EHP 2006年8月号フォーラム
化学物質への暴露
PFOA は肝臓の遺伝子発現を変える


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 8, August 2006
Forum
Chemical Exposures: PFOA Alters Liver Gene Expression
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-8/forum.html#pfoa

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_08/060806_ehp_PFOA.html


 パーフルオロオクタン酸(PFOA)に対する一連の問題点のうちの最新のものとして、この化学物質は実験室のラットの肝臓の遺伝子発現に影響を与えることが見いだされた。PFOA は、デュポンのテフロンのようなこげつき防止物質などのフッ素テロマー(訳注1)の製造に使用される。PFOA は、これらのフッ素テロマーが環境中や体内で分解して生じる(訳注2)。PFOA は難分解性であり、発生源から数千マイル(数千キロメートル)も離れた場所の野生動物の体内から見いだされ、生体蓄積する(訳注3)。

訳注1:フッ素テロマーの概略/つれづれなる概説
訳注2:ES&T 2006年1月25日/製造時の残留化学物質が過フッ素化合物(PFCs)の由来を説明するかもしれない(当研究会訳)
訳注3:ES&T 2005年12月28月/三次元モデリングがフッ素化合物の汚染経路の理論を裏付ける(当研究会訳)

 PFOA は、低密度リポたんぱく質(LDL)、いわゆる”悪玉コレステロール”の増加に関与するが、高密度リポたんぱく質(HDL)”、善玉コレストロール”には影響を与えない。他の研究では PFOA 暴露は脳卒中のリスク増大に関係していることが示されている。
 PFOA はアメリカでは2006年1月の製造者との合意(訳注4)によって廃止されつつある。デュポンは2015年までにPFOAの使用をやめ、3M社はすでにスコッチガードの全製造ラインでの使用を止めた。しかし、PFOA の使用は産業が発展中のアジアで、特に中国南部の珠江デルタ(the Pearl River Delta)で増加している。

訳注4:EPA プレスリリース 2006年1月25日/EPA、PFOA の排出削減をメーカーに求める(当研究会訳)

 『Toxicological Sciences』2006年1月号に発表された研究(訳注5)で、ケーシ S. グルゲらは、7週齢のラット5グループに毎日体重あたり1〜15mg/kg の PFOA を与えて暴露させた。コントロール・グループには PFOA を与えなかった。ラットの肝臓をテストして、科学者らは、少なくともひとつの用量レベルで500以上の遺伝子発現が著しく変化しており、全ての用量レベルで144の遺伝子が影響を受けていることを発見した。影響を受けた遺伝子の総数は10mg/kg以上の用量で最高に達した。

訳注5:EHN 2006年4月10日による紹介/PFOA処理されたラットの肝臓組織で500以上の遺伝子の発現が変更(当研究会訳)

 影響を受けた遺伝子の最大のカテゴリーは、肝臓が脂質、特に脂肪酸を運び代謝するのをコントロールするものであったと香港市立大学の生物学教授ポール K.S. ラムは述べている。ラムと日本のつくばにある国立動物衛生研究所の上席科学者グルゲはこれらの研究は環境中で見いだされる暴露の100〜1,000倍高い用量で行われたということを強調している。

 それにも関わらず、この研究は PFOA 暴露で見られるLDL(悪玉コレストロール)の増加を説明するための重要なステップであると非営利環境団体エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)の上席科学者ティム・クループは述べている。”何が起ころうとしているのかより明らかな描写を与え始めている”−とクループは述べている。彼は、この件についてはもっと多くの動物実験が行われる必要があると付け加えた。

 関連する化学物質パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は、PFOA よりも広範に研究が行われているが、それ自身の可能性ある問題点を見ることが重要であるとラムは述べている。”構造的に類似性があるので PFOS に関する既存のデータを PFOA に使用したいという誘惑がある”−と彼は言う。”しかし、それらがいかに似ていようと関係ない。それらは別物である。”

 同研究チームは現在 PFOA がどのように肝臓に影響を与えるかを見ることに着手しており、同様な遺伝子影響を探すために鶏の研究を行うことで鳥類の世界にまで拡張した。”もしこのモデルが同様に振舞えば、ある種の共通のバイオマーカーを持っていることを意味する”−とグルゲは述べている。

スコット・フィールズ(Scott Fields)



化学物質問題市民研究会
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