

 ブレークスルー研究所による2013年報告書は、石炭とガスの様々な尺度(非気候)の比較をした良い仕事である。

 温室効果ガスの排出ということについて、天然ガスは馬鹿げた選択であると考えたとしても、もし石炭の公衆健康への影響全体を見れば、その展望はずいぶん変わるであろう。2015年の研究で、デューク大学のシンデルは、石炭とガスの−気候、健康、などの累積影響をドル値に換算するために経済的分析を利用した。彼は、石炭燃焼の社会に対するコストはキロワット時当たり14〜34セントであるが、ガスについては 4〜18 セントであることを見出した。

 これを合計するとどうなるか? 化石燃料採掘サイト又は化石燃料を燃焼する発電所の近くに住む人々にとって答えは非常に明白である。すなわち公衆の健康という観点からは、オバマのガスの”懸け橋”により、石炭の影響を受ける地域社会は、フラッキングの影響を受ける地域社会の出費(犠牲)で利益を得る。しかし、地域社会の雇用という観点からは、その逆が真である。気候という観点からは、急速な石炭からの転換は、たとえメタンによる短期的な影響があったとしても、長期的にはガスに明確な利益がある。ガスからの温室効果ガスの排出に関しては、すでに EPA により準備されているある種の規制がひとつの気候解決としてガスの水準改善に向けて大いに役に立ち、ガスからの排出は石炭からの排出よりはるかに容易に軽減できるであろう。

 そこで、フラッキングは本当に石炭より悪いであろうか? 石炭消費の削減とと CO2 排出の低減には数多くの利点があるのだから、その主張は疑わしい。しかし少なくとも、気候変動の観点から、もし天然ガスが旅路の行きどまりなら、その政策は失敗かも知れない。最終的に真に重要なことは、可能な限り多く、可能な限り早急に、再生可能エネルギーに転換することである。そこで、”懸け橋”は、もし我々に乗り換える道がある場合には意味があるが、現在の所、そのロードマップは不明確である。シンデルによれば、フラッキングと石炭の議論は非常にしばしば、木を見て森を見ずとなる。”我々は実際に、両方を目標としなくてはならない”と彼は述べた。”もし我々がにらみ合って取引を始めれば、我々は実際には成功しない”。

 クーレンスティエルナは同意した。” 1.5 度C 近くに至る唯一の方法は、全てのことをするということである”。


訳注:フラッキング関連情報

■フラッキング一般情報
■フラッキングと気候変動
■フラッキングの環境・健康影響
■フラッキング廃水処理の環境・健康影響



化学物質問題市民研究会
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