米EPA 2006年8月ファクトシート
国家自動車水銀スイッチ回収プログラム
水銀大気放出削減のための共同アプローチ


情報源:US Environmental Protection Agency (EPA)
August 2006 Fact Sheet:
National Vehicle Mercury Switch Recovery Program
A Collaborative Approach to Reducing Mecury Air Emissions
http://www.epa.gov/mercury/switchfs.htm

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月18日


国家自動車水銀スイッチ回収プログラムとは何か?

 国家自動車水銀スイッチ回収プログラムは、廃車から水銀を含むスイッチを取り除くことを意図している。これらのスイッチは2003年以前に製造された多くの車のボンネットやトランクの中の照明や、また、あるアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の中で使用された。既存の州水銀スイッチ削減の取組を補完するこのプログラムは、今後15年間で75トンの水銀排出を削減するのに役立つであろう。それは2年間にわたるEPA、州、環境団体、及びいくつかの産業分野との共同作業の結果である。

なぜ水銀スイッチを取り除くのか?

 自動車はアメリカでは最もリサイクルされる消費者製品である。毎年、鉄鋼産業は廃車から1,400万トン以上の鉄材をリサイクルしており、それは約1,350万台の新車に相当する。その結果、鉄鋼産業は世界で最大のリサイクル材料の消費者である。

 エネルギーと資源を節約するこのリサイクルも非意図的な水銀排出をもたらすことがある。図が示すように車が廃車になると、ほとんどが自動車解体業者−自動車リサイクル業者とも呼ばれる−によって処理される。これらの解体業者は再使用やリサイクリングにとって貴重な部品は取り外す。ほとんどの場合、解体された車はスクラップ回収業者に出すためにペシャンコにつぶされる。スクラップ回収業者は車を切断してスクラップ金属とする。鉄鋼業者はこれらのスクラップ金属を購入して溶解し新たな鉄鋼及び鉄鋼製品を製造する。もし水銀スイッチがこのリサイクルの過程で除去されなければ、大量の水銀が環境中に排出されることになるであろう。

 国家自動車水銀スイッチ回収プログラムはスクラップ車が切断され新たな鉄材になる前に解体業者が水銀含有スイッチを除去するインセンティブを与えるものである。車がつぶされてからでは遅すぎる。リサイクルの流れの中で水銀を除去する機会が失われる。

どのような意味があるのか?

 自動車メーカーは水銀含有スイッチの使用を廃止しているが、今日の自動車は長い走行寿命を持っている。これらの車の多くがまだ道路を走っているかも知れない。他のものは廃車となりスクラップ置き場にあるかもしれない。全体として6,700万個のスイッチが回収可能である。

このプログラムはどのように実施されるのか?

 多くの組織と産業分野がともに車の水銀含有スイッチの問題に目を向けるようになってきた。主要なパートナーと彼らの独自の役割は下記のようにまとめられる。

  • 自動車メーカー10社が廃車解決法人(End of Life Vehicle Solutions Corporation (ELVS))を設立した。ELVS は解体業者に情報とスイッチ取り外しに必要な部品をを提供し、スイッチを収集して適当なリサイクリング及び処分施設に輸送し、またプログラムの成果を追跡する。
  • 参加する解体業者は水銀含有スイッチを取り外し、それらを ELVS に送る。解体業者は水銀低減スクラップを市場に出し、名声といくらかの金銭的インセンティブを得ることができる。
  • 参加するスクラップ回収業者は水銀スイッチ除去プログラムの周知を自身の産業界及びスクラップ車の主要な供給者である解体産業に確立する。
  • 参加する鉄鋼業者はこのプログラムに参加するようサプライチェーンを教育し促し、水銀含有スイッチを除去した解体業者及び回収業者からスクラップ金属を購入する措置をとる。

 これらの産業界は参加する環境団体、各州環境機関を代表する協会である州環境協議会(Evironmental Council of the States (ECOS))、及び米環境保護局(EPA)からの支援を得る。環境団体はこのプログラムを公に是認し、関連する活動を支援し、水銀回収に関連するデータ収集の取組の開発と改善に参加することに合意した。

 このプログラムを開発するために広範なガイダンスと情報を準備した ECOS は、それを実施するために現在、多くの措置をとろうとしている。さらに、ECOS とパートナーは、このプログラムを既存の州のプログラムと調整し、そのような州プログラムがなくても州にサービスを提供するよう作業を行うであろう。最後に、米EPAは、スクラップ金属を使用する産業に影響を与える将来の規則作りにあたりこの国家プログラムを考慮し、このプログラムとその利益について広範に情報を共有し、それを評価し改善するための取組を支援することを約束した。

主な利点
  • 公衆の健康を守る−州のプログラムと連携して今後15年間に75トンの水銀排出削減に役立てる
  • エネルギーと天然資源を節約する−自動車と鉄のリサイクリングを推進する
  • 経済的競争力を維持する−スクラップ金属を製造し使用する多くの産業を支援する
  • コスト効果−水銀の重量当たりのコストは従来の排出制御よりもはるかに安い
  • 容易−解体業者はほとんどのスイッチを数分以内で見つけて取り外すことができる
  • このプログラムの機能をどのようにして知ることができるのか?

     廃車解決法人(ELVS)はプログラムと参加者についての情報をウェブサイト http://www.elvsolutions.org で入手することができる。プログラムの全てのパートナーはデータを定期的にレビューし、必要な改善を行うためにそれを使用することに同意した。

    EPAはこの問題に対応するために他に何をしているのか?

     国家プログラムは、水銀含有スイッチからの排出を削減するためにEPAがとっているいくつかの措置のうちのひとつである。他の措置はには下記が含まれる。

    水銀大気放出規制−2007年にEPAは、多くの製鉄所でスクラップ金属を溶融するために用いられる電気アーク炉の有害大気汚染のための国家排出基準を提案するであろう。EPAは、水銀大気基準に合致する方法として国家スイッチ回収プログラムで得られた水銀低減スクラップを鉄鋼炉が使用することを許す選択肢を提案する計画である。将来、EPAはまた、鉄鋼及び鉄鋼製品を作るためにスクラップ金属を使用する他のタイプの炉からの水銀排出に関する改訂規則を提案する計画である。

    水銀スイッチの使用制限−2006年7月、EPAは旅客車両における水銀含有スイッチの将来の使用に関する要求を課す規則を提案した。

    水銀処分への対応−スイッチ及び他の製品からの水銀の再使用は資源集約的な水銀採掘と相殺するが、世界的には水銀の余剰が予測される。本年中にEPAと他の連邦機関は技術的専門家及び関心を持つ団体と余剰水銀の処分に関する対話に取り組むであろう。

    プログラム・パートナー

    さらなる情報

     更なる情報は http://www.epa.gov/mercury 又は上記プログラム・パートナーにコンタクトください。


    訳注1:当研究会訳関連記事

    訳注2:その他の関連記事
    • 「さらに水銀を減らす努力」を月刊 『生活と環境』 03年4月号別処珠樹
       世界の大勢に逆行するアメリカ:2003年2月にナイロビで水銀規制の国際条約が討議された時、アメリカはひとりこれに反対し、拘束力のある規制が実現しなかった。 共同通信によれば、「欧州連合や中南米諸国は条約づくりを支持する姿勢で、米国と対立しそうだ。環境保護団体は 『水銀の発生源の一つである火力発電所を抱える産業界に配慮した』 とブッシュ政権の姿勢を批判している」

    • 「科学技術政策をめぐる米国の科学者たち/科学技術政策研究所 環境・エネルギーユニット 浦島 邦子」 から抜粋
       2004年3月にはニューヨークタイムズ紙によって、ブッシュ政権の環境政策がエネルギー業界寄りに傾いていった過程をレポートした記事が掲載された。そして、4月には民主党のヒラリークリントン上院議員を含む7人の議員によって、現在懸案事項となっている水銀排出規制について、手引き上の不正に関する調査依頼書をEPA長官へ送っている。米国には約1,100基の石炭火力発電施設があり、燃やした石炭からの排ガス中には水銀が含有され、排出量は年間48トンと試算されている。これは、全排出水銀量の40%を占める。雨に混じって大地に降った水銀は、河川や湖、海に流れ込んで魚介類に蓄積する。最近では、呼吸によって直接水銀が体内に取り込まれ、特に母体内の胎児に影響を及ぼすことが懸念されている。この調査依頼書の内容は、水銀排出規制の決定に際して、特に健康影響評価を最小限にするため、ブッシュ政権が米国アカデミーの報告書などの原案から意図的に文言を除去しているという懸念を明確にすることを要求しているものである。この書簡に対して、EPA長官は次のような回答をした。
      • 水銀の削減スケジュールを決定したのは現政権が最初である。
      • 水銀排出の90%削減は、あくまでも試案。
      • 直ちに水銀除去装置を全米に配置するのは不可能。


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