ES&T 2005年12月28月
三次元モデリングがフッ素化合物の汚染経路の理論を裏付ける

情報源:Environmental Science & Technology: Science News - December 28, 2005
3-D modeling supports perfluorinated theory
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2005/dec/science/rr_3Dmodeling.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年1月18日

 三次元モデルが、北極で見出されるPFOAやその他のフッ素化合物が防汚剤や撥油剤に使われているフッ素テロマー・アルコール類(訳注:CnF2n+1CH2CH2OH (FTOH))に由来するという学説を裏付けている。

 PFOA (パーフルオロオクタン酸)やその他のPFCAs(パーフルオロカルボン酸類(perfluorocarboxylic acids))がどのような経路で北極を汚染しているのかを説明する理論が新たなモデリング技術を用いた研究により裏付けられた−とES&TリサーチASAPウェブサイトに掲載された。この理論は、北極の汚染は、防汚剤、ポップコーン容器、ファーストフード用包装容器、光沢剤、塗料などの製品で使用されている化学物質であるフッ素テロマー・アルコール類の大気移動と分解によるものであると強く主張している。

 トロント大学の化学者スコット・マブリー、フォード自動車の化学者ティム・ウォーリントンらによって提案されている理論は、大気が、フッ素テロマー・アルコール類をアメリカの北東部のような人口密度の高い工業地帯から北極のような遠方に運んでいるというものである。移動中に大気中でフッ素テロマー・アルコール類はPFOAやその他のPFCAsに分解される。フォード社とマブリーはこの新たな研究の著者の一員である。

 規制当局はヒトの血中で低濃度で検出されるPFOAや、その他のPFCAsを調査中であるが、それはこれらの化合物が環境中のいたるところに存在し、非常に難分解性で、程度の差はあれ、生物蓄積性があるからである。2005年の夏にアメリカEPAの科学諮問委員会(SAB)はPFOAをヒトへの発がん性がありそう(a likely human carcinogen)と分類するよう勧告している。2004年6月にはカナダは環境中でPFOA及びその他のPFCAsに分解することがあるいくつかのフッ素テロマー化合物を暫定的に禁止した。

 フッ素テロマー・アルコール類は、主に炭素、フッ素、及び水素原子からなる揮発性の鎖状化合物である。それらは、デュポン社(アメリカ)、アトフィナ社(フランス)、クラリアント社(ドイツ)、旭硝子(日本)、ダイキン工業(日本)などの会社によって製造されている。二つの数がしばしばフッ素テロマー・アルコール類を指し示すために用いられる。ひとつはフッ素に結合する炭素のかずである。もうひとつは水素に結合する炭素の数である。従って、商業的に最も重要な C8F17CH2CH2OH は 8:2 FTOH と表示される。2005年1月にEPAの汚染防止毒性部門に提出したデュポン社の世界PFOA戦略最新版によれば、デュポン社は世界中で12,000トンのフッ素テロマー・アルコール類を製造しており、その販売高は7億ドル(約770億円)であるとしている。

 ”この研究は、フッ素テロマー・アルコール類がPFCAsの潜在的な源であるということをよく論証している”−とカリフォルニア大学リバーサイド校の大気化学者ロガー・アトキンソンは述べている。彼は同様な大気中での反応がクロロフルオロカーボン類(CFCs/フロン類)の代替化学物質類のあるものを転化することが知られていると指摘している。

 IMPACTと呼ばれる精巧な三次元大気化学モデルを用いた研究の中で、科学者らは世界中で合計1000トンの8:2 FTOH を放出すると仮定するシミュレーションを行った。8:2 FTOH は大気中で約1ヶ月の寿命があるので、北極を含む北半球中に広く拡散することができる。ミシガン大学の大気モデル研究者であり、この研究の共著者でもあるサンフォード・シルマンによれば、このモデルは、アメリカ東部のような 8:2 FTOH の発生源地域の大気中濃度は農村部や北極での濃度より5倍高いだけであるということを示した。

 フッ素テロマー・アルコールの大気中での化学的作用の特徴的な点は、8:2 FTOH は離れた場所でPFCAsになる可能性が十分にあるということであるとシルマンは述べている。その理由は、テロマー・アルコールをPFCAsに変換する反応がヒドロキシル基やパーオキソ基のラディカルを伴うからである。人口密度の高い都市部では、NOxはパーオキソ基のラディカルになる。しかし、農村部や遠方ではNOxは少ないので、8:2 FTOH はヒドロキシル基やパーオキソ基のラディカルと反応して最終的にはPFCAsを生成する。

 このモデルによれば、大気中のフッ素テロマー・アルコールの概略 5%が PFCAs に変換される。その結果生じたPFCAsは北半球中に拡散し北極と中部大西洋で最も高い濃度となる。モデルは、夏には北極で濃度が最高となり、それはアメリカ東部での濃度の約2倍であると予測している。

 しかし、冬には、最も高い濃度はアメリカ東部で見出される。これらの予測の正当性をテストするために、科学者らは現在、大気濃度を測定している。年間平均では、北極とアメリカの大気中のPFCAsの濃度は同じくらいであるとこのモデルは予測している。

 8:2 FTOH から生成されるPFOAの量は1〜10%の範囲であり、場所と年間の時期に依存する。これは、北極の野生生物から検出されるPFOAの量を説明することのできる正当な範囲である。

 シルマンによれば、この研究で使用されたモデルは、世界の大気化学用として存在する一握りの最高技術水準の三次元シミュレーション・プログラムのひとつである。それは、大気がヒドロキシル基やパーオキソ基のラディカル、及びNOx speciesを伴う反応である光分解を含む大気中の反応への作用の仕方及び影響の与え方と一貫性がある−とマブリーは述べている。

 ”我々は、大気化学に関するスモッグチャンバー実験を大気中での観察に当てはめ、それを現実的なモデルにし、理論と一貫性のある結果を得た−と彼は述べた。

レベッカ・レナー(REBECCA RENNER)


参考資料:
CF3CHOの大気中消失過程とキネティックスの理論化学計算 (産総研)瀬戸口修 (PDF)

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