EHNニュース 2012年2月17日
長らく待ちわびたダイオキシン類報告書が出る
低用量曝露にはリスクがあるが、
ほとんどの人々には安全であるとEPAは言う


情報源:Environmental Health News, February 17, 2012
Long-awaited dioxins report released;
EPA says low doses risky but most people safe
By Marla Cone, Editor in Chief, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2012/dioxins-report-revealed

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年2月18日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/120217_dioxins_report_revealed.html



Astacus/flickr
ほとんどの人々は、主に魚類、肉類、その他動物製品の摂取からダイオキシンを体内に持っている。
 健康への脅威、不確実な科学及び産業側の圧力についての21年間にわたる論争の末、米環境保護庁は金曜日(2月17日)にダイオキシン類がいかに有害であるかを明確にして、その健康評価を発表した。

 エージェント・オレンジに含まれる悪名高い化学物質を含んで、約30種の有害化合物のグループであるダイオキシン類は、廃棄物焼却炉による燃焼、化学物質製造プラント、製紙パルプ工場、精錬所、その他の施設からの副産物である。それらは環境中に残留し、食物連鎖中及び人間の体内に蓄積する。

 環境活動家により、ほめたたえられ、産業界には批判されたこの報告書は、多くの証拠を検証した後に、超低レベルの曝露でも潜在的に重大な影響があるという結論に達した。多くの研究は、ダイオキシン類が、がん、ホルモンのかく乱、精子数の低下のような生殖障害、子どもと大人の脳神経系への影響、免疫系の変更、皮膚障害など関連があるとしていた。

 それにもかかわらずEPAは、過去20年間に人々の曝露は非常に減少してきているので、ほとんどの人々にとっては安全であると言った。”今日の発表内容は、一般的に言って、現状レベルのダイオキシンに生涯にわたって曝露しても著しい健康リスクは及ぼさないことを示している”と、EPAの当局者は述べた。

ダイオキシンについて研究してきた科学者、テキサス大学公衆衛生校のアーノルド・シェクターは、ある人々は平均よりもっと高く曝露しており、胎児や乳幼児のようなあるグループはその影響にもっと感受性が高いのだから、EPAの声明は”非常に奇妙”であると疑問を呈した。

 地球上のほとんどの人々は体内にダイオキシンの痕跡を持っており、彼等は大部分を魚類、肉類。及びその他の動物製品を通じて曝露している。

EPAは、リスク評価を二つに分割し、本日の発表は非発がん影響(non-cancer effects)だけを含んでいる。


Alex Ford/flickr
ダイオキシン類は、廃棄物焼却炉による燃焼、化学物質製造プラント、製紙パルプ工場、精錬所、その他の施設からの副産物である。
 EPAは重要な数値を2010年にドラフトが明らかにされた時と同じまま、すなわち、許容できると考えられる日々の曝露レベルは、体重1キログラム当り0.7ピコグラムのダイオキシンとして設定している。2010年に、産業側は、このいわゆる”参照用量(reference dose)”は低く過ぎ、消費者を不安にさせ、高くつく規制をもたらすと主張してEPAを批判した。国連の世界保健機関が2001年に設定したレベルは、これより約3倍高い。

EPAは、報告書の中で、”安全”レベルは二つの研究に基づいていると述べた。ひとつは、子ども時代に曝露した男性に精子数の低下が見られるというものであり、もうひとつは、母親が妊娠中に曝露すると幼児の甲状腺ホルモンが増大するとした研究である。甲状腺ホルモンは、正常な発育と発達に重要である。

 この健康評価は拘束力のある基準を設定しなかった。しかし、スーパーファンドやその他の有害な廃棄物サイトの浄化、産業放出の管理、飲料水基準、魚介類摂取基準のような、多くの取り組みへの指針として重要である。

 最初の評価は1985年に完了したが、それ以来、ダイオキシン類を様々なヒト健康への脅威と関連付ける科学的証拠が増大している。しかし同時に、多くの科学的不確実性も残っており、どのレベルのダイオキシン類なら安全なのかについての議論が沸騰した。いつでも生じる論点のひとつは、有害性が実験動物で見出された時に、人間への影響をどのように見積もるかということである。

 EPAは、1991年にこの再評価を立ち上げた。最初に発表された評価は、その低用量という所見に根拠がなく、不確実性についての詳細な検討がないとして、2006年に米国科学アカデミーによって批判された。

 オバマ政権のEPAにこの報告書を早く完成させるよう圧力をかけてきた環境活動家らは、今回の発表を歓迎した。

 ”27年も遅れており、私は全く正直に言って、この報告書は日の目を見ることは決してないのではないかと思っていた”と健康環境正義センター(CHEJ)の代表ルイス・マリーギブスは金曜日に声明の中で述べた。”今日、アメリカ人は、裏で何十年間もの間、ダイオキシン類の危険性についての真実を隠し、歪曲してきた化学産業界に対して大きな勝利を得た。科学は明快にした。ダイオキシンは我々の子どもたちと環境にとって有毒である”。

 天然資源委員会の主席民主党員である米下院議員エドワード J. マーキー(民主党−マサチューセッツ)は、”EPAはこの危険な化学物質が公衆に及ぼす健康影響のあるものに光を与えることによって、ダイオキシンから公衆を守ることに向けて重要な第一歩を踏み出したと述べた”。彼は、化学産業界に対してこの報告書の完成を妨害するための活動を止めるよう求めた。

 環境活動家らは現在、EPAに対して発がん性の部分の評価を完成させ、有害廃棄物浄化後の土壌中について許容できるレベルの基準を含んで、放出と曝露を削減するための国家計画を開発するよう強く促した。

 ドラフト報告書が出たときに、化学産業の主要な業界団体である米国化学工業協会(ACC)は、”それは科学的に欠陥がある”と主張した。

 ”EPAは、公衆の健康に益することを明確にすることなく、かつてない厳しい、そして金のかかる規制をもたらす極めて低いレベルのダイオキシン曝露からのリスクを過大評価していることは明らかである”と、ACCの弁護団副議長デービッド・フィッシャーはその当時に述べた。彼は、放出は著しく低下しているのだから、この評価が公衆に益することは、例えあっても、ほんのわずかである”と述べた。

 EPA当局は、1987年以来、産業からのダイオキシン放出は90%以上低減している。しかし、ダイオキシンが放出された後、この物質の痕跡は長年、数十年間も食物連鎖中に残留していると述べた。

 ”今日、ほとんどのアメリカ人は、低レベルのダイオキシンにしか曝露していない”とEPA当局は述べた。

 しかし、政策提言団体健康環境正義センターの科学部長ステファン・レスターは、新たな報告書の中のデータは、”アメリカ人の食物中のダイオキシンへの平均バックグラウンド曝露は、EPAの新たな参照用量に非常に近いか、あるいは、それ以上であることを示している”と述べた。

 テキサス大学の環境健康教授シェクターは、EPAのプレスリリースの中での一般的に人々にはリスクを及ぼさないとする声明は誤解を与えると述べた。

 ”私は、生涯にわたる健康リスクについての声明に関して困惑している。述べられている通り、平均的な人々については正しいように見えるが、我々の感受性と曝露の時期は変化するし、ある場合にはもっと高い曝露がある。なぜ、このような場合のことについても述べないのか?”と彼は言った。

 赤ちゃんと胎児に加えて、エイズ患者と臓器移植患者は、免疫抑制効果のためにダイオキシンからもっと多くのリスクを受けるかもしれないと彼は述べた。

 国立環境健康科学研究所のディレクター、リンダ・バーンバウムは金曜日に彼女はまだこの報告書を読んでいないと言った。

 ”そろそろ頃合である”と報告書の発表を知った後にメールで彼女は述べた。そして、”食物中のレベルは過去よりもはるかに低くなっている”と付け加えた。バーンバウムはもとEPAであり、ダイオキシンに関して主導的な専門家である。

New York Department of Environmental Conservation
ダイオキシン類は家庭のゴミ焼却からも大気に放出される。
 この化合物は脂質組織に蓄積するので、肉、乳製品、魚類のあるものは多くの人々にとって主要な曝露経路である。

 主要な曝露経路のいくつかには、ダウケミカル、自治体廃棄物焼却炉、そして家庭の裏庭でのゴミ焼却が含まれる。ダイオキシン類は、パイプやその他の材料として使われるポリ塩化ビニール(塩ビ)をつくるために使用される化学物質の製造過程でも放出される。

 ダイオキシンは、ppt オーダーという極めて低用量で影響を及ぼすことを示す動物実験に基づき、人工の化学物質の中で最も毒性が高いと言われている。TCDDとして知られるあるダイオキシン化合物は、エージェント・オレンジ中で使用されており、米軍によってベトナム戦争中に東南アジアで広く枯葉剤として散布された。

 EPAは金曜日に、発がん性の証拠を分析したダイオキシン報告書の残り半分を可能な限り速やかに発表するつもりであると述べた。

 EHNアーカイブからのダイオキシンについての更なる情報:ここをクリック


訳注:EPA 関連情報
訳注:耐容一日量(TDI) 訳注:関連情報
訳注:日本のダイオキシン規制
ダイオキシン類対策特別措置法に基づく基準等 (環境省)
1.耐容一日摂取量(TDI)4pg-TEQ/体重kg/日 (現在の日本人の平均的な摂取量は1.5pg-TEQ/kg/日程度)
2.環境基準等  (1) 大気 年平均値 0.6pg-TEQ/m3以下
 (2) 水質 年平均値 1pg-TEQ/l以下
 (3) 底質 150pg-TEQ/g以下
 (4) 土壌 1000pg-TEQ/g以下
3.排出基準
 (1)排ガス 特定施設及び排出基準値:上記環境省文書参照
 (2)排出水 特定施設及び排出基準値:上記環境省文書参照

訳注:ダイオキシンについて


化学物質問題市民研究会
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