ES&T 2006年1月25日
製造時の残留化学物質が 過フッ素化合物(PFCs)の由来を説明するかもしれない 情報源:Environmental Science & Technology: Science News, January 25, 2006 Manufacturing leftovers may help explain the puzzling presence of perfluorinated compounds http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jan/science/rr_leftovers.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年1月27日 本日(1月25日)発表された新たな研究報告(0.1021/es051619+)によれば、防汚剤やその他の製品製造における残留化学物質が、人間の体内や環境中から検出される過フッ素化合物の主要な発生源かもしれない。 トロント大学の化学者マリー・ジョイス・ディングラッサン−パリリオとスコット・マブリーは、産業用塗料や光沢剤の添加物、消費者用カーペット汚れ防止用スプレー、車の窓ガラス洗浄液など7種類の物質に含まれる自由・非結合のフッ素化アルコールについて初めて、体系的な評価を行った。過フッ素化合物は、産業用塗料や光沢剤の添加物、消費者用カーペット汚れ防止用スプレー、車の窓ガラス洗浄液などの物質に含まれるフッ素化アルコールを結合し、これらの製品の活性成分であるフッ素系界面活性剤及びポリマーを製造すプロセスに使われるが、そのプロセスで未反応のフッ素化アルコールが好ましくない残留化学物質として残る。界面活性剤及びポリマーを合成するために用いられるプロセスは必ずしも常に全てのフッ素化アルコールを結合するとは限らないからであり、結合されなかった残留物は製品中に見出される。これらの非結合残留物は活性成分に随伴する。
PFOS や PFOA、その他同様な過フッ素化合物は商業用又は産業用製品に直接的には使用されていないので、疑問は常に、”それらはどこから来るのか”であった−とディングラッサン−パリリオは説明している。”これは、過フッ素化合物の前駆化合物の発生源を直接的に特定した最初の体系的な研究である”−と彼女は加えた。 マブリーとフォード自動車の化学者ティム・ウォーリントン及びその同僚らは以前にこれらの揮発性アルコールは PFOS や PFOA のような化学物質の前駆物質であるということを理論化(訳注1)していた。しかし、現在まで、フッ素テロマー・アルコールの産業的放出に関するデータがあるだけであった。新たな分析は、製造又はプロセスだけでなく製品そのものが発生源であることを示す論文として、ピアレビューを受けた最初のものである。 ”我々は、過フッ素化合物を”家庭内残留性有機汚染物質”と呼ぶが、それはまだ特定されていないが、家庭内に多くの発生源があると我々は考えるからである”−とカナダ環境省の研究科学者トム・ハーナーは述べている。”過フッ素化合物の発生源及び放出についての疑問に多くの関心が寄せられるのはよいことである”−と彼は加えた。このことについ意見を求めた他の科学者らも彼の見解と同様であった。 フッ素化アルコールは、フッ素テロマー・アルコールを含み、それらは主に炭素、フッ素、及び水素の原子からなる揮発性鎖状化合物である。二つの数がしばしばフッ素テロマー・アルコール類を指し示すために用いられる。ひとつはフッ素に結合する炭素のかずである。もうひとつは水素に結合する炭素の数である。従って、商業的に最も重要な C8F17CH2CH2OH は 8:2 FTOH と表示される。 トロント大学の科学者が分析した産業用コーティング添加剤及び車の窓ガラス洗浄液中の残留物は 6:2 FTOH が支配的であった(訳注:グラフ中緑のバー)。それとは対照的に、カーペット防汚剤(Teflon Advance など)は鎖が長い 8:2 FTOH (訳注:グラフ中赤ノバー)が支配的である。”これらの異なる特徴は、最終的に発生源を追跡する手がかりを与えることになる”−とハーナーは述べている。 非結合フッ素化アルコールを測定するために、ディングラッサン−パリリオはフッ素化物質を水中に放出した。このプロセスで、揮発性アルコールは水から大気に出て捕捉され、質量分光計付きガスクロマトグラフにより分析された。非結合フッ素化アルコールのほとんどは約2日間で製品から漏れ出した。産業用コーティング添加剤は残留物が最も多かった(訳注:Zonyl FSO-100 と Zonyl FSE )。カーペット防汚剤とフロントガラス洗浄液は残留物が少なかった(訳注:Teflon Advance と Motomaster Windshield Washer with Teflon)。科学者らは濃度を乾燥ベースの製品質量に対するフッ素化アルコール質量の割合で報告している。 著者らは、産業界の見積りによれば、年間1,100万〜1,400万キログラム(11,000〜14,000トン)のテロマー・アルコールが製造されていると言及している。もし、非結合残留物質がこの製造量のうちわずかであても、その放出量は少なくと年間100,000キログラム(100トン)となるであろう。 ”我々のデータに基づけば、残留物は重要な発生源である。したがって、それらを除去することは環境に対して有意義な影響を与える”−とディングラッサン−パリリオは述べている。しかし、ハーナーと他の専門家らは、これらの仮定は不確実であり、テロマー・アルコール残留物が本当にディングラッサン−パリリオが見積もる量の説明となっているかどうか決定するためにさらなるデータが必要であると注意を促している。 フッ素化ポリマーやその他のプラスチックに詳しい化学技師によれば、これらの残留物を除去することは可能であるが、恐らく高価につくであろうとしている。2005年2月に、アメリカのフッ素テロマー・ポリマーの製造者であるデュポン社は2006年2月までにその製品から残留物を除去すると公約した。米環境保護局(EPA)は本年1月25日、デュポン社とアメリカで操業している他の7社に対し、その製品から残留物を除去するよう取り組むことを求めた(訳注2)。デュポン社は即座にこのEPAの課題を受け入れた。 レベッカ・レナー(REBECCA RENNER) (訳注1) ES&T 2005年12月28月/三次元モデリングがフッ素化合物の汚染経路の理論を裏付ける(当研究会訳) (訳注2) EPA プレスリリース 2006年1月25日/EPA、PFOA の排出削減をメーカーに求める(当研究会訳) 参考資料 CF3CHOの大気中消失過程とキネティックスの理論化学計算 (産総研)瀬戸口修 (PDF) |