NRDC Switchboard 2012年2月1日
EPA ダイオキシンの健康影響評価の完了期日を守れず
NRDC 上席科学者ジェニファー・サス

情報源:NRDC Switchboard February 1 2012
EPA misses deadline to finalize dioxin health assessment
Jennifer Sass, Senior Scientist, Washington, D.C at the Natural Resources Defense Council
http://switchboard.nrdc.org/blogs/jsass/epa_misses_deadline_to_finaliz.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年2月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/
NRDC_120201_EPA_misses_deadline_dioxin_assess.html


 EPAは有毒化学物質ダイオキシンの健康影響評価を、2012年1月末日までに終らせるという約束をしていた(訳注1)。しかし締め切りは守られなかった。どうしてそのようなことが起きるのか? ダイオキシンは極めて有毒な化学物質なので、州及び連邦政府の規制当局が我々の食品、水及び環境中のダイオキシンに対して健康保護のための制限値を設定するのに使用できるよう、連邦政府は明確な科学的報告書を発表する必要がある。

なぜ、このように遅れたのか?

 EPAの評価を支持する圧倒的な科学的証拠及び、EPAの独立科学諮問委員会(SAB)(訳注2)による2010年の承認があるにもかかわらず、27年前の1985年以来のEPAのダイオキシン・リスク評価の取り組みは、遅れ続けている(訳注3)。2011年8月29日、EPAはダイオキシン再評価を完了させる最終計画を発表した。EPAは、1月末までに非がん部分の再評価を完了させ、今月末までにIRIS データベースに記載し、その後に、がん部分の再評価を完了させることを約束していた。

 現在、産業側は、がん評価が完成するのを待たずに、非がん部分のリスク見積り(すなわち、参照用量 RfD)(訳注5))をともなった非がん部分のダイオキシン評価をEPAが発表しようとしていることに逆上している。しかし、ほとんど30年間近くにわたるダイオキシン評価作業の後、完了した評価部分を発表するというEPAの手順決定は、ダイオキシン曝露に関連する現状における最新の見積りに関する明確な合意声明であり、裏づけとなる科学的証拠と理論的根拠を公衆と規制当局に提供するものである。EPAが評価を二つの部分に”分割”して発表することを産業側が非難するのは、『ハリー・ポッターシリーズ』の作者J.K. Rowling が最初の発表をハリーポッター全7巻が完成するまで待たなかったことを非難するようなものである。

ダイオキシンは健康にどのくらい悪いのか?

 ”ダイオキシン”という術語は、炭素原子の二重リングに1個又はそれ以上の塩素原子が結合した化学物質の一族を指す(訳注6)。ダイオキシン類のうち最も有毒で強力なものは、2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)(訳注7)である。高レベルでは、肝臓のダメージやその他多くの問題引き起こし、最も目に見えるのは塩素挫瘡(クロルアクネ)と呼ばれる皮膚の症状である。しかし、動物とヒトの研究は、非常に低い2,3,7,8-TCDD(今日、多くの人が体内に有しているレベル)でも、免疫学的な障害やホルモン変更などを含む様々な健康問題を引きこすことを示している。ホルモン変更及び免疫障害は生殖力の減少、先天性障害、がんなどのリスクを増大させる。例えば、動物研究は、この化学物質が精子生成の減少、性ホルモンレベルの変更、流産率の増大をもたらすことがあることを示している。

 2,3,7,8-TCDD はまた、骨格的奇形のような先天性障害、腎臓障害、学習障害/行動障害をもたらすことができる。もっと最近の研究は、糖尿病リスクの増大との潜在的な関連を見出している。1997年、国際がん研究機関(IARC)は 2,3,7,8-TCDD を、”ヒトにたいする発がん性が認められる”(グループ1)と決定した。

どのようにしてダイオキシンに曝露するのか?

 食品が最も重要なダイオキシン曝露経路である。ダイオキシンは脂肪に蓄積するので、最も多くダイオキシンを含む食品は、肉類、乳製品、魚類などである。米・疾病管理防止センター(CDC)により実施された米国人の代表的なサンプリングによれば、全ての人が体の脂肪中にあるレベルのダイオキシンを持っている。 2,3,7,8-TCDD の半分を対外に排出するのに少なくとも7年かかるので、この化学物質を体内からきれい排除にするには長い期間が必要であり、その間に、我々の多くは食事を通じて、常に新たに曝露している。

何をすることができるか?

 EPAがこの評価を開始した1985年に体内にダイオキシンをもって生まれた子どもたちは、現在27歳であり、彼等自身の子どもたちもまたおそらく、ダイオキシンや数百の他の有害化学物質で汚染されて生まれている。次世代の子どもたちのために、化学産業や食品産業にダイオキシン評価を遅らせるための時間稼ぎをさせてはならない。ダイオキシン再評価の発表を遅らせようとする最近の産業界の圧力を拒否し、非がん部分のダイオキシン再評価を1月末までに完了させ、その後、がん部分を可能な限り早く完了させるよう、EPAに強く促さなくてはならない。

訳注1:2011 News Releases
EPA Announces Schedule for Dioxin Assessment / Release Date: 08/29/2011

訳注2: EPA Science Advisory Board (SAB)
Dioxin Reassessment - Response to the National Academies of Science

訳注3: EPA
Environmental Assessment / Dioxin

訳注4: EPA
Integrated Risk Information System (IRIS)

訳注51:参照用量
訳注6:ダイオキシン
訳注7:2,3,7,8-TCDD
訳注:その他の関連情報


化学物質問題市民研究会
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